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盗まれたプリン

作者: rainearth

 私のプリンが盗まれた。給食の時間、私のプリンが忽然と姿を眩ましたのである。

「ちょっと待て。オレは盗ってないぞ」

 重い空気が漂う中、こうくんが疑いを晴らすべく抗議する。彼が一番に弁解したのには彼に一番疑われやすい理由があるからだろう。私と同じ班で、机をくっつけて給食を取っている。更に彼は給食のデザートにプリンが出た時、余り物を賭けてのジャンケンに参加していた。つまり、彼がプリンを欲していたのは明確である。

「はっ。そんなの信じられないし。朝の時だって、ジャンケンに参加して、大山に負けてたじゃん」

 そう冷めたような目で睨むのはみっちゃんだ。みっちゃんがこうくんを疑うのも仕方ないことだろう。彼はプリンを賭けたジャンケンに最後の最後まで残り、そして、後一歩のところで大山くんに負けてプリンを手に入れることが出来なかった。彼がジャンケンに負け大変悔しそうにしている場面を私は見ていた。

「ああん? だからって、オレが盗った証拠にならないだろ。つか、お前だって怪しいんだぜ? この班なんだし」

 こうくんも反発するようにみっちゃんを睨み返した。確かにみっちゃんも私とこうくんと同じ班である。

「はぁ? あたしにははゆうこっていう証人がいるんです。ゆう、あたし、盗ってないよね?」

「え、ええ。プリンが無くなっているなんて言われるまで気付かなかったわ」

 そうみっちゃんに振られ、ゆうちゃんは戸惑いながらも頷いた。ゆうちゃんも私たちと同じ班でみっちゃんと仲が良い。

「そんなの信用なるかよ。お前ら仲良いじゃん」

「なに? あたしとゆうがグルだって言いたいわけ?」

 こうくんの言葉に顔を真っ赤にさせるみっちゃん。

「そうだよ。なぁー? れんと」

「あ、いや、まぁ……」

 こうくんにいきなり振られ、曖昧に頷くれんとくん。彼もまた私たちの班員のひとりである。

「れ、れんとくんもあたしたちを疑うの? 違う、あたし、やってない!」

「オレもやってねぇよ!」

 結局、二人がいがみ合うだけでなんの解決にもならなかった。

「はぁー……、最初から整理してみましょう」

 そんなふたりを見兼ねたのか、先程からずっと黙っていた先生が漸く口を開いた。

「一体、どうしてこういう事になったの?」

 先生は私の方を向き、そう尋ねてきた。私は軽く息を吐き、何度も頭の中で整理しておいた事をゆっくり間違えないように話した。



 今日がプリンの日だと知ったのは、一時間目が終わっての休み時間だ。私はいつも通り仲の良い友人と雑談を交わしていた。

「おい! 大山! セコすんな! 今の後出しだろう!」

 不意にそんな声が聞こえたので、私は思わず振り返った。教室の後ろで男子がなにやらもめているらしい。

「はぁー、まだやってるわね」

 呆れたようにゆうちゃんが呟いた。

「なに? 男子たちなにやってるの?」

 事情を知らない私は怪訝に思い、ゆうちゃんに尋ねた。

「あれ? 知らないの?」

「うん」

 私が頷くとゆうちゃんは「あー、トイレ行ってたものね」とひとり納得する。

「今日、プリンなのよ」

「え?」

「今日の給食のデザート、プリンなのよ」

 私は給食のデザートというワードで漸く理解した。

「そういえば、皆本くん休みだったね」

「ええ、男子、朝礼でそれ聞いて大喜びだったしね」

 ゆうちゃんは「ほんと、ガキ」と男子たちに冷たい視線を送った。

「…………」

「どうしたー?」

 私が黙っていると、不思議に思ったのか、先程から私たちの会話を黙って聞いていたみっちゃんが話しかけてきた。

「あ、いや、でも、一度くらいはさ、プリン二個食べたいよね」

 唐突に話しかけられたので、戸惑いながらもそう反応する。

「あー、わかる。男子って、勝手に女子はおかわりしないって決めつけてるよね。その所為で」

 みっちゃんは男子を見ながら、

「余ったプリンも男子たちに取られるし」

 そう溜息をついた。

「確かに。なんか女子だけ損してるわよね」

 いつもはあまり欲をかかないゆうちゃんがそう呟く。それほどまでプリンは魅力的なのだ。私だって例外ではない。出来るなら、プリンを二つ食べてみたい。しかし、女子にはジャンケンするチャンスすら与えられないのだ。



