序章 はじまり
――三年前
月のない夜。辺りはいつにも増して暗闇に包まれていた。
灯された灯籠の焔は所々消え、辛うじて残る明かりに照らされた白い壁には赤い飛沫が飛んでいる。そして鉄のような臭いが立ち込める回廊には、進むごとに折り重なった死体が転がっていた。
不気味な静寂が支配する中、広間の奥から男の唸り声が聞こえてくる。普段は磨き上げられているはずの金の玉座は赤く染まり、左目に眼帯をした血まみれの男が縋るように倒れていた。
「全く……しぶとい男だこと。そんなに玉座を離れたくないのかしら?」
クスクスと笑うのは深いスリットの入った着物に身を包んだ女。艶やかな笑みを浮かべ、血濡れた刀を手にゆっくりと近付いてくる女に男は苦しげに言い放った。
「そなたに……渡すわけには……ぐあぁあ!!」
「お前に何が出来るというの? 無力な王よ」
男の右足に刀を突き立て、ゆっくりと捻っていく。あまりの激痛に声にならない叫び声を上げる男を見下ろす女は、ふと何かに気付き口角を上げた。
「あら、やっぱりお前が隠し持っていたのね」
ニコリと笑った女は突き刺した刀を引き抜くと同時に、男の喉元を掻き切る。血飛沫を上げ絶命した男の眼帯を引き千切ると、その下から現れた男の左目は異様な輝きを放っていた。
「やっと見つけたわ」
顔に飛んだ血飛沫を拭おうともせず笑う女の顔を、取り出された玉が照らし出していた。