第四話『魔法戦術』
俺は…羽根つきライオンから絶氷牙を回収するために注意しながら近付いた。
にしても…さっきのはなんだったんだ?
レーザー兵器?
だとしたら俺は死んでるな…。
氷でも防げたとなると…なんだってんだ?
何らかのエネルギーなのは確かな気がすんだが…。
冷静になってみるとさっきの戦闘でのことを思い出し、分析できるようになっていた。
俺って結構危ない橋を渡ってるよな…。
今更だけど……。
そう考えると、一気に寒気が俺を襲った。
「けど、なんだって軍が手こずるんだ?」
生身の部分には攻撃が効く。
これはこの二日間の経験で知り得た情報だ。
けど、軍は敗走してる…。
もしかして、現代兵器が効かない?
いや、それならそれで一年経ってるのに未だ戦火が赤道よりも上に出てないのもおかしいか…。
それに時満の爺さん達はどうなんだって話だよな…。
昨日の話じゃ、あの人達…キメラをあらかた片付けたって言ってたし…。
そこでふと一つの仮説が思い浮かんだ。
もしかして俺も爺さん達も近接戦闘だからか?
だから生身の部分が効くってわかった?
軍は…飛び道具に頼ってるから何かに阻まれてそれに気づいてない?
そういや、歴史の授業でも刀や剣による戦争は廃れてきたとか言ってたような…。
そんな考えが脳裏を過ぎっていると…
バフッ!!
「んが?!」
何かに当たって尻もちを着いてしまった。
「な、なんだ?」
そのまま視線を上げると、そこには…
「どうやら覚悟は出来たようじゃの」
時満の爺さんがいた!?
「なっ?! じ、爺さん!? どうしてここに!?」
「なに、ちょいとこいつに用があっての」
俺の問いに時満の爺さんは羽根つきライオンを指差す。
「キメラに? また、なんで…」
「こいつを解剖したいと言うバカがおっての。お前さんが一戦交えてるのを監視カメラの映像で見ておったから迎えに行くついでにの」
そう言うや否や時満の爺さんは片手で羽根つきライオンをひょいっと担ぎ上げてしまった…。
「……………」
その姿を呆然と見ていると…
「何をしておる? さっさと行くぞ」
早足にその場から学園へと歩き始めた。
「お、おい!?」
それを俺は追い掛けていく。
………
……
…
学園に向かう道中…
「つか、見てたんなら助けてくれてもいいだろ?」
「甘えるでない。お主がどれくらい出来るのか見ておったんじゃよ」
「それにしたって他にも人がいたろ? その人達くらいは助けろよな」
「その心配無用じゃよ。お主が覚悟を決めておれば助けると踏んでおったしの。それにあやつらも七帝族の一員」
「なんだって? じゃあ、もし俺が助けなかったら?」
「その時はちゃんと助けたわい。それに仮にお主がそうしておったら牙も愛想を尽かすて」
「なんか釈然としないな…」
まるで爺さんの思惑の掌で踊らされている気分になり、そんな風に思ってしまった。
「よいではないか。結果的にお主は覚悟を決めてくれたわけじゃし、良い手土産も出来たしの」
「あのな……つか、アンタ達の誰かが倒したキメラでもよかったんじゃねぇの?」
この規格外そうな爺さんならそれで十分な気がするが…
「それがの。儂らじゃとこの面妖な奴等に対して力加減が難しくての。全壊してしまうから解剖出来ないと文句を言われてしまっての」
「………………は?」
「そこで戦闘に不慣れなお主ならきっと急所を突いて勝つだろうと考えておったところ、ちょうどそんな感じでこいつを狩ってくれたからの。いやはや、見事見事」
それって、手加減するのが面倒だから一網打尽にして解剖出来なくしたんじゃ…?