 四時間目の図工の授業が終わり、他の班が帰る中、私たちの班はまだ作業が終わらず、残ってやることになった。それは前からわかっていた事だ。私達の班は他の班と比べて、著しく作業が遅れていて、先生からも残ってやるように言われていた。

「今井さん、教室からガムテープを取ってきてくれませんか?」

 作業の途中、ガムテープが必要となり、みっちゃんにそう頼んだ。

「あ、私が取りに行きます」

 みっちゃんが答える前に私が反応した。教室に忘れ物をしていたので、ついでに取りに行こうと思っていたからだ。みっちゃんはめんどくさかったのか、特になにも言わなかったので私は安堵の息をつきながら教室へ向かった。



「ふぅ……」

 早くなっている鼓動を整え、私は教室に入った。教室ではもうすでに給食の準備が行われていた。

「あ、終わったの?」

 私の存在に気付いたあいちゃんがそう尋ねてきた。

「いや、先生にガムテープ取って来いって言われて」

 私はそう答えながら、自分の席を見て驚く。

「あれ?」

「あ、ごめんね。遅くなるといけないから勝手に準備しておいたよ」

 私たちの班の机にはもう給食が置かれていた。その時はまだちゃんと私のプリンは存在していた。

「あいちゃんがやってくれたの?」

「あ、うん」

 あいちゃんはちょっと気恥ずかしそうに頷いた。

「ありがとう! あいちゃん」

 私はうれしくて、あいちゃんに飛びついた。めんどうで時間を食うはずだった作業をなにを言われるでもなくやっていてくれたのだ。これほど、人に感謝したことはないかもしれない。

「後、どれくらいかかりそう?」

 私が先生の机からガムテープを取り出していると、あいちゃんがそう尋ねてきた。

「もうすぐ終わるよ」

 あいちゃんの問いに答えると、あいちゃんは「がんばってね」と言って自分の班へ戻っていった。それを見届けた私は自分の席へ向かう。

「あれ……? カッター、ここじゃなかったっけ?」

 私は図工の時間に持って行くのを忘れていたカッターをついでに取りにきたのだが、どうやら、机の中ではなく、ランドセルの中に入れたままだったらしい。

「あった。あった」

 自分のランドセルからカッターを取り出すと、私は図工室へ戻る為、教室を後にした。



「そのあとは、図工室に戻って作業していました。終わってから、教室に戻って、自分の机を見たら」

「プリンがなくなっていた……と、いうわけね?」

「はい」

 私が頷くと先生は溜息をついた。

「先生。犯人はこうだと思います。というか、こうです」

 いきなりそう声をあげたのはみっちゃんだった。

「な、なんでだよ!」

 いきなり自分が犯人扱いされ、焦りながらも反論するこうくん。

「だって、あんたが一番怪しいもん。あんた作業終わったら真っ先に帰ったじゃん」

「た、確かにそうだけど……」

 みっちゃんの言う通りだ。こうくんは作業が終わって、すぐ教室に戻った。一番怪しい。本人もそれがわかっているのか、どこか挙動不審だ。

「うちの班が誰も居ないうちに盗ったんでしょ?」

 こうくんの挙動に自信を持ったのか、確定と言わんばかりにみっちゃんはこうくんを睨む。

「ちょ、ちょっと待てよ。怪しいのはオレだけじゃねぇぞ。お前らだってそうじゃねぇか」

「はぁ?」

 意味がわからないという表情をするみっちゃん。

「オレはな、図工室にカッターを忘れて、それを取りに行ってたんだよ。この意味わかるか? オレの次に帰ってきた奴も充分怪しいっていうか、犯人なんだよ!」

 少しの沈黙が流れる。こうくんは確かに最初に教室に戻った。しかし、こうくんは図工室にカッターを忘れている事に気付き、それを取りに戻った。つまり、また、班に誰も居ない状況が出来上がるわけだ。

