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鋼の中の雛  作者: 藤村灯
山岳

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11/58

飛竜五連 破

 世話になるばかりでは心苦しい。手当てを受けた後、何か手伝えることはないかと申し出てみた。マオは少し考えた後、


「ちょっと無理して貰うけど良いアルか? 一人では厳しそうアルから」


 と俺を連れだした。山道を下りた先にあるのは、先ほど倒したシャンタク鳥の死骸。


「全部は難しいアルね。モモ肉だけにしておくアルか」


 嫌な予感がする。

 まさか……食べるのか?


「動くものはたいてい食べられるヨ。それに、肉を食べたほうが、怪我の治りが早いアルよ!」


 動くものの中にも、毒を持つ存在はいくらでもいるのだが。

 骨剣でシャンタク鳥の腿を切り落とし、手分けして一本づつ庵へ運ぶ。マオは名残惜しそうにしていたが、残りは野の獣が片付けてくれるだろう。


 吊るして血抜きを待つ間、マオは庵の前庭で修練を始めた。丹念に同じ型をなぞるように繰り返す。呼吸は深くゆったりとした動きだが、全身に玉のような汗が浮かび、肌着が張り付いている。


「気になるアルか? 特別アルよ」


 俺の視線に気付いたマオは、悪戯っぽい表情を浮かべ、幾つか小石を拾う。無造作に放ったそれに、刹那の内に放たれる蹴りは三度。小石は蹴り飛ばされるのではなく、その場で砕け散った。


「これを跳躍から放つのが飛竜。あの時シャンタク鳥に使った技ネ」

『竜? 竜ってあれで蹴りが得意なの?』


 俺も竜は話でしか聞いたことがないが、火を吹き空を舞うことはあっても、素早い蹴りを放つものでは無かったと思う。


「あたしの国の竜は別物ネ。水の神様で、身体が長く、空を駆けるネ」

『気持ち悪いわね。身体が長くて蹴りが得意?』

「アイヤー、それは例え、例えネ。竜の爪や咢のように疾く靭く放つという意味ネ」

『それなら竜は水の神じゃなく、武術の神じゃないとおかしくない?』

「……そうネ。あたしも荒神じゃなく、竜王様でも拝んでおけばよかったアルよ」


 雛神様とのじゃれあいのような会話から、不意にマオは声を落とし、瞳に暗い影を浮かべた。沈んだ表情のまま、手拭いで汗を拭い、庵の中へと姿を消した。


 その日の夕食に、香辛料を贅沢に使った、シャンタク鳥の炒め物が食卓に並べられた。

 辛い。俺をもてなすつもりなのか、そうでもしないと食べられないのかは分からないが、素材自体の味は良く分からない。トカゲとも鶏とも取れる風味だったように思う。


 肉の滋養と雛神様の加護のおかげで、怪我の回復は早い。俺はマオに頼まれ竹の切り出しを手伝ったり、レンカの手付きの見よう見まねで、竹籠を編んだりして日々を過ごした。レンカが小さな手を器用に動かし作ったものとは違い、俺の編んだ竹籠のようなものは、どう見ても売り物にはならない仕上がりでしかなかったが。


 夜は細工物を作る離れで眠る。茣蓙とかいう粗末な敷き物しか用意できないことを、マオはしきりに恐縮していた。だが助けられているのはこちらだし、旅をすれば荒野で夜を明かすことも珍しくはない。雨風を凌げるだけでも感謝しきれないほどだ。


 その夜、俺は窓越しに見える月を眺めながら、眠れずにいた。

 今まで、体術は剣技の基本の動作としか頭になかった。武器を失った場面での組み合いの心得も無くはないが、あくまでも補助的なもの。

 だが、極めればそれだけで敵を打ち倒すことができるというのか。飛龍。シャンタク鳥を墜としたマオの鋭い蹴りが脳裏に蘇る。


『相性や使いどころもあるでしょ。剣も持たずに徒手空拳で、迷宮を生き延びられるもんですか』


 雛神様の言うことはもっともだ。だが、俺が手こずったシャンタク鳥を屠ったのはマオだ。迷いを晴らそうと剣を手に外へ出る。邪念を払うため、余計なことは考えずただ無心に剣を振るうち、水音がするのに気が付いた。


 音を頼りに庵の裏へ回る。水を浴びていたのか。月明りの下、肌を露わにしたマオが身体を拭っていた。詫びて立ち去ろうとする俺の手が、後ろから繋ぎ止められた。


「兄さん、あたしと子作りしてくれないアルか?」


 どこか冗談めかしたいつもの口調。だが、俺を見詰めるマオの瞳には、真剣な物が感じられる。


 鋼殻の騎士にとって、妻帯は禁忌ではないが、わざわざ子を作る騎士は稀にしか存在しない。育つ姿を見届けられないのは未練でしかないし、騎士の生き方は子に継がせる物ではないからだ。俺も限られた残りの人生で、妻も子も持つつもりはない。


「あたしの一族、もう途絶えるネ。兄さんに迷惑かけない、一人で育てるヨ」


 いつもなら口を挟んでくるはずの雛神様は、何故か沈黙を守っている。俺はゆっくりマオの手を取り指を解いた。


「そうか……残念アル」

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