憤り
病院へ戻る途中、もう一度雑木林の中に変わったところが無いか探したがこれといったものもなく病院へと戻ってきた。
その後、昨夜行われた犯行の現場へと向かい、何か無いか調べることにした。
結論から言えば何も無かった。
病室には指紋らしいものも無ければ血痕、争った形跡といった手がかりがまるで見つからなかったのだ。
ここまで証拠が出てこないとなると普通であれば完全犯罪の線が浮上してくるところだろう。
魔術の存在を知らないものならの話ではあるが。
俺たちは魔術について少なからず知識がある。
そのせいで知りたくない事実を知ってしまっているわけだ。
昨日と同様に窓の外を眺めてみるも雑木林が一面に広がっているだけであの広場も社も目につかない。
流石にあの広場が見えないのはおかしい。
広場であるため、木が生えている訳もないので上から見れば一目で分かるはずなのだがそれが見えない。
そんな疑問を抱いて外を眺めていると後ろから誰かが入ってきた。
「失礼します」
振り返ってみると、そこには吉木が居た。
その表情はどこか剣幕な様子で、昨日のことに憤りを覚えているのだと思った。
「どうも、何か用ですか?」
「たまたま先程刑事さんが入っていくのを見かけたので。それで犯人は捕まったのでしょうか?」
「……残念ながらまだ」
その言葉を聞いた吉木は小さくため息をつき、呆れた様子で俺を見てきた。
「刑事さんたちは本当に事件を解決させる気があるのでしょうか? 昨日の面談だって何か意味があったのでしょうか? 私たちはより多くの人を救わないといけないんです。そのためにもあなた方が事件をなんとかしてもらわないと助かる人も助からないんです」
「あなたの言うことはその通りです。誠に申し訳ありません。ただ、ひとつ言わせて貰いますが……」
俺は1度目を瞑り、顔を引きしめ直して吉木のことをしっかりと見た。
「あくまでも我々は全力を尽くして捜査に挑んでます。あなたが納得しないにしてもこちらは必ず犯人を捕まえます」
吉木は舌打ちをし、俺の事を鋭く睨むと病室を後にした。
それにしても彼女はどうしてここまで俺たちに敵対視しているのだろうか?
実際、昨日病院にいたのは吉木含めた4人だけだったらしいうえに吉木本人が病室の確認に来た。
深く考えすぎかもしれないが、現場がどうなっているのか確認しに来たという可能性もある。
考えれば考えるほど色々な可能性が出てくる。
そのように考えている中、電話の着信音が病室に鳴り響く。
冬月からのようで俺は電話を取った。
「もしもし、どうかしたか?」
『あ、隼先輩。聞き込みをしてたのですが金子白愛が犯人の可能性がでてきました』
「それはどういう事だ?」
『金子白愛も仙道萌と同様にこの商店街に出入りしていることが分かりました。どういった理由かまでは知ってる人がいなかったのですが病院の近所に住んでいる金子があの商店街に定期的に行くのは少々違和感があると思うんです』
「なるほどな……冬月、一度こっちに戻ってきてくれ。情報をまとめよう」
『分かりました。失礼します』
そう言って冬月は電話を切った。
金子もあの商店街に……
あの商店街に一体に何があるんだろうか?




