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第一話『偽りの平和』

西暦2091年、季節は夏、七星町。


朝…。


「ぐぅ…がぁ…」


ではなく、午前中の授業中である。


「だぁてえぇぇぇ!!」


「ふが…?」


昼休みも近いこともあってか俺こと『伊達(だて) (つばさ)』は堂々と寝入っていたのだが…どうも普段から怒りっぽい社会の先生に怒鳴られたようだ。

その怒鳴り声のせいで俺も変な声を出しながら目を覚ました。


「『ふが…?』じゃない!! わたしの授業中だというのに良い度胸だな?」


「ふわぁ~…だって先生。これでも朝練で早かったんよ? だから少しばかり見逃してくれてもいいじゃん」


そう言うと俺は両手を後頭部辺りで組んでから椅子の背もたれに体を預けて再び寝ようと試みた。


「だから寝ようとするな!!」


「~~っ。そんな近くで怒鳴んないでよ」


やれやれ、真面目で怒りっぽい先生だな…。

俺に構わず、さっさと授業を進めればいいのに…。


リーンゴーン、リーンゴーンカーンコーン…。


聞き慣れたチャイムの音が響き渡る。


「ほら、終わっちゃった」


「何が、"ほら"だ!」


そう言って先生は怒ったまま教壇へと戻っていった。


「次の授業までにしっかりと予習をしてくるように!」


そして、怒鳴り口調のままそれだけ告げると、さっさと教室を出ていってしまった。


「あらら…ご機嫌ななめだなぁ」


呑気にもそう言っていると…


「いや、お前のせいだろ?」


金髪に蒼い瞳をした長身の日系アメリカ人(但し、日本生まれの日本育ち)のジャンが呆れたように言ってきた。


「そうそう」


ジャンの言葉に頷いているのは茶髪に黒い瞳をした日本人の一哉(かずや)だ。


2人共、クラスメイトで俺と同じくバスケ部に所属しており、ガタイもそれなりにガッチリしてる(俺はあんま肉が筋肉になりにくいからな…)。

ポジションはジャンがセンター、一哉がパワーフォワードを担当している。

ちなみに俺はセンターフォワードをやってる。たまにシューティングガードも兼任してる(理由は単純に得点稼ぎにちょうど良いからだ)。


「それよかさっさと飯食いに行こうぜ。俺もう腹減ったわ」


「確かに。朝練後に軽食を取っても昼前には空くものは空くな」


「だな」


一哉の言葉にジャンも同意し、俺も席を立ちながら頷いた。


………

……


「今日の日替わりメニューはな~にかな、っと」


教室を出て食堂へと向かう廊下を歩きながら俺は昼飯のことを考えてた。


「翼は相変わらず自由だな」


「世界は随分と混乱してるのにな」


一哉とジャンは呆れたような口調で俺に言う。


「キメラのことか? ぶっちゃけあんま実感ないんだよな…」


2人の言いたいことが何となくわかったのでそう答えた。


「そりゃまぁ…確かにそうだけどな」


「赤道よりも上はまだギリギリ戦場になってないもんな」


その答えに2人は互いに苦笑いを浮かべる。


キメラ…正式名称『サイバネティック・キメラズ』。

他にも『合成機獣』なんて呼ばれているけどな。

一年前、南極圏に発生した次元の裂け目…そこから現れたのがキメラである。

その由来は神話に登場するキマイラという合成獣のように様々な生物の特徴を合わせ持ち、体には機械化されたような痕跡が如実にあることからそう呼ばれている。

未知との遭遇とかで一時は凄まじい話題になって使節団の派遣とかもあったみたいだが…。

結果として使節団はキメラの攻撃によって壊滅。

しかも生放送で世界中に流れたもんだから各国の示しみたいなもんがつかないとかどうとか…。

それで一回は全世界は連合を組んでキメラに戦いを挑んだものの惨敗。

キメラは北上するように地球への侵攻を開始した。

これが世に言う『次元邂逅』の流れであり、『次元開戦』の引き金だったんだろうな。


次元開戦後、キメラは南アメリカ、アフリカ、オーストラリアの三大陸を北上して赤道付近まで攻め入ってきたのがつい最近。

たった一年で地球の約半分近い割合がキメラに取られたことになる。

