第五話「大惨事スーパージャングル大戦!」②
そして、翌朝。
私達は、出立の準備を終えて、朝ご飯を食べながら全員揃うのを待つ。
リアンは私と一緒に寝てたので、共々一番乗り。
エストはどうせ、装備の装着に時間がかかるから、毎度ビッケ。
ルーシュとサクラは軽装だから早いと思ったんだけど……来ねぇし。
私なんて、朝ご飯食べ終わっちゃったし……。
「……ロゼさん、わたしが呼びに行ってきますね……。」
「あ、待って……私も一緒にいくわ。」
リアンがそう言うので、私も同行する。
そう言えば、サクラとルーシュは何故か昨日は別の部屋を取ってたんだっけ……。
そう思いながら、扉を開けると……中では、恐ろしく怪しげな光景が広がっていた。
……締め切った上に黒い布で覆い隠された窓。
床には魔法陣、怪しげなドクロが飾られ、蝋燭が林立する祭壇。
祭壇に向かって一心不乱に祈るサクラと、魔法陣の中心でブツブツと呪文を唱え続けるルーシュ。
……私は、そっと扉を閉めた。
ちょっと理解が追いつかなかった……今の何?
怪しげな儀式とか宿屋の一室でやっちゃダメだろ。
ど、どこから突っ込めばいいんだろ。
……なんか、変な汗がいっぱい出てくる。
「ロゼさん……どうしたんですか? 中で二人が何かやってました?」
不思議そうにリアンが尋ねてくる。
……結論、面倒くさそうだから、見なかったことにする。
「なんでもないわっ! ほっときゃ来るから、下で朝ご飯食べて待ってようっ!」
「わたし達もう食べ終わったじゃないですか……。」
「じゃあ、食後のお茶! コーヒーだっていいわっ! あ、なんならお散歩行かない!」
ちょっと考え込む素振りのあとで、リアンはニッコリと笑うと、私の腕を取る。
「お散歩……良いですね……行きましょう!」
ご機嫌そうなリアン……この娘、なんだか知らないけど、日に日に距離が近くなってきてるような。
でも、いっか……可愛いし! たまに首筋とかチロリと舐めてきたりするのも多分、動物なんかと同じ友好の証なんだろうね。
人前でやんなきゃ問題ないし……昨夜は不意打ちで食らって、なんか変な声が出たけど……まぁ、問題ない。
うん、まぁ……サクラ達も何かの準備なんだろう!
昨日は遅くまで色々迷宮でのお作法について、説明したから思うところがあったんだろう。
人間、スルースキルって大事よねっ!
……そんな訳で、皆揃って準備もできたので、ダンジョンへ出発!
まずは第11層……やっぱり、いきなりのジャングル。
転移門付近は、少し開けた広場になっていて、一見正面に獣道が続いているようにみえるのだけど。
その辺に転がってた石を拾って、渾身の投擲!
獣道の第一歩目に放り込むと、いきなり爆発して鉄板が宙を舞う。
更に奥の方へ向かって、石を放り込むと同じように爆発。
結論、この獣道は地雷原。
「……なにこれ、いきなり殺す気満々。」
「この調子だと、あの道に見えるとこ全部延々地雷原かもだよぉ……。」
「そうね……今までのパターンからすると、それって普通にありうる。
でもさー……向こうがそう言う事なら、こっちも開き直らない?
道がなければ作ればいいよね!」
私ってば、頭いい!
ステータスに……アホの子とか書かれてるけど、そんな残念評価なんて、覆しちゃえばいいのだ!
「バーニングフレアソードッ!」
私がそう叫ぶと呼応するように、両手に持ったダガーが炎に包まれる!
武器に炎属性を追加した上で、攻撃力を上昇させる新魔術スキルだっ!
明かりにもなるし、お料理にだって使える便利スキル!
……私ってば、髪とかの色からしてなんとなくそうじゃないかと思ってたけど、炎属性だったのだ!
なんか、炎攻撃とかの耐性スキルとったら、色々炎系の派生スキルが出てきたのだ!
その代わり、水属性攻撃に弱いっていう弱点が出来たけど……。
水とかピューってかけられて、ダメージ? どんな虚弱体質なんだそれっ!
敢えて、言います……水属性なんて、カスですよ! カス!
「ふはははっ! 燃えろ! 何もかも燃えてしまえばいいっ! 道がないなら作ればいいのよ!」
なんか火を見てたら、無性にテンション上がってきて、私はそんな風に笑いながら、ジャングルの草木を切り刻み、焼きながら我が道を進む!
