第三話「とりあえず、お話しようか、魔王様?」③
「とりあえず、そっちの要望はリアン達を魔王様の所に連行したいって事でいいの?」
「そ、そうだ……たが、勘違いするな……。
虜囚扱いとして連行するのではなく、皇族としての待遇の上で護衛も付ける……道中の安全も保証する。
こちらも色々事情が変わったのでな……魔王様も一度、殿下達の顔を見たいとのご要望なのだ。
故にこれはどちらかと言うと、招待だと思って欲しい。」
「なによ……結局、そっちの都合なんじゃない……あの娘達からあんたらの外道っぷりは聞いてるよ。
正直、魔王様とは一度話つけたいと思ってたからさ、いい機会よね……なら、ここは付き人の同行を求めるわ。
それに使い魔を始末したのは私だからね……立派に当事者だと思うけど?
断るなら、交渉決裂って事でもっと権限あって腕っ節の強い奴連れて、出直しといでよ……。
って言うか、そっちの都合で呼び立てるとか、そもそも何様って話よね。」
「待て待て……せめて話を最後まで聞いてくれ……そ、そうだな……付き人と言う事なら、たぶん問題ない。
同行者は、お前一人という事でいいな?」
「えー、私も連れてってよぉ……。」
さっきまで後ろ手に隠し持ってた剣をこれ見よがしに見せつけながら、隣にエストが座り込む。
「……き、貴様……その剣の紋章……まさか青騎士か!」
「ご名答ぉ……でも、今の私はフリーの傭兵でロゼっちに雇われてるのだぁ。
だから、同じくリアンちゃん達の家臣って事でお・ね・が・い。」
むき身の剣をチラつかせながらのお願いねぇ……。
エストちゃんも解ってるねー。
「わ、解った……鬼神族の娘と勇者の末裔青騎士の二人を相手にして、無事に済むと思うほど愚かではない。
君達二人の同行を認める……だが、魔王様との謁見が叶うかどうかまでは保証しないぞ。
特に青騎士……貴様は我ら魔王軍に多大なる犠牲を強いた怨敵だという事を忘れるな!
貴様一人に一体何人の同胞が犠牲になったと思っているのだ!」
「ええー? 戦場で切った張ったなんて、日常茶飯事ですよねぇ? 10人から先は覚えてねーぜぇ! なんてね。」
エストの芝居がかったセリフで魔王軍の連中は青くなったり赤くなったりと様々だった。
エストって有名人だったんだね……色んな意味で。
「それに、魔王軍もこないだうちとの会戦で大敗して、水面下で和平の準備してるんでしょ?
それくらいお見通しよぉ……でも、侵略戦争なんてやらかしといて、ちょっと雲行き怪しくなったら一休みさせてとか、ちょっと調子良すぎだよねぇ……。
いっそ、ロゼっちと二人で殴り込もうかな? たのもー魔王城って。」
「あ、それいいね……私とエストちゃんが組めば、いい線いけそうだ。」
「……だ、だから、そう言うの止めてください……。
我々も出来るだけ平和に、穏便に行きたいのです……ホント、お願いします。
そ、そもそも、私はただのメッセンジャーなのだ……国に帰れば妻も子供いる……頼む、解ってくれ!」
いよいよテーブルに頭を擦り付けて、懇願する隊長さん。
……そろそろ、可哀想になってきた。
と言うか、もしかして……魔王軍って、噂ほど強くないんじゃ……。
今の魔王ギャプロンってのも、棚ぼた式で魔王になった感じだし。
まぁ、同行していいって言質は取ったし、こんなもんかな。
「おっけ、じゃあ、そう言う事で……こっちも支度とかあるから、町外れで待っててよ。
当然、馬車くらい用意してるわよね? 歩いてけとか言うなら、もう面倒くさいからパス。」
「ば、馬車? あ、ああ……と、当然だろう……それくらい用意させて……頂きます。
ね、念のために言っておくが、逃げたりしたら、どうなるか解っているだろうな?
こちらには人質がいることを……はひっ!」
テーブルの上に上がってダガーを引き抜き、隊長格の首元に押し当てて、息がかかるほどの距離に顔を近づける。
「あのさぁ……別に逃げたりはしない……魔王様に用があるのは、むしろこっちなんだからね。
女の子はなにかと準備が大変なのよ……だから、短気は起こさず、気長にゆっくりお待ちお願いするわ。」
それだけ言って、最後は笑顔。
やっぱ、話し合いってのは平和裏にしないとね。
「わ……解った……いくらでも待つから、ゆっくり支度してくれ……お、お前達、行くぞ!」
魔王軍の三人は席を立つと、逃げるように外へと出ていった。
忘れ物だぞ……なんて言って、ボルカーノさんが金貨の袋を雑魚っぽいやつの背中に投げつける。
モノの見事に後頭部に直撃……ゲッハァとか言ってぶっ倒れて、血走った眼でこっちを睨み返すのだけど、私と目が合うとそそくさと目を逸らして、走り去っていく。
……まったく、口ばっかりのしょうもない奴らだった。
まぁ、ゆっくりと支度して精々待たせるとしよう……とその前に、ダニオに一言相談しないとね。
「ダニオ……話聞いてたと思うけど、ちょっと魔王様とお話ししてくるわ。
そういや、私って迷宮から離れても大丈夫なの?」
「……改めて、お前怖いって思った! 平和裏に解決してほんと良かった!
