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149 公園にいきましょう

 恭平さんのうんこはさておき、黛君たちの顔合わせは(つつが)なく進んだ。

 役立つ情報聞き出さなきゃと意気込んでいた自分がちょっと恥ずかしい。実際にはわたしの働きなんて(はな)から期待されちゃいなかったんだもん。


 そうしていよいよ解散の段となった。

 

「それじゃあ、黛さんお送りしますね」


「何から何まですみません。お世話様です」


「いいえ。お気に病まないでください。他ならぬ夏葉ちゃんの頼みとあっちゃ、これくらいのこと喜んで」


 恭平さんが、恐縮する黛さんに軽い調子でそんなことを言っているが、実際今回安全に送迎してもらえてすごく助かった。十一夜家にガードしてもらって、しかもお医者さんでもあるわけだし、これ以上の適任者はいない。


「黛君も帰り気をつけてね」


「うん、大丈夫。例の一件以来、護衛も強化されたんだ」


「あ、そうなんだ。なんかそれはそれで窮屈そうだね。なんかあったら、いつでも連絡ちょうだいね。そっちの携帯で」


 もちろん恭平さんが渡したスマホのことだ。


「ありがとう。また連絡するよ。今日はこうやって叔母さんと引き合わせてくれて、本当にありがとう」


「うぅん、気にしないで。わたしとしても役に立ててよかったよ。また会いたい時はうちを使ってもらっていいからね。黛さんも、是非」


 そうだ。十一夜君からは大した役には立たない駒扱いされて忸怩(じくじ)たる思いではあるけど、黛君たちのためには十分役に立てたよね。そう思うことにした。


 そして黛君たちを帰した後、十一夜君から近くのカフェに呼び出された。

 だけどわたしは何となくわだかまりを感じている。何となく十一夜君から無碍(むげ)に扱われたような、そんな気分を引きずってしまっている。

 その道中の足取りもやはり何となく重たい。


「ねぇ朧さん、わたしって十一夜君の役に立ってないのかなぁ」


 ほどなくフワ〜っとバラの香りが優しく漂ってきた。

 って肯定だか否定だか分かんないよ香りだけじゃぁ。

 まったく十一夜の男どもときたらさぁ。

 ちょっぴり泣きたい気持ちになって空を見上げながら歩いた。


 待ち合わせ場所のカフェに入ると、十一夜君はいつものようにむしゃむしゃ何か食べている。


「お疲れ、十一夜君」


「お疲れ様」


 彼の正面の席に着くと、それだけ言って相変わらず食べてる。


「聖連ちゃんは?」


「呼んでない」


 そうなんだ。いっつもならここに聖連ちゃんも同席してノートパソコンかちゃかちゃやりながら報告してくれるんだけど。


「で、どうだったんだ? 黛君は」


「うん、感動の邂逅って感じ? まさか、黛君もお祖父さんを介して見知らぬ親戚がこちらの世界にいるなんて、ま、お互いにだけど、思いもしなかっただろうからね。わたしも嬉しかった」


 今回、恭平さんも同席したので特に盗聴といった形で十一夜君が関わることはなかった。

 もっともその間、彼はちゃっかり黛さんちに不法侵入して情報収集していたらしいけど。全くもって油断も隙もあったもんじゃないんだから。


「そうか」


 相変わらずそっけない返事。でもなんか機嫌悪い? 最近時々感じ悪いんだけど。


「うん、わたしの方がボロ泣きしちゃって、お二人からドン引きされちゃった感じかも。ハハ……。そっちは?」


「黛君らに必要以上に感情移入するなよ」


 は?

 何よ、いきなり。実際現場にいたら感動するって、あんなの。

 なんか感じ悪いよね、十一夜君。何なの?


「別に必要以上に感情移入してるつもりはないけど?」


「そうか」


 ちょ……マジで何よ、その感じ。ムカつくんですけど。


「ねぇ……わたし何かまずいことしたかな?」


「いや」


「じゃあ、今まで通りで良くない?」


「……」


 返事がない。何が言いたいんだろうか十一夜君は。


「言いたいことあるんならはっきり言ったら?」


 わたしもちょっとイラッときてついつい険のある言い方になってしまう。


「君が黛君にあまり構うと支障がある……」


「別にまずいことしてないって言ったし」


「捜査上はな……」


「は? じゃあどんな問題があるの?」


「それはっ……その……」


 いつもと違ってなんとも歯切れが悪いし尻すぼみ。


「はぁ……分かった。どうせわたしは十一夜君にとって足手まといで邪魔ばっかりしてる存在なのよね。分かりました。邪魔しないようにおとなしくしてます。黛君にもなるべく関わりませんよ。これでいいでしょ。じゃ、もう帰るね」


