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闇夜に蠢く挑戦状  作者: 大和ラカ
第一章 廃墟に蠢く願望
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有力情報

 しばらく会話をしながら走らせていると自分たちの警察署に着く。


「先輩、もし今回の行方不明事件と変死事件が関係なかったら振り出しに戻るうえにこれからの行動が無駄になってしまいますよ? それに20年も前の事件ですし資料も見つかるか怪しくないですか?」


「そうだろうか? 20年前の事件とは言え未解決事件なんだ。何かしらかの資料はあるはずだ。とりあえず資料室に行くぞ」


 警察署まで戻り、パトカーから降るとすぐさま資料室へと向かった。

 冬月も追うようについてくる。

 外とは違い、署内は冷房が効いており快適だ。

 そして目的の資料室へと向かっている途中、歩きながら冬月が、


「どんな資料を探すつもりですか?」と尋ねてくる。


「生存者の確認だな。いるなら直接話を聞きたい。恐らく雷道が生存者だろうが確証がないからな」


「でもさっきメモに電話番号が書かれてましたよね? その時に直接確認してもよかったんじゃないですか?」


「そうかもしれないが本当に関わっているかどうかはいまいちわからない。確実に真相を解明するために資料室で確認を取るんだ。それに津村が雷道と接触した可能性がある以上変死事件を追っている可能性は高い。ならこっちを調べることが大切だ」


