第四話「その名は、魔王さくらたん」③
「……な、なるほど、事情は解った……原因がアホすぎて、目も当てられないとはこの事じゃがな。
要するに、今のウラガン大迷宮は……制御を失って、暴走しとるようなもんなんじゃな?」
……復活した魔王様が頭を抱えている。
ああ、なんか仲間が増えた気がして、ちょっとだけ嬉しいよ。
「そうね……ダニオが言うには、勝手に迷宮がドンドン強化されてるって話。
実際、序盤の10階層を攻略するのすらも皆、大苦戦……私らもエストの助けを借りてやっと10層目をクリアしたとこ。
最強の冒険者ギルド「グランドマスターズ」ってのが、ついこないだ20層到達したらしいんだけど……。
3PT、18人がかりで守護者ボリノークマッサー相手に返り討ちになったって話だし……。
60層到達なんて、いつのことになるのやら……。」
「そうね……私もあの迷宮は一人じゃとても無理……。
うちの近衛の精鋭も戦力外だったし……けど、あの迷宮攻略……一番いい線行ったのって、魔王様なんですよね?」
「そうじゃ……じゃが、全盛期のワシの総力を以ってしてもあれが限界じゃった……。
ロゼ殿、ワシの50層踏破の記録って、迷宮側から見てどんなもんじゃったんじゃ?」
「そうね……ダニオが言うには、50層はクリア扱いになってたから、もうちょっと頑張れば、60層クリア出来てんたじゃないかって……。
ちなみに、50層から先はひたすら螺旋階段を降りてくだけで、60層はあのバカの司令室と財宝部屋しかないんだって。
要するに、50層の守護者戦が事実上の最終決戦だったんだって……。」
「うそぉおおおおんッ! そ、それじゃあ、何か? ワシ……50層でドラゴンと相討ちになって、ポッキリ心折れたんじゃけど……あの時点でほぼクリア出来とったのか? もうワンコインリトライでコングラチュレーションプリーズ?」
魔王様、何言ってるのか解らない……何と言うか、この人面白すぎ。
「そ、そう言う事になるんじゃないのかな……なんか、勿体なかったね。」
……そして、やっぱりさっきのポーズになる魔王様。
これってもうこの人の芸風なのかもしんない。
でも、その妙に裾が短いスカートでそのポーズ……後ろからパンツ丸見えだから、あんまやらない方が良いと思う。
と言うか、さっきからダニオが興奮しててうるさい……「のじゃロリパンツゥウウウ!」じゃねぇよ……アホ。
「……その後の魔王ルシファルファの運命って悲惨だったからね。
ほうほうの体で逃げ帰ったのはいいけど……魔王国の占領地域での反乱祭り、そして、魔王四天王の一斉造反。
元々魔王様のワンマン経営で持ってたようなもんで、その魔王様が迷宮攻略に躍起になってたから、色んな所がいい加減になってたんだよね。
魔王亡きあとは、もう各国群雄割拠、100年に渡る大戦乱……何と言うか魔王様も罪作りな人だよねぇ……。」
「……青騎士殿、そう言わんでくれ……あれはワシも反省する所しきりなのじゃ。
あの頃のワシは……自らの力に驕っていたのじゃよ……じゃが、迷宮での敗北はワシの驕りを打ち砕くには十分じゃった。
じゃからこそ……わしは、同じ失敗は繰り返したりはせん……。
なぁに、ワシが魔王の座に返り咲いた以上、他の自称魔王共が恭順するのも時間の問題じゃ。
この世界の問題もドンドン解決していって、すごく住みやすい世の中にするのじゃ。
なにせほら……ワシって政治力、武力、統率力……どれをとっても最強……まさに名君の器じゃからのう。」
「ううっ……一応、間違ってないだけに腹立つわ。
実際、魔王国統治時代って、戦乱もなくってめちゃめちゃ平和だったらしいし……。
魔王様が発案した議会民主制の政治形態とか、官僚機構による統治システムとか……農業革命なんかも魔王様の業績なのよね。
なんだかんだで、魔王国って各国の統治のお手本になってるくらいだし……。」
エストが何だか悔しそうに呟く。
魔王梅桃さくら……地味にすげー。
「なんじゃ、やっぱワシってば、偉大すぎる存在じゃったんじゃな。
つまり……ワシの復活はまさに世界の僥倖じゃ! 見ているがいい……ワシは世界の希望となる!
