第二話『目覚めの牙・雪』
暗い…。
それに冷たい…。
俺は…死んだのか…?
でも…死んだなら、なんでこんなに体がズキズキ痛むんだ?
グッと力を入れてみるとより一層痛みが増した?!
「痛ってぇ……てことは…まだ、死んでない…?」
そう口にした途端、急に節々が痛くなってきた…。
「いででで……え~っと、どうして俺は…こんな場所に…?」
周りを見渡せば時代遅れの切石積みで組まれたらしい広い空間にいた。
しかもなんか知らないが、妙に寒い気がする…。
天井を見上げると、亀裂が入ってそこから弱々しいながらも陽の光が俺の所へ差し込んでいた。
てか、どんだけ深いんだよ?!
俺もよく生きてたな!?
自分の生命力、もしくは運に驚愕を覚えてしまう。
が、すぐにその理由も分かった。
ちゃぷっ…。
「冷たっ!? つか、なんだこの水は!?」
たった今気づいたが、俺はどうもこの空間内の半分くらいまで溜まっていた水の中へと落ちたらしい。
けど、あんだけ高い位置から落ちたため、全身がかなり痛い。
てか、こんな水浸しの状態じゃ、道理で寒いわけだ!
唯一の救いは天井から(土煙っぽいが)空気があることか。
それにしても…
「すんげぇ透明度だな…」
見た限り、水の透明度は底まで見えるくらいである。
しかも不思議なことに天井が割れて土や岩が落ちているにも関わらず汚れた様子もない。
「街の地下にこんな場所があったなんてな…………あ!」
そこで俺は街の状況を思い出した。
「こんなとこでのんびりしてる場合じゃない! あの子を助け………」
そこまで言ってはみたものの…正直、何をどうしたらいいのかなんて俺には分からない。
そもそも…キメラに生身で挑んでも死ぬのが目に見えている…。
俺は…いや、人類はあまりにも無力だ…。
科学技術がいくら進歩しようと…それが通用しない存在が現れ、たった1年ちょっとで地球の約1/3がやられてしまった…。
そう、それが現実。
日本という比較的平和な世界で暮らしてきた俺に一体何ができるってんだ…!
「ちくしょう!」
バシャン!!
そこまで考えたら無性にイラついてしまい、水面に拳を叩きつけてしまう。
その時だった…。
『じゃあ、諦めろよ』
「っ!?」
突然、誰かの声が俺の耳に届く。
いや、誰というか…。
『別にいいじゃん。どうせ、誰も助からない…結局はキメラに殺されるのがオチなんだよ』
水面に映る俺の口が勝手に動き、俺に向かって呟き掛けてきていた…!?
そう…それは紛れもない、"俺の声"だったんだ。
「で、でも…だ、誰かが助けに…」
思わずそう返して否定しようとするが…
『誰か? 警察か? それとも軍隊か? 有り得ないでしょ…どうせ、政府なんて自分の身勝手で軍を動かすだろうし…襲われたってことは必ず侵入経路があるはずだ。それを見つけるか、対処しない限り助けなんて来ないだろ。もしくは無意味と分かっていても外の監視を続けるかだ』
そう水面に映った俺は続けた。
しかし、その言葉は…
『それにだ。自分可愛さに我先に逃げ出す奴だって出てくる。人間なんて…そんなもんだろ?』
間違いなく、俺が心の中で思っていたことである。
この緊迫した状況で幻聴…いや、幻覚でも見てるんだろうか?
『幻覚? 違うね。俺はお前だよ。お前の本心だ』
「っ!?」
考えた瞬間、水面の俺が嫌味な笑みを浮かべて俺に言い放ってきた…。
「ち、ちが…」
『違わないさ。あの時、EXTREMEのビルから出てキメラを見た瞬間から思ってた。変な希望を持つのはやめて諦めて死のう。それが俺の運命だったんだ、ってな』
「---ッ!!?」
確かにそうだ…。
俺はあの時…諦めた…。
キメラに…どんな方法で殺されてしまうのか…。
それだけが脳裏を過ぎっていた…。
そう考えるにつれ…水の中に引き込まれていくような感覚になった。
『いずれにしろ死ぬんだ。ならキメラに惨殺されるよりかは溺死する方が綺麗に死ねてマシだろ?』
沈むにつれて近くなる水面に映る俺の声に俺は諦めの感情が強くなっていく。
そうかもな…。
いっそ、誰もいないこの場で死んだ方が……。
そこまで考えて、ふと思い出した。
誰かは知らないが…俺は少女を助け、EXTREME内の電子掲示板にメッセージを送った…。
なんでだ?