戦略ゲームならそろそろ反攻作戦でもしないとヤバい辺りか。

ま、問題としてはこっちの兵器が全く通用しないとか…ネットの噂になってたけど…正直、真偽のほどもわからんし、一般人の俺達には知らんことだ。

そういうのは国のお偉方に任せるべきだ。

それでもダメなら………ま、それまでの人生だったのかね。


………

……


「くはぁ~、食った食った」


お茶の入ったミニペットボトルを片手に俺達は食堂を後にしていた。


「お前って相変わらずよく食うよな」


「それで太らねぇんだから不思議だよな」


俺の後ろからジャンと一哉が不思議がっているが、そういう体質なんだから仕方ねぇだろ。


「あ~、午後の授業は面倒だな……サボるか?」


お茶を一口飲んでから後ろの2人に聞いてみる。


「悪ぃ、俺はパス」


「一哉は英語苦手だもんね」


それなりに真面目な一哉だが、英語は苦手で英語の授業だけは必ずと言っていいほど休まない。


「ジャンは?」


「俺も残るよ。あまり大勢でサボって先輩達に迷惑をかけたくないしね」


ジャンはジャンで部活の事を考えての事らしいが…。


「それじゃあ、まるで俺が先輩方に迷惑掛けてるみたいじゃないか」


そう言いつつも俺は下駄箱の方へと歩いていく。


「バックとか頼むわ。部活くらいには戻るからさ」


「はいはい」


ジャンの返事を聞くと、外履きに変えて俺は学園を抜け出した。


…………

……


黒鋼学園(くろがねがくえん)

俺達の通っている学園で、幼稚園・初等部・中等部・高等部と結構規模のデカい施設だ。

基本的にはエスカレータ式なので知ってる学生の数もかなり多い。

部活動も盛んでいくつかの部は全国大会にも出場経験があるくらいには強い。

その中の一つには俺が入部している男子バスケ部も含まれており、俺やジャン、一哉もベンチ入りしていて交代要員として活躍しているが、三年の先輩達が引退したら俺ら3人は即レギュラーだと顧問の先生は言ってた。

まぁ、悪い気分ではないけど…部長やキャプテンだけは勘弁してほしいかな…。

仕事とか部活連の出席とか面倒そうだし…。


それはそれとして…俺は行きつけのゲーセンに行く途中である。


「さ~て、今日は何すっかね」


いつものように近道を使おうと裏路地を歩きながら何のゲームで楽しむか考えていた。


すると…


コツンっ…


「んぁ?」


何かが足先に当たったような感覚が…?


下を見ると、何やら丸っこい宝石っぽいものが転がっていた。


「なんじゃこりゃ?」


拾ってみるとその重さと透き通り加減だからビー玉だと思った。


「にしても、なんでこんな裏路地にビー玉なんぞが落ちてんだ?」


しばらくビー玉を見つめながら考えたものの、特に答えが出るわけでもなかった。


「ま、いっか。どうせ拾いもんだし…」


ビー玉を制服のポケットに突っ込むとゲーセンへ向けての歩みを再開した。


…………

……


「さて、パンドラに行く前に軽く肩慣らしといきますか」


俺は馴染みのゲーセン…を含んだビル『EXTREME(エクストリーム)』。

ここは七星町の東側でも目立つ場所にある7階建てのビルになっている。

1階と2階は普通のゲームセンター、3階はパンドラ専用の個室が並べられたフロア、4階はファミレス、5~7階はパンドラ・インダストリーの支部になっている。

オーナーは驚くことに俺達と同級生の『久遠院(くおんいん) 誠人(まこと)』という別クラスの男子だ。

普段は学生をしてるが、学園が休みの時は経営やら事務などを熟しているらしい。

そんな生活をしているためか授業中によく居眠りしてるが、成績はトップクラスという秀才だ。


俺はEXTREMEに入ると手始めに2階に行く。

目的はガンシューティングゲームだ。

俺がやるのは昔流行ったというゾンビ映画をモチーフにしたゲームだ。


「さてと…ニューレコードを目指すか」


俺は右手首に装着してる腕時計型の小型端末『SMPT(スマートマルチポータブルツール)』を軽く操作して電子マネーを払い、プレイ行動は二挺拳銃を選択し、それ用の二挺拳銃(ゲーム用のレプリカ)を持って装置の中心に立つと周囲に展開された立体式の投影ディスプレイを見渡す。

