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闇夜に蠢く挑戦状  作者: 大和ラカ
第四章 悲嘆に蠢く狂願
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吉木典子

 冬月が飲み物を買いに行き、少しすると戻ってきた。

 手にはコーヒー缶を2本持っており、1本を俺に差し出した。


「おまたせしました。先輩もどうぞ」


「すまん、いいのか?」


「これくらいいいですよ。それに先輩なんてずっと頭使ってますよね」


「ややこしい事件なんだ。使わない方が難しい」


 そう言って貰ったブラックコーヒーを1口飲む。

 普段コーヒーを飲む時はブラックを飲んでおり、冬月もそれを覚えていてくれていた。

 冬月はカフェオレをよく飲むようで、今回もカフェオレを買っていた。


「一服したら吉木の話か。彼女は情緒不安定だったのが急に元気になったとか」


「そうですね。旦那さんに不倫されたことが原因みたいでしたけど」


「原因が何にせよ急に治るのは少しおかしい気がするな。金子の例もあるし」


「やはり要注意しつつの面談になりそうですね」


 金子みたいに会話が成り立たないことだけは裂けたいところだ。

 正直彼女の言動からは常軌を逸していた。

 それだけしか分からないため、要注意と言っても警戒するしかできない。

 それだけは何としても避けたいものだ。


 その後、ややあって吉木典子が部屋へと入ってきた。

 第一印象としては少し前まで情緒不安定だったとは思えないほど凛々しい佇まいで、顔も引き締まっている。

 失礼しますと一礼すると姿勢正しく椅子に着席する。


「お時間いただきありがとうございます。まず今回の事件について何か心当たりのようなものはありませんか?」


「はい、私は特にございません。夜勤には滅多に出ないので時間的にも家にいます」


「それを証明できる人はいますか?」


「マンションの管理人に聞けば分かるかと。オートロック式でマンションの至る所に監視カメラがありますので人の出入りは簡単に分かると思います」


 彼女の瞳を見るに嘘偽りがないことは明白だ。

 嘘をつく人間であればすぐに分かる。


「わかりました。ではお聞きしたいのですが最近急に情緒不安定が治ったとお聞きしましたが何か特別なことでもしたのでしょうか?」


 その事について言及すると少しの間が生まれた。

 だが、すぐに吉木は口を開いた。


「そちらについては同僚に勧められた薬を処方したところ精神状態が安定したといったところですね」


「その薬というのは?」


「一応精神安定剤と聞いてます。ここで薬剤師をしてる仙道萌さんから頂きました」


 精神安定剤で情緒不安定が一瞬で治るものなのか?

 本人は自覚が無いようだが実は危ない薬という可能性も否めないような気がした。

 また、渡した人物が薬剤師ということのため余計に信用してしまうのだろう。

 ひとまずそれについての言及はやめておくこととした。


「……わかりました。そう言えば情緒不安定になった理由についてお聞きしてませんでしたね。よければ教えて貰っても?」


 理由を知ってはいるが詳しく聞き出すため、言い方を少し変える必要があった。

 問いかけたところ、吉木の表情が少し曇った。


「……そちらは捜査に関係あるのでしょうか?」


「関係あるなしはこちらが判断することです。何か話せない事情でもあるのでしょうか?」


 厳しい口調で冬月が答える。

 吉木は冬月を睨みつけると小さく深呼吸をした。


「……以前結婚していた夫に不倫されたのがきっかけです。詳しくはあまり人に話したくないのですが」


「わかりました。無理には聞きません。不倫されたことによるストレスから情緒不安定になった、ということでいいでしょうか」


「はい、そういうことです」


「わかりました。お時間いただきありがとうございした。どうぞ仕事に戻ってください」


 俺がそう言うと彼女は席を立ち、一礼して部屋を後にした。

 ふと横を見ると少しばかり不満そうにしている冬月が目に入った。


「どうかしたか?」


「いえ、なんか妙に引っかかるんですよ」


「理由についてか?」


「分からないんですけど……凄い気になるんですよね」


 冬月の引っ掛かりというのは俺には分からない。

 だが、何か隠してそうな雰囲気は確かに感じ取れた。

 恐らくそれに関係したことが気になったのだろう。

 

 3人から話を聞いた限りでは事件と結びつけるのがどうも難しい。

 もう少し確信をつく何かが欲しいところだ。


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