魔王ルシファルファの今後の活躍にご期待下さいっ! なのじゃーっ!」
「……そうやって、調子に乗ってると、またいつぞやの二の舞いになるんじゃないのぉ?」
「ぐっ……何と言うか……青騎士殿はいちいち手厳しいのう……。
じゃが、そうやって敢えて苦言を呈する家臣こそ、ワシにとっては必要な存在なのじゃ……。
青騎士殿……どうじゃ? いっそワシに仕えてみんか。」
「それは遠慮しとくわぁ……一応、本来ならば敵同士なんだし。
でも……世界の危機って事なら、話は別……少なくとも私と魔王様は休戦って事で構わないかなぁ。」
「そうじゃな……いずれにせよ迷宮の件は早急になんとかせねばならんな。
……このままでは世界中のマナがあのダンジョンに食い尽くされてしまう……。
そうなると、この大陸も草木も生えん不毛の大地が広がるばかりになる……そうなったら、すべてが終わりじゃ。
よし、決めたぞ……ワシもお主らに力を貸す! いや、いっそワシもお主らの仲間に加えるのじゃ……!
どうじゃ? お主らだけにいいカッコはさせん……それにワシ、今は弱くともそのうち最強になるぞい?」
……なんか、魔王様とんでもないこと言い出した!
「……ええ? 魔王国の統治とかどうすんのよ?」
「魔王国の運営自体は、ラピュカの皇族に丸投げじゃ。
聖国との戦争もあやつらの大義名分が知れた以上、なんとでもなるわい。
それにラピュカの皇族共もなかなか有能な上に、権威については聖国の法王猊下に匹敵するからのう……。
伝説の英雄……癒やしの聖女の末裔と言うネームバリューは、なかなかのものなんじゃよ……。
故に、任せて安心とワシは判断しておる。
軍勢は、ギャプロンに任せる……あやつもなんだかんだ言って、ワシの為に魔王国をとりまとめてくれていたのでの……留守居役には打ってつけじゃ。」
「なるほどね……まぁ、魔王様……魔法関係なら十分使えそうだし、ダンジョン攻略経験者ってのは心強い。
でも、リアンとルーシュはどうする? 魔王様はこう言ってるから、もうご家族の事は心配なさそうだよ。
だから、別に無理して私らに付き合う必要もない。
まぁ……ダニオはあんたら二人にご執心みたいだけど……私としては、教育上よろしくないのでお勧めしないよ?
危ないことは私らみたいな戦争屋に任せて、元のお姫様暮らしに戻っていいんじゃいかな。」
……なんでぇえええ! とか念話で絶叫されてるけど、無視。
「……いえ、もとを辿れば、わたし達が原因なんですよね?
なら、最後までやり遂げたいです……。」
「そうだね……ボク達もロゼさんとは、もう家族同然の仲間のつもりだし。
あの時、ロゼさんに出会えなかったら、今頃死に戻りループで心が折れてたね。
……何より、世界の危機って事なら皇族たるボク達も戦わないといけない……そう思うんだ。」
……なんて、いい娘達なんだろう。
本音を言うと、私もすっかりこの娘達のお世話役ってのに馴染んでしまった。
ここでお別れになるかもって考えたら、泣きそうになったから、実は我慢してた。
我慢してたから、なんか思わず涙腺が緩んで、涙がポロポロこぼれてしまう。
こ、これは嬉し泣きって奴なんだからねっ!
ダニオッ! 鬼の目にも涙とか上手い事言ってんじゃないっ!
魔王様……実はもういっかいコンティニューでクリアできてた。
そこで、もう一回……ってなってれば、きっと歴史が変わったんだろうなぁ……みたいな。
ちなみに、魔王様の迷宮攻略の動機は……。
「そこに迷宮があったら攻略するしか無いじゃろ!」
そんな魔王様は、異世界転生者なのでゲーム脳です。




