本性
祭りの会場を抜け、神社に行くための石畳の階段を駆け上っている。
階段を上っている途中、何かが落ちていることに気が付く。
一度止まり、何かを確認すると鉢巻のようだ。
「これは……」
「何か心当たりあるんですか?」
鉢巻を見た香織の様子が変わり、そのことを俺は問いかけた。
「私が浩太のために作った鉢巻なんです……」
俺は本格的にまずいなと思った。
一度止めた足を再び進め、神社の方に向かう。
神社の境内についたが浩太がいる様子はない。
「浩太―! どこにいるの!」
香織が大声をあげて浩太を呼ぶ。
冬月も弓月も必死に探しているがどこにも見当たらない。
本殿の方を調べていると奥の方から「放せっ」という声が聞こえてきた。
俺は勢いよく本殿の扉を開き、中に入っていく。
すると、そこには地下に続くであろう階段があった。
「何なんだっ、放せお前ら!」
その階段の奥から浩太の叫ぶ声が聞こえてくる。
慌てた様子で香織たちもやってきて、階段を見ると驚きを隠せない様子だった。
もしかして香織もこの階段のことを知らなかったようだ。
「俺が先頭に立つ、冬月は殿を頼む」
「は、はいっ」
そういうと階段を駆け下りていく。
階段を下りていくと大きな広場にたどり着いた。
ろうそくの明かりに照らされているだけだが、何とか黙認できる程度の光源ではあった。
目を凝らしてみると手足を拘束され、身動きの取れない浩太とその横に二人の大柄の男が立っていた。
「……浩太っ!」
香織が叫ぶと、拘束されている浩太の後ろから誰か現れた。
その人物を見た俺たちは驚きを隠せなかった。
そこに現れたのは島の自治会長である轟破源次だった。
「あんたは……自治会長の……!」
島に来た時の穏やかな表情とは違い、狂気に満ちた表情を浮かべていた。
「これはこれは。これから儀式だというのに。こんなところに何の用ですかな」
轟破はニヤリと口元を緩めた。
このような状況を見られたというのに余裕を浮かべ散る様子だ。
「こっちが聞きたいもんですね。儀式とはどういうことだ、そこの少年をどうするつもりだ」
「彼は知ってしまったのだ、この島の私の秘密を……あの東坂正人のように!」
源次の言い放った言葉に香織と浩太は動揺を隠せていないようだ。
香織と同じ苗字であることから父親なのかと推測できる。
「理由はどうあれ関係ない。轟破源次、あんたを未成年者略取誘拐罪の現行犯で逮捕する」
そう言って胸ポケットから警察手帳を掲げる。
それを見た轟破は高らかに笑いあげた。
「ははははは、警察なぞ関係ない。見るがいい、彼はこれから我々とともに真の幸福への一歩を歩むことになるのだ!」
轟破から初めて会った時の穏やかな面影は消えていた。
轟破の言葉を合図にしたのか何かが奥の方からこちらに向かってくるのがわかる。
耳にしたのは俺が昨日聞いたあの虫の羽音だ。
羽音は次第に近づいてきているのを暗示するように大きくなってくる。
そして、それは俺たちの前に現れた。
大きさこそカブトムシと同じくらいのものの、離れていてもわかるほど大きな目、複数個ついた口、十本近く生えている足に半円状の翅。
それはこの世の生物とは思えない狂気めいたものを感じる。
あの廃墟で見た謎の化物のように……
その場にいた全員の顔色が変わる。
俺はこのような生物がいる可能性があることを知っていたため何とか正気を保つことができている。
冬月も先ほど俺から話を聞いていたためか動揺は隠せていないものの正常であることが見て取れる。
そんな俺たちに構うことなくそれは浩太の頭にとまる。
「な、何なんだよ! やめろ!」
浩太は必死に抜け出そうとしているが拘束が取れることも虫がどこか行くこともない。
おかしな虫は頭に捕まったまま何かしたようだ。
途端に浩太は絶叫を上げ始める。
初めは叫び声をあげていたが次第にそれは高笑いに変わっていった。
「素晴らしい! ここにまた我々とともに幸福への道を歩むものができた!」
轟破は高らかに喜びの叫びをあげている。
このような状況までは想定していなかった。
流石に恐怖が俺の心を包み込んでくる。
だが、何とか精神を強く保ち何とか意識を保っている。
冬月たちの様子を確認すると、冬月は顔面蒼白になっているが正気でいるようだ。
弓月と香織はこの光景から目をそらし、苦痛の表情を浮かべている。
高らかに笑っていた轟破が突然、目線を俺たちに移す。
「そして! ここには不幸にも幸福を知らない哀れなものが四人もいる! さぁ、我々とともに幸福を味わおうではないか!」
轟破が声を上げると奥の方からさらに十数人現れ来た。
……今度は俺たちが標的になったか。
「冬月、弓月と香織さんを連れて逃げるぞ。流石に状況が悪すぎる!」
そう言うと冬月は弓月と香織の腕を引っ張り、階段の方へと走り出した。
俺もそれについていくように足を進める。




