研究所の存在
眩しいくらいの白がドーム状に固められた建物。
物、人、知識が集う港街から離れ、海岸沿い国道を走ること車で約一時間半
ちょうど地図の境目になる山一つ超えたところに、建物はあった。
国立第七研究所、環境調査室所属、聖物保護施設、SICC
人里離れたこの場所。海に隣接した半円体。ドーム。
建物の大部分を占めるこの部屋が、この研究所の存在意義。
外の海水と随時水を入れ替え続けるため、水の波打つ音、機械の脈打つ音。
中央に広がる巨大な水槽。背後で鉄扉が閉まる前に、足早に女性が水槽のふちに近づいて行った。
瞳は前髪で隠され、髪は淡い金味の混じった白色で、うなじで一つの団子にされている。
二十代後半、細身に白衣を纏う女性の名はイリ。
煌々と照らされた照明の下、イリは手中のモニターに移された画像を確認する。
そこには黒い背景に緑字で数字や変化する波、角度から撮影されている水中映像が映し出されている
「水温、水質に異常なし。体温、脈拍基準範囲。循環の波形に異変なし。皮膚、爪に可視的異常見られず。うん」
そしてイリは振り返って部屋の中央に歩み寄る。
深く広い水槽、波のない水面。
淡青色に色付けされた水底に、じ、と動かぬ黒い巨影。
「おはよう、聖獣さん。今日の気分はど?」
イリが見下ろす漆黒の塊に、変化があった
黒の中に小さな金色が二つ。水中のために揺らいで見えるが本来は真円の瞳孔だ。
すぐにイリが手元のモニターに指を触れた。小さな金色が画面一杯に映し出される。
「眼球にも異変はないね」
また情報を紙面に書いて、イリは顔を上げた。
すでに水中には黒影がゆらゆらと見えるだけで、金色の輝きは消えていた。
「聴覚にも異常なし、と」
イリの少し低い声が、ドーム内に霧散した。