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114 涙の数だけ

 プールで弾けてから数日後。

 わたしは再び病院に来ていた。


 肥大化した陰核はホルモン治療のお陰で少しずつ小さくなっている。

 投薬が効いてるようでホッとしている。


「うん。ちゃんと薬の効果出てるね。よかったよかった。じゃあ、この調子で引き続き二週間分出しとくねー」


 相変わらず見目麗しき女性にしか見えない恭平さんから太鼓判を押されて、一緒にいる涼音さんも喜んでくれている。


「ありがとうございます」


 とはいうもののわたしがこうなっちゃった原因は不明だ。そもそも女子化した原因からして不明なんだけどもね。


 今日は恭平さんが薬を持参してきていたのでそのまま受け取ることができた。


「あぁ、夏葉ちゃん。今日も送ってあげるよ。積もる話もあるしね」


 とウィンクして言う恭平さんを見て、涼音さんが少し怪訝そうに顔を顰めた。


「二週間でどんだけ積もってんのよ」


「おやおや。涼音がまだやきもちを妬いてくれるなんて嬉しいねぇ。ふふ」


 あぁー、恭平さん分かってないなぁ。

 涼音さん、ずっと恭平さんのことを思ってますよー。

 十一夜の男どもときたらこれだからなぁー。

 鈍いと言うか鈍いと言うか……鈍いんだよなー。


 十一夜君も……ってあれ?

 そういえば彼は何に鈍いんだっけか……?

 普通に桐島さんとはうまいことやっている感じだよね、うん。ということは別に鈍いってこともないわけか……。

 わたし、なんで鈍いって思ってたんだっけ……?

 うーん、よく分かんないや。


 帰りの車の中、恭平さんは聖連ちゃんの調査の結果を教えてくれた。


「君の睨んだ通りだったよ。進藤って子と須藤って子のデータが見つかったそうだ。厳重に患者のデータからは隔離されていたそうだが、何しろ聖連の手にかかっちゃあね、ふふ。そもそも催眠っていうのは、脳内化学物質……まあ麻薬物質と言っていいかな。そういうものが出ている状態で暗示にかかるものなんだよね。MSのやり口っていうのは、薬物投与によって強制的に催眠状態を作り出して暗示をかけることで洗脳するもので、それをさらに発展させたものが別人格を植え付けることだったんだ。まったくもって許し難い行為だね。まぁ、色々と参考にさせてもらうことにしたけども……」


 ニヤリと悪い笑みでそう言う恭平さん。

 許し難い行為、やる気満々だこれ……。


 しかしなるほど薬物投与と暗示かぁ。マジで恐ろしいことするなぁ。恭平さんの言う通り許し難い。


 MSが目的のためには手段もモラルも無視した凡そ宗教の本質からはかけ離れた組織であることは明らかだ。たとえわたしと関係なくてもぶっ潰したいわ。


「それでだね。例の高橋心のクリニックだっけか? あそこが様子を見ながら薬物を投与しつつ暗示が切れないようにしていたというわけだ。そこでちょっと小細工をすることにしたよ」


「小細工?」


 なんだろうか……。本当に恭平さんが言う小細工程度でMSをどうこうできるとも思わないけど……。


「うん。まあホントに小細工なんだけどね。催眠やマインドコントロールに使われる薬物っていうのは特殊なもんでね。一般的に治療に使われる薬剤とは違うんだよ。だから在庫の薬品に小細工をちょっとね。偽薬物に入れ替えておいて効果をなくした上で、進藤ちゃんには引き続きこちらで催眠をかけさせてもらう。須藤ちゃんの方もどうにか接触して、二人とも最終的には治療してあげられないかなと思ってる。僕ちょっと頑張っちゃうつもりだよ」


「恭平さん……ありがとう……話してよかった……」


 気付いたらぽろぽろと大粒の涙が頬を伝って落ちて行ってた。

 やっぱりクラスメイトのことでもあるし、MSに勝手に心を弄られたりなんて酷いと思ってた。でもそれが事実だという証拠が出たところで、十一夜家の人たちから逆にいいように利用されるだけだったら不憫過ぎると思っていたのだ。


 恭平さんが彼女たちの治療を考えてくれてると聞いて、話してよかったと思えたし心からホッとして涙が溢れてしまったのだろう。


「いいってことさ。他ならぬ夏葉ちゃんのクラスメイトも関係することだ。圭のヤツのクラスメイトでもあるしね。まあ進藤ちゃんは違うみたいだけどまだ中学生でしょ? いずれにしても彼女たちは犠牲者だからね。十一夜は別に警察でも正義の味方でもないから必ずしも人助けのプライオリティは高くないんだけど、僕はちょっと変わり者なのさ」


「うぇーん。ぎょうべいざぁん、ありがどー」


「あはは。よしよし、泣かなくたっていいんだよ。夏葉ちゃんを泣かせたとあっちゃ涼音に殺されるじゃないか」


 号泣してしまってちゃんと言えてないけど、改めて恭平さんに感謝せずにはいられなかった。

 恭平さんが変わり者でよかった……。


 家に着いてもしばらくの間涙が止まらず恭平さんを困らせてしまったが、泣き止むまでそっと見守りながら待っていてくれた。


 ようやく帰宅するとディディエがハイテンションで近付いて来てスマホの画像を見せられた。

 画面には満面の笑みで写っている魔法少女。

 のコスプレをしたディディエの姿があった。


 タユユの仕業か……。


「ヘイ! カヨーサン、ディディエノマホーショジョ、カワイクネ?」


 はいはい、かわいいかわいい。

 てか処女じゃなくて少女な。そこ間違うとだいぶ違うから。魔法少女だから。


 はぁ……。

 わたしの感動、台無しだよ。

Subtitle from エレファントカシマシ - 涙の数だけ (1998)

Written by Hiroji Miyamoto

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