仙道萌
ふと時計を見たところ、時間の針は既に16時を指していた。
色々としていたため、時間が経つのがあっという間に感じてしまう。
「……もうこんな時間ですね」
「あぁ。今日話を聞くならさっき話にでてきた仙道が最後だろうな」
「そうですね、内線で呼びますか?」
そう言って冬月は部屋の端に置かれた電話機を指さした。
とりあえず院長に許可を貰う必要もあると思い、俺は電話機を手にした。
院長と書かれた横に書かれた内線番号を入力するとすぐに繋がった。
『はい』
「すみません、刑事の山川です。もう1人聴取したい人が出たのでそちらの許可を取りたくおかけしました」
『そんなことか。君たちの好きにしてくれ。我々では手に負えないからな』
「わかりました。失礼します」
そう言って受話器を置く。
次は薬剤師の人が仕事をしているであろう『調剤室』に内線をかける。
『はい、調剤室です』
「すみません、応接室を借りてる警察のものです。仙道さんをこちらに呼んでいただけないでしょうか。少しお聞きしたいことがありまして」
『わかりました。伝えて行くようにさせます』
そう言って電話を切った。
「恐らくすぐ来るだろうから準備しておこう。と言っても聞くこともあらかた決まってたな」
「そうですね、それじゃあ来るのを待ちましょうか」
数分経った後、扉をノックする音が聞こえた。
それが呼んだ仙道だろうと思い、どうぞと声をかけた。
入ってきた仙道の様子はどこか挙動不審なものだった。
警察と話すのが怖いのか、緊張しているのか分からないがオドオドしている。
「し、失礼します……」
小さくそう言って椅子に座る。
目線はずっと泳いでおり、話し出すにも難しい状況になってしまってる。
「えっと……まず、事件について何か知ってることはありませんか?」
戸惑いながらも彼女に尋ねると、肩を竦め視線を下に向ける。
口をモゴモゴとさせ、話すのか話さないのかよく分からない状態が続いている。
「すみません、ちゃんと教えて貰っていいですか? 私たちは次の犯行を未然に防ぎたいのです」
冬月がそう言うと身体を震わせ、慌ててこちらを見た。
だが直ぐに視線を落とし、口を開く様子が見えない。
こんな様子では明らかに怪しすぎるため、俺と冬月は目を合わせると困った表情で見合わせた。
「では質問を変えます。先日、吉木さんに精神安定剤を渡したと聞いたのですが、あちらはどのような薬だったのでしょうか? 聞いた限りではとても即効性のある精神安定剤だったらしいのですが」
そのように俺が質問を切り替えて問いかけると、仙道は明らかに動揺の表情を見せた。
目は泳ぎ、肩を竦め、決してこちらに目を合わせることの無いよう下を向いたままだ。
「すみません、先程から1度も喋らないのは何故でしょうか? 目も合わせようとしないですし」
「うっ……」
冬月が追求するも仙道は余計に肩を竦めるだけで何も言おうとしない。
……一体どういうつもりなのだ?
俺は眉をひそめ仙道を見ているが、冬月はどうも苛立ちが勝っていき、再び問いかけた。
「仙道さん、黙っているだけでは疑われる一方です。それとも話せない何かがあるんでしょうか?」
「……すみません。用事があるので失礼します」
仙道はそう言うと慌てて部屋を飛び出した。
俺も冬月も追いかけることなく、出ていった仙道を眺めているだけで呆然としていた。