第7話 2度目の悲劇
今回は二話連続で投稿したいと思います。
一週間に一回のペースで投稿できるよう頑張りたいです。
「…っ!母さん!!」
俺達は今、市内の病院にいる。
父さんと母さんが事故にあった、その知らせを受けた俺達は警察の人に連れられてここまで来た…。
少し前はとても元気な姿を見せていた母さんの面影は今はどこにもない。
右手、両足は無く
左手も包帯を巻いてもなお滲み続ける血を見ると、もう助かりそうには無いだろう。
「おかあさん…おかあさん…なんで…」
ラシャのその姿にショックを受けてしまっていた。
「…お母さん……」
エルムもそれ以上言葉が出ない様子だ。
レイは黙って母さんを見つめているだけだった。
「先生、母さんは…」
俺は縋るように医者に聞いたが
「…」
医者は黙って首を横に振るだけだった。
「…クソッ!!!」
俺は壁を思い切り叩いた、その時。
「………ゾール…」
お母さんが目を覚ましたのだ。
「!!母さん!」
「お母さん!」
「おかあさん!」
俺達3人は同時に声をあげた。
「ごめんね…あなた達…。最後まで面倒見きれなくて……。」
「そんな…そんなこと言うなよ!まるでそれじゃあ…!!」
「ゾール…あなたは賢いわ…ならわかるでしょう…私はもう、長くは…カハッ!」
母さんは血を吐いてしまった。
その姿はとても見ていられなかった。
「母さん! 」
「最後に…皆に…伝えたい事が…」
お母さんは力を振り絞り、俺達に話し始めた。
「エルム…あなたは魔法の才能をもっと伸ばして…私やお父さんを超える魔法研究家になるの…約束よ…」
「…わかった、約束するよ…お母さん…」
「ラシャ…とってもいい子に育って、私は嬉しいわ…その元気の良さで2人を…励ましてあげて…」
「…うん…」
「レイちゃん…うちのゾールと仲良くしてくれてありがとね…出来ればこの先…ゾールが危うくなったら…あなたが助けてあげて…お願い…」
「わかりました…」
「そして、ゾール…魔法の才能がないと聞いた時は…正直ショックを受けたわ…だけれど…あなたはそれを苦にせず努力した…自慢の息子よ…」
「そんなことない…!」
「…ゾール…あなたには…いずれ“力”が手に入る…それもそう遠くないうちに…そして、それは…あなただけの力よ…」
「何言ってんだ母さん!!!」
「ゾール…これを……」
お母さんは目線をベットの隣の机に移した、そこにあったのは…
「これは…お母さんがいつも付けてたネックレス…」
「それを私だと思って大切に持ってなさい…」
このネックレスはお母さんが幼い頃に見つけた石を使ったネックレスで、お母さんはいつもそれを身につけていた。
お母さん曰く「一生の宝物」らしい
...そんな大切なものを。
「これを…俺に?」
お母さんは黙ってこくりと頷いた
「…ゾール、生きるのよ…私の分まで、この世界を…いき、て…」
「…!!!!!」
それきり、お母さんは動かなくなってしまった。
お母さんの最後の言葉は、偶然か必然か…地球での、俺のお母さんと同じ言葉だった…。
「…母さああああああああああああん!!!!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
3日後 2745年9月17日
フリードライト邸
「…お父さん、見つからなかったってさ…」
ラシャはエルムにそう伝えた後に警察から渡された書類を渡す。
「……そう…」
エルムは軽くそれに目を通した後、大きなため息をついた。
「おにいちゃん、大丈夫かな…?」
「ゾール…相当応えてるみたい」
「…おにいちゃん……」
「…」
ゾールはあれ以来、一度も口を開かず、学校にも行かなかった。
それも無理はない、彼は楽しい思い出を作るためにこの世界に来たのに、最悪の形でまたもや両親をなくしたからだ。
父親はその場には見当たらず失踪扱いになっている、生きている可能性もあるが…警察は大方、賊にさらわれてしまったという見方をしているので捜索3日目の今日、捜査は打ち切りになってしまった。
ゾールは…いや、今の彼は地球での恐也そのもの。
生きる気力もなく、這うように生きていたあの頃に戻っていた…
ーーーーーーーーーーーーーーー
…最悪だ。
こんなこと、あるのかよ…。
捜査も3日で打ち切り…?