なんで、俺はそんな無駄なことを…。
『別にいいだろ? どうせ、みんな死ぬんだ。ならもうお前にも関係ないだろ?』
俺の考えを遮るように、俺の影はそう呟く。
関係ない…。
…………本当に、それでいいのか?
俺は思い出す。
俺と変わらない歳くらいで…変な格好をしてた…あの少女の事を…。
きっとまだ…必死で逃げてるはずだ…。
それを俺は見捨てるのか…?
『仕方ないだろ? お前も考えてたはずだ。自分は…人は無力だってな』
そうかもしれない…でも…!
『でもじゃない。もう死んでるかもしれないだろ?』
もう首まで水の中に沈んだ頃に俺は俯いてた顔を上げた。
「まだだ…まだ死んでるとは限らない!」
『何故、そう言い切れる?』
「そんなのに…理屈はいらねぇんだよ!」
俺がそう信じたいだけでもいい…!
俺は彼女を助けたい…!
そこに理屈なんてない…ただ、助けたいだけなんだ!
『なら、お前は世界を救えるのか?』
俺の心に思い浮かんだ想いに対して影がそんなことを言ってきた。
「世界なんて知ったことかよ! 俺は…目の前で助けられる命があるなら、それを全力で守りたい!」
それが俺の偽らざる気持ちだ!
俺がそう叫んだ瞬間…
『世界なんて知ったことか、ですか…』
俺の影がいきなり女性の声に変化した!?
『しかし、目の前に救える命があるならそれを全力で守る…その言葉は気に入りました』
さらに影は次第に俺の姿から女性の姿へと変化していった!?
ビュオオオ…!!
変化していくと同時に、奥の方から冷気の突風が吹き荒んできた!!?
嘘だろ?!
ここ室内で風の吹く場所なんて…。
しかもめっちゃ冷たい!!
水が凍るんじゃないかと思えるくらいの冷気が室内を襲う中…
カツン…ピキ…カツン…ピキ…。
足音と共に氷が張るような…そんな不思議な音が俺に近づいてくる。
そして、足音は俺の手前で止まると…
『お初にお目に掛かります。とは言っても先程まであなたと対話していましたが…』
そう言って凍り付いた水に立ち、俺の目の前にいるのは女性だ。
髪は白銀、瞳は瑠璃色、端整で綺麗な顔立ちに肌は白く、瑠璃色の帯で締められた白い着物を纏っていたる。
「あ、アンタは?」
『そうですね…"白雪"、とでも名乗っておきましょうか』
俺が尋ねると、女性は少し考えた仕草をしてからそう答えた。
「白雪?」
何処かで聞いたことがあるような名前だったのでついつい聞き返してしまった。
『はい。しかし、のんびりもしていられませんよ?』
その言葉に俺もハッとした。
「そうだ、こんな場所でそんなことしてる場合じゃ…」
『こんな場所とは随分と失礼ですね。一応、ここは神域であなたが勝手に入ってきたのですが…』
「神域? つか、勝手も何も…」
白雪の言い分に腹が立ったので、割れた天井を指差し…
「こんなもん、不可抗力だろ!!」
『生きていることすら奇跡に感じますね』
「ほっとけ!」
それは俺も不思議でならんがな!
『ともかく、ここから出るのですね?』
なんか流されたぞ!?
けど、ここは我慢だ…。
「あぁ…けど、どう出るんだよ?」
『正式な出入り口はありますが…時間や色々と面倒事になりますので、ここを登るしかありませんね』
他にもあるのかよ!?
けど、面倒事ってどういうことだ?
てか…
「ここを、登る?」
『はい』
そう聞き返したら即答された。
「俺が?」
『急いでいるのでしょう?』
「そりゃそうだが…」
改めて割れた天井を見上げるが…とてもじゃないが、急いで登れるような高さ(それとも深さか?)じゃない。
クライミングして登るしかないだろうが、その時間すらも惜しく感じる。
そもそも、俺にそんな技術はないが…。
すると…
『あ、そうでした。これをお渡しするのを忘れていました』
白雪はそんなことを言い出す。
なんだ?