ちなみに銃は約一世紀近く前に使われていたという右はデザートイーグル、左はベレッタ92FSである。

このシリーズは今でも改良が重ねられて使われているらしく、海外では軍用から一般家庭用のモデルもあるとか…。


『Ready』


画面が立方体状に広がり、俺の周囲を覆うとあちこちで建物や車から火の手や黒煙が上がり、廃墟と化したビルも見え、空も暗雲によってみ覆われたような映像が展開されてよりリアルさを感じさせる。


『Go!』


その合図と共に廃墟や車の影から立体化した3Dゾンビが四方八方から次々と現れる。


「行くぜ!」


俺はデザートイーグルで目の前から迫ってくるゾンビ達の額を狙って発砲。

デザートイーグルは威力が高いからゾンビの頭部を破裂させながら貫通、後ろにいたゾンビも巻き添えにする。

それを横目で確認しながら振り返り、近づいていたゾンビをベレッタの連射で迎撃。


これで3体…まずまずってとこか。


サイドステップの要領で右前に回避行動を行うと、そのままベレッタを左後ろへと発砲。

ゾンビ3体の額を撃ち抜く。

それから襲ってくるゾンビ達を軽く誘導して密集させてからデザートイーグルを3発、発砲。

これで一気にスコアが上昇。


ある程度、ゾンビを倒したらステージが変わって今度はゾンビ化した動物が出現して襲い掛かってくる。

人型ゾンビと違い、すばしっこくて常時周辺の警戒を欠かせない厄介な目標だ。


「ちっ…!」


舌打ちしつつベレッタを常にリロードさせながらゾンビ化した犬やら鳥やらを撃ち抜いていく。


このステージは基本的にベレッタオンリーでの対処となる。

威力の高いデザートイーグルだと細かい狙いが付きにくいからだ。

その分、ベレッタは連射や小回りが利くし、リロードも常に行ってれば何とかなる。


動物ステージが終わり、移動シーン中に新たなステージになる。

今度のステージは指定された方向へと進みながらでないとゾンビの大群に遭遇してしまうという厄介なステージだ。

しかもさっきよりもゾンビの数が進むにつれて多くなるという特徴もある。


「こっからが勝負だな」


進行方向を示す矢印が現れると俺はベレッタでゾンビ達を牽制した後、そっちへと移動する。

移動すると牽制したゾンビ達に加えて新たなゾンビ達が出現する。


「邪魔だ!」


出てきたゾンビ達にデザートーグルを一発だけ撃ってあとは無視して移動する。

それを繰り返して移動ステージの最終エリアまで到達する頃には結構な量のゾンビが後ろから迫ってきていた。

しかし、このステージは後ろから迫るゾンビ達を殲滅しないと次のステージに進めない。


「ほんじゃま、とりあえず…」


最終エリアに到達してから現れたゾンビ達を二挺拳銃で片っ端から片付ける。


「さて…殲滅タ~イム♪」


リロードを行い、後ろに迫ってきたゾンビ共をこれまた片っ端からハチの巣にしていく。

ゾンビ殲滅後、最終ステージへと場が移る。


「さてと…これで最後だな」


最後に現れたのは全身の筋肉が剥き出しで手に鉄骨みたいなものを持った俺よりも頭二つ分デカい人型の怪物だった。


「うっは…意外とえげつねぇな、おい…」


俺がそう言ってると鉄骨を振りかぶって思いっきり横薙ぎ一閃を放ってきたので、素早くしゃがみ込んで避けた。


攻撃も豪快だな…。

けどその分、当たれば即ゲームオーバーか。


そう考えながら、俺はデザートイーグルで怪物の額に一発撃ち込む。

しかし、一発だけでは効果が薄いのか怪物は少しよろめいただけだった。


「流石にラスボス。耐久力が高い」


そう呟くとベレッタで鉄骨を持つ手の手首を集中的に狙うことにした。


しばらくそうして打ち続けた後…。


『グオオォォォ!!!』


雄叫びを上げながら再び鉄骨を振りかぶったのを見計らい…


ここだ!


