いい加減に
影崎の怒号が中庭に響く。
俺が邪魔とはどういうことだ。
そんなことよりも人が殺されているというのに俺と協力が気に食わないだけで終わらせようとしている事が信じられない。
「影崎、お前は馬鹿か。そんな事のためだけに事件を終わらせようとしたのか?」
「俺はてめぇなんかより優れた刑事なんだ。先に解決させるのは当たり前だろ」
「私欲のために犯人じゃない人間を犯人に仕立ててそれを解決って言うのか? 犯人が違えば犯行が続くような事件だろうが。それに罪の無い人に罪を押し付けるなんて刑事がやっていい事じゃないぞ」
影崎はなぜここまで俺より先に解決させることに拘るのか俺には分からない。
だが今やろうとしていることは明らかに間違っている。
警察である俺たちが人を陥れることをしていいはずがない。
「この件は警部に報告する。お前はこの捜査から降りろ。人のために動くのではなく自分のためにしか考えてないお前は警察失格だ」
「……黙って聞いてりゃ……いい加減にしろよ!」
影崎は俺の胸ぐらを掴むと右の拳で俺の頬を殴りつけた。
鈍い音とともに俺は少しよろめく。
口の中からは鉄っぽい味が充満し、血が出ていることが分かる。
もう1発殴ろうとしてきたところ、振りかぶった右手をいなすと身体を捻り、右の肘で影崎の腹部に一撃を食らわせる。
影崎は顔を歪めるとその場に崩れ落ち、腹部を抑えながら片膝を地に付けた。
「……警部への報告の件だが、この事件が解決するまでは待つ。次同じようなことをした場合は報告する。私欲に任せて仕事をするな」
それだけ告げると俺はその場を去った。
いくらあんなやつでも同僚であり仲間だ。
改心してくれることを信じよう。
中庭を出て上の応接室に向かおうとしていると冬月が聞き込みから帰ってきたらしく、階段の前で出会った。
「冬月、戻ってたか。お疲れ様」
「お疲れ様です……って先輩どうしたんですかその顔!?」
「え、あぁ。ちょっとな。気にしなくて大丈夫だ」
恐らく左の頬の打撃痕と少し流れている血を見て分かったのだろう。
手当てもこれからしようと思っていた訳だし気にしていたかったが冬月はそうではなさそうだった。
「先輩早く手当てしますよ。多分頼めば簡単に処置して貰えますし」
「あぁ、そうだな。そうするとしよう」
そう言って俺たちは看護師たちが仕事をしているナースステーションへと向かっていった。




