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ランクロットの一族  作者: ふじたけ
第一章 エルク編
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第24話 村長就任

 光の中に佇むエルクの姿、それはまるで神か天使か、あまりに神々しいそれは人以上の存在に見えた。


 差し出された手に、自身の手をゆっくり重ね、導かれるままに外へ。


 その時の感動は言葉には言い表せぬものだった。


 ほのかなぬくもりを全身に受けながら、森の方へと目をやった。


 ――まだ、眠っているみたいですね。


 少し残念に思いながら、嘆息をつく。


 いまだ寒さはこの地に残る。


 春の陽気に誘われて、森が目覚めるのはあと数日はかかりそうだ。


 そんな時であった。


 エルクの咆哮が森を覆ったのは。


 森が、ざわめく。



 ――起キタ起キタゾ起キラレタ。


 ――我ラノ王ガ目覚メタゾ。


 ――王ハ空腹ハラヘッタ。


 ――我ラノ恵ミヲオ待チカネ。


 ――生ヤセ芽吹カセ実ラセヨ。


 ――王二捧ゲヨ我ラノ実。



「……え?」


 森が覚醒した。


 エルフ族の耳にしか届かぬ森の囁きが、エルクの叫びに呼応したのだ。


 ただの人間に過ぎないエルクの声に、森が応えた。


「うそ……」


 眠りについた森を起こす、それはエルフ族たるセリルにもできぬことであった。


「……大地が、息吹を吹き返しやがった……」


 セリルの耳にそんな声が聞こえた。


 ランドを見やると春の感動も忘れたかのように、その表情は驚愕に強張っていた。


 きっと今の自分も同じような顔をしているのだろう。


「エルク、あなたは一体……?」


 ――何者なのですか?


 そんな思いは言葉にならず、ただゴクリと唾とともに飲み込んだのだった。



   *



「いやあ美味いな、久方ぶりの飯はっ、セリル、お代わりを所望する」


「はいはい、まだいっぱいありますからね、ほら、他にお代わりが欲しい人は?」


 差し出されるお椀に山菜とキノコのスープを次々と注いでいく。


「しかし冬が明けたばかりの時期に、これほど恵みがあるとはな。随分と豊かな森なのだな、ひょっとしてセリルがこの地にいるからか?」


「いえ。これはエルクのおかげですよ?」


「どういうことだ?」


「……ほんとに自覚がないみたいですね」


 食事も終わって日も沈む。


 食後のお茶を楽しんでいると、レンツから声が上がった。


「エルク兄ちゃんっ」


「お、おう? どうしたレンツ、とシドもラナもロナもか。どうしたんだ、そんな真剣な顔をして」


 四人の子供たちはエルクの前に正座して、その小さな両手を床へとついた。


「改めて兄ちゃんにお願いしたい」


 そんな仕草を見て、エルクは止めるでなく、瞳を細め身体を正面へと向けた。


「うむ、聞こう」


「四人で話し合ったんだ、その上で四人とも同じ意見だった、これはきっとこっちから頼まなきゃなんないことだから。もっかい言うことにした」


 レンツたち四人はそのまま頭を床へと下げて告げた。


「「「「どうか、この村の村長になってくださいっ!」」」」


「心配は不要だぞ。そなたが一人前になるまでは余が代理を務めてやる。大きくなるまで責任をもって育ててやるから」


「そうじゃねえ、そうじゃねえんだ兄ちゃん、代理とか育つまでとかじゃなくてずっと兄ちゃんに村長をやってもらいてぇんだ」


「しかし余は所詮は部外者ぞ? この村を築いたのはそなたの父御殿、そなたが跡を継ぐのが筋ではないか?」


「違う。もう兄ちゃんは部外者なんかじゃねえ、ランド兄ちゃんもセリル姉ちゃんもそうだけど、この冬を超えられたのだって全部エルク兄ちゃんのおかげじゃねえか。みんなが諦めかけてた時だってずっと声をかけてくれてたのエルク兄ちゃんじゃねえか」