途端、白雪の周りに白い霧が立ち込め始める。
『我が御魂は汝と共にあり、我が力は汝の力とならん。我が真名は絶氷牙。我は冷気、氷、治癒を司る刀なり。我は汝…』
そこまで唱えると、白雪は俺を見詰める。
俺はそこで名前を名乗っていないことに気づき…
「伊達…翼だ」
短くそう伝えた。
『我は汝、伊達 翼と共に歩み、力を与えよう。絶対なる氷の牙として…』
微笑みながらそう唱え終えると、白雪の姿がぼやけ始め…
『------』
何故か、瑠璃色と白の鯱の姿が白雪に重なって見えたと思ったら…
ピカッ…!!
一瞬の閃光が視界を奪い…
パァンッ!!
閃光が弾ける音と共に白雪は消え、俺の目の前にあったのは…
「刀?」
瑠璃色の鞘に収まった日本刀が水に浮かんでいた。
俺はその日本刀を掴むと、少しずつ刀を抜き始める。
こういうのはあまり詳しくはないが…三尺(約90cm)くらいの白い刀身、鍔は雪結晶を模していて、鞘と柄は瑠璃色で統一されていた。
初めて触ったにも関わらず、なんだか妙に手に馴染むというか…不思議と違和感がないんだよな…。
あ、もしかしてパンドラで使ってたからか?
あれもあれでリアリティがあったからな……重量以外…。
そう考えながら、ふと思う。
「これでどう登れと?」
刀一本でどうやって登るんだよ!?
グッと刀を握り締めた途端…
ズキッ!
「ぐおぉぉぉ!?!?」
酷い頭痛が俺を襲った!?
だが、それと同時に俺の知らない知識が増えていくのがわかる。
「こいつは…絶氷牙? 俺に与えられた…力…?」
そういえば、さっき白雪も真名はどうとか言ってたな…。
氷と、冷気…それに治癒を司るとも…。
…………氷?
そこで俺は白雪が歩いていた水面を見る。
白雪が立っていたであろう場所には氷が張っていた。
しかし、俺は水の冷たさは感じても氷による低下は感じられなかった。
なんでだ?
そう思って氷を触るが…
「冷たっ!?」
冷たいことには変わりなかった。
「あ~もう! 考えても仕方ない!」
そう叫んで割れた天井を見上げる。
「とにかく登るしかねぇんだろ?」
自分に言い聞かせるように絶氷牙を割れた天井に向けて掲げる。
「凍てつかせ! 絶氷牙!」
ビュオオオッ!!
絶氷牙の刀身から冷気が吹き出し、割れた天井から地上へと向けて流れ出す。
ピキピキ…!
それと共に断層が凍り付き、横向きの氷柱も発生する。
「これで滑んなきゃ問題なく登れるな…」
そう言いつつ絶氷牙の刀身を水面に突き刺す。
イメージは俺の足元からせり上がる氷塊…。
ピキピキ…
ゴゴゴゴゴ…!
ザパァ!!
「お~、出来た出来た。やれるもんなんだな」
イメージ通りの氷塊…とまではいかないものの、何とか足場の確保が出来た。
これで登れる。
「よいしょ、っと!」
一番近くの氷柱に跳び、すぐに次の氷柱へと跳ぶ!
意外にも結構な強度があったので壊れずには済んだが…。
ズルッ!
「うおっ?! とっとと…」
時折、滑りそうになるのを何とか堪える!
バスケ部の跳躍力と体力、あとバランス力を舐めんなよ!!
………
……
…
グッ…ガサッ!
「ぜぇ…ぜぇ…やっと登れた…」
息を切らしながらも地割れの片側に手を掛けてよじ登る。
しかし、あの変な場所から地上まで結構な距離があったため、正直もうヘトヘトだ…。
「しっかし…俺も…よく、生きてたもんだ…」
さて、状況は…?
俺は絶氷牙を鞘に戻してから側に置くと、胡坐を掻いて座ってSMPTを操作して状況を探ろうと試みた。
が、情報が混線状態で何が何だかサッパリわからん。
唯一、わかったのは七帝族がキメラの目を盗んで重軽傷者の確保や市民の誘導を率先して行っていることくらいか…。
流石は七帝族…やることに余念がない、というか…どうやってんだか甚だ疑問だが…。
ともかく、キメラは未だに暴れているらしく…七星町内は結構な建築及び人身被害が出てるみたいだ。
あの子はまだ無事だろうか?
今一度、彼女の事を思い出す。
帽子を深く被っていたが、綺麗な銀髪が少し飛び出してた。
俺よりも少し背は低くて、逃げる時に持って走った感じからすると着痩せする感じか?