そして、俺が素人だから全力でも原型はそれなりに残るからそれを土産物にすれば問題ない…。
ってな風に俺は聞こえてしまった…。
「それにしてもお主、思い切りがいいの」
「何の話だよ?」
「これじゃよ、これ」
そう言って時満の爺さんはキメラの眉間を指した。
「それは…なんというか、パンドラやってるから…その中で刀での近接戦とかもメインとしてやってたし…」
俺がそう言うと…
「パンドラ? おぉ、あの面妖な電子遊びの事か」
どうも時満の爺さんの中ではパンドラを『面妖な電子遊び』という認識らしかった。
「面妖って…今の時代なら普通だろ?」
科学が発達してて、どんどん便利になっていくような…。
「儂からしたら面妖じゃよ。電脳空間に自分の分身を作ってそれを体感操作なんぞ…よぉわからん」
……ホントにわかんねぇのか?
その説明で大体合ってるし…。
「それはそうと、ちゃんと絶氷牙は回収するんじゃぞ?」
「わかってるよ」
そう答えると、俺は絶氷牙を羽根つきライオンの眉間から引き抜き、血を払って鞘に戻す。
「ふむ…それもパンドラとやらで培った動きかの?」
今の動作を見て時満の爺さんが疑問を投げかけてきた。
「まぁ、そうだな。俺は刀と銃を使っての戦闘スタイルだし…」
「ほほぉ、それは興味深いの」
「所詮はゲームの中での話だよ。現実でそれほど使えるかどうか…」
俺はそう言うが…
「それはどうかの」
時満の爺さんの言葉は違った。
「え?」
「現に付け焼刃でもそうやって戦えておるんじゃ。しっかりと儂らの元で学べば一端の戦士になれるだろうて」
「そんなもんかね……………って、儂らの元で学べば?」
不穏な言葉を聞いた気分になり、ついつい聞き返してしまった。
「ほほほ…まぁ、楽しみにしておれ」
全然、楽しみじゃねぇ!!
そうこうしてる内に俺達は再び理事長室へとやってきた。
そこには先程の男女4人と…
「雅?」
雅と、帝崎 深弥美の姿もあった。
「あ、君はさっきの」
「翼!」
俺の姿を見つけた雅がこっちにやってくる。
「どうして上がって…」
「アンタこそ…なんだって戻ってきて…」
俺達が話そうとした時…
「あらあら…雅ちゃんの彼氏だったの?」
「え? そうなのかい? だったら挨拶しておかないと…」
二組の内の雅と一緒にいた方の男女がそんなことを言い出す!?
「彼…!?」
「ち、違うから! お母さん、変なこと言わないで! あと、お父さんも真に受けないで!!////」
「そこまで必死に否定するなよ…それはそれで傷つくだろ?」
あまりにも必死な雅の姿にそう言ってしまった。
「うっさいわね! 恥ずかしいことなんだから!////」
「そりゃ俺も同じなんだが…」
そんなやり取りの後…
「初めまして、僕は白雪 蒼夜。雅の父親だよ」
「私は白雪 白夜。雅ちゃんの母親です」
「私は帝崎 百合。こっちの無口な彼は夫の瞬弐君です」
「………」
「絶氷牙を持つことになりました。伊達 翼です」
お互いに自己紹介をしていた。
「すみません。勝手にあなた達の祀るべき物を持ち出してしまって…」
そして、俺は目の前の白雪夫妻に謝った。
「絶氷牙があなたを選んだのはきっと理由があるから気にしないで」
「白雪家は君を支持・支援するよ。僕達は牙の意志も尊重するけど、君の意志も尊重するからね」
蒼夜さんも白夜さんも良い人っぽいな…。
「ちょっとお父さんもお母さんも何言って…」
雅はなんでか不満そうだが…。
「ところで深のやつは下で待っておるかの?」
「は、はい。監視映像を見て…その、出来れば回収をって…」
「まぁ、翼のおかげで回収できたからの。早速降りるぞい」
そう言って爺さんは霊のパスワードらしき言葉を言うと、床が動いて地下へと降って行った。
そして、俺はこの後に悪夢を見ることになった…。
………
……
…
再び地下へと戻ってきた俺に課せられたことだが…戦闘訓練だった。
残り2人の爺さん…大神 牙皇と紅蓮 焔鷲って名前の爺さん達はさっきの俺の戦いを見ていたらしく、大神の爺さんは肉弾戦、紅蓮の爺さんは剣術を指南してくれるそうだ。
さらにキメラを誰かに届けた時満の爺さんも加わり、正に地獄の訓練を味わってしまった…。
元々バスケ部でそれなりに体力には自信があったのだが、それを上回る基礎鍛錬から実戦形式での模擬戦で徹底的に叩きのめされてしまった…。
ちなみに時間は朝の10時頃~夕方の4時頃までで、途中休憩もあったが…全く疲れが取れなかった。
さらに夜には夜で、俺がパンドラ内で銃も扱っていたことから帝崎 瞬弐さんに銃の扱い方や専門的な用語を教えられてしまった。
まぁ、もし銃があったら使えるかもしれないからいいんだが…。
確か、銃弾じゃキメラに通用しなかったのでは…?