 そうこう話しながら歩いていると署内にある資料室に着き、司書をしている同僚の桂木(かつらぎ)に声をかける。


「よぉ桂木、ちょっと探したいものがあるんだがいいか?」


 パソコン作業をしている桂木は手を止め、こちらを見ると、

「あら、山川君。なにを探してるの?」と聞いてくる。


「黄野町変死事件についての資料はないか? それと行方不明事件の方の資料もいくつか見せてもらいたい」


 俺の言葉に少し驚きを表し、

「あら、なんでまた変死事件なんかを?」と聞き返してくる。


「ちょっと訳があってな。頼むよ」


「まぁいいけど、ちょっと待っててね」


 少しばかり疑問には思っている様子だが、そういうと桂木は本棚のあるほうへ資料を探しに行った。


「桂木さん、今日もきれいだなぁ」


 冬月がうっとりした表情でつぶやく。


「ああ、確かあいつ女性からの人気も男からの人気もすごいよな」


「うんうん、そうなんですよ。先輩はああいう女性に興味とかないんですか?」


「ええっと、興味がないわけではないがちょっとな……」


 こういう問いにはいつも困るんだよなぁ……

 このような会話はあまり得意でないのだ。

 目線を逸らし、手をズボンのポケットに突っ込む。


「…あまり女性と話すのは得意じゃないんだよ」


 取り調べなどで女性を相手するときは、こっちが拷問を受けているような気分になるほどだ。


「じゃあ私はどうなるんですか!」


 冬月が怒鳴りつけてき、顔が目の前に迫ってくる。


「い、いや。そりゃあ最初は色々と困るところはあったがずっと一緒に仕事をしてれば慣れもするだろ」


 驚きと戸惑いが混ざりながら弁解する。


「そ、そうかもしれないですけど!」


「あなたたちもう少し静かにできないのかしら?」


 気が付くと桂木が戻ってきていたようで、呆れた表情を浮かべ俺たちのことを見ていた。


「あ、ああ悪いな。で、資料はあったか?」


「ええ、ただ変死事件の方はあまり資料が少なくてこれしかないわ」


 そう言う桂木の手には2冊のファイルがあった。

 それとは別のファイルもいくつか持っており、そっちが行方不明事件の方であることが分かる

 桂木から資料を受け取ると礼を言った。


「ありがとう。助かるよ」


「ちゃんとあとで返しに来るのよ。そこの棚に置いといてくれたらいいから」


 そう告げて自身の作業へと戻っていった。

 俺たちも自分たちのデスクへと戻り、さっき借りた資料を読んでいく。

 どうやら変死事件の生存者は二人だけのようで、一人はさっき津村の家で見つけたメモに書かれていた人物である雷道裕大だ。

 黄野町の交番に勤務していた警官だそうだが現在は消息不明とのこと。

 もう一人の人物が根野海悟(ねのうみ さとる)という人物ので、黄野町にあった高校に通う高校二年生らしい。

 しかし、この事件の後に自殺しているのが発見されている。


「思えばどういうことだ。雷道は消息不明だったのに津村はよくアポを取ることができたな」


「ですね、ジャーナリストですし何らかのルートでもあったのですかね」


「ふむ、そういったルートは全く分からないな。ただやはりこうなってくると雷道に話を聞きに行かないとだな。確実に雷道は変死事件にかかわっていることが分かったし」


「そうですね、根野海悟はすでに亡くなっていますし、それ以外ないですね」


「他の資料には何が書かれている……」


 もう1冊のファイルには捜査のまとめが書かれていた。

 書かれていたことをまとめると、黄野町は廃墟と化し住んでる人は存在しない。

 捜査中、何人かの刑事に異変があったがその後は何も無く普通であった。

 1番最新のものには、捜査中に真新しい足跡を見つけたことと人影を目撃したといった内容が書かれていた。

 日時を見てみると3年前の調査レポートであった。


「……こんな所に人がいるのか。ふざけ半分で訪れた若者じゃないのか?」


「それなら多分その場で注意しますよ。姿を確認できなかったとも書いてますし恐らく逃げていたのではないでしょうか」


「そうだな。こればかりは行ってみないと分からないな。まずは確認が必要だな」


 俺はそう言うと先ほど記録した電話番号をケータイに打ち込み、雷道裕大の家に電話をかけてみることにした。

 電話をかけてみると雷道裕大本人と思われる人物が電話に出てきた。


「はい、雷道です」と出てくる。


「あ、雷道裕大さんの自宅のお電話でしょうか?」


「はいそうです。そちらさんは?」


「刑事課の山川と申します」


 雷道は少し驚いたのか少し間をおいて、

「ほうほう。警察の方が何用で?」と不思議そうに質問してくる。


「20年前に起きた黄野町での変死事件についてなのですが、雷道さんは唯一の生存者とのことでお話を伺いたいのですが、自宅に伺ってもよろしいでしょうか?」


 ちょっと間を置き、声のトーンを低くし、「……わかりました。どうぞ来てください」と答える。


 その声には迷いがあるように感じるが、会ってみなくては何もわからない。

 もしかしたら何かを重要なことを知っているかもしれない。


「はい、ありがとうございます。それでは自宅の住所を伺ってもよろしいでしょうか?」


 雷道が自宅の住所の住所を教えたのち、

「わかりました。この後向かわせてもらいます」と雷道に伝える。


「はい、お待ちしております」


 雷道がそう言ったところで電話を切る。


「これから雷道の自宅に向かうのですね」


 こちらの会話を聞いていた冬月が質問してくる。


「ああ、すぐに向かう。準備はできてるか?」


「さっき出たばかりですしね。さっそく向かいましょう」


「そうだな。それと冬月、お前は隣で行方不明事件の資料を読んでおいてくれ」


「分かりました」


 そう言って、さっきと同じ用意で車に向かい荷物を載せ、冬月とともに雷道の家へと走らせる。

 そうして、三十分ほど車を走らせたところで雷道家に到着する。

 家の脇に車を駐車させ、インターホンを鳴らす。

 すると中から雷道の奥さんと思わしき人物が出てき、「はい、雷道です」と応える。


「先ほど連絡させていただいた刑事課の山川です」


「わざわざすみません。どうぞおあがりください」


 家の中へと招かれ、玄関には雷道の奥さんが待っていた。

 そしてそのまま客間へと案内され、椅子に腰かける。

「では、主人を呼んできますので少し待ってくださいね」と一礼し、奥さんは客間から出ていく。


「……電話の声からは迷いを感じたが、何かあるのだろうか」


「先輩、大丈夫ですか? 何か不安でもあるんですか?」


 俺の顔を覗き込むように冬月が見る。


「あぁ、迷いがあるということは話しにくいことなのかもしれないからな。その内容がどういったものなのか少し不安があって」


「そうですか……でも話を聞くまで内容はわかりません。とにかく話を聞かないとです」


 冬月の言う通りだ。

 何も聞いてないのに不安になるのは早すぎる。

 しばらく待っていると雷道裕大本人と思わしき人物が客間に入ってき、俺と冬月と向かい合うように腰掛ける。


「急にお邪魔してすみません」と言い頭を下げる。


 そのあと続いて冬月も頭を下げる。


「いえいえ、こちらこそ。私が雷道裕大です。それで何用でしょうか?」


「20年前に起きた黄野町変死事件についてお聞きしたいのです。この事件で唯一の生存者とのことでその時の様子などを伺いたいのですが、教えていただいてもよろしいでしょうか?」