今まで打ち続けていたため、どす黒い血が流れる怪物の手首を今度はデザートイーグルで狙い撃つ。

その結果、脆くなっていた筋肉の繊維が弾丸によって引き裂かれ、鉄骨は怪物の脳天に落下する。


『グギャ?!』


案外、間抜けな怪物なんだな…。


怪物の声を聞きながらデザートイーグルとベレッタの集中砲火で怪物の頭をハチの巣にした。


『Mission Complete』


怪物が消えると、目の前にゲーム終了の表示とリザルトスコアが現れた。


「ふむふむ…まぁまぁ、ってとこかな」


命中率、殲滅率、回避率…どれもA~Sクラスである。

但し、スコアは11位~20位以内である。


「残念だ」


そう言って二挺拳銃を戻すと俺はそのまま3階へと向かった。


…………

……


『パンドラ』

正式名『PANZER(パンツァー) DRIVE(ドライブ)』。

3年前に『パンドラ・インダストリー』という企業が発表した体感型ヴァーチャルリアリティゲームだ。

これは民間ネットワークや軍事ネットワークとは別に専用の独自ネットワーク『パンドラ・ネットワーク』を利用したサービスで、自身の感覚をネット内のアバターを専用の個室を使って同調させ、それを用いた対戦ゲームである。

大戦方法は一対一か、バトルロワイヤルに限定されるもののアバターに装備するアイテムや武器の自由度が高く、ネット内の出来事を直に知覚できるリアリティ、戦闘時の迫力ある臨場感などの要素があるため人気が高いゲームになっている。

SMPTで登録さえすれば自由に出入りできるが、専用の個室が無いとダメなので土曜や日曜には満員になるとこもある程だ。

世界展開もしていて各大陸(北極と南極は除く)に最低でも一支部があるが、去年のキメラ襲来で南半球側の支部の様子が不明なんだと…。

それでも本社はこの日本にあってネットワーク自体は生き残ってるらしい。


それはそれとして、平日なこともあってか比較的まだ空いていたので俺は3階の一室にいた。


「授業をサボって正解だな」


そう呟きながら俺は両足にアンクルバンド、両手にオープンフィンガーグローブ(以後OFG)を身に着け、頭にHMDとヘッドバンド型のヘッドフォンを組み合わせたようなバイザーを着けてからSMPTを操作してパンドラネットワーク内にログインし、装置を起動させる。


さてさて、今日はどんな相手が待ってるかな?


………

……


目の前が一瞬だけ暗闇に支配されたが、すぐさま回復してパンドラ・ネットワーク内に設定されたラウンジへとログインした。


ちなみに俺のアバターは現実と同じ背格好に髪を銀髪、瞳を右は琥珀、左は真紅という具合に変更しており、ユーザー名は『シュナイゼル』にしている。

服装は上は紅いワイシャツを着崩し、下は黒のスラックスを穿き、ロングコート状の黒衣を羽織り、コンバットブーツを履いてW字型のサングラスを掛けた姿をしている。

装備品の武器は二挺拳銃と日本刀。

二挺拳銃はトーラス・レイジングブルの"MODEL 444"と、ベレッタPx4の9mm口径モデルという一世紀近く前の代物を使用してる。

日本刀の銘は『銀月(ぎんげつ)』という刃渡り三尺の代物である。

誰が付けたかは知らんが、『黒鋼の銀閃』という二つ名まである。


さてと…じゃあ、シングルマッチでも頑張りますかね。


俺はラウンジから対戦フィールドへと移動を始める。




俺が対戦フィールド前にやってくると…


「おい、あれって黒鋼じゃねぇか?」

「げっ、マジかよ。銀閃が来るなんて聞いてねぇぞ」

「いっそバトロワで一気に相手してみるか?」

「いや、やめとこうぜ。無差別の方が強いって噂があるぞ?」

「うへぇ~…なんて化け物だよ」


そんな内容のヒソヒソ話が聞こえてくる。


つか、聞こえてんだからヒソヒソもくそもねぇか…。

あと、負けず嫌いは否定しないが…誰だって最初は負けが立て込むもんだろうに…。

ま、俺も二年前から始めたからそれなりに長いし、今でこそ強いとか言われてるけどよ。


そう思いながらシングルマッチの申請を無差別に拡散した。




しばらく待っていると、マッチング完了の知らせがきたので対戦フィールド内に入った。

そこで俺を待っていたのは…


「なんだ、またお前か」


見知った顔だったのでついついそんなことを言ってしまった。


「なんだとはなんだ!」


俺の言葉に彼…ユーザー名『ネビュラロード』は怒声を上げる。

背格好は俺よりも少し低いくらいで、背中まである黒髪と紫色の瞳に顔立ちは中性的である。

服装は俺と似た風貌だが、細部が異なっている。

上は灰色のワイシャツをキッチリと着こなし、下は2本の紅いラインが左右の縦に入った黒ズボンを穿き、ズボンと同じデザイン(襟から腕の袖口にかけて紅いラインが2本と裾沿いの部分にも紅いラインが入った)の黒衣を羽織り、両足にはターボエンジン搭載型のローラーブレードを履いた姿をしている。

