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歪んだ善

作者: 一一

真っ白な部屋に机が一つ、イスが机を挟み対面する形で置いてある。

そしてそれに座る二人の男がいる。一人は整ったスーツ姿の青年。もう一人は囚人服を着た中年男性だ。中年の男が自分の両手に繋がる手錠を見つつ話しだす。


「あんたが何を話そうが、俺の気持ちは楽にならねぇよ。俺は見ず知らずの罪無き人たちを殺したんだ。俺は地獄で罪の償いでもするさ」


「……そうですか。なら僕の話は聞き流す程度でいいから聞いていただきたい。Aさん、あなたと話すのが仕事ですので」


「まあ、好きにしてくれ」


「ありがとうございます。ではそうですね…………Aさんが罪の無い人たちを殺した、それは紛れもない事実です」


「ああ」


「そのAさんの罪は一週間後の六月十日に死刑執行という形で償われます」


「ああ、言われなくてもわかってるよ。あんたは俺の罪の重さを再度味合わせに来たのか?」


「すみません、確認の意味で。ここから本題です。あなたの無差別殺人が意味のある行動だ、ということを伝えたいのです」


「意味がある?犯罪マニアが喜ぶとかか?」


「違います。非常に不敬な言い方ですが、あなたの殺人はある意味で良い行いだったのです」


「……は?」


「あなたは人は死ぬとどう思いますか?」


「そりゃ天国か地獄に行くんだろ」


「そうです。あなたは先ほど自分は地獄に行くと言っていましたね。ではあなたの殺した人たちはどうなると思いますか?」


「天国に行くんじゃないのか。俺のような酷い悪事をした人たちじゃないだろうしな」


「そうですね。あなたは地獄へ、あなたの殺した人たちは天国へ。つまりあなたは被害者の人たちを天国へと導いたんです」


「フン、ものは言いようだな」


「そうですかね。おっと、時間になってしまいましたね。では終わりにしましょうか。あなたと会うのもこれが最後ですね」


「あんたはなかなか面白い人だった。地獄に行ったらあんたの事を時々思い出させてもらうよ」


「ありがとうございます。何か言い忘れた事などはないですか?」


「まあ……死ぬ前に何か小さな事でもいいから為になることをしたかったかな。まあ罪人が何を言おうが無駄だかな」


そして囚人服の中年男性は看守に連れていかれた。イスに座ったままの青年はネクタイを緩め、大きく伸びをする。すると部屋にスーツ姿の初老の男性が入ってくる。


「どうだったかな?“私の使う死刑前の囚人の心を楽にさせる方法”は?」


「まだまだ僕の話術が足りないですね。うまくできなかったです……」


「まあ、これから回数を重ねれば良くなっていくよ。それに君には人の心を動かす天賦の才能があるからね。きっとあの男の心にも君の言葉が残っているよ」


「そうだといいんですけどね」



一週間後。





「見つかりましたか!?」


「いや、五百人態勢で探しているがまったく」


「くそ。僕が一週間前にカウンセリングした時には死を受け入れていたのに。まさか平静を装っていただけなのか?やはり死にたくはないか……。それともどうせ死ぬならもっと沢山の人を道連れにしようとでも思っているのか!?」


「とにかく座って落ち着け。私たち警察も全力で探している。君はここで待っていてくれ」


「……はい」


肯定の返事はしたものの、数分と経たずに青年はじっとしてられずイスから立ち上がる。焦りを隠しきれない様子で、部屋の中を行ったり来たりしてウロウロ歩く。


「とりあえずテレビでも見て気を紛らわそう」


テレビをつけるとバラエティ番組が放送されていた。そしてちょうど画面上部に緊急速報が流れる。出てくる文字は


――――A容疑者と思われる男性が○○○町繁華街を車で暴走。十三人が死亡。二十人が怪我――――


突然バラエティ番組が切れ、代わりに緊急ニュースが放送される。


『逃亡している死刑囚のA容疑者ですが現在も見つかっていません。しかし数分前にA容疑者からの電子メールがテレビ局宛に届きました。読みたいと思います』


「Aからのメール!?」


『自分はとても罪深い人間です。死んでも地獄に行くしかないです。ですが、こんな自分でも死ぬ前に人のためになることをしたいと思いました。そして一人でも多くの人々を殺そうと考えました。なぜなら殺された人は天国へ行けます、こんな辛い世の中なんて捨ててとても楽しい場所に行けるのです。自分はこの汚れた命が尽きるまで、天国へ人々を導き続けたいと思います』


「…………な、なんて事だ……」


青年の顔が青ざめていく。手足は震え、冷や汗が尋常では無いほどに流れる。アナウンサーがAからのメールの文面を読み続けている。


「僕の…………僕の所為で……」


『そして最後に、この重要な事実を教えてくれたカウンセラーの方にお礼がしたいです。本当にありがとうございます。ちゃんとお礼の品を持って行きます』


青年の後ろで扉を開く音が聞こえた。




次の日




初老の男性がコーヒーを一服し、満足げな顔で空を見上げる。


「まさか私の“死刑前の囚人の心を楽にさせる方法”もとい“殺人を正当化させる理論”がこんなに効くとは。いやはや我ながら恐ろしい物を開発してしまったな、ハハハ」


そしてコーヒーを飲み干し、空になったカップをテーブルに置く。


「ではそろそろ私も天国への案内人の仕事をはじめましょうかね」


手には銃が握られていた。


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