そんなこんなで一日を費やしてしまい、深夜になる頃には宛がわれた部屋で爆睡してしまったのだ。
そして、夜が明けて翌朝になると…さらなる展開が俺を襲ったのだった。
「ぐぅ…がぁ…」
それは唐突だった。
ウィィン…
部屋の自動ドアが開く音と共に…
「翼! 起きて! 深おじさんが大事な…報告が…ある…って…」
雅のものらしき声で意識が強制的に浮上してきた…。
しかし、途中からなんだか勢いが減ったような…?
「んぁ? なんだ? 雅?」
俺は起き上がろうとすると…
むに…
何やら柔らかいものに手を付いたらしい手応えが…?
「?」
はて、ベッドにしては弾力があまりないようにと思って死線を下げてみると…
「すぅ…くぅ…」
そこには何故か俺のベッドで寝息を立てている祖ヶ原 紅音の姿があった。
そして、俺の手は祖ヶ原の胸にあった……!?
「うおおおおい!?!?」
驚きのあまり俺はベッドから転げ落ち…
ゴツッ!!
「ぐおおおお!?」
後頭部に鈍い痛みが広がり、のた打ち回ってしまう。
「んぅ…うるさい…」
目元を擦りながら祖ヶ原が起きる。
「紅音! なんでアンタが翼の部屋にいるのよ!!」
そんな祖ヶ原に雅が近寄って怒鳴っている。
が、俺もその疑問には賛成である。
しばらく、祖ヶ原の回答を待っていると…
「なんでって…」
祖ヶ原は首を傾げて俺を見てから…
「彼、"シュナイゼル"だから」
「なっ!?」
「………は?」
祖ヶ原の答えに俺は驚き、雅はぽかんとした表情を見せていた。
その直後、俺は痛みを忘れて祖ヶ原に詰め寄った。
「何で俺のアバター名を?!」
「調べた…」
「調べたって…どうやって!?」
「ハッキング」
「ハッ…!?」
「それと…EXTREME内の監視カメラと、出現するアバターとの時間関係も調べた…」
ええええええええええ!?!?
俺は色々な意味で目の前の少女がなんなのか疑問で頭がいっぱいになりそうだった…。
「シュナイゼル…? え? じゃあ、翼が…?」
雅は雅でぶつぶつと何か呟いてるし…。
てか…
「いやいやいや! それだけで俺のベッドに潜り込む理由にはならないだろ!?」
そもそも論点がズレていたが、祖ヶ原が俺のベッドにいたことが問題だろう!
一応、俺も男なわけですから。
「問題ない」
「いや、世間体的に問題ありだろ!」
祖ヶ原の言葉に間髪入れずに突っ込む。
「……ダメ?」
その小動物のような仕草に少し心が傾きかけた。
くっ…流石は七姫の1人…不覚にも可愛いと思ってしまった…。
いや、事実、可愛いとは思うが、それとこれとは話が別だ!
「雅! で、結局何の用だったんだ!?」
話を逸らすために俺は雅に声を掛けた。
「え? あぁ! そうだったわ。深おじさん…紅音のお父さんが皆を集めろって…翼も含めてね」
「俺も?」
「当たり前でしょ。あのご年配トリオの他だとアンタしかキメラを倒せないんだから…」
さいすか…。
俺も一応の戦力に数えられてるのな…。
「わかったらさっさと着替える! 紅音も自分の部屋に戻って着替えなさい!」
「…わかった」
雅の言葉に祖ヶ原は俺の部屋から出て行ったが…何故か、雅は残っていた。
「どうした?」
「ねぇ…さっき紅音が言ってたこと…ホントなの?」
祖ヶ原が言ってたこと?
