二重人格
翌日、俺と冬月は事件に関係した人物の友人に話を聞きに来ていた。
昨日調べた人物で、大元の友人に当たる山梨という人物のところに来ていた。
山梨に事情を話すと、何かを考えるように手で顎を触る。
そして、何か思いついたようで口を開く。
「そういえばあいつ、今度九十九島に行くけど来ないかって誘ってきましたよ」
「それはいつ頃の話で?」
冬月が勢い良く質問する。
「ええっと、一週間前です。その時は断ったんですが、何かおかしかったんですよ」
「それはどのようにおかしかったのですか?」
「普段のあいつなら断っても逆に謝るやつなんですが、今回は苛立ってるように見えたもので。もしかしたら俺の思い過ごしかもしれないんですけどね」
普段と様子が違うってどういうことだ?
二重人格者って訳でもないだろうし。
「でも、あんな大元を俺は見たことない。考えてみたらおかしいんですよ」
「どういったところがおかしいのですか?」
「滅多に旅行に行くやつじゃないんです。それに大元は金銭面でも悩んでましたし、旅行なんか行こうとしないはずなんですよ」
それを聞くと確かに不可解な点は多い。
経済難の人間が旅行に行くだろうか。
山梨からの聞き取りを終え、他の人からも聞き取りをしたが全員似た供述で、旅行に行かないかと誘われていたようだ。
その結果に俺と冬月は頭を抱えていた。
警察署に戻り、冬月に事件について尋ねる。
「どう思った?」
「どうもこうも、行く理由がわかりません。ましてやこれは事件なんですか?」
「いや、投げやりになるな。一応全員旅行に行くって言ったきりなんだし」
そう、分かった範囲でいえば全員揃って旅行に行ったという点だ。
こんな同時期に旅行に行くなんて偶然にしてはできすぎている。
それに山梨の発言にあった「人格が変わっている」という点が不可解だ。
「そういえば、大元は九十九島に行ったって言ってたよな?」
「えぇ、確かそうですね」
「一応九十九島について調べてみるか。名前が出てるのはこの島だけだし」
「そうですね、それ以外は手詰まりですし」
そう言って冬月はパソコンに向き合い、調べ始める。
俺も同様にパソコンで調べようとしていると、スマホから着信音が鳴り出す。
「はい山川です」
『山川君私よ』
声の主は女性調査員だった。
「お疲れ様です。そちらは何か進展ありましたか?」
『ええ、調査を進める中で九十九島という島に秘密があるような感じなのよ』
「やはり九十九島ですか。こっちも聞き込みをしていると失踪した人は全員九十九島に行ったか旅行に行ったかのどちらかでしたね」
女性調査員は少し黙り、何か考えているようだ。
そして、しばらくしてまた話し出す。
『やはり一度九十九島に行って調べる必要がありそうね。私は別の調査も頼まれてるから行くことはできないが三人で行ってきてくれないか?』
「そうですね、警部に相談してみます」
『わかったわ、よろしくね』
電話が切られ、スマホを机に置く。
電話を終えたことを確認した冬月が声をかけてくる。
「先輩、九十九島のホームページを見つけたんですけど、どうやらここ数年で人口が増えているみたいなんですよ」
そう言って俺にパソコンの画面を向ける。
画面には美しい海の写真が載せられており、『自然と生きる島』という見出しが書かれている。
ここ数年で観光客の数が伸びているようで、そのまま移住する人も増えたことが書かれている。
「観光で訪れてそのまま移住か……」
「やはりそこが気になりますよね」
「あぁ、観光地としていい場所なのかもしれないがあくまでも離島だ。住むのにいい環境何だろうか」
観光地として何度も訪れたい場所なのかもしれないが、不便な場所であることは明らかだ。
「これは一度九十九島に行ってみるのがいいかもしれんな。警部に相談してくるよ」
そう言って席を立ち、荒巻のもとへと向かった。