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闇夜に蠢く挑戦状  作者: 大和ラカ
第一章 廃墟に蠢く願望
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調査前夜

 警察署から帰宅する途中、俺と冬月はある店へと入っていく。

 店の中には様々な日本刀や西洋にあるような剣の模造刀や竹刀などの武器と呼ばれるものが大量に並べられており、外国人のお客が比較的多い店だ。


「いらっしゃいませ、霧崎鍛冶店(きりさきかじてん)へようこそ!」


 元気のいい女性の声が店内に響く。


「どうも、今日はやけにご機嫌だな、莉沙」


 この店を切り盛りしている鍛冶師の霧崎莉沙(きりさき りさ)

 身長がかなり高く、女性にしては体格がよくそれでいて美人という女性だ。

 いつも俺の刀の手入れを頼んでおり、外国人のお客さんが多いこの店の数少ない日本人の客でもあるのだ。


「まあね、ちょっと楽しみなことがあってね。そっちは今日もデート?」


「今日もってどういうことだよ」


 俺は呆れながら答える。

 莉沙はよくこの様によくわからない冷やかしをして来るので少々面倒くさかったりしている。

 冬月は動揺し、慌てた様子だ。


「ち、ち、違いますよ! 仕事終わりに寄っただけです!」


「あはは、ごめんごめん。ところで今日はあれを取りに来たの?」


 莉沙が冬月に謝ると、俺のほうを向き質問してくる。


「あぁ、ちょっと危なそうなところに行くことになってな」


「そういうことね。いつものことだからまた無茶するんじゃないの? まぁいいわ、ちょっと待ってて」


 そう言って莉沙は店の奥へと向かい、しばらくすると莉沙が刀をもって戻ってきた。


「はいどうぞ。今回は刃こぼれがひどかったけど何したのよ」


「い、いやぁ、強盗犯が発砲してきたときに何発か刀に当てられてな」


「何やってんのよ、あんたは」


 そう言いながら莉沙から日本刀を受け取り、刀の出来を確認する。

 光の反射により輝くほど美しい刀身をしており、以前よりも鋭さが増しているように見える。


「さすが莉沙。いい感じになったな、ありがとう」


「まぁね、私にかかればこんなもんよ」


 莉沙は胸を張って自慢げにしている。

 普段から自信過剰なやつではあるが実力は折り紙付きなうえに、ここまでの出来栄えだと何も言えない。

 それにこの刀は俺にとってとても大事な刀で、失うわけにはいかない代物なのだ。

 突然、何かを思い出したかのように莉沙が口を開く。


「そうだ、今度黄野町に行くことになったんだけど、二十年前に変死事件みたいなのあったじゃない? それでオカルトの仲間に聞いたら幽霊が出るとかいわれてるじゃない。それで何か知ってることないかな?」