あぁ、アバター名がシュナイゼルってやつか?
「あんな堂々と言われちゃ隠す気もなくなるが…そうだよ。一応、俺のパンドラ内でのアバター名はシュナイゼル。刀と銃を使って…」
俺が細かく説明しようとしたが…
「知ってる」
「はい?」
何故か、雅はそんなことを言い出す。
「もしかして…お前もハッキングを…?」
「そんなわけないじゃない! 何度も対戦してるから知ってるのよ!!」
「何度も対戦?」
最初に助けた時、雅はEXTREMEから出てきたからゲーセンのゲームかパンドラをやってた可能性が高いと思うが…。
俺と何度も対戦?
そうなってくると、最近頻繁に対戦してる相手と言えば…?
「ネビュラロード?」
俺が疑問のように雅に聞くと…
「そうよ。あたしがネビュラロードよ! なんか文句あんの?!」
なんか怒鳴り気味に言われてしまった…。
「いや、別に文句は無いが…意外というか、なんというか…」
こうやって事実を知ってしまうと何ともどうしたらいいのかわからんくなってしまう。
「あ~…どう言ったらいいのかな? 別に気にしちゃいないというか…」
リアルを知ってしまうとゲーム内での態度が取りにくいというか…
「何よ。ハッキリしなさいよ!」
俺の態度に雅も痺れを切らしそうであった。
「まぁ、結局のところ別に気にしなくてもいいんじゃないか? 負けず嫌いなのは間違いなさそうだし、なんか雅の事を知れて良かったよ」
俺がそう答えると…
「なぁっ!?/////」
雅が顔を真っ赤に染めていた。
「大丈夫か?」
「っ! 大丈夫よ!!」
そう言うと雅は部屋から出て行こうとしたのだが…
「さっさと着替えて来なさいよね!」
それだけ言って今度こそ部屋を出て行ってしまった。
「さっさと着替えるか…」
俺は部屋に置いてあった服に着替えた。
何故か真新しい制服へと着替えた後、俺は部屋を出ようと思ったが…。
ふとキメラ襲撃の日に拾ったビー玉っぽい物の事を思い出して、それを昨日まで着ていた制服から取り出すと、それを改めてズボンのポケットに入れてから部屋を出た。
しかし、たった一日で地下基地の通路を覚えられるわけもなく、俺はSMPTに送られた大まかなデータを頼りにブリーフィングルームとやらに一人で向かうことになった。
「こ、ここか」
やっとの思いで見つけた頃には部屋を出てから既に30分は経過していた。
ウィィン…
SMPTをドア横のセンサーに向けると自動ドアが開く。
「遅い!」
中に入って出迎えられた時の第一声がそれだった。
「いや、無茶言わんでくれ」
こちとら昨日やって来たばかりの新米よ?
そう簡単にこんな複雑な通路を覚えられるか…。
「そんなもん気合で覚えろ、気合で!」
「そりゃ無茶ってもんすよ、大神先輩」
「んだと!?」
大神先輩に胸倉を掴んで持ち上げられる?!
って、スゲェ力だな!?
「見苦しいですわよ、稀羽さん。自分がわからないからって他人に当たるなんて…」
そう挑発気味に言ってきたのは竜胆先輩だった。
「あの、話が見えんのですが…?」
何故、大神先輩が怒っていて、竜胆先輩がをれを挑発するのか、その意図が見えずに俺は尋ねていた。
「あ~、君が絶氷牙に選ばれたって翼君?」
そこに割って入ったのは寝癖のついた銀髪と紅い瞳に白衣を羽織った出で立ちの男性だった。
「え、えぇ…あなたは?」
「僕は祖ヶ原 深。祖ヶ原家の当主もやってる科学者だよ」
そこまで聞いて俺は見覚えがあるような気がしてた目の前の男性のことを思い出した。
「あ! あの魔法があるとか言ってた学者さん!」
そういや、俺もなんてファンタジーなって面白半分で記者会見を見たっけ…。
「キメラの登場してから発表させてもらったからね。まぁ、どこまで信じてもらえてるかまでは知らないけど…」
うっ…顔に出たかな?