 レンツは顔をバッと上げ、エルクの顔を真剣な目で見据えた。


「兄ちゃんが嫌だっていうんなら無理は言えねえ、けど俺に対して遠慮してるってんならやめてくれ。言ったろ、四人で話して決めたんだって、兄ちゃんならこのフィオークを再興できるって思ったから、兄ちゃんなら信じられるから、だから、この通りだ、頼む兄ちゃん」


 エルクはレンツの言葉を真剣な眼差しで聞く。しかし返答はなかった。


「別にいいじゃないですか? 要は今までと同じってことでしょう、もしレンツが一人前になったらその時に役目を譲ってもいいわけですし」


「いや。そりゃダメだ」


 沈黙を保っていたランドが口をはさんだ。


「ど、どうしてですか?」


「さっきも言ってたじゃねぇか。代理でも期限付きでもなくエルクに本当の村長になってもらいたいって。それを『大きくなったらいつでも代わってやる』なんて言って受けるのはレンツたちの言葉を蔑ろにするってこった。ガキだろうが何だろうが必死に考え答えを見つけて、頭まで下げての男の頼みだ。無下にするこた許さねえ」


「……う」


 あまりの正論に二の句が継げなくなってしまう。


「ランドの言うとおりだな」


 エルクは神妙にうなずき、レンツたちを見返した。


「うむ。そなたらの想いしかと受け取った。いいだろう、今よりこのエルク・ランクロットがフィオークの新たな長となり、村の復興に全力を尽くさんことを約束しよう」


「やった」「ありがとお兄ちゃん」


 四人は次々に快哉を叫ぶ。


「まあよろしく頼むぜ、村長よ」


「ええ、今後も頼りにさせてもらいますね、私たちにできることがあれば何でもしますから」


「ああ。任せておけ」


 エルクは自信ありげにうなずくと、そして話を切り出した。


「では早速村を復興させるための第一案を出そうと思う」


 みなが神妙な顔でうなずいた。


「まずは人を集めたい」


「人って?」


「住民だ、さすがにたった七人では村の再興などどれほど頑張ったところでできぬからな、この地に住む者たちを集めようと思う」


 ランドは渋い顔でうなる。


「そりゃ確かにそうだけどよ、町で募集でもすんのか?」


「まあそういうことだな、一応あてはあるのだが」


「け、けどさ、セリル姉ちゃんがいるんだよ。変な奴来たら姉ちゃん売り飛ばされちゃうよ」


「そうだよ、お姉ちゃんはエルフ族なんだよ、エルフは居場所の情報だけでもすっごいお金になるって聞いたことあるもん。お姉ちゃんがいなくなるなんてそんなの絶対イヤ!」


 みなの懸念も最もだ、とつぶやきながらエルクは尋ねた。


「セリル。一つ聞くがレンツやラナたちのことも怖いと思うか?」


 セリルは即座に首を振った。


「まさか。人間は確かに今でも好きとは言えません。けどもうこの子たちは弟で妹で大切な家族です。そんなこの子を怖いなんていえるわけありません」


 そんな言葉に、ラナとロナはセリルの手をぎゅっと握る。


「うむ、だからこの村には子供たちを移住させようと考えておる。それならセリルも余計な心配はせずに済むであろう」


「子供って、そんな都合よくいるかな?」


「けど子供ならさ、村から出ることもできねえしいいんじゃないか?」


「お兄ちゃん、何人くらい集める予定なの? 十人くらい?」


「そうだな、百は欲しいな」


「百っ!? そんなに集めるのっ」


「無理じゃないかな。こんな何もない村に来る子供なんていないと思うよ。それを百人だなんて」


「初めに言ったであろう、あてはあるとな」


 そんなエルクの言葉に、ランドは何かに気づいたかのように顔色を変えた。


「エルク、まさかお前……」


「察しがいいな、さすがはランド」


 エルクは前にあったお茶を一息に飲み干し、そして告げた。




「――リッツベルトの港町、あそこにいる孤児たち一人残らずかっさらう」




こんな遅筆でもブクマしてくださって嬉しいです。

心からの謝辞を。

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