呼び出し
「急に呼び出して済まないな。とりあえずそこに座りなさい」
荒巻警部に促され、俺たちは荒巻警部の向かいに座った。
少し表情を変え、どこか真剣な顔で俺たちに問いをかけた。
「例の九十九島での事なんだが報告書がまだらしいな。何か理由でもあるのか?」
「……すみません、あの事件につきましては少し複雑でしてまとめるのに時間がかかってしまっておりまして」
「君たちほど優秀な刑事はそうはいない。君たちが嘘を言ってるとも私は思ってない。何があったか教えてくれないだろうか」
荒巻警部の真剣な表情。
俺と冬月は顔を見合わせ、話すことを決意した。
「……はい、今から言うことは全て本当に起きた事です」
そう言い始め、俺と冬月は事件の全容を端的に話した。
犯人は島の代表で、その代表が未知の生物と共に幸福を目指していたこと。
未知の生物は人を洗脳する力を持つこと。
やってきた本土の人間をその生物を使って島に引き込んでいたこと。
魔術についての内容と俺が出会った少年のことは伏せ、それ以外全てを話した。
さすがに警部も少し神妙な顔をし、困った感じだ。
「……なるほど、それが本当に起きていたのなら君たちが報告書をかけない理由も納得だ。山川くんのことは警察学校の頃からよく知ってるからこそ、こういう時嘘を付かないのも分かっている」
「はい、そのような理由で報告書を書くに書けないのです」
「聞かせて欲しいんだが、君が前に解決した2つの事件。あれらもそういった類のものだったかい?」
警部が言ってるのは恐らく黄野での連続行方不明事件、女子高生連続殺人事件の両方の事だろう。
黄野町では蝙蝠のような化け物がいたうえ神を召喚しようとしており、青ヶ丘学園では犯人の立花このはが容疑を覚えておらず謎の黒い何かに憑依されていた。
「……はい、報告書には異常だと思われる箇所は省いて書いておりました」
「そうか。君たちが調査した不可解な事件の裏はそうなっていたのか」
「申し訳ありません。何らかの処分があるのでしたら俺が受けます」
「私からも申し訳ありません。処罰があるのでしたら私にも責任があります」
俺と冬月は揃って頭を下げた。
実際虚偽の報告をしたことになるため、何かしらかの罰は与えられると覚悟した。
「そう慌てるな。私だって君たちのような優秀な刑事を切り捨てられるわけない。それに君たちの報告書は見たところその『異常』なことだけを書いてないなのだろ? それならこの件は聞かなかったことにしよう」
「それは……本当ですか?」
「あぁ。ただ、1つ条件を飲んでもらいたい」
「えぇ、それは一体何でしょうか?」
俺は恐る恐る警部に問いかけた。
「何、そんな身構えなくていい。君たちにはこれまで通り捜査線上に出てもらうだけさ。主にこのような怪事件が起きた場合の主力として」
これは驚いた。
俺たちは確かにいくつかの怪事件を解決したが、その主力として見てもらえるのは光栄な事だ。
「……はい。全力を尽くします」
「ありがとうございます」
再び俺と冬月は頭を下げ、礼を言った。