何のための警察だよ、見つかるまで探せよ…!
なんで俺ばっかこんな目に…
なんでだよ…!
「ゾール、入るよ」
…エルムか
「…部屋の明かりくらい付けなよ」
エルムは部屋の電気をつけた、後ろにはラシャもいた。
「すこし、私たちと話をしよう。今のゾールはとても見てられないわ…」
「…おにいちゃん…」
俺の気持ちも知らないくせに…
親を2度も失った悲しみを…!
「…ほっといてくれよ」
「…ゾール」
「ほっといてくれっていってるだろう!!?」
ガツン!
俺は思い切り壁を叩いた。
ほっといてほしい。
俺は何も考えたくないんだ…
ずっと1人で、ここに閉じこもってたいんだよ…!!
「ゾール!やめなよ!」
「お前らに俺の気持ちがわかるかよ!ほっといてくれよ!!ズケズケと…!!!」
「お、おにいちゃん…!」
「うるせえ!!!この部屋から出てけよ…!じゃないと…!!」
パシン!!
…?
頬がヒリヒリする…
「ゾール、いい加減にしな」
エルムがぶったのか…?
そういえば、俺は家族にぶたれたことはなかったな…
「自分ひとりだけが悲しいみたいな言い方、やめてよ…」
「…」
「私達だって、お父さんやお母さんの娘なの。突然死んでしまって、悲しくないわけないでしょ…ッ!」
「そうだよ、おにいちゃん…1人で抱え込まないでよ…これからはわたし達3人で、生きてかないと…」
「…」
「ゾール、お母さんの言葉、覚えてるでしょ?」
「…『 私の分まで生きて』だろ」
「そう…それに、ゾール。あなたは一人ぼっちじゃない。私やラシャ、レイちゃんもいるし...そこに、お母さんも居るでしょ?」
エルムは俺の首にかけてたネックレスを指さした。
「…!」
「おにいちゃんは一人ぼっちじゃない、わたし達がいるんだよ。だから…もう落ち込むのはおしまいにしようよ。」
「……」
俺は、自分のことしか考えてなかったな…。
なんて最悪なヤツなんだろうか。
ギュッ
「…っ!」
「寂しくなったらいつでもこうしてあげるから…いつまでもウジウジしてるのは、やめよう?」
「わたしもする!」
2人に抱きつかれた、普通なら恥ずかしがってすぐ離れるんだけど。
「…ありがとう、本当に…ありがとう…っ!そしてごめんよ…2人とも……!」
俺は涙を流して、そのままの状態でしばらく過ごした。
そうだ、あの時とは違う。
一人ぼっちじゃない。
俺には…エルム姉がいる、ラシャがいる。
それで…それでいいんだ…
願わくば、ふたりとこれからもずっと…
ーーーーーーーーーーーーーーー
それから約1ヶ月後
2745年10月23日
「エルム様!ゾール様!ラシャ様!お待たせしました!!」
「おっ、やっと食べれる〜」
「美味しそうだな」
「わーい!いただきまーす!」
あれから、俺達は身の回りの世話のために執事を雇った。
…レイは「私がやるからいいのに」と、やけに反対的だったが流石にずっと面倒見てもらうのはアレだから断った。
執事…ビロード・セライクセファル。
ビーストの男、24才でとても整った顔立ちをしている…まぁいわゆるイケメンだ。
なんでもソツなくこなして元気も良い優秀なヤツなんだけど…どこか抜けてる所もある面白いヤツだ。
「お味は如何でしょうか?」
「おいしい〜!流石私が見込んだ執事さん!」
「ほ、ホントですか!?やったぁ!!…あっ、失礼しました…」
「…フッ、アハハ!!」
俺は思わず笑ってしまった、それに釣られるようにみんなも笑う。
俺達は、前のような幸せな生活を取り戻していたのだ。
ご飯も終わり、自室に戻った俺は一人物思いにふけっていた。
...お母さんはなんだって俺なんかにこんな大切なネックレスを渡したんだろうか。
幼い頃に大切な『人』から貰った石を...一体なんでだろうか
『…ゾール…あなたには…いずれ“力”が手に入る…それもそう遠くないうちに…そして、それは…あなただけの力よ…』
...あの時は深く考えられなかったけど、“力”ってなんだろう。
俺だけの力...