 表情を明るくし、少しワクワクしている様子で俺と冬月を見る。

 そういえばこいつ、オカルトとか好きだったな。


「あぁ、黄野町な。いろいろあるらしいな」


 俺に続けて冬月が、

「霧崎さんは何用で行くんですか?」


「オカルト好きとしては幽霊が出ると聞いたら行くしかないじゃない!」


 莉沙の発言に苦笑いを浮かべていると続けて莉沙が「まあ、そこで会えるといいわね」と言った。

 横で冬月はなぜかムッとした表情で莉沙を睨んでいる。

 すると莉沙が冬月に手招きをしており、怪訝そうな顔しながら莉沙の方に向かっていく。

 莉沙が何か冬月に言ったみたいだが、直後に冬月が突然硬直する。


「……おい莉沙。冬月に何話したんだ?」


「別に何でもないわよ! ほら、そろそろ店をたたむ時間だし帰った帰った!」


 莉沙に追い出されるように店からつまみ出されてしまう。

 そういうところは相変わらず自由というか……



 店を後にし、俺たちは帰ることにした。

 帰り道が同じということもあり、普段から冬月を家まで送って帰っているのだ。

 今日、日本刀を取りに行くのを付き合ってもらったのもそのためだ。

 車を運転している最中、ふと家に食べるものがないことを思い出した。


「あ、そうだ。少しコンビニに寄ってもいいか?」


「え、えぇ別にいいですけど。何ですか」


「あぁ、家に何もなかったような気がしてな。ちょっと晩御飯を買おうと思って……」


「コンビニでご飯なんて健康に悪いですよ! 前もスーパーのお弁当で済ませてましたよね。うちに来てください。御馳走しますよ」


 俺は少々戸惑いながらも、

「あ、あぁ、うん。それじゃあ、お言葉に甘えて」

 と答える。


 冬月は満面の笑みを浮かべ「はい」と返事をした。

 コンビニに寄るのをやめ、そのまま車を走らせ冬月の家に向かう。



 冬月の自宅は防犯設備が充実なマンションで一人暮らしの女性には安心の住まいである。


「お、お邪魔します」


 何度か上がったことはあるが女性の部屋となるとやはり緊張する。

 冬月と一緒いることには慣れてきたが、女性が不得手なことに変わりはない。

 冬月が鍵を開け、戸を開きリビングに通され腰を下ろす。

 部屋は片付けられておりとてもきれいだ。

 女の人らしいぬいぐるみやクッションがベットに置かれており、本棚には女性誌や法律、政治に関する書物が並べられている。


「今から作るので少し待ってくださいね」


「あ、あぁ。すまないな」


 冬月が料理をしている間、所持しているノートパソコンを開き今日調査したことをまとめておくことにした。


***


 隼先輩をリビングに通し、私はキッチンで料理を始める。

 料理を始めようと思ったとき、ある大事なことに気が付いた。

 私……また先輩を家にあげちゃったよおおお!

 すでに何度か上げたことはあるものの、やはりどうしても緊張してしまう。

 だって、隼先輩が家に来てるんだから……

 一回落ち着こう……


「よし、頑張っておいしい料理をふるまわないと!」


 いつも料理するとき以上に気合いが入る。

 先輩のために頑張らないと!


***


 一時間ほどたち、報告書のまとめが終わったころちょうど料理が完成して机に並べられていく。


「お待たせしました。ちょっと時間かかっちゃいました」


 作られたのはデミグラスソースがかけられたハンバーグとサラダ、白いご飯に味噌汁といったとても栄養バランスのいい料理だ。


「おお、美味そうだな」


「どうぞ、召し上がってください」


 満面の笑みを浮かべ料理を進められる。

食べるととても美味しい。


「うん、美味い! やっぱり冬月は料理上手だな!」


「そんなことないですよ……」


 もじもじと少し照れながら冬月は答える。

 たまに冬月の料理を食べる機会があるが、どれもすごくおいしい。


「そんなことあるって! 料理ができる女性っていいよな。俺なんてろくな料理ができないしな」

 俺は苦笑交じりに言う。


「先輩、料理が苦手だって言ってますもんね」


「あぁ、だから料理が得意なやつはすごいと思うよ」


 ふと冬月を見るととてもうれしそうで、満たされた表情をしている。


「こんなに料理は上手いし、器用で人にやさしいんだから冬月はきっといい嫁さんになるんだろうな」


 俺は微笑を浮かべながらいう。

 ガタッと机が揺れる。

 どうしたと思い冬月を見ると驚きと照れが混ざったような表情を浮かべ、顔を真っ赤にしていた。


「な、ななな、何言ってるんですか! えっと、あの、えぇ……」


 頭から湯気でも出るのではないかと思うほど顔を赤くさせ、

「ちょ、ちょっと席を外します!」


 そういって立ち上がり、素早い動きで廊下の方へ行ってしまう。


「……あいつ、どうしたんだ?」


 その後冬月が戻ってくると、また会話をして夕食を楽しみ、久々に誰かと食べられたことがとてもうれしく思った。


「冬月、晩御飯ごちそうになったな。ありがとう」


「いえ、私も楽しかったです」


「明日は大変かもしれないからゆっくり休めよ」


「それは先輩もですよ」


「はいはい。それじゃ」


 冬月に見送られ、マンションを後にする。

 そして自宅へと帰り明日の準備をするのであった。


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