装備品である武器は見るからに重そうな6門のガトリン砲を三角状に束ねた三連装ガトリングガンを両腕に括り付け、背部にはローラーブレードに搭載されたターボエンジンと連動して機動性を増すためのバックパックを背負い、さらに空間認識能力がないと装備出来ないと言われている特殊装備の一つ…独立型移動砲台、通称『フライヤー』…形状は黒い二重丸状…を四つも後ろに浮かばせている。

これを簡単に表現するなら……高機動戦車だな。


「相変わらず、顔に似合わない重装備だな…」


後頭部を掻きながら俺が改めて思ったことを口にすると…


「うるさい! 勝ち逃げなんて許さんからな! いざ尋常に勝負しろ!!」


聞く耳持たないようにそんなことを言われてしまった。


やれやれだな…。

もしもリアルで会う機会があったらどうなることやら…。


サングラスを掛けてるから表情はネビュラロードに見えないので、そんなことを考えてみた。


が…


「なんだ、その呆れ果てた顔は?!」


右のガトリングガンの銃口を俺に向けながらネビュラロードが叫ぶ。


マジか?

見えてるのか?


俺はサングラスの位置を確かめるが、ズレてる訳ではなかった。


「っ! 図星か!!」


俺の反応を見て再び叫びだす。


どうやら適当に言ってみたら俺が反応したので当たったらしいと思い込んだようだな…。

……………まぁ、いいか。


「そんなことよりもさっさと始めようぜ」


さも何事もなかったかのように俺はそう切り出した。


「その余裕、今日こそ命取りになると知れ!」


別に余裕とかないんだがな…。

第一、そんな重火器をいくつも持ってる相手に全力出さなきゃ勝てないだろ?


「はいはい」


そして、俺達が臨戦態勢となると…


『PANZER DRIVE Single Battle Ready』


お互いの目の前に画面が出現したのを合図にして…


「「Go!!」」


そう叫びながら俺とネビュラロードは同時に走り出す。

俺は距離を詰めるべく、ネビュラロードは距離を空けるために…。


だが…


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!


突然、足場がグラグラと激しく揺れ始めた!?


「な、なんだ?!」


「地震!?」


俺達は突然の地震に驚き、バトルを中断して警報履歴を調べた。


「こんな時間に地震なんて…予報すらされていないぞ!」


「このビル…確か、耐震強度が高かったはずだ。それでこれだけ揺れるとか…洒落になんねぇぞ!?」


互いに調べた情報を叫んだ後…


「一旦リアルに戻るぞ!」


「わ、わかった!」


俺の提案にネビュラロードも頷いたので互いにログアウト作業に移った。


一体、なんだってんだよ!?


…………

……


パンドラ・ネットワークから現実に戻ると、すぐさま着けてた装置を取り外して部屋の外に出る。

外に出ると、俺と同じように個室の外に出てくるユーザー達の姿がある。


つか、冷静に考えると…ネット内に入ってる俺らにも伝わる震動ってなんだよ?

本当に自然現象なのか…?


俺は無性に嫌な予感がしてきたので、階段を降って外の様子を見てくることにした。


「おい、何処に行く気だ?」


走り出す俺に店員だか警備員だかが声を掛けてくるが、無視することにした。


「君、待ちなさい!」


無視したせいか追い掛けてくるようだ。


「お、おい! どうなってんだよ!?」

「説明しろよ!」


しかし、他のユーザー達に捕まったらしく、さっきの地震についての質問責めを受けていた。


俺だって今すぐ問い詰めたいとこだが…色々と腑に落ちない事が多すぎる…。

今の時代、耐震設備なんて震度6ぐらい余裕で耐えられるし、震度7以上だって震度3程度に抑えられるはずだ。

それに地震探知もかなり発達してるから10分前には必ず警報連絡がSMPTに通達される仕組みになってる。

それらの技術進歩故に地震による被害も最低限のものに留まっているのが現状だ。


しかし、さっきの地震には警報連絡が無かった。

しかも俺達はネット内で意識を集中させていたから…多分、体が震動を受けて感覚が一時的に現実側と混同されたに違いない。

それで地震が起きたと認識出来る程にパンドラの技術も高いものを持っている。

それなのに地震の揺れを感じた…。

本当に自然現象だったのか?