うん、所謂「OHANASHI」って奴だね……俺、魔王とかやってなくてよかった……。
……本来、迷宮守護者はせいぜい1kmくらいまでしか離れられないんだ……。
でも、ロゼたんの場合は、守護者でもなく、迷宮からも独立した存在になってるから、距離の制約はないと思うな。
てか、こないだ普通に遠出してたじゃん。」
……そう言えば、こないだ素材集めてたら、道に迷っていつの間にかえっらい遠出しちゃってたんだよね。
結局、あの時も全然問題なかったっけ。
「ただ……ロゼたん、迷宮から加護と魔力供給受けてる事に変わりはないから、ある程度離れると一般人と変わんなくなるし、それどころか、存在自体が消滅しちゃうかもしれんのよ。」
「なにそれ? なんとかなんないの?」
「くっくっく……俺の飛天の眼を肌身離さず付けとけば、問題解決だ。
飛天の目を経由して、俺と迷宮との繋がりを維持すれば、なんら問題ないはずだ。
おまけに、迷宮の加護があるから、お前だけは外で死んでも死に戻りするし、転移で街や迷宮に戻ることだって出来る。
こんな日が来ることを予見して、密かに仕込んでいたんだよ……ねぇ、俺ってすげくね?」
「へぇ……そう言う事なら、問題ないけど……肌身離さずって、どういう意味?」
「そりゃあ……もちろん、24時間付けっぱにする感じ? ……肩にでも乗せとくと良いんじゃないかな?
トイレやお風呂、お着替えだろうが、とにかく絶対外しちゃ駄目!
いやぁ、俺にその気がなくても、色々見えちゃうのは仕方ないね……うん、こりゃ、どうしょうもないなぁ……。」
……さ、最低だ……やっぱり、ダニオはダニオだった。
少しだけ、凄いって尊敬しかけてたけど、やっぱ無理だ。
「……う……さ、さすがにそれ……凄く嫌なんだけど……。
でも私……出先からでもダニオのとこにいつでも転移できるんだよね?」
「まぁね……帰りは出先に飛天の目を置いていって、それを目印に逆転移すれば行けるはずだし。」
……なら、万事解決。
お風呂の時とかは、ダニオのとこにいって目隠しでもして、ふんじばってしまえば済む。
……ダニオの思い通りになんてさせてたまるか……。
「そう言う事なら、それで構わないわよー。」
「な、なんか……ロゼたんが怒らないのが逆に不気味なんですけどっ!
ねぇ……ロゼたん、さっきの鬼の笑顔してない? もしもーしっ!」
「……聞こえてるわよ……でも、私の使命はリアン達を幸せにする事だからね。
多少の労苦は厭わないわ……。」
「なんか、ロゼたん目的変わってね? でもまぁ、それは俺も同じだお。
リアンたんとルーシュたんには幸せになる権利があると思うのだよ。
そんな訳で、きっちり守ってやれよ?」
「ダニオとそこだけは共通ってのが嫌になるけど、もとよりそのつもり。
それと定期的に様子見に行ってるけど、ちゃんとご飯とか食べてたり、着替えとかしてる?
あんた、ほっとくとドンドン適当になるし……。」
こいつって、本来食事も睡眠も必要なしで、半ば司令室と一体化してるような感じだったんだけど。
迷宮から解放されてから、普通の人間みたいになってるんだよね……たぶん、なにもしないと勝手に死ぬ。
死なれても困るから、私が色々面倒見てやらないといけないんだよね。
食料なんかは、迷宮から配給受けれるようになってるらしく全然困ってないみたいなんだけど。
着替えとか洗濯、それに洗い物なんかも全然しないから、定期的に私がやってやってる。
なんか、なにげーに通い妻みたいな生活だったりするんだよね……私って、ホント面倒見よすぎだよね……。
「うほ! ロゼたん、俺氏の事心配とかしてくれてるの? やったねロゼたんのデレフラグ、キタコレ!
んじゃ、ロゼたん帰ってくるの、俺氏正座待機して待ってるお!」
前言撤回、やっぱ死ねっ!
まぁ、どうせ覗き対策で何度も行くことになるから、心配はいらないか。
「ロゼたん式交渉術」
まず相手を殴り、屈服させます。
次にお話します。
言う事聞かないなら、もう一発殴ってから、お話します。(笑)
今回は威嚇に止めて、手出ししてない分、ちょっとやさしい。
そして、やっぱりダニオ、発想が最低である。(笑)
でも、健気に通い妻をやってるロゼたん、なんだかんだ言っていい娘。