そんなことを考えていると…
「さて…全員揃ったことだし、また一から説明しますか」
そう言うと祖ヶ原博士…でいいのか?…はブリーフィングルームの正面、大型スクリーンの方に歩いて行った。
見れば、俺以外の人物…祖ヶ原を除いた大神、白雪、竜胆、帝崎、鬼島、紅蓮の七帝族の現役当主と、黒鋼の七姫の計13人が座って待っていた。
俺は…なんだか作為的に空けられているような感じの…一番前に座る雅の隣の席へと着席した。
「ふんっ」
そんなあからさまに機嫌悪くされてもなぁ…。
「巫女との関係はまだまだみたいじゃな」
「女に手綱、握られてるようじゃまだまだ」
「情けない」
一番後ろの席にいる爺さん三人衆の声が聞こえてきたが、気にしないことにした。
つか、巫女とか一体何の話だ?
「では、まずはこれを見てくれ」
室内が暗くなると、スクリーンに昨日倒した羽根つきライオンの…解体、というか解剖した後っぽい映像が出てきた。
「昨日、こいつを解剖して分かったことなんだが、やはりキメラや合成獣というだけあって複数の動物の体組織が検知されてな。骨格もベースとなっている動物のものとほぼ同様だ。だが、機械の部分は人為的に移植された…いや、正確には補うようになっているか」
「補う? それって今でいう人工骨格とかと同じってことですか?」
祖ヶ原の説明中、俺は気になったことを聞いてみた。
「その解釈で構わん。その人工骨格、もしくは人工外殻を合成獣として機能させるために使ってるという感じだな。ここまではいいか?」
「まぁ、何とか…」
俺以外のメンバー(大神先輩を除いた)は黙ってるあたり、もう聞いた話なんだろうな…。
「で、この機械部分に武装を取り付けて軍事利用したのが今、僕等が陥ってる次元開戦なんだろうね。あくまでも推論の域を出ないんだが…」
「それって…誰かが地球を狙ってるってことなんですか?」
祖ヶ原博士の言い回し方はそう言ってるように聞こえた。
「さてな。推論の域を出んと今さっき言ったろ? それ以上はわからん…それに敵は物言わぬ…というか人語を介さない獣だよ? 聞くだけ無駄ってもんさ」
それ以上の説明はせず、スクリーンの映像が変わった。
「それで、これがキメラの使ってた武装…近代兵器よりも数段上を行く代物だ。正直、僕でも解明には一年以上は欲しいかな。金属は未知の物質だし、そのくせ軽いのに頑丈とかチタンに近いのかな? まぁ、とにかくそういう類の金属が使われてるんだろうけど…問題は別。キメラの使うエネルギー源」
祖ヶ原博士がそう言うと、スクリーンに金属カプセルと…
「あ…」
俺の拾ったビー玉っぽい物に酷似…というか、まんまの物体が映った。
「どうかしたのか?」
俺の反応に祖ヶ原博士は首を傾げる。
「い、いえ…続きをどうぞ」
とりあえず、先にこいつの正体を聞いてから話そう。
俺はズボンの中に入れたビー玉を触れながら話を聞くことにした。
「これは僕が発見した魔素…それをどんな手法かは知らないが…で圧縮・凝結させて作られたと思われる球体状のエネルギー体。僕は便宜的に『魔力石』と呼称してるがね」
「魔力石…」
「あぁ。調べてみると驚くことにこいつをエネルギーにしてキメラ達は魔術。僕たちが『魔法戦術』と呼んでいるものを使っていることが分かった。具体的な調査はこれからだが…この魔力石を僕達も利用できれば少なくともキメラに対抗できると思う。まだ、仮設の段階だがね」
そう言うと室内に明かりが点き、スクリーンの映像も消える。
「これがキメラに対する概要を僕なりに立てた仮説だ」
ん?
