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第十三話「別に魁たりしないけど、勝ち抜けタイマンってお約束だよね?」④

 バトルフィールドは竹林のまま……。

 いかにルスカが身軽でも疾風疾風しっぷうはやてと同じように、竹を足場に飛び回るなんて出来ないだろう。

 

 けれど、無言で弓を構えると立て続けに連射!

 

「凄い! 何アレっ! どんだけの勢いで矢を放ってるのっ!」


 エストが驚いたように、目を丸くしながら感嘆の叫びを上げる。

 

 片手に三本くらいまとめて掴んで、息をつかさぬ連射! あっという間に矢筒が空になるんだけど、空になった矢筒には次々矢が補充されていき、矢玉切れになるような様子はなかった。

 

 けれど……相手もその雨あられと連射される矢の弾幕をギリギリの所で避けていく!

  

 と思ったら、ルスカが一発だけ見当違いの方向へ放つ……その矢は真上へ向かったと思ったら、放物線を描いて落ちてくる。

 

 どうなるのかと見ていると、その矢の軌道に自分から飛び込むように疾風疾風が当たりに行った!

 

「ぐわっ! な、なにぃっ! ど、どこから撃ってきた!」


 右腕を射抜かれた疾風疾風がうめき声を上げる。

 

 と言うか、こいつの名前クドい……もう緑侍でいいよね?

 

 ルスカが無言で頭上を指差すと自分の頭をコツコツと叩く。

 ……頭上注意。

 

 それを見た緑侍の顔の部分の仮面がピキピキと音を立てていた。

 

 煽ってる煽ってる!

 

「おのれ……エルフの弓兵風情が味な真似を! ……だが、たかが弓兵如き! 我が疾風の前には為す術などなかろう……見るが良い! 疾風怒濤の陣!」


 緑侍が高々と指を天に掲げると、竜巻が発生する……ルスカが牽制の矢を放つも竜巻に巻かれ、全く届かない。


 矢玉避けの防御魔法の一種かな? こうなると大質量攻撃でもないと飛び道具は届かない……接近したら巻き込まれる……さすがに無事で済むようには見えない。

 

 うーん、風属性って敵に回すと意外と面倒なのね……火の玉でも投げ込めば、大惨事になりそうな気もするけど。

 

 そんな事を考えていると、竜巻が更に巨大化し、足元から一陣の風! ……思い切りスカートが捲り上がる!

 しかも最低な事に今日に限っては、スパッツ履き忘れてたもんで、思い切り赤の縞パンがフルオープンになってしまう……なんつーセクハラ攻撃だっ! 許さん疾風疾風……!

 

 不覚にもキャアなんて言う乙女チックな悲鳴が漏れてて、慌ててスカートを押さえつけていると、ルスカと目が合った。


 なんで、そこで真っ赤になるかなぁ……。

 って言うか……疾風侍もこっち見てた……お前はこっち見んな。

 

 けれど、ルスカも何かスイッチが入ったらしく、疾風侍をキッと睨みつけると、呪文の詠唱を始める。


「踊れ踊れ風よ……集いて、惑いて、螺旋の舞いを舞い踊れ……征け! ウィンドストリーム!」


 ルスカがコマンドワードを唱えると、同じように螺旋を描く竜巻が現出する!

 

「ほう! 面白い! 風には風で相殺するつもりか! 良いだろう! 貴様の風と我が疾風怒涛の陣! いざ尋常に勝負っ!」


 疾風侍の疾風怒涛の陣へ、ルスカの作った逆位相の竜巻が吸い込まれるように、飲み込まれていく……。

 けれど、向こうのほうがパワーが上らしくルスカの竜巻は、ジリジリと弱まっていく!

 

「ルスカ! 押されてるよっ!」


「はははっ! 噂に聞くエルフの魔術も大したことないな! まったく他愛もない! その程度で終わりか?」


 勝ち誇ったような疾風侍……と言うか、今度は後ろから風ぇええええっ!

 

 一人でめくれ上がるスカートと格闘してると、何か全員に注目されてた……。


 これって、あれか? サービス要員とかそんななのかっ!


 ダニオの「ウヒョーっ!」とか言う声となんかハァハァ荒い息が念話越しに聞こえる。

 ダニオ、キモい……やっぱりキモい。


 ちなみに、侍ズは「実にけしからん」とかなんとか、ほざいてる……勝手に言ってろ!

 

「……ひとつじゃ無理……けど、もうひとつなら? ダブル・ストリーム!」


 ルスカの手の平から出現した小さなもう一つの竜巻。

 

 それは見る間に巨大化し、先に放った竜巻に合わさると一気に巨大化する!

 疾風侍の風がかき消され、ルスカのウィンドストリームに飲み込まれていく!

 

「馬鹿なっ! 我が疾風が飲み込まれるだとっ! 馬鹿なぁあああっ!」


 叫びと共に疾風侍の身体が宙を舞う!


 たっぷりとウィンドストリームにもみくちゃにされ、激しく回転しながら、疾風侍は頭から地面へと突き刺さる。

 派手に回転がかかっていたらしく、頭を軸にポキポキとかメリメリとか嫌な音を立てながら、回り続けて……回転が止まるとボロ布のようになって、パタリと倒れる。

 

 首やら腕が捻れまくって変な形になってる時点で、もう駄目っぽかったけど、ルスカのダメ押しの風の刃がその身体を縦に真っ二つにする!

