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ランクロットの一族  作者: ふじたけ
第一章 エルク編
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第41話 覚悟

更新遅れて本当に申し訳ないです。よければ読んでやってください。

「ふぅ」


 エルクは息をつきながら、マオを残して家を出る。


 敵は強大、獣人族の協力も得られるかどうかも分からない。今年の冬は暖冬だろうが、それでも冬場の森など危険極まりない。


「準備だけでも入念にしておくとするかな」


 そんなことをつぶやくエルクの前には、レンツとギルが互いに棍と木剣をもって対峙していた。


「ほあたぁっ!」「なんの! これでも食らえ!」「ふっ、ちょこざいわっ」


 カンカンとあまりに可愛らしい響きで打ち合う二人を横目に、エルクは一人倉庫へと向かった。


   *


 大猪の背皮から作ったバックパックに荷物を詰め込んでいく。


「メタルマッチに毛皮のマント、塩もほしいな。傷薬に厚めの衣類も何着か、スノーボードはリュックの上に括り付けるとしてあとは――」


「兄貴、冬の登山って大変だよな?」


「そうだな、今年はそこまで寒くはないが山は舐めたら危険だからな。余裕をもって準備せねば。まあ余一人であればどうとでもなるがな」


「いっぱい厚着しなきゃだな、他に要るものは食糧とかか?」


「ああ、食糧も要るな。なるべく現地で調達するつもりだが、この季節だからな、採取できるかどうかもわからん。そなたらにはこれっぽっちも関係のない話だが」


「そっかー」


 脇で、小ぶりのバックパックにパンツや毛布を詰めていく二人。


「……」


 二人は何かを期待するような顔でこちらを見つめてきたが、エルクは何を言うでもなく荷物を担いで倉庫から出ていった。


「今度はセリルだな」


   *


「セリル。椿の油から精製したアレはどのくらいできている?」


「ああ、あの香油ですか? あまりできていませんよ、小さめの壺三つほどです」


「十分だ。皮袋に入れておいてくれ。明日の日の出とともに発つからな」


「何に使うんですか? 冬山に持っていくようなものではないですよね?」


「まあ出番がないならそれでいいが、そうもいかなそうなんでな。秘密兵器といったところか」


「まあいいです。その代わりに約束してください。絶対に無事に戻ってくるって」


「ん。ランクロットの名に誓おう。必ずフィオークに戻ってくると」


「信じます」


 心配げに顔を曇らせながらも、セリルはまっすぐにエルクをみながらそう言った。


「心配すんなセリル姉っ、俺たちが絶対兄貴を守ってやっからよ」


「そうそう、大船にのったつもりでいてくれていいぜ」


 いつの間にやら背後に来ていたレンツとギルの二人組。


 チラリとそこに視線を落としたセリルは、何か言いたげに再び視線を戻した。そんな視線にあえて気づかぬ振りをして、エルクは早々にその場から立ち去る。


 他にもいくつかの倉庫とランドの鍛冶場にも寄ったが、二つの足音はいつまでもついてきていた。


  *


 翌朝。まだ朝日も射さず夜の寒気も抜けきらぬ中、エルクは村の出口へ立っていた。目の前には村の者たちが全員そろっている。


「ご、ごめんなさいエルクさま、あたしが案内できればよかったんですが」


「気にするな、マオ。そなたの脚はいまだ治療が必要だ、冬の間はここで養生すればいい。そなたの無事は余から村の者へと伝えておこう」


 いまだ両脚を包帯に巻かれ、ランドに抱きかかえられているマオの様子は痛々しい。


「姫様にお会いになってください、ナギア様という方です。力になってくれるはずです。正直村の人たちは人間に良くない感情を持っています、不快な思いをするかもしれません、けど、どうかっ、どうか私たちをお救いくださいっ! もう他にすがる者がないんですっ、もう誰も死なせたくないんです! だから――」


 懸命に声を出しながら訴えるマオの頭に、ポンと手を置き、エルクはその小さな額に自らの額を重ねた。


「うむ、そなたの想いは確かに受け取った。村のことは任せておけ」


「は、はい……」

 

 頬を赤らめつつもか細い声を返すマオ。そんな姿に村の少女たちから悔し気な声がかすかに漏れた。


「じゃあ行ってくんぜ」


「俺たちのことは心配すんな、村のことは任せたぜ」


 エルクと同じようにバックパックを担いだ二人は、村のみなへと手を振った。


「……はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 とうとう根負けしたかのように、エルクは全身から絞り出すようにため息をついた。


「ツッコむのも面倒だったがもう限界だ」


 エルクは鋭い眼差しで、二人をにらむ。


「何のつもりだ?」


「お、俺たちもついてくっ」「そうだよ、兄ちゃん一人だけじゃ心配だもん」


「冬山はそんな楽しいものじゃないぞ、景色も殺風景だし何より寒い。ほら、春になったらみなでピクニックに連れてってやるから。レンツたちが案内してくれた花畑の丘はきれいだったぞ、今度みなで行くとしよう」


