追伸「とある紳士の述懐」
「すってきな冒険が……はっじっまるよーっ! なんて感じで……ロゼたんも旅の終わりを締めくくったんだろうなぁ」
そんな風に、俺は誰に言うでもなく呟いた。
「ありがとうございましたぁ! マスター何か言いました? それとファ○チキが売り切れちゃいましたよ! とりあえず、10個くらい至急であげちゃってください!」
ファ○マの制服を着て、フリフリのエプロンを身に着けたリリエンヌがトング片手に腕をバタバタ振りながら、俺を急かす。
駄目チョロインなんだけど、意外に可愛い……可愛いは正義だ。
「うんうん……やっぱファ○チキ大人気だなぁ……在庫がもうないから、ちょっとだけ待つんだお」
そう言いながら、ファ○マタブレットを操作すると、バックヤードの方でファ○チキ100個入りのコンテナがドサッと落ちてきた音が聞こえた。
相変わらず、謎なシステム……何がどうなってんだか、全然わかんなーいっ!
とりあえず、フライヤーに冷凍ファ○チキをブチ込んで、タイマーをセット。
あとは、こんがり揚がるのを待つだけ……簡単でよろしいっ!
……俺氏こと、ダニ・ダニオはあの時、ロゼたんのフルパワーフランケンシュタイナーをまともに食らった事で、頭の中身を潰れたトマトみたいにぶち撒いて即死した挙句に、きっちり火葬までされると言う非業の最期を遂げた!
ロゼたんの一点の躊躇いのない殺人技の前に、俺は普通に即死。
その残虐ファイターぶりは、もはや鬼以外の何者でもなかった。
……更にロゼたんがトドメとばかりに放った滅火の炎はアンデッドとかも燃やし尽くす凶悪な奴。
ロゼたんの俺氏に対する二度と生き返ったりとかすんじゃねぇって明確な殺意が込められてたのは、否定できない。
俺……やっぱ恨まれてたのかな?
いや、きっと長い間お疲れ様! もうゆっくり休んでって言う愛情的な感情ってものが込められてんだと思う……さっすがツンデレ! 素直じゃないなぁ。デュフフ……。
だが、そんな断固たる意志すらも覆し、俺は……死ななかったのだ!
何を隠そう俺が迷宮に施していた死なせずの加護のおかげで、俺は何事もなかったかのように生き返ったのだった。
そして、生き返った先は、皆おなじみルドラルフの街の中央広場。
そう、俺氏ってば、あっさり迷宮の外に出れちゃったのだ。
……俺が迷宮から解放される条件。
それは俺自身の死という形でのみ達成される……。
それがダンジョンマスターとして俺に課せられた契約だったのだ。
けれど、その制約の隙間を縫うような形で俺は、迷宮で死んだ冒険者達と同様に、迷宮の外にポイッと打ち捨てられた。
そもそも、ダンジョンマスターたる俺自身に死なせずの加護がかかるかどうかなんて……試すわけにいかなかったんだけど、実際死んでみたら、呆気なくできてしまった。
俺氏、グッドジョブ!
うん? なんだろ……怪我の功名?