 俺の質問に少々戸惑いを見せ、話しにくそうな様子だ。


「……私は何も知らない。知らない間に色々何か起きたのです」


 目を合わせようとせず、うつむいたままの雷道の様子に対し俺は少し不信感を抱いた。

 この時、知らないというのは嘘なのではないか、本当は何か知っているのではないか、何か隠しているのではないかと思った。

 言いにくいのかもしれないがこっちも情報が必要だ。


「……本当に何も知らないのですか?」


 しっかりと顔を見て再び雷道に問いただしてみる。

 俯き少し黙った後、観念したかのように息を吐き、

「わかりました。なら話しましょう。ただ、極力思い出したくない話なのです」


 雷道は再び息を吐き、肩の力を抜くと知っていることを語り始める。


「あの日、何が起こったのかは知っています。ですが詳しいことは知りません」


「知っていることだけでいいので、できれば教えてください」


 俺は真っすぐ雷道の顔を見て、しっかり話を聞く体制をとる。

 隣で冬月は手帳を取り出しメモを取ろうとしている。


「あの日、あの町にあれが現れたのだが何かがわからない。わかりたくもない。あの事件についてはあまり思い出したくないのだよ」


 少し恐怖を浮かべる表情で雷道は話す。

 その様子にどことなく嫌な予感がするが、もう少し情報がほしい。

 あまり気は進まないが『あれ』というのについて聞いてみる。


「すみませんが『あれ』というのはどのようなものか覚えていませんか? 生き物なのか別のものなのか」


 雷道は静かに首を振り、

「あんなもの思い出したくない。何かがわからないのですから……ただ一つ言えるのは得体の知れない……化け物、とでも言うんですかね」


 化け物を見た?

 疑問を抱いたがこれ以上聞くのはさすがに胸が痛む、これ以上聞くのはやめておこうと思う。


「すみません、辛いことを思い出させてしまいまして」


 申し訳なく思い頭を下げると雷道は小さく首を振った。


「いえ、大丈夫ですよ。あの事件を追っとるのですかね?」という風に雷道が聞いてくる。


「はい、明日にでも黄野町に調査に行こうと思っています」


 少し考えたのち、雷道はゆっくりと口を開き、

「もしかしたらまだ何か残っているかもしれん。町にある高校に行くといいだろう」


「高校……ですか?」


 冬月が少し不思議そうな表情でつぶやく。

 この時俺は、この高校は根野海悟が通っていた高校なのではないかということが頭をよぎった。

 もしかしたら黄野町変死事件というのは町が何かとんでもないことが起き、想像もつかないことが起こった可能性があるのではないかと思ってしまった。

 それを思うと少しばかり恐怖する。

 そして津村のことを思い出し、雷道に尋ねる。


「それともう一つ、依然そちらに津村というジャーナリストが尋ねてきませんでしたか?」


「えぇ、来ましたよ。刑事さん方と同じようなことを聞かれましたよ」


 やはりそうだったか。


「それと、その津村という方も黄野町へ行くと言ってましたよ」


 俺と冬月は顔を上げ、「本当ですか!?」と声を上げた。


「えぇ、それは興味津々な様子でしたよ」


「そうですか、貴重なお話ありがとうございました」


 二人とも雷道に対し深々と頭を下げた。

 気が付けば日も沈みかかっておりオレンジ色の空に目が行く。

 雷道家を後にし、車に乗り込もうとする。

 外は日も落ちかけているからか昼間の暑さもマシになっている。

 そして車を走らせ、警察署へと帰っていく。

 警察署に戻り、自分たちのデスクに戻ると少し話し合いを始めた。


「さて、明日だが黄野町に向かうということでいいよな? 津村もそこにいるかもしれないし」


「ええ、構わないですよ。もとよりそのつもりですし」


 冬月は真っ直ぐなまなざしで答える。


「そうだな。とりあえずだ、何か得体のしれない何か……化け物が出てくるらしい。万全の状態で向かうぞ」


 冬月はふと何かを思ったかのように話す。


「それはいいのですが先輩って確か、以前の事件の時に刀をボロボロにして修理に出してませんでしたか?」


 冬月はデスクに立てかけられている脇差に目をやる。


「あぁ、それに関しては問題ない」


「どういうことですか?」


「前に修理に出てた物が治ったらしいんだ。落ち着いたら取りに行こうと思ってたんだがこんなに早く必要になるとはな」


「確かに急でしたもんね。それと行方不明事件の方なんですが、資料を読んだところかなりの人数が行方をくらましてるみたいですね。中には黄野町に行ってそれ以来戻ってこないという津村と同じパターンも見つかってます」


 そう言ってカバンから資料を取り出すと目の前に広げてきた。


「そうか……恐らく犯人は黄野町を拠点にして人をさらっていると見れるな。ただこれだと理由が分からないが……」


「……ひとまずは現地を調査してみないと分からないですね」


「そうだな。とりあえず俺の日本刀を取りに行くとするか」


 そう言うと俺は帰る準備をして部屋を出た。

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