第十話「氷結ダンジョン、壊滅!」①
「喰らえっ! 重爆旋風脚ッ!」
思いつきの技名を叫んで、決めの3連続キック!
魔王様直伝の爆発魔法を足に纏った蹴りッ!
すべてガードされるも、当たった箇所に炎で描かれた魔法陣が現れる。
その炎は一瞬で膨れ上がると、ドカン、ドカン、ドカンと連続で爆発ッ! 狼男が仰け反りながら吹っ飛ぶ!
「くそっ! てめぇっ! なんだそれはっ! 俺の氷の加護は触れるものを凍らせるはずなのに……! それが通じねぇどころか、逆に加護を打ち砕くとかどうなってやがるんだ!!」
「ふふん……私も炎の加護持ちなのよっ! なんか相殺しちゃったみたいね……ところでさっきも言ったけどあんた臭いっ! ……ケダモノ臭くて、イヤンなっちゃう! 毛皮ってよく燃えるらしいじゃない……念入りに炙って消臭してあげるわ!」
私の煽りで、激高した狼男が起き上がって掴みかかってくる! けれど、私はそのまま腕を取って、くるりと背中を向けるように逆関節を決める……脇固めって奴だ。
そのまま肘を折ろうとしたんだけど、さすがに体格が違いすぎて、折れない……頑丈なやつだ!
けれど、関節技とかどんなに鍛えていても、痛いものは痛いはず……狼男が苦悶の表情を浮かべながら、膝をつく。
動きが止まったのをエストが見逃すはずもなく、チャンスとばかりにシールドを捨て大剣を振りかぶる……狼男はとっさに逃れようとするものの、腕が私にロックされているので、身動きが出来ない……。
「エスト! 今のうちに首でも叩き落としちゃいな!」
エストが心得たとばかりに頷き、剣に魔力を込める……すると、大剣は淡い光のオーラに包まれる。
「んじゃ、必殺……星光剣一文字斬り! ここはやっぱ大技決めないとねー!」
エスト……何やら、必殺技でも使うらしい! 一方、狼男もなんか気合みたいなのを入れる!
「フンッ! 気闘法! 我は纏う鋼の衣ッ! 我が肉体は無敵の鎧なりっ!」
なんか毛皮の硬度が一気に上がって、鉄の棒でも抱えてるような感じになる……防御強化とかやるじゃん!
おまけにパワーアップしたらしく、強引に立ち上がると、私の体も軽々と持ち上げられてしまう……。
狼男はエストの方を見ようともせずに背を向けると、左腕にぶら下がっている私を振り払おうと右手を握り込む。
けれども、エストの斬撃の方が早く、狼男の肩に振り下ろされ……あっさりと腕が切り落とされた……。
「ロゼっちナイス囮っ! アンタ馬鹿なの? ……必殺技溜めてる敵に、背中向けるとか……そりゃ切るでしょ? ちょっとズレちゃって真っ二つにしそこなったけど、ご馳走様。」
頬にかかった返り血を拭いながら、エストが凶悪な笑みを浮かべる。
あ、ちょっと怒ってる……左手氷漬けにされたのと、必殺技無視されたからかな。
と言うかコイツも「気闘法!」とかカッコつけて余裕モードだったのに、全然意味なかった! ココ笑う所?
こっちは、狼男の腕を小脇に抱えっぱなしで思い切り地面に落ちてぺたりと座り込んでる感じ。
でも……あんま長く触ってたくないので、腕の方は無造作に投げ捨てる。
拾われて、くっつけられて再生とかされても困るので、小さな火種を放り込むと、あっという間に火達磨になる。
狼男はまだ現実認識が追いついていないようで、左腕からブシューって血を流し、プルプル震えながら左腕のあるべき場所を繰り返し撫でようとしては空振りしてる……。
「うがぁあああああっ! お、俺の腕がぁああああっつ! バ、バカな……鋼同然にまで強度を上げた俺の身体が何故こんな簡単に切り裂かれるのだ! だ、だが! 俺は不死身だ! この程度、物の数ではないっ!」
そう言って、狼男は悶絶しながら、左手に魔力だかなんだかを集中する……けれど、せいぜい出血が止まった程度でおしまい。
「何故だ! ……さ、再生しないだと! 貴様ら、俺に何をしたっ!」
驚愕と言った感じで、狼狽する狼男君。
「ああ、すまんがライカンスロープだと言う話だったのでな……対策くらいしとるぞ?
エスト殿の大剣は、ワシが与えたミスリル銀製の退魔剣なのじゃ……上位アンデッドですら、一撃必殺の凄いやつじゃぞ? ロゼ殿も炎の加護持ちに加え、ワシ自ら爆裂魔法を教え込んだのでな……小規模ながら一撃一撃が魔法攻撃じゃからな……なかなか効くであろう。」
「ミスリル銀だと? そんなもん……この地上には存在しねぇはずだろ……なんで、持ってやがるんだ!」
「ワシ、作り方知っとるよ? 残念じゃったなぁ。
ライカンスロープは不死身と言っても、全身灰にした程度で呆気なく滅びる……その程度のか弱い存在なのじゃ、それが何を思い上がっておったのだか。
ワシは、人類の守護者として、リッチーや吸血鬼の真祖やらとも戦って滅しておるのでな……おヌシのような手合いなんぞ、別に珍しくも何ともないわい……実はワシ、不死者殺すの得意中の得意ッ! ヌハハハハハッ! 恐れおののくが良いッ!」
魔王様がとっても悪い顔でドヤ顔を決める。
エストも半信半疑で魔王様の用意した剣を使ってたんだけど、どうも不死者完封チート装備だったらしい……。
なんか、慌てたように剣についた返り血をゴシゴシ拭いてる……。
うわぁ……魔王様が頼もしすぎてしょうがない!
