我孫道子
俺たちは準備を済ませ3人を1人ずつ呼ぶことにした。
初めに我孫道子から話を聞くこととなった。
部屋に入ってきた我孫を見ると、表情からでも伝わる元気のなさに目もどこか虚ろだ。
また、肩くらいまで伸びた髪もどこか手が行き届いてないのか傷んでいるように見えた。
「お時間いただきすみません」
「いえ、構いません」
「まず事件についでなのですが何か心当たりのようなものはありませんか?」
俯いたまま何かを口にすることなく我孫は小さく首を横に振る。
見た様子的には嘘であるようには見えない。
「そうですか。少し話が変わりますが、我孫さんはつい最近までは明るい方だそうですがとてもそのような面影がないみたいですね」
「…………」
単刀直入に聞くと我孫は少しハッとした表情を浮かべたかと思うとおもむろに口を噤んだ。
何か言い難いことでもあるのだろうか。
「このことは他の看護師さんには話しません。それにあなたに疑いをかけたくないんです。自分が事件と関係ないのでしたらどうか説明して頂けませんか?」
我孫の目を見て、真剣な眼差しで話すも目が泳いでいるようだった。
しばらくして観念したのか小さく溜息をつき、ゆっくり口を開いた。
「……ついこの間、夜勤に向けてここの仮眠室で寝てたんです。その時、ある夢を見まして」
「夢、ですか」
「はい。夢は夢でも悪夢でした。内容はよく覚えてないのですが……二度と見たくないものでした」
我孫の身体はわずかながら震えており、顔も真っ青になっていた。
余程の狂気的な夢だったのだろう。
彼女の瞳からそのように伝わってきた。
「その翌日も同じように仮眠室で寝てた時に恐らく同じ夢を見て……それ以来、眠ることが怖くて怖くて……不眠症になってしまったんです」
「元気がないのは不眠による疲労と夢による精神的ダメージと言ったとこですか」
「はい……何か、あの夢を見てるといつか自分が死んでしまうんじゃないかって……」
そう言って我孫は涙を流し、嗚咽を漏らした。
咄嗟に冬月は我孫の隣に駆け寄り、背中をさすった。
この様子からは嘘偽りないことも分かる。
恐らく彼女は白だ。
むしろ被害者になる可能性が少しながらあるようにも思える。
しばらくの間我孫は泣き続け、落ち着いたところで退席させた。
俺も冬月も溜息をつき、ことの深刻さを身に染みて感じていた。
「事件の予兆、死の宣告あるいは魔術の影響……といったところだろうな」
「そうかもしれませんね……魔術の影響は考えたくないですが……」
「あぁ。だが否定できない。突然人を狂気に堕とす悪夢を連夜見るなんては現実的に考えておかしい」
たまたま1回見る、なんてことはあってもおかしくないが見続けるとなると話が変わってくる。
また、見たら死んでしまうと思い込むほど恐ろしいものであるのなら余計かもしれない。
我孫は被害者になる可能性が高いと踏む必要があり、今後注意しておく必要があるだろう。
「他の2人からは一体どんなことを聞かされるのやら……」
「そうですね……何事もないといいのですが……」
我孫から話を聞いただけで俺たちは不安が増した。
狂気の片鱗が見えては警戒せざるを得ない。
感想1件頂きました!
ありがとうございます(*´ω`*)
また、四半期ランキング94位ですが載っていたのを見て凄い嬉しくなりました!
これからも頑張りますのでよろしくお願いしますm(*_ _)m