どっかで見たような気がしないこともないが…よく思い出せない…。
俺がそんな考えをしていると…
ベチャァ…
「あ?」
なんか超気持ち悪い感触が頭の上から降り続け、心なしか血生臭い…。
物凄く嫌な予感がしたが、見ない訳にもいかないので振り向いてみることにした。
そこで俺が目にしたのは…
『グゥゥ…』
虎の頭と尻尾、熊の胴体と四肢に手足の先と尻尾の先が鋭利な刃物の改造を受けたキメラが俺の見て血の混じった涎を垂らしていた…!?
ジジジジ…!
「げげっ!?」
そして、よくよく見たらトラクマだけじゃなく、頭と胴がコンドルで残りがカマキリになってて鎌の部分が刃物と化してる個体も複数いた。
「もしかしなくてもピンチだよな…」
しかし、不思議なことにこれといって取り乱せなくなっていた。
何故か…。
きっと絶氷牙があるかもしれない…。
俺は絶氷牙を手に持つとパンドラ内で銀月を振るっていた感覚を思い出しながら構える。
とは言え、俄仕込みの格好だけで何をどうしたらいいのかサッパリだが…。
とにかく、やるしかないんだよな…。
さっきもそうだが…イメージが大事みたいのようだからな。
思い浮かべるのは冷気を纏いし刀の姿…。
『オオオオッ!!』
俺の空気が変わったのを察したのかトラクマがその強靭な腕を振るって襲い掛かってきた!
「うおおおおっ!!!」
気合の咆哮と共に俺は鞘から刀を抜きながらトラクマの爪を迎撃する!
ギィンッ!!
絶氷牙と爪がぶつかり合い、火花が散る!
流石に重い一撃だから軌道を逸らすので精一杯だ!
だが、それでいい!
『ガァッ!?』
まさかの反撃にトラクマも驚いたようだったが、それもすぐに終わる。
『ガオオオオ!!!』
激怒した様子のトラクマが怒涛の連撃を俺に向かって放ってくる!?
「ぐっ!?」
細かいバックステップを使って何とか避けるが、また地割れに落ちても嫌なので路地裏から公道へと出る。
出た瞬間、俺はほぼ廃墟と化しつつ七星町の様子が見えたが…今はそれに構ってる暇がない!
『キュィィ!!』
さらに路地裏に続く隙間からカマコンドルの集団が出てきて俺に襲い掛かってくる!
「え~っと…吹雪よ!」
空に向かって刀を薙ぎながらそう叫ぶ!
ビュオオオオッ!!
それに答えるかのように薙いだ空間から吹雪が発生してカマコンドルに襲い掛かった!
『ガオオオオッ!!!』
その隙にトラクマが四足歩行で迫ってくる!!?
「アイスロード!」
何となく道路が凍れば滑りやすくて移動しやすい気がしたで思った言葉を口にして絶氷牙を道路に向けて振るう。
キンッ!
思った通りの氷の道路が一瞬にして完成したので、左手に持ってた鞘をスキーのスティックみたいに使って正面のトラクマへと向けて滑る!
ネコ好きとしては心苦しいが…つか、こんな虎は嫌だ!!
なんだか、無性に腹が立ってきたので一気にイメージを固めた。
『ガアアアア!!』
「エセトラがぁぁ!!」
互いに咆哮を放ちながら、トラクマは尻尾の刃を、俺は絶氷牙を構えた。
ヒュッ!
トラクマの攻撃が先に放たれるも…
ギンッ!
俺は鞘を氷で覆い、その攻撃を防ぎ…
「凍てつけ! 氷河一閃!!」
ズザァンッ!!
気合咆哮、そう叫んですれ違い様にトラクマに一閃を決める!!
「…………」
少しの沈黙の後…
『グ、ギャァァァァ!?!?!?』
トラクマの悲鳴が木霊すると共に…
ドスンッ!
重たい音が後ろからしてきた…。
「………ぷはぁ…はぁ…はぁ…」
緊張の糸が切れたみたいに一気に疲労感が俺に襲い掛かってくる。
まだまだ、これからだってのに…。
『シャアアア!!』
こ、この耳障りな声は…!?
声の方角を見れば…
「ぐっ…ぅぁ…」
羽根つき蛇があの少女を尻尾で捕まえて空中で締め上げていた!?
「っ!!」
さっきまでの疲れも忘れ、俺はその場から走り出す。
『キュィィィ!!』
俺の発生させた吹雪に曝され、1/3が凍った状態のカマコンドル達が俺へと向かってきた!
「邪魔だ!!」
俺は鞘を持つ左手をカマコンドル達に向けると…
「貫け! 絶氷弾・散!!」
俺は散弾をイメージした氷の飛礫を放った!