一方、魔王様が何を言ってるのか理解した狼男があからさまに顔色を変える……ああ、不死の身体持ちだから、殺されることは無いとか思ってたとこで、不死者殺しのエキスパートを相手にしてるって気付いたのね……。
「実にええのう……その眼……不死者が死に怯えるその眼、何度見ても最高じゃ!
いやはや、相手が悪かったのう……いや、すまん……本当にすまんな……笑ってしまうほどに!」
いや、魔王様……まるっきり悪役なんだけど。
まぁ、いいや……一応、魔王様はお師匠様でもあるし!
はい、爆裂魔法。
むしろ頼み込んで教えてもらいました……魔術が苦手な私でも炎系とは相性良かったみたいで、連発は出来ないし、飛ばすことすら出来ないんだけど、私もこんな感じで触った所を爆発させる爆裂魔術が使えるようになったのだ!
魔術名は、「爆炎の捺印」……トラップとかにも応用できるらしい。
やっぱ、爆裂さいこーっ! おまけに私、火属性どころか、炎の加護なんて超強力な潜在ユニークスキル持ちだったらしく、守護者としてのランクを上げてもらったら、あっさり使えるようになった。
リリエンヌ……私の上位者とか言うだけであって、パワーアップまでしてくれるとか使える。
ダニオを好きにする権利を譲るって言ったら、割と喜々としてやってくれた……チョロい。
「てめぇらっ! ふざけるな! だまし討ちでダンジョンマスター殺しに来るとか、ルール違反もいいとこだ! このままで済むと思うなよ!」
「ごめんねー、アンタ達のルールとか私ら知らないし……ダンマス狙いもありなんでしょ? それに、私、ちゃんとぶっ殺すって言ってから襲いかかったじゃない! 不意打ちとか騙し討ちとか違うでしょ……とりあえず、恨みはないけど、死んどけっ!」
「貴様ぁ! 殺すぅううううっつ!」
絶叫と共に、バカの一つ覚えみたいに掴みかかってきた狼男の右腕を蹴りで跳ね上げると、今度こそ脇固めをきっちり決めて、右腕をポッキリへし折る。
右腕プラプラ状態でもはや芋虫状態でぐねぐねともがく狼男……私は、その背中に馬乗りになると、その後頭部にダガーをドガンと柄まで深々と突き立てる! 更に、バーニングフレアソードを発動っ!
頭にダガー突き立てられて、脳みそを直に焼かれて無事に済むわけがなく、狼男はビクビクと痙攣しながら、白目を向くとだらしなく口を半開きにして、力尽き、潰れたように倒れ伏す。
うわっ……耳から変な汁がブシュッと出て、煙吹いた……ちょっとエグいな。
「なんじゃ他愛ないのう……仮にも不死者なんじゃから、この程度でくたばらんで欲しいぞい?
たかが左腕をもがれて、脳みそ焼かれた程度であろう……早く再生して起き上がらんか! 急がんとトドメを刺してしまうぞ?」
魔王様が楽しそうに狼男の顔を覗き込む。
「ああ、なるほど……さては、一度死んでから完全再生して生き返るタイプかのう? そう言う事ならば、仕上げは念入りに焼き尽くすとしよう! ロゼ殿! そこから離れるのじゃ!」
魔王様に言われて、慌てて飛び退く!
完全に死んだと思ってた、狼男の身体から黒い泡のようなものがいくつも現れると切り落とした左腕が再生していく。
頭の方も黒い泡が大量にまとわりついていく。
なるほど、このままほっとくとすぐに生き返るって訳ね……なら、ここはお任せ魔王様っ!
「悪いがそうはさせんよ……邪悪なる不滅の獣を屠る炎……冥府の獄炎よ……我が手に来たれ! 理に逆らいし獣を滅し、永久の闇へと誘えッ! 滅火獄炎葬!!」
魔王様の手から放たれた手の形をした青い炎が狼男に覆いかぶさるッ!
「壊ッ! 葬ッ! 滅ッ! 浄ッ! その魂さえも燃えつきろッ! 破ァッ!」
魔王様が複雑な印を切りながら、裂帛の気合と共に拳を握りしめると、一際炎が大きく燃え上がり、次の瞬間青い炎は消え去る……その後には、チリひとつ残っていない。
唯一、私のダガーだけが何事も無かったかのように燃え残り、氷の床に突き刺さっていた。
一応、結構強いはずの狼男……フルボッコ。
本来、迷宮の加護で死に戻りするはずなんですが、それすらも無効化。
魔王様の大魔術、何気にダンジョン狩りの為の魔術だったりします。
……恐ろしいコ。
ちなみに、魔王様は寺生まれじゃないです。




