事の発端
山道をしばらく進んでいくと、小屋へ向かう途中の道へと出た。
こんな所に繋がっていたのか。
ここまで来れば場所も分かる。
俺は急いで小屋へと向かった。
小屋の近くまで来ると、入口の近くで弓月が辺りを見渡していた。
そして、俺を目にすると勢いよく迫ってきた。
「兄さん! どこ行ってたの!」
「見回りに行くと言っただろ」
「それにしてはこの辺にいなかったじゃない!」
「俺は俺で調べることもあったんだ。それよりもそっちは何か進展あったか?」
俺がそう訪ねると弓月は少し困った表情を浮かべた。
「実は冬月さんが本を読み終えた後、様子がおかしいの」
「冬月が?」
気になった俺は急ぎ足で小屋の中へ入った。
そこではボーッとして放心状態の冬月とそれをどうにかしようと健介が声をかけていた。
その様子を心配そうに香織が眺めている。
「冬月! どうかしたか、しっかりしろ」
俺は慌てて声をかけた。
しかし、一点を見つめたまま反応がない。
「恐らく気を失ってるのと同じだろう。何かショックを受けるような内容の本だったのかもしれんな」
健介の言葉に冬月が読んでいた本が何なのか気になった。
机に目をやるとタイトルが削り取られた本と茶色い手記のようなものが置かれていた。
怪しい本を手に取って捲っていくととてもこの世の内容ではない。
未知の生物について書かれていた。
また、それに関連する“魔術”についても書かれていた。
「……これを全部読んで冬月は」
この本を全て読もうものなら心がやられても不思議ではない。
しかし、この本はこの事件でもこれからでも必要になるような気がする。
もう一冊。
今度は手記のようなものを手に取って見る。
捲っていくと日記のようだ。
恐らくはこの小屋でずっと調べていたという正人のものだろう。
近くにあった椅子に腰掛け、手記を読み始める。
『轟破の言動が昼と夜でおかしいことに気づいた。やつが夜に神社の方へ向かっていくのを目撃した。そこで後を追ってみたところ、奇妙な虫のようなものと話していた』
『あの奇妙な虫のようなものが人の中に入っていくのを目にした。虫が入った人も昼と夜で違うような気がする。あの虫は一体なんだ?』
『おかしくなっている人が増えている。俺にはわかる。得体の知れない違和感が。原因はあの虫だろう。早く何とかしなければいけない。でも、一体どうすれば?』
『島の人間ではない白髪の少年に出会った。彼は俺が抱いている問題をあっさり見抜いた。そして彼は、「助けになるかもしれない」と古びた1冊の本を渡してきた。彼は一体何者なのだ?』
『少年に貰った本を読み進めてみた。あれはこの世のものとは思えない。しかし、あの虫の正体、退治する方法が書かれていた。この内容が本当であれば島が大変なことになる。何としてもこの島を救わなければ』
『本に書かれていた魔術を1つ試してみた。成功し、この世のものとは思えないものが目の前に現れた。気が狂いそうだった。そこからの記憶は曖昧ではあるが、あの魔術が虫に聞くのか聞いたのは覚えている』
『方法は見つけた。あとはそれを実行に移すだけだ。偶然か必然か、魔術を使うに良さそうな場所は奴らがいつも集まるあの広い空間だ。あそこがこの島の中心に位置している。大丈夫、必ず助ける。この島を必ず救ってみせる』
これを読み、色々と繋がった。
まず、轟破が今回の真犯人で間違いなく、数年前から続いていたこと。
あの少年が俺だけでなく、正人にも加担していたこと。
そして、あの虫を退治する方法。
その方法というのは冬月が見つけてくれているだろう。
俺は手記を閉じ、立ち上がった。
すると、香織が不安そうな顔で俺に尋ねてきた。
「あの、それ父のものですよね? 何が書かれていましたか?」
「……君のお父さんが島のために命をかけて努めていた。異変に気付き、1人で戦ってたんだ。冬月のように気が狂うかもしれないというのに」
そう告げると、香織は顔を手で覆い泣き始めてしまう。
俺たちは、正人さんの意思を継がなければならない。




