先生と宇宙のクリームソーダ
夕日が見え始めた頃、授業が終わった放課後の職員室に鳴り響く電話。
事務の人から代わると、保護者からの理不尽なクレーム。
説明しても聞き入れてもらえないので謝る事しか出来ない。 そして会議ではクレームに対しての対応が求められる。
その書類も自宅で作らないといけない……。
テストの準備、小学校の先生は全ての授業を受け持つので全ての授業の準備……。
会社員と違って定時上がりは無い……。
定時言う名の概念がフラフラと宙を舞う。
「明日の土日でこの間のテストの採点と新しいテスト作って……、……私の休みどこ?」
小学校の先生になってまだ新しい新米教師。
それでもクラス担任になって頑張ってはいるが、28人の子供全員を、このつぶらな2つしか無いまなこでは見ていられないのです……。
だからこそ保護者の方の協力が必要なのに、ちょっと変わったことをするとクレームが入って来る……。
古参の先生に相談しても、昔はあーだ、こーだと言うばかり……。
古古古米教師の校長も「上手くやってよ」で話が終わる……。
この間は休みの日に久しぶりのOL友達と飲みに行くとお互い愚痴ばかり……、かなり盛り上がったけどね。
昔の友人には「子供と遊んでるだけでいいじゃん! 勉強も小学校レベルなんでしょ? 簡単じゃない?」 と言われる始末……。
簡単なわけあるかーい! やる事が海の底の深海深くまであるんじゃい!
それでも私が教員になったのは子供が好きだから。
「先生! 出来た!」 と満面の笑みで来てくれるのはとても可愛い。
それと昔、私が小学生の頃の先生が最高だったからだ。 だから私も先生になろうと決めた。
しかし今やその心も90度曲がってしまっている。
「夕飯の材料買いに行かないと」
ご飯は基本的に自炊する。
本当なら簡単な物で済ませたいけど、家庭科の調理実習もあるので料理の腕は落とせない。
「今日は……炊き込みご飯でいいか」
材料と調味料を炊飯器に入れて焚くだけで出来上がる。
結局お手軽なご飯になってしまう。
余った材料で根菜汁を作ってご飯の準備は終了だ。
食事時間も給食の時間に慣れてしまい、3、40分で食べ終えてしまう。
「よし、今日はクレームの書類やって他の残りは明日にしよう」
今日のクレームは「学校の授業が遅い」 とのクレームだ。
学校の授業の進み方と塾では進み方が違うらしく、塾の方が早く進むので、もう覚えた所をやるのは時間の無駄と言う事です……。
学校は1人じゃなくてクラスで進むんだから、1人の理由なんて知らんよ!
それなら学校じゃ無くて塾に通ってればいいじゃん!
などと書けるわけも無く、丁寧に書いて書類を制作する。
それだけで疲れた私は早めの就寝。
「明日は早めに買い物に行ってストレス発散しよ……、もう学校って必要無いんじゃ無いかな……。 先生……先生ならどうしますか……、……スゥスゥ……」
その時、私の自宅の上を流れ星が通過していた。
次の日、起きて洗濯をしながら軽い朝食、掃除も済ませて買い物へ。
「色々買ってストレス発散! もうこれしかない!」
私の自宅から大型ショッピングモールまでは基本徒歩移動をする。 体力もつけておかないとね。
その間には私が通っている小学校とはまた別の小学校がある。
目線を小学校に向けると、ここの先生方も同じなのかなぁ〜……などと思ってしまう。
そしてショッピングモールに着けば、あちこちのお店を見て、滅多に使えない化粧品、服を買う。
学校には派手に化粧も出来ないし、可愛いマニュキアも出来ない。
服も動きやすさ重視だし……。
やめやめ! 今日は学校の事を忘れて楽しまないと!
