プロローグ
何かを感じた。
「ん……」
ふと顔を上げる。
その途端、訳の分からんものが目に飛び込んできた。
ああ、自己紹介が必要だろうか。
俺は大道 商也。19歳だ。
俺の家は明治時代から続く老舗の商店を代々営んできた。
その為このような漢字の名前を付けられてしまったのだが……
俺も商売は好きだったし、家も継ごうと思っていたので、そこまで嫌じゃなかった。
話を元に戻そうか。
俺の周りには、地球では見たこともない背が高い植物や奇妙にくねくねした植物。
地面には芝生と同じようだが濃い緑の草が生えている。遠くからは、微かに金属がぶつかるような鋭い音が聞こえてくる。
そしてとりわけ目を引いたのが、目の前にある大きな木。
そして、その木には、扉がついていたのだ。
なぜこんな所に来てしまったのだろうか。目を閉じて考えてみた。
確か、それは夜のこと。
家で寝ていた時に、微かに衣擦れの音が聞こえてきた。
何事かと家を探索する。
台所に、その原因が居た。
泥棒。そう、どこかのこそ泥だった。
あっと叫んだ時、男が近づいてきたのは覚えている。そこからの記憶が途絶えていた。
殺されてしまっていたのだろうか。
あ、あれですね。
異世界転移ってヤツですか。
そんなの小説かゲームの中だけだと思ってました。ごめんなさい。
とにかく、何かを掴む為に、その木の家のドアをノックしてみた。
「はーい」
その木の家から出てきた人。
それは、18歳くらいで、少し耳が尖った形状をしているとても美しいエルフのような人だった。
嘘……エルフって小説かゲームの中にしか居ないと思ってました。転移しかりに。
「あ、あの……」
上手く口が開かない。クソ、恥ずかしい……
「なにか御用でしょうか? って、髪の毛と瞳、黒なんですね。珍しい……」
何故かその人は俺の顔を覗きこんできた。
「この世界では、髪とか目が黒なの、珍しいんですか? って、あ」
やば。
この世界ではなんて、別の世界から来ましたってアピールしている証拠じゃないか。どんだけドジなんだ、俺……
仕方なく、俺がここに来た経緯を説明することにした。
「あの、俺は……」
「ふんふん、へえ、そうなんですか」
その女性は話を聞いている間、ずっとあいづちを打っていた。
話をよく聞いてくれているのだから良いのだが、ここまで過剰だとなんかうっとおしい。
「という訳なんです」
「はあ……」
女性は真面目な顔で頷いてくれた。
「信じてくれているんですか?」
「はい! だって、あなたのその目はとても誠実そうなんですもの!」
そんな理由だったのか。
でも、信じてくれる事はとても嬉しかった。
「それで、これからどうすればいいんでしょう?」
「少々お待ちを……」
おもむろにエルフの女性が呟く。そして
「ステータス表示」
と唱えるように呟いた。
すると、なんと何か文字が綴られている画面のような物が空中に現れたのだ。
「えぇっ!」
俺が叫ぶのも空しく、なにも起こらない。
その女性は内容―――何故か日本語で書かれている―――を読み始めた。
「名前は大道商也さんで年は十九……ステータスは攻撃力防御力ふんふん……おお」
「ちょっま……」
焦っている俺に気づいたのか、その女性は慌てたように言った。
「あ、すいません……これは高位エルフ――ハイエルフのみ使える『ステータス表示』……ステータスを強制的に表示させる魔法です。基本ハイエルフも使いませんから安心して下さい」
おお、魔法あるんだ。っていうか、俺が驚いてたのはレベルが存在したり攻撃力とかもあるって所なんだけど……
「レベルは五でステータス値は軒並み平均……しかし才能が三つも! 商の才能と物づくりの才能と武の才能いう物ですが……才能はハイエルフでも平均二つで人間など一つあればいい方……すごいですね! その上、物づくりの才能は、総合的な物づくりです。料理から鍛冶、お裁縫までなんですよ」
ぬ、なにやらチートがあるらしい。聞く限りチート最下層っぽいけど。
「そ、そうですか……それなら、雑貨屋でも開いてみようかな……あ、ところで君の名前なんていうの?」
名前聞くの忘れてた。なんてドジなのか。
この世界に来てからドジが増えた気がする。気のせいかな……
「あ、私はアキミと言います。ところで、雑貨屋を開くなら商業ギルドに入らないといけませんが……冒険者ギルドにも入る事をオススメします!」
おお、やはりファンタジーもどきの世界にはギルドってあるんだ。でも、なんでかな……
「なんでかなぁ……?」
アキエさんはちょっと焦った顔をして、言った。
「ごめんなさい! その……なんか所持金がゼロなので、商業ギルドの加入は冒険者ギルドなどと違って有料なんですよ。だから、依頼を受けてお金を稼いでいかないと……」
「……そうですか」
何だろう、なんか虚しい。悲しい。寂しい。
「そいえば、ギルドについて説明してませんでしたね」
「あ、大丈夫。大体知ってるから」
うん、そういうゲームとかやりこんでましたので。ハイ。
「そうですか。所で……」
「うん?」
「私を一緒に連れて行ってくれませんか?」
「え!?」
思わず叫ぶ。
「何でよ……?」
そう問うと、ポツポツとアキエさんは話始めた。
「あのですね……私、ハイエルフの森から追い出されてしまったんです、理由は言えませんが。人間の世界の事は種族特性で知り尽くしているのですが、人間は怖いと伝えられているので……でも、商也さんは、とても優しそうだったので……この人なら大丈夫って勘が言ってるんです。ですから……」
俺は胸が何かに突き刺さるような気持ちになった。
アキエさんはそこまで自分を信頼してくれているのだ。その気持ちは無駄にしたくない。
「うん、いいよ」
……俺は、できる限りの最高の笑顔で言った。アキエさんも、
「ありがとうございます」
と微笑んでくれた。よし。
「それじゃ、敬語使わなくてもいいですかね?」
一応、聞いてみた。
「はい、いいですよ、いや……うん、もちろん!」
すると、とてもいい返事が返ってきたのもまた嬉しかった。
雑貨屋経営に入るまで長いと思われます。