 十一夜君の感じ悪い態度に無性に腹が立って、わたしは鞄を手にして席を立った。


「待って」


 十一夜君の呼び止める声がしたが、むしゃくしゃしているわたしはそんなの聞こえないふりをして店を出た。何にせよ腹が立つ。何よあの態度は。理由もまともに言ってくれないくせにただ否定ばっかりしちゃって。言えない理由があるならそう言えばいいことだし。それはっ……その……とか言っちゃって意味分かんないし。ばーかばーか。十一夜君のばーか。フーンだっ。


 ずんずん歩く。

 何となくこの気分のまま帰りたくなくて、途中の公園に立ち寄った。

 ベンチに腰掛けて、はしゃいで走り回る子どもたちをぼんやり眺めていると、涙が溢れそうになる。

 少し離れたもうひとつのベンチにはホームレスのおじさんがうずくまって寝ている。

 子どもたちとホームレスのおじさんが同居している様子がちょっとシュールだ。


「あ〜ぁ……」


 何だか自分でもよくわからないまま、大きな溜息が漏れる。

 何でこんな情けない気分になるんだろう。十一夜君にもちょっと八つ当たり気味だったかなぁ。だけどさぁ、何て言うか彼のあの態度もないんじゃないかと思うんだよねぇ。

 仲間だと思ってたのに、わたしの一方的な思い込みだったのかなぁ……。

 わたしって、十一夜君にとってはただの駒だったのかなぁ。


「おや、またお会いしましたね」


 突然背後から声をかけられてぎょっとする。

 振り返ればそこには、あのMSの不審なおじさんが立っていた。

 ふっとバラの香りが漂う。朧さんだ。

 見守っているので安心しなさいというところだろう。その香りでわたしも少し気持ちが落ち着く。


「何ですか。まさかわたしのこと、付けていたんですか?」


 朧さんがとっくに気づいていただろうし、心配はいらないはず。


「いやいや、まさか。そんなことしてませんよ。たまたまです。こちらの公園に用があって訪れたら、たまたまあなたのこと見かけましてねぇ」


「たまたま?」


 明らかに怪しい。子どもたちが遊び回る公園にこんな胡散臭い人が一体何の用だというのだ。


「あなたにお会いしたのは本当にたまたまですよ。お元気そうで何よりです」


「はぁ、どうも……」


「ときに、クラスメイトの黛君は元気にしてますか」


 うっ。こいつ前に黛君を(さら)った現場をわたしに目撃されていたくせに、よくもいけしゃあしゃあと訊けたもんだな。不愉快。


「元気そうですよ。あなた方に拉致されたときは本当にびっくりしましたけど、無事に戻ってきてたからホッとしました。何だったんですか、あれ?」


 知ってるけど敢えて突っ込んで見る。朧さんがいてくれると分かっているからちょっと強気だ。


「拉致だなんてまた人聞きの悪い。いやぁ、こちらにも色々と事情がありましてね。彼には少し質問したいことがあっただけなんですよ。わたしは決して悪い人間じゃありません」


 ウソつけ。わたしの周りはあんたらの被害者だらけだっつーの。

 わたしに鉢植え落としたり、階段から突き落としたりしたのって、あんたらでしょうが。多分だけど。


 とか思っていたら、横の方でベンチに寝そべっていたホームレスのおじさんが、3人ほどの男性に囲まれている。

 ホームレスの人は多少の抵抗を試みていたが、多勢に無勢。結構屈強な男性に囲まれていたようで、抵抗虚しくあっけなく手を引かれ出ていった。

 役所関係の人たちだったんだろうか。


「あなた。華名咲夏葉さん。あの華名咲家のお嬢さんですよね。深窓のご令嬢だ。失礼があってはいけません。今度正式なご招待をさせてください。ゆっくりお話を伺いたいので……」


 冗談じゃない。お断りだ。

 そう返事をする間もなく、彼はまた以前と同じようにすっといつの間にかわたしから離れてどこかへ行ってしまった。

 

 ベンチに腰掛けたまましばらく呆然としていると、朧さんが相変わらず音もなく隣に立っていた。


「うわぁっ、びっくりしたぁ」


「朧です」


「知ってますけどぉ……」


「あの男の後を追わせています」


「そうですか」


 彼がここに現れたのが彼の言う通り本当にたまたまだったのか気にかかる。付けられていたのなら、黛君がうちに来ていたことも知られてしまうが、それはまずいはず。


「口ぶりからすれば、向こうも下手な手出しをする気はないでしょう」


 確かに。とは言え、やっぱりこんな風に突然出くわすと不安は完全には拭えないなぁ。

 もちろん朧さんがいてくれると分かっているから、そこは信頼しているけども。


「てか朧さん、今日は普通に出てくるんですね。本屋さんに行かなくても」


「――――緊急でしたから」


 少し気まずそうに目を逸らしながらそう言う朧さんなのだった。

Subtitle from Ayumi Shigemori & Kentaro Hayami - 公園にいきましょう

Wrriten by Osamu Sakata

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