『キァアアア!?!?!?』
俺の放った氷の弾丸はカマコンドルの胴体に数穴を空けて撃墜していく!
「マジかよ!?」
正直、こんな簡単に撃墜できるとは思っておらず、俺は困惑してしまった。
が、今はそんなことをしている場合ではない!
「さっきの恨み、晴らさでか!」
いつの時代だったかこんな言い回しがあったはず…。
地割れの中に落とされたおかげで絶氷牙というものを手に出来たわけなんだが、それとこれとは別問題だ!!
俺は駆け出しながら刀を鞘に戻し、抜刀術(ゲーム内での感覚を基にした付け焼刃的な模倣)の構えを取る。
「行くぜ!!」
今度はスケートの要領で氷の道を滑り、一気に羽根つき蛇の元へと迫る!
「はぁ!!」
俺は氷の足場を作ってそこから跳ぶと、刀を一気に鞘から抜き放つ!
ギンッ!!
そんな音と共に俺は公道に着地しながらカチッと刀を鞘に収める。
そうした後、俺は急いで羽根つき蛇に締め上げられている少女の真下に移動する。
ズズ…ボトリッ…。
羽根つき蛇の頭がズレ、それが地面に落ちると…
ブシャアアア…!!
勢い良く緑色の体液が噴き出す。
それと共に翼や尻尾から力が抜けたのか、残りの残骸が少女と一緒に落下してくる。
ボフッ!
俺は上手く少女をキャッチすると、その反動で…
パッ…フサァァ…
少女の被っていた帽子が取れて、長くて綺麗な銀髪が解放された。
「けほっ…けほっ…」
科羽根つき蛇から解放されて咳き込む少女を改めて見て思い出した。
「白雪、雅…?」
同じ黒鋼学園の生徒…黒鋼の七姫が一人『白雪姫』と称される優等生の一角であった。
………
……
…
あの後、雅(白雪だと絶氷牙の時に見た人と間違いそうだからな…)が意識を手放してしまったので俺は一先ず、雅を介抱するためにあの場から近くにあったホテルへと身を隠すことにした。
正直、ホテルは半壊に近いものだったが、無事な部屋が一つあったのでそこで何とかすることにした。
俺も羽根つき蛇の噴き出した体液も綺麗にしたかったし、贅沢は言ってられなかった。
雅をその無事な部屋のベッドに寝かせると、一応カーテンを閉めてからホテル内の捜索を行った。
もちろん、絶氷牙を持ってだが…。
30分くらい捜索して集まったのは使えそうなタオルが10枚ちょっと、ミネラルウォーターのペットボトルが、小型ライトが1個に非常食が少しくらいだった。
それらを偶然見つけたバックの中に詰め込んで部屋に戻ることにした。
しかし、部屋に戻った途端…
ぼふっ!!
「むぐっ!?」
物凄い勢いで枕が俺の顔面に直撃した!?
「何しやがる!」
枕を取っ払うと投げた張本人に怒鳴る。
「うっさい! それはこっちの台詞よ!」
なんか怒鳴り返された。
そして、何故か雅はベッドのシーツで自分の体を隠すようにしてこっちを睨んでいる。
何故かもくそもないが、絶対に誤解されてることだけは瞬時に理解できた。
「待て。確かに場所も悪いが、俺はあの蛇野郎からお前を助けたんだぞ?」
俺は弁明のため、さっきの状況を教えようとしたのだが…
「それに関してはありがとう。けど、だからってこんな場所に連れ込んで…」
取りつく島もない、とはこのことか?
「第一…アンタ、地割れに落ちてたわよね? どうやって助かったの? それにあたしを助けたってどうやって?」
噂に聞く白雪 雅とは随分と印象が違うな…。
ちなみに噂とは容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、品行方正のと絵に描いたような優等生で、教師からの信頼に厚く、生徒からも慕われているというものだったりする。
まさか、猫でも被ってたのか?
それはともかくとして…
「それは…」
一気に質問攻めに遭い、俺としてもどう説明したものかと悩んでいると…
「……っ!?」
雅の眼がある一点を注視していた。
「? どうした?」
その眼を追ってみると、視線の先には俺の持つ絶氷牙があった。
「こいつがどうかしたのか?」
そう言って絶氷牙を見せるように前に出すと…
「ど…」
「ど?」
「泥棒ーーーーッ!!!」
いきなりそう叫ばれてしまった?!
「は…?」
思わぬ言葉に俺は呆けるしかなかった…。