この場より立ち去れ
泡のようなものの攻撃を受け流し続け、動けない冬月を必死に守る。
だが、流石にずっと続いているせいか疲労が現れ始めた。
あれの弱点も対策方法も分からない。
可能性としてありえるのであれば金子本人をどうにかすることくらいだろう。
だが現状では冬月に何かされかねない。
何かいい打開策は……
「せ、先輩……すみません……」
「仕方ないことだ。正直俺もあんなのとまともにやり合いたくもないからな」
全くもってその通りで、得体の知れないものと戦うほど恐ろしいことはない。
ただ、冬月の気が少ししっかりしてきたことに安堵の息を漏らす。
その時、ふとあることを思いついた。
「冬月、退散の魔術できるか?」
「……え?」
「あの泡みたいなやつ、こいつでは太刀打ちするのも一苦労なんだ。少しでも動きを止めてくれればそれで何とか出来るかもしれない……」
「わ、わかりました。やってみます」
そう言うとまだまともに動かせない身体を起こし、近くの木にもたれ掛かり、詠唱を始めた。
冬月の魔術を邪魔されないよう必死に泡のようなものの攻撃をいなし続ける。
そして、冬月の方から以前見た優しい光が溢れていることに気がつく。
準備が出来たようだ。
俺は泡のようなものとの間合いを詰めると警棒をすくい上げるように振りかぶる。
泡のようなものはそのまま流れに任せ一定距離を飛んでいく。
「今だ!」
「悪霊よ、この場より立ち去れ!」
冬月がそう言うと両手を前に突き出した。
その手からは優しい光が泡のようなもの目掛けて光線のように放射される。
泡のようなものに光が届くと徐々に泡のようなものが溶けていくのを確認する。
「な……!? 何をして……」
金子が突然慌てた様子で声を上げだ。
俺たちが魔術を使えることを想定していなかったのだろう。
泡は段々と小さくなっていき、次第に完全にその姿を消滅させた。
「はぁ……はぁ……や、やりました……」
そう言うと脱力したように腕を下ろし、疲れきったその目で俺の事を見ていた。
俺は頷いて返答して、金子と向き合う。
「……さぁここまでだ。諦めてもらおうか」
「……やっと、やっと息子達に会えるっていうのに……」
俺はゆっくりと金子の方へ歩み寄っていく。
金子はそれに合わせるように後ろに下がっていく。
右手に持っていた警棒をしまい、今度は手錠を手に持つ。
「おい、山川」
突然声をかけられ、その方向を見るとそこには影崎の姿がいた。
そして、その後ろには手錠をかけられ、新田に連れられた仙道の姿もあった。




