結果と私服
「……やはりそっちもそんな感じでしたか」
「はい、やはりということは山川君、そっちも同じ感じだったということかな?」
「ええ、どこも荷物が少なかったですね」
捜査を終え、俺たちは刑事部の部屋で情報共有していた。
女性捜査員たちが調べた方も俺たちの方と同じように荷物が少なくなっていたとのことだ。
いったいなぜこうも一気にいなくなってしまったのだろうか。
「今日はもう時間が遅いし、捜査の続きは明日にしよう」
「そうですね、それではまた明日お願いします」
そう言うと女性捜査員たちはこの場から去っていく。
俺と冬月、新田の三人は今日得た情報をまとめてからそれぞれ帰宅した。
いつも通りの帰り道、俺は何かを忘れているような気がした。
捜査関係で何かやり忘れただろうか?
何を忘れているのか思い出せないまま帰路を歩いていく。
自宅に到着し、玄関の戸を開くと部屋に明かりがついている。
あぁそうか、弓月が来てるんだったな。
弓月も俺が帰ってきたことに気が付き、玄関の方に顔をのぞかせる。
「あ、兄さんおかえり」
「ただいま。そうだ、晩飯どうする?」
「もうこんな時間なのね。冷蔵庫空っぽだし、あっても兄さんは料理できないでしょ? どこか食べに行こうよ」
料理ができないことが前提になっているのは癪だが事実であるため言い返せない。
「仕方ないな。何が食べたい?」
弓月は喜びの笑みを浮かべている。
「それじゃあスパゲティ食べたい!」
「わかった、それじゃあ準備してこい」
そう言うと弓月は慌てて出かける支度を始めた。
五分くらい待っていると、弓月が準備を終えて出てくる。
「お待たせ、それじゃあ行こ!」
とても機嫌がよく、勢い良く家を出ていく。
俺はその光景を呆れながらついていく。
駅前の方まで来ると、帰宅途中のサラリーマンやOLの姿をよく目にする。
その中には私服姿の冬月がいることに気が付く。
「あれ、冬月じゃないか。こんなところで何やってるんだ?」
俺が声をかけると冬月はこちらに振り向く。
普段のスーツ姿とは違い、黒字に花柄がプリントされたシャツに白のサマーカーディガンを羽織り、膝下くらいのフレアスカートを履いている。
初めてキョトンとした表情で俺を見ていたが、だんだんと顔が赤くなり後ろにふりかえってしまう。
「せ、先輩が何でここに……⁉」
「あぁ、いや、晩飯を食べに行こうと思ってな」
「そ、そうなんですか……」
赤面したままゆっくりとこちらに振り向く冬月だったが、次の瞬間、今度は驚愕の表情に変わった。
「な……せ、先輩……その人は……?」
冬月が指差した先をみると、弓月のことを指しているようだ。
「妹の弓月だ。それとこっちは冬月。俺の後輩だ」
冬月に弓月を紹介すると、今度は弓月に冬月を紹介する。
弓月は一礼して自己紹介を始める。
「山川弓月です。兄がいつもお世話になっております」
「えっと、冬月美夢です。私の方が世話になってますけどね」
冬月も頭を下げ、自己紹介する。
「そんなことないだろ。お前には世話になりすぎてるくらいだ」
「そんなことないですよ」
「よく晩飯作ってくれるじゃないか。助かってるぞ」
「あ、あれは日ごろの感謝ですし、それに……一人でご飯食べるのも寂しいですし」
少し顔を赤らめ、もじもじした様子で冬月は言う。
その様子を見て、弓月は何故かニヤニヤしている。
「何だ、その顔は」
「別に~見てて面白いだけだよ」
俺にはどういうことかが理解できなかった。
なぜ弓月はにやついているのか。
冬月も様子がおかしいし、どういうことなんだか。
このようなことに疑問を抱いていると、弓月が何かを思いついたらしく一瞬怪しげな笑みを浮かべる。
「そうだ、冬月さんもご飯一緒にどうですか?」
「それはいい考えだな。どうだ冬月、一緒に食わないか?」
突然のことに驚いたようで、冬月は困惑している様子だ。
「え、でも、せっかくの兄妹二人でのところに私がいたら迷惑じゃ……」
「食べるんだったら多い方が楽しいだろ」
そう言うと冬月は顔を赤らめ、左手を口元に添える。
そして、少し考えたのちゆっくりと口を開く。
「それじゃあ、お言葉に甘えて……」
冬月の言葉に頷き、三人で店へと歩き始める。