そんな疑問を抱きながら俺はビルの外に出た。

そこで俺が見たのは…!?


ドゴンッ…!

ガシャンッ!!


その怪音は地震による被害ではなく…


「グオオオオッ!!」

「シャアアアッ!!」


複数の生物の特徴と、機械化された部位の体躯を持った存在が街の中で暴れまわっていた。


「なっ?! キメラ!?」


未だ赤道から上には現れていないとされているサイバネティック・キメラズが目の前で破壊活動を行っていた…?!


「ウオオオオッ!!」


「っ!?」


すぐ近くから雄叫びが聞こえ、俺は本能的に前に飛び出した。


ドゴォンッ!!


後ろから何か重たい音が聞こえてたので振り返ってみると…


「げっ!?」


さっきまで俺の立ってた場所が小さなクレーターを作ったかのように陥没していた。

しかもそれを作ったと思われるのは体長約3、4mはありそうなトカゲの頭と胴体に尻尾、ゴリラの四肢、右目や拳、足先が機械化してるやつだ。

如何にもパワータイプって感じだが…もしも俺が逃げてなかったら……。

考えただけでゾッとした…。


ともかく、俺はSMPTでEXTREME内の電子掲示板にアクセスして簡単な警告文を書き込む。


『キメラ、襲撃、危険、外出厳禁』


とは言え、俺もこの場から逃げないとならないからこんな単語しか書く余裕がなかった。

書き終わった瞬間、俺は脇目も振らずに走り出そうとしたのだが…


「きゃあああ!!」


今度は後ろのビルの方から女の子らしき悲鳴が聞こえてきた!?


「っ!!?」


驚きのあまり走り出そうとした勢いを利用して右足を軸に左後ろ向きに半回転してしまった。

結果的に状況を視界に捉える事が出来たが…。


「あ…あぁ…」


ビルの玄関前に俺と同じように出てきた少女がトカゲゴリラのキメラを見て固まっていた。

しかも最悪なことにトカゲゴリラも少女に気づいたのかそっちの方を見てやがる。


「くっそ! 書くのが一足遅かったか!」


そう悪態を吐くと、手近にあった瓦礫の石を拾い上げると…


ヒュッ!


それをトカゲゴリラの頭目掛けて思いっきり投げた。


コツッ!!


が、それほど効果があるわけではなかった。


「?」


頭をポリポリと掻きながらこちらを見るトカゲゴリラ。

しかし、俺も投げた瞬間にダッシュして少女の元へと達していた。


バスケ部、舐めんな!

これくらいのダッシュなら練習で何度もやってんだよ!


「ぼさっとすんな! さっさと逃げるぞ!」


そう言って少女の手を掴むが…


「け、けど…あ、足が…」


どうやら恐怖で立ってるのもやっとのようだった。


くっ…こんな時に…!


この状況に焦っていると…


「ウオオオオッ!!」


背後からトカゲゴリラの雄叫びが木霊する!


「考える暇さえないのかよ!!」


もう自棄とばかりに俺は少女をお姫様抱っこする。


「ちょ、ちょっと!?////」


「黙ってろ!」


何か言おうとした少女を無視してその場から逃げ出した。

当然、トカゲゴリラも追い掛けてくる重い足音が聞こえてくる。


………

……


「ぜぇ…はぁ…ぜぇ…はぁ…」


裏路地に入って何度も何度もトカゲゴリラの死角を突いて、他のキメラにも気づかれないようにしてやっと静かな場所…裏路地の一角…で座り込むと息を整えようとしてる最中だ。