 だから、な? と優しく諭すように告げるエルクに、ギルは肩をすくめてやれやれと、息をついた。


「何いってんだよ兄貴、俺たちゃ別に遊びにいくわけじゃぁねぇんだぜ?」


「その子の村を救いに行くんだろ? ピクニックの話なんてどっから出てきたんだよ、状況理解できてっか兄ちゃん」


 逆に諭されるような口調でドヤる二人の頭に、エルクはポンと両手を置いた。


「あだだだっだダダダ!」「ヒデデデデっ!」


 荷物を満載にしたバックパック毎、頭を握りしめながら吊るし上げる。


「はっはっは、余の最も言いたかったことを先に言われるとはな。これは一本とられたなー」


「イダイイダイいだいイダイっ! ち、ちくしょうっ、負けねえぞっ!」


「ぜ、絶対についていくかんなああぁぁっ――あだだっ!」


「チィっ! 無駄に根性見せおるわ。カーク、ロープを持ってこい、二人をふん縛って倉庫にでもすっ転がしておけ!」


「カークっ! てめえ持ってきたらどうなっかわかってんだろうな!」


「カレットに無い事無い事言いふらしてやっぞっ!」


 そんな恫喝にエルクの両手に力が入る。


「己より下の立場の者へ恫喝しようとは、余はそんな風に育てた覚えはないのだがなぁ」


「あ、ぐあっ! あ、兄貴……話を、話をしよう」


「ぞ、ぞうだー、うぐぐ、ゥ……暴力で従わせようなんて、兄ちゃんらしく、ねえよ」


 思いのほか耐える様子に、どうやって諦めさせようかと思い悩んでいるとランドが声をかけてきた。



「――まあ、いいんじゃねえか連れてってやっても」



「ランド兄ちゃんっ!」「話が分かるっ!」


 頭を吊るされながらも二人は顔を輝かせた。


「な、何を言うのだランドっ!? 二人を連れていけなどと危険極まりないっ、そなたも見ただろうあの異様を! 無事に帰れる保証などどこにもないのだぞっ」


 ドサリと音を立てて、二人は尻もちをついた。


「それでも、連れて行けと?」


「そうだ」


 二人はしばしにらみ合うように視線を交わす。


 緊迫する空気の中、先に折れたのはエルクの方であった。


「むぅ、そなたに言われては無下にはできぬな」


「じゃ、じゃあっ!」


「いいだろう、連れて行ってやる。その代わり余の言葉は絶対厳守。守れなければ即村へ連れ帰るからな」


「おっしゃー」「勿論だぜ兄貴」


 快哉を叫ぶ二人の頭にランドが手を添えると、二人はばっと頭を上げた。


「ランドの兄貴っ、あんがとな!」


「いいってことよ。それよりあんだけ言った以上てめえらも覚悟はできてんだろうな?」


「ったりめえだ! 命に代えても兄貴のこと守ってやんぜ」


「心配いらねぇよ、兄ちゃんの言いつけは絶対守っから」


「いや、そういうこっちゃねえ」


 そんな二人にランドは頭を小さく振った。



「――――エルクを殺す覚悟はあるかって聞いてんだ」



「「……え?」」


「お前らは弱い」


 呆気にとられる二人をよそに、ランドの口調はいつになく強い。


「エルクを守るだぁ? できるわけがねえだろう。やる気がいくらあったところで何の力も持ってねえんだからな。別に責めてるわけじゃねえ。当然の話だ、なぜならおめえらはただのガキなんだからな」


「逆にエルクは必ずお前らを守ろうとするだろう、どんだけ足を引っ張ろうと、邪魔になろうとな。もし吹雪になれば自分の身を盾にする、食べ物がなくなりゃ自分の分をお前らにやる。そういう奴だってことはこの一年で十分に理解できたはずだ」


「わかるか? お前らの弱さはエルクを殺す刃となりうるってことだ。それを覚悟してるのかって聞いてんだ」


「そ、それは……」


 言いよどむ二人をまっすぐ見据え、ランドは酷薄に問う。


「答えな」


 わずかな逡巡のあと、二人ははっきりと告げた。


「それでも行くっ! ずっと兄ちゃんの力になりたいって思ってたっ、もうこれ以上弱いまんまでいたくないっ! 強くなるために行くんだ! どんな敵からも逃げない奴になるために行くんだ!」


「ここに来てからずっと兄貴に守られてきたんだ、サリアもカークも他の奴らも全員兄貴に救ってもらったんだ! 俺たちだって兄貴の役に立ってやるっ、力がねえならすぐにつけるっ、絶対兄貴の迷惑にゃならねえっ、その上でこの村に帰ってきてやるんだ」


「そうかい、なら俺から言うこた一つだけだ。絶対無事に戻ってこい。三人でな」


「「うんっ!」」


 力強くうなずく二人の後ろで、エルクはため息をついた。


「そこまで分かっていながら連れて行けとは、な」


「いい経験になんだろ二人にとって」


「それはそうだがな。まあいい、時間も惜しいからな。では皆のもの行ってくる」


 手を振りながら今度こそ村を去ろうとする間際、オルガの耳にエルクの落胆したようなつぶやきが届いた。




「――――余はそこまで信用されていなかったのだな」







次話はできてるので今週中には投稿します。_(._.)_

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