「…………」

 勝ち誇ったような表情でこうくんはれんとくんを見つめる。対して、れんとくんは無言で床を見つめていた。

「な、なに言ってんのよ。れんとくんがそんなことするわけないじゃん。やったのはこう! あんたでしょ? 正直に言いなさいよ!」

 みっちゃんは顔を真っ赤にさせて反論する。みっちゃん、れんとくんの事、好きだからな。

「どうなんだ? れんと」

 こうくんはみっちゃんを無視して、れんとくんに問いかける。しばらく床を見つめていたれんとくんだが、意を決したように語りだした。

「……確かに、ボクが戻った時、班に誰も戻っていなかった」

「そ、そんな……」

 みっちゃんは絶望したようにれんとくんを見つめる。

「でもだ。こう、ボクもお前と同じだ。トイレで会っただろう?」

 れんとくんはニヤリと笑みを浮かべ、こうくんを意味有り気に見つめた。こうくんも応えるようにニヤっと笑みを返した。

「ちょっと、待って。どう考えたって、あなたたちの方が怪しい。それに私たちは二人なのよ。どうやって分けるつもりなの?」

 今まで成り行きを冷静に見守っていたゆうちゃんがそう言い放つ。どうやら、男子二人の意図を察したらしい。

「確かにお前たちは二人だ。でも、ゆうこ。お前は大人だ。今井に譲ってもおかしくないと思うが?」

「おかしいわね。いつものあなたなら、そんな安易な推測、立てないはずだもの」

「そうかな」

「そうよ」

 いつも冷静なゆうちゃんとれんとくんが睨み合う。

「え? え? どういうことなの?」

 一人、状況がわかっていないみっちゃんが困惑の表情を浮かべている。これは好機と思ったのかこうくんはみっちゃんに指をさしながら告げる。

「つまり、お前らが怪しいって言ってんだよ。オレもれんともな!」

「あ、あたしたち? な、なんでよ!」

 みっちゃんは若干戸惑いながらも反論する。

「れんとはオレとトイレで会ったんだ。つまり、れんとがトイレに行っている間、ウチの班の席は誰も居なくなる。そうなれば、わかるだろ?」

 取り乱したみっちゃんとは違い、こうくんは冷静に問い詰める。

「お前らがやったんじゃないか?」

 そして、こうくんとれんとくんが最後の追い打ちの如く同時にそう告げた。

「ち、違う。ちがうよー。ちが……うぐっ」

 追い込まれたみっちゃんはとうとう嗚咽を漏らしはじめた。

「はいはい……ストップ。はぁ……あんたたちはなんでこうかねぇ」

 それを見兼ねた先生はみっちゃんを抱き締め、あやしながら溜息をつく。

「給食係、プリンは残ってないの? 確かひとり休みが居たでしょう」

「それが……居たには居たんですが」

 給食係は言いにくそうに告げる。

「大山くんがもう食べてしまって……」

「はぁ?」

 大山くんの机の上には空になったプリンの容器が二つ。自分のとジャンケンに勝って手に入れた分、二つとも食べてしまったらしい。

「デザートは最後に食べるものでしょう」

 先生はまた溜息をついた。

「ほら、先生のプリンあげるから、もう犯人探しは終わり。後、四人とも仲直りする事」

 そう先生は告げると、渋々、私にプリンを渡した。

 先生が教室を出て行った後、こうくん、れんとくん、みっちゃん、ゆうちゃんはお互いに謝り落ち着いた。



 結局、犯人は見つかっていない。今日は色々な人に迷惑をかけた。

 みっちゃんは泣いてしまったし、先生にも悪いことをした。後から知ったが、先生はプリンを相当楽しみにしていたらしい。

 帰宅後、私は部屋に入ると、自分のランドセルを開けて「プリン」を取り出す。そして、スプーンを取りに一階へ降りるのだった。

よくある真相ですが、自分ではうまく書けてたと思い載せました。

またプリンと小学生が題材ですが、べつに意図はありません。

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