どこかで…きいたような…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『ええ、この世界は機械はあまり発展せず魔法が発展した世界です。ここに生まれ落ちた人々は魔法の素質を持ち生まれます。ですが・・・』
ん?やけに神妙な顔つきになったな・・・
(・・・ですが?)
『どういう訳か貴方には素質がないです、魔法がからきし、という訳です。 』
(は?・・・はぁ!?)
待てよ・・・素質が無いって!?そんなんじゃこの世界生きていけないだろ!!てかフリードライトの家は魔法研究の家系なんだろ!?
『安心して下さい、全く使えないというわけではないのです。ですが素質がないのであまりアテにはなりませんが。』
(・・・でもそんなんじゃこれからこの世界でマトモな職業には就けないんじゃないか?)
『・・・いえ、貴方はこれから力を得ます、その力は魔法ではない力です。そしてその力は貴方にしか使えないものです。』
なんだ?それは・・・
俺だけの、力?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…!!そうか!
アテナ…!
俺がこの世界に来てすぐの頃のアテナとの会話…!
あの時、アテナは言っていたのだ!
『あなただけの“力”』…と!
…じゃあ、その力ってなんだ?
…とりあえず、アテナに連絡を取るか。
しかし、相変わらず通じぬままだった。
「この肝心な時に…ッ!あの駄女神が!!」
バン!と思わず机を叩いてしまった。
すると棚の上に積んであった本のバランスが崩れ…。
「うおぁっ!」
俺の頭に命中した。
「いってぇ〜…クソッ、ツイてないな…。」
俺は落ちた本を集め上にまた置こうとした時、ふと1冊の本に目がいった。
「これは…」
そう、これはお母さんが俺に読んでくれた最初で最後の絵本だ。
確かこれはお母さんが物語の話や絵まで書いた手作りの本だったな…世界で一冊しかない、俺の宝物だ。
「…もう一回、読んでみようか。」
俺はパラパラとまたその本を読み始めた。
竜と出会い、仲良くなる少女。
その竜が死んでしまう直前に少女に石を渡す。
少女はそれをネックレスにしてずっとずっと大切に身につける。
少女は老いで死んでしまうが、天国で竜と再開する…。
いい話だ…お母さん作家の才能あるんじゃないか?
..この中の少女は大切な竜から貰った石を常に付けていた。
......お母さんも大切な“人”から貰った石を幼い頃にペンダントにしていつも身につけていたな。
もしかして…大切な人ってのは、竜の事...?
「…いや、それは無いか。竜って言ったらレア物の中のレア物だしなぁ、第一出会ってたらお母さんはそこで食われてるはずだよな…。」
だが、可能性はゼロというわけではない。
この絵本だと、少女は傷ついた竜をかくまっている。
だとするならば傷ついた竜は攻撃出来ないし、かくまったならば人の目にも付かない…。
「…あー考えるの面倒臭くなってきた。」
俺は絵本を机の上に置いて、自分はベットにダイブしてそのまま眠りについたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ふわーぁ...眠い」
朝、俺達はいつもの様にテレビをつけながら朝飯を食っていた。
「ねー、なんで学校いかなきゃいけないのぉー?ねむいよー...」
「こら、ラシャ...そんな事言ってたらお母さんに怒られるぞ?」
「でもー...ビロードはどう思う?」
唐突に振られたビロードは少し考えた後に
「学校に行かないと知識や教養は得られません、魔法研究家として知識、教養は重要な事では無いでしょうか?」
と、返した。
するとラシャは少し頬を膨らませ「むー...」とうなった後、
突然すこし口元を釣り上げて
「...ビロード、お勉強あんまり出来ないくせに」
と、猛毒を吐いた。
「ぐっ...」
ビロードはうつむいてしまった。
...いつも通りだな。
『えー...次のニュースです。一か月前に魔法研究家の権威であるサファイア氏とアゲート氏が亡くなった事故についての続報が...』
「...!」
続報?なんだろうか...