 

「……これで……終わり? ……他愛ない」


 相手の勝ちセリフを食ったような抑揚のないルスカの言葉と共に、緑侍こと疾風の疾風の身体が消えていく……。

 終わってみれば、ルスカの圧勝だった。

 

「……おのれ、何という事だ……我ら四天王のうち二人までが倒されるとは! 地雷震……次は貴様が行け!」


「心得た! 風使いが相手となると少々厄介だが、アレほどの大技……消耗していないはずがない! 参るぞ!」


 今度は黄色侍がずいと前に出る……こいつ、ひときわデッカイ上にやたら鎧が刺々しい。

 あたりの風景も今度は、岩山の斜面みたいな所に変わり、相手が上、こっちは下の位置関係になってる。

 

 あ、これは相当不利だ……。

 

「これはもう空間操作と言うより、亜空間創造能力ですね……ルスカ、どうですか? もう一戦やりますか? なんなら、ここはボクに譲ってもらえませんか?」


 そう言って、それまで観戦と解説役に徹していたルーシュが前に出る。


「ルーシュ……なんか攻略法でも見えたの?」


「そりゃもう……相手の攻撃も見当つきましたしね……上手くやれば秒殺ですね」


 自信満々のルーシュ。

 ルーシュがこう言うなら、本当に秒殺出来そうだった。


「そうね……ルスカもここで手の内を全部晒す必要ないだろうし……最後は私が決めるから、ここはルーシュに任せるわ。ルスカっ!」


 私が呼びかけるとルスカがコクリと頷くと、下がってくる。

 

「ふむ……そこのエルフは我が方の地雷震と一戦も交えず降伏するつもりなのか?」


「そそ、ルスカは棄権する……この子、そんなにタフじゃないからね。そこのデッカイのの相手はルーシュがするから、そう言う事でお願いするわ」


「ふん……まぁ、良いだろう……。こちらとしても風使いなんぞ相手するのはホネだ……だが、そんな小さくひ弱な魔術師風情が我の相手になると思えんがな……」


 地雷震がルーシュに小馬鹿にしたようなセリフを吐く。


「ははっ……それはボクのセリフだよ……君みたいな大きいだけの雑魚……3秒あれば十分かな?」


「抜かせ! ならば、跡形もなく轢き潰してくれるわっ!」


 地雷震とか言う黄色侍が唐突にしゃがみ込むと、その鎧が変形してたちまち棘だらけの球ッコロになる。

 坂道なので当然、ゆっくりと転がり始める……。

 

「風水戯画……驚天動地! 言っておくが、この地形……角度までが我が思うがままよ! 武士たる我を侮辱した罪は重い……せいぜい後悔するがいいっ!」


 凄まじい速度でゴロゴロと坂道を転がってくる棘ボール!

 なるほど……あの棘……高速回転することで、飛び道具対策のバリアー代わりにもなるのか。

 

 進路上にいた私たちも慌てて、回避する。

 一方……ルスカはギリギリまで引きつけて、軽く飛び上がると飛び越えざまに棘ボールに人差し指を向ける……。

 

水撃ウォーターショットッ!」


 一瞬、棘ボールの表面で水しぶきが上がるも……その勢いは全く止まらない。

 

 そして、棘ボールが行き過ぎると、浮遊感とともにさっきまで坂の下だった私達の方が坂の上になってる!

 当然のように重力に引かれ、逆方向へ棘ボールが転がりだす!

 

 ……傾斜角が自在に変化するフィールドとか厄介だな! コレ!

 

「どうしたどうした! もう三秒は過ぎたぞ! それにしてもなんだ? 今の水鉄砲は……たかが水で我が甲冑を撃ち抜くとは大したものだが……そんな針の穴程度では、我には効かぬぞ? それで勝てると思っていたなら甘い! 甘すぎるぞ! この小童がっ!」


「……と言うか、もう終わってるんだよね……氷圧壊フリーズブロークンッ!」


 ルーシュが指をパチンと鳴らすと、唐突に棘ボールがバゴンと音を立てて、半分に割れた。

 

 何が起きたのかすらわからない……本当に、それだけで終わりだった。

 

「打ち込んだのは、君の言うとおり岩をも穿つ超高圧のただの水鉄砲さ。けど、密閉された空間に僅かな量の水を封入して、一気に氷結させるとどうなるか? 水は圧力が加わってもその体積にほとんど変化がない……更に固体化すると膨張する性質を持つ……結果、その際に発生する圧力は想像を絶する程のものとなる……例えば、強固な岩を中から打ち砕く程度にはね……ってもう聞いてないか」


 ルーシュが片目にかかった髪をかき上げながら、自ら今起こった現象を解説する。

 その変なアクション……出処は多分、魔王様……カッコイイ勝ちポーズとかそんなところだろう。

 凄いなルーシュ……ホントに一撃で倒しちゃったよ……。

 

「さて……もうアンタだけよ……せっかくだから、大将戦と洒落込もうよ!」


 この赤くて偉そうなのは、何ていうんだろう?

 やっぱり烈火の炎とか、頭痛が痛い的な感じの名前なんだろうか?


「思った以上に手強い守護者達だな……正直、侮っていた! さぁ、聞くが良い! 我こそは迷宮守護者死解武者筆頭フェンネル・ド・ヴォルザーグ! 我が真の姿を以って、貴様らを葬ろうッ!」


 ……まさかの横文字ネームだった。

べ、別に「烈火の炎」をディスってる訳じゃないよ?(笑)

あれって90年代作品だったのだなぁ……古いぜ。


ちなみに、ルーシュが言ってるのはアレです。

冬場に水道管が凍って破裂するのと同じ理屈です。

最近は断熱材とかの進歩で聞かなくなったけど、昔は水道管の凍結で断水とか良くありました。


ちなみに、こいつら実はゴーレムの一種なんで多少の損傷は再生するんだけど、派手に壊れると普通に死にます。

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