そう言えば、リリエンヌも俺は侵入者と同じ扱いになってるって言ってたしな。
侵入者が死んだ以上、強制送還されたと……そういう訳なんだろう。
考えてみれば、この死なせずの加護……本来はベルダラキオとかがやってたみたいに、自分や味方の守護者が死んだ時の保険のようなもので、死んだ侵入者を生き返らせてダンジョン外に追い出す仕組みとして使ってたのは……多分俺くらい。
これまで試そうとも思わなかったんだけど……自殺して、生き返れるかどうか試す程、俺氏無謀じゃない……だから、こんな風になるとは思ってなかった……。
そして……俺の凄絶な死に様を見てパニックを起こした挙句、階段落ちで死ぬとか残念過ぎる最期を遂げたリリエンヌも、やっぱり迷宮から追い出される形で追放された。
かくして、俺氏の300年の生涯を賭けて築き上げたウラガン大迷宮は、ダンジョンコアのリリエンヌとダンジョンマスターの俺。
いっぺんに全部失ったことで、完全に機能停止。
徐々に崩壊していってるようだけど、それを止める術もないし、戻ってまた束縛されるなんて嫌だから、もうそのまま放置することにした。
リリエンヌも……自分のダンジョンがなくなっても、新しく作れば問題ないとかであっさりしたもんだった。
俺の死と共にダンジョンコアは、その機能の大半を失い崩壊したようなのだけど……その端末であるコイツは、その前にしょうもない事故死を遂げてしまい……俺同様、用済みのゴミって事で打ち捨てられたらしかった。
自分のダンジョンに、ゴミ扱いされて追い出されるダンジョンコアって……。
行き場もなく哀れみを感じたのと、相変わらずのチョロインぷりに免じて、同行を許してやった。
なんでも、俺と一緒にいればそれだけで幸せなんだそうな……モノ好きなチョロインだねぇ……つくづく。
でもって、今の俺氏なんだが……うまい具合に懐に忍ばせて持ち出せていた例のファ○マタブレットを使って、異世界コンビニを経営しつつ、リリエンヌ共々異世界ライフを堪能中なのだ。
ちなみに、このファ○マもどきの店舗は、実はダンジョンの一種だったりする。
侵入者ならぬ客が入ると、自動的にマナポイントがボーナスとして加算されていくし、売上金もマナポイントいうかたちで還元される。
リリエンヌに命じて作らせたんだけど、こんな応用が利くとはなんとも便利である。
何もなかった街道沿いに突如現れたファ○マに、皆驚きながらも異世界の食べ物や飲み物を堪能してくれて……。
郊外にあるにもかかわらず、わざわざ訪れる人々は絶えない。
最近では、俺のコンビニに便乗するように周囲に村みたいなのが出来つつあった。
なんでも、ダニオ村なんて呼ばれてるなんて話も……そのうち、またエンターティメントなダンジョンでも作って、皆をドキワクさせちゃおっかなーっ!
ロゼたん達は……詳しくは良くわかんないけど、魔王様とダンジョン狩りを続けながら、魔王様への恭順を良しとしない自称魔王達と戦ったりとかしてるらしい。
ダンジョンが順調に駆逐されてるせいで、このマナが枯れかけていた大陸もマナを取り戻し、着々とかつてのような豊かな大地を取り戻しつつあり、治世についても魔王様が睨みを効かせることでとても安定していると言う……。
さすが、魔王様だ! さすまおっ!
まぁ、皆、頑張れって人知れずエールでも送っとくとしよう。
何かの拍子に出くわすかもしれないけど、その時は俺氏の熱い抱擁とともに再会の喜びを分かち合いたいと思う。
ビーッ! とフライヤーのタイマーがけたたましく鳴り出して、俺は我に返ると、揚げたてのファ○チキをケースに並べる。
そして、一休みとばかりにレジ打ちをリリエンヌに任せて、外に出るとのんびりと空を仰ぎ見る。
ーー雲ひとつ無く、青くどこまで広がる空。
遠くから吹く風が頬を撫でるーー。
ああ、世界はこんなにも美しく広かった……。
コンビニの前に設置した噴水で少女たちが水と戯れているのが見える……。
紳士としてレベルアップを果たした俺は、昔のように近づいてガン見したりなんかしない。
けれど……俺、思う。
ああ、なんと……何という尊い光景なんだろうと。
「ーーありがとう、ありがとう」
俺は思わず、そう呟やくと立ったまま、むせび泣いた。
ああ……生きてるって素晴らしい。
全てに……感謝を……。
ありがとう……。
ーー俺は心からの感謝の祈りを捧げた。
読者の皆様、お疲れ様でした。
ダンデス完結でございます。
本編はこれにて終了です。
ちょっといい話っぽく締めてみました。
ご感想、次回作へのご要望などありましたら、お気軽にお願いします。
それでは、また別の作品で!
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