「絶好調! やばっ! たーのしーっ! ヒャッハーッ! 汚物は消毒だぁっ!」
燃え盛る炎……なんか蛇とか兎っぽいのが火達磨になって逃げ惑う……。
燃えるダガーで斬りつけた大きな木が一本丸々火達磨になって、ファイヤーツリー状態になって、メキメキと倒れる!
うわぁ……なんか、ゾクゾクっと快感っ! この調子でドンドン燃やしてやるっ!
……そんな風に調子に乗ってたら、なんかバスタブでもひっくり返したような滝のような水をひっ被った。
「…………。」
思わず、火の消えたダカーを掲げたまま無言になる私。
辺り一帯火の海になりかけてたのに、一瞬で消火……なにこれ?
「えっと、ロゼたん……今のはだね……迷宮内の緊急消火装置が起動したっぽい。
ほら……ジャングルで火の海とかヤバいでしょ? 皆の安全のためって奴?
それと今、燃やしながらハイテンションになってたロゼたん……目付きとか色々ヤバかったお!
他の子めっちゃドン引きしてるし……ね? あ、今のでおパンツぐっちょりで気持ち悪いよね?
見て見て……俺氏頑張って、権限取り返して新たな支援が出来るようになったんだお……アイテム転送!
ロゼたん! 新しいパンツだよっ!」
ダニオの声と共に、頭の上からヒラヒラとピンクの縞々パンツが落ちてきてパサッと濡れた髪の上に乗っかる。
私は無言でゆっくりと振り返るとまっすぐリアンの元へと向かうと、その手に持ったハンマーに手をかける。
「リアン、ちょっとこれ貸して……あのバカの頭かち割ってくるから!」
「だ、駄目ですぅっ! ロゼさん、早まらないでくださーいっ!」
リアンがハンマーにしがみついたまま、ズルズルと私に引きずられる。
「止めないでっ! 今日という今日はあの変態をぶっころーっす!」
「駄目ですって! エストさーん! たすけてーっ!」
……それから。
エストに怒られまくって、ちょっと反省した私。
とりあえず、転移門付近は安全地帯でもあるので、拠点キャンプを設営。
ルーシュとエストが周辺偵察するって事になって、私とリアンとサクラはお留守番。
私は……服がびしょ濡れなので、焚き火で乾かしてる。
戦闘もなさそうだし、皆女の子だしーって事で、私は下着姿で毛布被ってる……下着までぐっしょり濡れて気持ち悪かったのは確かだったので、止むを得ずダニオが送ってきた縞々パンツを履いてる。
ムカつくことにサイズはぴったり。
なお、ダニオアイはてるてる坊主状態で放置中……この私に抜かりはない。
でも、やっぱりムカつくので私はふくれっ面でプリプリしてる。
文字通り不完全燃焼だしっ! 何が消火装置だ……私に対する嫌がらせだ!
ダニオは何か察したらしくさっきから、沈黙中……震えて待ってろ!
「ロゼさん、そろそろ機嫌直してくださいよぉ。」
「そうじゃぞ……まぁ、火を見て我を失ったとこへ流れるようにドバシャーっとコントみたいで面白かったんじゃが……。
お主も割と考えなしなんじゃのう……ワシの事をとやかく言えんのう……ほれ、何とか言ってみ?」
リアンとサクラが私を囲んで好きなように言ってくれる。
リアンはともかく、サクラはムカついたので、ヘッドロックの上で頭をグリグリやってやる。
「いたたっ! ロゼ殿! 八つ当たりよくないっ! やめるのじゃーっ!
なんか、髪の毛ブチブチ言っとるんじゃけどーっ! ちょっとタンマ! ハゲるから、やめてくれんか? のーっ!」
そんな風にサクラとじゃれていると、広場の横の茂みがガサガサ言って、ひょっこりと見知らぬ誰かが顔を出す。
しばし、見つめ合う……。
耳が長くて、端正な顔立ち……エルフ? しかも、やだ……イケメン。
彼は、上から下まで私の事を見つめると、困ったように苦笑い。
その目線は、顔、胸、足と来て、腰、最後にもう一度顔。
目と目が合う……その瞬間にっ!
「……ど、どうも。」
爽やかな笑みと共にシュタッと手を上げられて、こっちも思わず同じように返してから、私は今更ながらに自分の今の姿を思い出す。
「っきゃああああああっ!」
自分のものとはとても思えない叫びをあげるのと、エルフのお兄さんが後ろから現れた三つ編みオデコのエルフ姉さんにシバかれるのがほぼ同時だった。
ロゼたん、火属性……なんか納得ですよねー?
パワー系放火魔。
いや、これでも主人公ですよ?
いやはや、萌えませんなぁ。
でも……何気にパンチラクイーン……。(笑)