いくら軽かったとは言え、流石に人一人抱えて走り回るのはしんどい…。


「ねぇ、大丈夫?」


そんな俺に隣に座っていた少女が声を掛けてきた。


「大丈夫…な、わけ…はぁ…あるか…」


俺がそう答えると…


「ごめん…あたしのせいで…」


顔を伏せながら謝ってきた。


「別に…気にするほどの事でもないだろ…」


こんな騒ぎになってるなんて…ビルの中じゃわからないし…。

しっかし、掲示板に書き込んだはいいが…どれだけの信憑性を持たせれるか…。

正直、ただの悪戯としか思われないかもしれない…。

あんな不可解な地震の後じゃ尚更……。


そこまで考えて俺は少女の方を見た。


「なぁ、アンタもあの地震は感じたろ?」


「え? えぇ、まぁ…だから気になって外に出たのよ。キメラがいたのは予想外だったけど…」


俺と似たような理由で外に出る奴も他にもいたかもしれない…。

けど、もう手遅れかもな…。

って、そうじゃなかった。


「アレって…キメラが起こしたんじゃないか?」


俺はそんな憶測を言ってみた。


「え? どういうことよ?」


少女は意味が分からないと言いたげに俺に聞いてくる。


「前にニュースかなんかであったろ? 南半球のどっかの都市がキメラに襲撃されたって…」


「あ~、そういえば…」


「その襲撃前…不自然な現象がその都市を襲ったんだってよ。どんなもんかは知らないけど…その直後にキメラの襲撃…なんか、引っ掛からないか?」


そこまで言うと…


「まさか…そういうこと?」


何となく察しがついたのか、確認するように俺の方を見てくる。


「何の確証もない、ただの憶測だがな…」


一応、そう付け足しといた。


「もし、そうならこの街は……」


「………そういうことだな」


諦めにも似た感情を抱き、俺はその言葉を肯定してしまった。


すると…


「シャアアアッ!!」


上からそんな耳障りな声が聞こえてきた?!


「今度は翼のある蛇かよ!」


「気持ち悪!?」


上を見ると、翼の生えた蛇が俺達を見つけて威嚇するような鳴き声を出していた。


「とにかく逃げるぞ! もう走れるな!?」


「えぇ、もう平気よ!」


と言って俺達は一気に走り出した。

……………互いに真逆の方向に…。


「なんでそっちに逃げるんだよ!?」


「そっちこそなんでそっちなのよ!?」


互いに同じようなことを振り向き様に言うが…


「シャアアアッ!!」


もう遅かった。

羽根つき蛇が俺の方に向かってきた!?


「ちっ…良いからお前は逃げろ!」


俺はそれだけ言うと、羽根つき蛇から走って逃げようと試みた。


しかし…


シュッ!!


「のわっ!?」


そんな鋭い音と共に足に何かが巻き付き、俺は体勢を崩してしまう。


「くっそ、なんだってんだ?」


違和感のある左足を見ると…


「げっ!?」


羽根つき蛇の尋常じゃない長さの舌が俺の左足首に絡まっていた。


「この、放せ!」


無事な右足でゲシゲシと羽根つき蛇の舌を踏むが、滅茶苦茶硬い!!?

それにギチギチと万力みたいに俺の足首を締め付けてくる!?


まさか、折る気か!?


そんなことを考えていると…


ビキビキ…!!


地面の方から変な音が聞こえてきた!?


「今度はなんだよ!?」


下を見れば、なんだか不自然極まりない亀裂が俺の足の下を走っていた。


ゴゴゴゴゴ…!!


そして、そんな地響きと共に徐々に亀裂が開いていく…!


おいおいおいおいおい?!

マジか!?


次第に亀裂が大きく開いていくので、右足でなんとかバランスを保とうと頑張る。

が、未だ放さない羽根つき蛇のせいで上手くバランスが取れない!

あと、左足の感覚が次第に薄くなって痛くなってきたから余計に集中できない!


ズキッ!!


一際強い痛みに気を取られた瞬間…


ズッ!!


足を踏み外したらしく、浮遊感が俺を襲う…!?


「うわぁ!?」


が、幸か不幸か……いや、どっちかと言えば絶対に不幸だろ……羽根つき蛇の舌が巻き付いてたのでまだ落下せずに済んだ…。


「は、放すなよ!? いや、放してもほしいけどよ!? 今、放すなよ!!?」


俺は逆さまの宙吊り状態で羽根つき蛇にそう叫んでいた。

言葉が理解できるかはわからないし…放すか放さないか、どっちだよって話だが…。


しかし、現実は無情である。


「ヒャアアアッ!!」


羽根つき蛇は俺の左足から舌を放すと、少女が逃げたであろう方向へとその視線を向けてしまった。


そして、その結果…。


「うわあああああっ!?!?」


俺は地割れという暗闇の中へと落下してしまった…。

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