この言い回しからすると、まだ続きがあるのか?
「ここからが本題だ。魔素、もしくは魔力石を用いた戦術。通称『魔法戦術』の理論を聞かせよう」
マジか!?
アレで本題じゃないの!?
この人の頭の中は異常だ!
常人には理解できない速度で動いてる!!
その言葉だけでそれがわかった瞬間だった。
……よくわからんが…。
「まず、魔素は大気中に存在する微粒子なんだが、今この時も僕達は吸っているが特に問題は無い。人体に有害なら既に人類は滅んでいるからね」
今さらっととんでもないこと言ったよね?!
「で、魔素を一定量まで収集することで魔力と言う概念になるわけだが…如何せん、どう魔力を集めていいのかわからないからその量がわからない。そこでキメラの使ってるエネルギー源、魔力石の出番というわけだ」
そう言って祖ヶ原博士は白衣のポケットから件のビー玉…魔力石を取り出した。
「これはあのキメラから摘出した魔力石で、調べてみると宝石や鉱石に見られる純度に近いようなバラつきがあることがわかった。これは純度が低かったから低出力の魔力しか持っておらず、おそらくはキメラが例の武装を使うために必要な部品なんだろう」
「低出力でもあの威力でこっちは押されてる訳か…」
「そういうことだ。もっと純度の高いものが見つかれば、研究のし甲斐もあるんだが…」
純度の高い魔力石ね…。
出すなら今かな?
「あの、祖ヶ原博士」
「なんだい?」
「キメラ襲撃の前…学園サボってゲーセン行く途中に魔力石っぽいものを拾ったんですが…これって使えます?」
そう言って俺はあの時拾った魔力石を取り出して祖ヶ原博士に渡した。
「ほぉ、これは…」
俺の渡した魔力石を軽く見た後…
「あとで詳しく調べておこう」
それを白衣のズボンのポケットに入れると、さらに説明が続いた。
「残念ながら僕たちは魔力石というエネルギー結晶からエネルギーを出力する術を持たない。それはこれからあのキメラに使われてる技術を解析して何とかするつもりだが…その話はまた今度に置いておこう」
キメラの技術か…。
「技術よりも先に話すことは一点。魔法戦術のことだ。魔法戦術の理論を僕なりに組み立ててみた。まず、起点となるのは魔力石。この内部に溜め込まれた魔力を…キメラは武装を介すことで発動していた」
じゃあ、アレも…?
あの時、羽根つきライオンが撃ってきた砲撃の事を俺は思い出していた。
「その他にも魔力石を複数を使うことで大規模な魔法を発動するんではないかと考えている。これは先日の地震や過去の都市戦でも観測された異常事態から推測できる。ただ、先日の地震は翼君の拾った魔力石も重要な要因だった可能性があり、不完全な発動だったのではないかと今なら考えらえる」
マジか!?
俺、結構えらいもんを拾ったんだな!?
もし、俺が拾わなかったら…
それを考えただけで背中が寒くなってきた。
「魔力石を設置する配置関係に鍵があるのかもしれないな…。ま、これも出力する技術をキメラから得ないと何とも言えないが…」
「なんじゃい、結局は技術待ちか」
牙皇爺さんが祖ヶ原博士に文句を言う。
「すみませんね。尽力はしますんで、待ってください」
祖ヶ原博士は申し訳なさそうにそう答えていた。
「後手なのは仕方あるまい。キメラの技術以外で魔力石とやらの力を使える何かあればいいんじゃがの」
時満の爺さんもそんなことを言い出す。
「そんな都合のいいもんが転がってる訳ないだろ…」
「それもそうじゃな」
牙皇爺さんの言葉に時満の爺さんも自嘲していた。
結局、その日の話はこれで終わり、解散となった。
祖ヶ原博士は俺の渡した魔力石とキメラの技術を解析しに研究室へと直行。
それについて行くのはなんでだか紅音と深弥美ちゃんだった。
他の人はどうか知らないが、俺は再び地獄の訓練へと爺さん三人衆に強制的に連れて行かれた…。
地上の様子はどうなってんだか…。