袋を両手に持って今日のショッピングは終了。
そんな帰り道、見たことの無い移動販売のお店が道に止まっていた。
大きめのトラックみたいな感じだけど、不思議な形をしている。
「珍しいわね」
コーヒーのいい匂いがするので窓から中を少し覗いて見ると、中は可愛いデコレーションがされた店内になっていた。
可愛い物好きな私は体が勝手に店内に足を踏み入れてしまっていた。
「いらっしゃいませー!」
元気な声と笑顔で迎え入れてくれた可愛い服装の女性の店員さん。
「あ、えと……」
「こちらにどうぞー」
店員さんの勢いに負けてカウンターしかない席の真ん中に通された。
「今日は何にします?」
「あの、私コーヒー飲めなくて……」
「わかりました。 マスター、コーヒー以外をお願いしまーす!」
マスター? わっ! いつのまにか渋い男性が立ってる。
「どうぞ……宇宙のクリームソーダです」
女性の店員さんとは違って愛想があまり無い渋い男性が出してくれたのは、メロンソーダの上にアイスが乗ったクリームソーダ。
懐かしい! 小さい頃好きでよく飲んでたな……。
でも……。
「ふふ……」
「どうかされました?」
「い、いえ、ただ……このクリームソーダをそちらのマスターさんが……ふふ……」
「あー! わかります! そうですよねー」
女性の店員さんは私が何故笑っているかわかってくれたらしい。
マスターが作ってくれたクリームソーダには中にカラフルな小さいアイスが炭酸で上下に揺れていて、アイスには星や三日月に型どったフルーツが乗っていた。
メロンソーダ部分が宇宙で小さなカラフルなアイスが星と見れば確かに宇宙を漂っているようだ。
そんなドリンクの見た目が凄く可愛いのだ。
こんな渋いマスターがこんな可愛いクリームソーダを作っていると思うと……つい笑みが溢れてしまった。
「いただきます」
アイスをメロンソーダに軽くつけて食べる。
アイスの甘さとシュワシュワとするソーダが口の中に広がる甘さを整えてくれる。
そして口広のストローでソーダを飲むと小さなアイスも一緒に口に入って来てまた違った食感とシュワシュワが味わえて美味しい。
いつもと違いゆっくり味わってから飲み終わりマスターに「美味しかったです」と伝えると、女性の店員さんが「ありがとうございます♡」 と笑顔で送り出してくれた。
「あの、お会計……」
そう言った時、眩い光りと共に私はいつもの道に両手に買い物袋を持って1人で立っていた。
「あ、あれ? 今のって?」
光りが消えるとマスターも元気の良い店員さんもお店も綺麗に消えていた。
ただメロンソーダのシュワシュワが口に残っていた。
夢か幻か、考えながら自宅に戻ると、買った品物を袋のまま部屋の隅に置いて、買って来た惣菜とご飯をレンチンして食べた。
明日は朝からテストの採点と新しいテストの問題を作らないとな。
食事が終わると、資料を準備をして眠る。
タタン、タタン、タタン……。
心地よく揺れる。
小さな地震かしら? と目を覚ます。
「あ、あれ? なんで?」
起きた私は何がどうなっているかわからない。
だって起きた場所は私の田舎に向かう電車の中で座っていた。
周りには他に乗客もいない。
「どうしてこんな所に……? そっか、これは夢ね」
夢認定した私はこの田舎の風景を懐かしく思い、電車の車窓から田畑を眺めていた。
電車が止まった駅は実家がある駅。
「懐かしいな……」
自動改札機なんて無い駅を出て、実家へ向かう道の途中には、私が小学生の頃に通っていた小学校がある。
小学校の前に立ち止まっていると、後ろから女性の声がした。
「あら、久しぶりね」
聞き覚えのある声、後ろを振り返るとそこには私が小学生の先生を目指した理由の一つでもある、かつての恩師が立っていた。
「先生!」
「ふふ、久しぶりですね。 元気してましたか?」
「はい! 先生もお元気でしたか?」
「元気ですよ。 もう先生では無いですけどね」
「私にとってはいつまでも先生です!」
「ありがとう。 それで今日はどうしてここに?」
「それは……」
私達は近くにある喫茶店に入り、話しを聞いてもらう事にした。
私は恩師に先生になった事を告げ、色々とあって先生と言う職業を挫けそうになっていることを告げた。
「そう……昔と今は時代が違うものね……。それでも親御さんに教育方針があるならそれをちゃんと聞いて、学校の教育方針も聞いてもらうしかないわね。 学校は生徒と作るものなのだからね」
「そうですけど……辛くて……」
「先生って思ったよりも大変だものね……それなら自分が先生になって嬉しかった事を思い出してみなさい」
恩師は優しい笑顔で話してくれた。
私が嬉しかったこと……子供達が頑張って笑顔で授業を楽しんでくれたこと……。
「少し思い出しました……出来るだけやってみます」
「そうね、それじゃそれを飲んでお店を出ましょ」
私の目の前には懐かしいクリームソーダが運ばれていた。
一口飲むと炭酸が喉をスーッと通り、自分が子供だった頃、学校での授業、放課後にみんなで遊んでいた事を思い出していると周りの景色が消えていく。
「頑張ってね……」
その微かな声が聞こえて消えていく。
恩師の名前を呼びながらガバッと布団から目が覚めた。
「……今の夢? でも……あそこで飲んだクリームソーダの味は本当の事に感じる……」
そして恩師の言葉を鮮明に思い出す。
私は改めて保護者宛の書類を作り、学校に出勤する。
クラスでは子供達がいつものように騒がしい。
そんな子供達に私はもう少し親身になってみると、前より子供達に好かれるようになれた気がする。
私も少しは恩師に近づけたのかも知れないな。
まだまだ至らないことは多いけど、これからも頑張っていこうと決めた。
「パム、今日も願いを叶えられたわね」
「ふ〜……あの姿は疲れる」
「これで少しは稼げたかしら?」
「まだまだ足りないよ。 もっと頑張らないと……丁度良くこの星の人の願いは尽きそうも無いからね」
「そうね……あ、またお願い事がありそうよ」
「それじゃ行こうか。 願いを叶えに」
読んで頂きありがとうございます。
頑張って書いていきますので、モチベを上げてあげようと思っていただけるようでしたらブクマや★評価をつけていただけますと作者が喜んで踊りながら遅い執筆も早くなると思いますので、どうぞよろしくお願いします。