響く声。
「カラオケ歌吉本日オープンです~!ティッシュどうぞ~!」
私の声が街に響く。しかし、誰も見向きもしない。
ティッシュ配りのバイトも大変だ。私が渡そうとしてもなかなか受け取ってくれない。
私以外の人でも同じかも知れないが…。
だからといって、ちょっとでもティッシュが余ると店長に怒られるし…。
「あっティッシュどうぞ~!」
とにかく少しでも持ち出したティッシュを減らそう。もし残ったら絶対に店長に嫌味を言われる。
とにかく配れるだけ配ろう。
私はそう自分に言い聞かしてティッシュ配りを続けた。
「ティッシュどうぞ~!カラオケ歌吉本日オープンです!」
今、やっとサラリーマン風の男性がティッシュを受け取ってくれた。
男性はポケットに入れているものを気にしながら、駅の中に入っていった。
大切なものでも入れているのだろうか?
例えば指輪とか?
そう言えば今日ひとつ学んだことがある。
それは、「考え事をしている人は無意識にティッシュを受け取る」ということだ。
私はこの言葉を胸に刻んだ。
空を見上げるとさっきまで降っていた雨がやんでいた。
今日もまたこうして1日が終わる。
明日は晴れるだろうか?
その時だ。
「ティッシュもらってもいいですか?」
急に話しかけられてビックリした私は手に持っていたティッシュを落としてしまった。
慌ててティッシュを拾い集める。
「驚かしてすいません」
そう言って男も拾うのを手伝ってくれた。
「ティッシュ欲しいんですか?どうぞ!カラオケ歌吉本日オープンです!」
私はぎこちない笑顔を浮かべながら、男にティッシュを渡した。
「あの…。もし良ければその下に置いてあるカゴに入っているティッシュ全部もらえますか?」
男は私が下に置いているティッシュが山ほど入ったカゴを指差しながらそう言った。
「えぇ、いいですよ。どうぞ!!」
私はカゴごと男に渡した。
どうせ、余ったら店長に文句言われるんだ。渡してしまえ。
私は素早く頭でそう計算して行動に移した。
「ありがとうございます!助かります!」
男は私に向かってそう言うと、たくさんのティッシュを抱えて人混みの中へ消えていった。
「こちらこそありがとうございました!」
男の背中に向かって私はそう言った。
本当に助かった。
それにしてもあの大量のティッシュ何に使うんだろうか?
まぁ、いいか。もう疲れた。ティッシュも全てなくなったことだし、さっさと店に戻って日給もらって家に帰ろう。
空を見上げると星がキラキラと輝いていた。
昼間の大雨がウソのようだ。
もしかして今日なんか良いことあるかも!
私はそう期待しながら駅前を後にした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ちなみに最初にティッシュを受け取ったサラリーマンについてはシリーズを参照してみて下さい。