他のみんなも会話をやめて、食い入るようにテレビに向かった。
テレビは事故の目撃者に取材をしているようだった。
『事故の直前に、少年が見えたんです。その少年は...あの...シャンブレーさんの一人息子に見えたんです。』
「...は?」
シャンブレーの、一人息子。
って事は...。
「フリース...?」
その後、テレビはフリースの父、現在のシャンブレーの当主であるジョーゼットに取材をしていた。
『あのドラ息子が、人を...?いや、アイツはもう息子とは認めていない!アレはシャンブレー家の恥で...』
ジョーゼットはひたすらフリースの悪いところなどの愚痴話をしていた。
警察はあの日以来、ずっと事故について調べていた。
ついこの間、警察の人に
「もしかしたら、これは事故ではなく事件かもしれない。」
と連絡を貰った。
俺はその時、復讐心が沸いた...そして犯人を見つける為に自分なりに考えた。
そして魔法研究家の誰かが恨みで殺したのかと思っていたのだが...
そうか、フリースか...しかし、証拠が...
その時
「電話だ...誰だろう?」
「僕が出ます、大丈夫ですよエルム様」
電話が掛かってきた、エルムがとろうとした時にビロードが立ち上がり電話台へ向かい、受話器を取った。
「...はい、わかりました...伝えておきます...はい...」
ビロードは受話器を置き、俺らの方へ向かうと、口を開いた。
「...事故にあった馬車や、旦那様と奥様のご遺体等に...フリース・シャンブレーの指紋が見つかったらしいです。警察はフリースを捜索するとともに、この件を事件と断定し、再び捜査することにしたそうです。」
「...!!」
フリースの指紋...
そして事件と断定...
「...あの野郎」
俺のお父さんとお母さんを...!!
一体何のために...!
理由はどうでも良い、俺はアイツを...アイツを...!!
「おにいちゃん…?顔が怖いよ?」
「...えっ?」
「ゾール、もしかしてよからぬことを考えてるんじゃないでしょうね?」
ラシャとエルムにそう言われ、俺は冷静さ少しだけを取り戻した。
「...なんでもない。」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ゾールの部屋
俺は自室に戻り、考えた。
...よく考えてみれば、まだアイツがやったって決まった訳じゃないもんな...。
なら、一体誰が...?
普通に考えて、指紋が残ってるフリースが100%犯人だろう。
だが、アイツが指紋をわざわざ残すか?
アイツはバカだが、そこまで頭が回らない奴ではない。
それは俺もよく知っている。
それこそ指紋なんてモノ残しでもしたら、警察はまず疑う。
裁判でも圧倒的に不利だろう。
指紋が残らないようにするのは最優先なはず、いくらアイツでもそこはするだろう...。
「まるで...捕まえてみろ、と言わんばかりだな。」
とりあえず...俺のやることは決まったな。
犯人を見つけ出す。
この手で、裁くために。
10年、20年経っても良い。
...その為にまずはフリースを探すか、世界中ありとあらゆる所を探してやる。
そして、問い詰める。
殺したか?殺してないか?
それは故意か?事故か?
殺してないならいい、また犯人を探すだけだ。
ただ、もしも...
アイツが殺ったのならば...。
俺がこの手で、地獄に送ってやる。
それが、俺の...ゾール・フリードライトの復讐だ...!!
続
ストーリーをもっとリアリティにしたいけどそんな人生観広くない僕には難しいです(´・ω・`)