愛情表現がヘタな妻
私が書いたとは思えないほどの、コメディゼロのゲロ甘恋愛(?)小説になりました。
そして、なかなかにお手軽な長さに纏めれたと思います。
そして、なかなかにお手軽な長さに纏めれたと思います。
「ただいまー」
「お帰りなさい」
俺、火坂 信彦を玄関で出迎えてくれた彼女の名前は、火坂 結衣。俺の愛しい妻だ。
結衣と出会ったのは今から5年前、俺が20歳ーー結衣も20歳ーーで大学2年生の時だった。俺と結衣は学部が同じで、偶に席が隣同士になったり、その時に一緒に話したりしているうちに仲良くなり、何度か結衣とデートをした後に俺から結衣に告白して、晴れて付き合う事になった。それから四年付き合い、去年俺が結衣にプロポーズし、そのままゴールインしたという訳だ。
そして結衣は大人しいタイプの女性だ。そのため、よく喋るタイプではない。かと言って全く喋らないのかと言えば、そうではない。まぁ、つまり無口というやつだ。
「無口なら彼女からの愛情表現が分かりにくかったり、少なかったりするのでは?」と、思われる者が居るかもしれない。
確かに結衣は俺に対して言葉で愛情表現をするのは少ない。そう。「言葉で」愛情表現をするのは……だ。結衣は決して俺に対して愛情表現が分かりにくい訳でも、少ない訳でもない。
ただただ、結衣は……妻は愛情表現ヘタなだけだ。
妻は愛情表現がヘタだが、その愛情表現の仕方が、なんせ激かわなのだ。
その例が今、目の前で起こっている事柄だ。
結衣は今、スケッチブックを持ち、仕事から帰ってきた俺の方へ、そのスケッチブックを向けていた。
そこには、こう書かれていた
『ぎゅーってしながら、チュッてして』
な? 激かわだろ?
確かに結衣は愛情表現がヘタかもしれない。だが、こうやって結衣なりの愛情表現の仕方をしてくれている。
だから、結衣が無口であまり口を開かなかったとしても、彼女が俺の事を愛してくれているのが一目で分かる。
俺は結衣のスケッチブックに書かれている事をチラッと見た後に、結衣の方へ視線を向ける。
結衣はスケッチブックを玄関に置き、抱き付いて来てと言わんばかりに俺の方へ両手を広げる。
そこへ俺も両手を広げて、結衣の要望通りに『ぎゅー』と腕に少し力を入れながら抱きつく。
結衣も少し腕に力を入れて、『ぎゅー』と俺に抱き付いてくれる。
結衣に抱き付きながら、俺は結衣の肩に顎を乗せ、長い髪の毛へ顔を埋める。
ああ……、結衣の身体は柔らかくて良い匂いだなぁ……。それに、結衣の匂いは落ち着く……。
好きな人の匂いは良い匂いがすると言われているが、それは間違いなく真実だろう。
それに、結衣の匂いはリラックス効果まで付いている。これも好きな人や、大切な人に抱きついた時ならではだろう。
あぁ、俺は何と幸せな人間なのだろうか……。
結衣とこういう事をしている時はいつも思う事だ。
そして忘れてはならない。結衣は俺に対して『ぎゅーってしながら、チュッてして』と、書いていた事を。
俺は結衣の髪の毛へ顔を埋めるのをやめ、埋めていた顔を結衣の顔へ持っていく。
そして、俺と結衣は目を瞑って、ゆっくりと唇を重ね合わせた。
いつも思うが、結衣の唇は甘い味がした。
※
「……きて……。お……」
「ん……んん……」
頭の上から結衣の声が聞こえる。
また、身体を揺らされている。
「お……て。……て」
「んー……?」
「起きて」
頭が少しずつ覚醒していく。
そして、目を少し開け、眠たくてこしょこしょとした目を擦りながら、結衣の声で目を覚ます。
「おはよ……結衣」
俺は、もふもふのパジャマを着て寝転んでいる結衣を見て、「おはよ」と挨拶をする。
「おはよう」
俺の挨拶に対して、結衣も挨拶を返す。
俺は時計を見る。いつもは7時に起きるのだが、時計の針は現在時刻を6時45分を指していた。いつもより15分ほど早く起きた様だ。というか起こされたの方が正しいが……。
「いつもより少し起きるの早いんだけど……、どうかしたの?」
何故いつもの時間より少し早く起こして来たのか、結衣に聞いた。
俺の言葉を聞き、結衣は無言で部屋の扉の方へ人差し指を向ける。
部屋の扉には紙が貼られていた。そして、その紙にはこう書かれていた。
『私が満足するまでイチャイチャしないと出られない部屋』
結衣は俺とイチャイチャしたいがために、少し早く起こして来た様だ。
その紙の文字を見て、俺は思う。
何だこの子?ハッキリ言って……、可愛すぎか?????
本当に俺の奥さんは可愛い人だ。
それに、『私が満足するまで』とは書いあるが、実際にはおそらく15分ほど俺とイチャイチャしたかったといったところだろう。
俺は紙の文字から目を離し、隣で寝転んでいる結衣の方へ向く。
そして、俺は隣で寝転んでいる結衣を抱き枕の様に抱き、足を結衣に身体に絡ませる。
「きゃ!」
結衣は少しビックリしたのか、可愛いらしい声を上げる。しかし、俺の抱き付きに拒否反応示さず、むしろ受け入れて結衣も俺を抱きしめ返し、足を絡ませてくる。
俺と結衣は、お互いに抱きしめながら布団の上を右へ左へゴロゴロする。
ひとしきりゴロゴロした後に、結衣は俺を抱きしめながら首を甘噛みをしてきた。お返しとばかりに、俺も結衣の首を甘噛みする。
俺と結衣はひとしきり甘噛みをした後に、お互い相手の唇にキスをする。
その時に、少しディープな方のキスもした。俺と結衣は多くの回数キスをした。
俺と結衣はキスをしていた唇を離した。
そして俺の目を見て言った。
「ありがとう」
結衣はイチャイチャに満足したのか、はたまた時計の針が7時を迎えたからか、「ありがとう」と一言言った後に、俺に絡めていた手足を離し、「うんしょ」と言いながら布団から起き上がった。
「もう朝ご飯できてるから、一緒に食べようね」
そう言いながら、結衣は着替えるでもなく部屋から出て行った。
結衣はいつも朝ご飯を作ってくれる。全くありがたい限りだ。
朝起きれば愛しの妻が側に居てくれて、朝ご飯を作ってくれている。俺は間違いなく世界一幸せな男だろう。
※
「ただいまー」
「お帰りなさい」
今日も愛しの妻の結衣が、俺の帰りを玄関でお出迎えしてくれた。
今日はスケッチブックは持っていなかった。いや、スケッチブックに書かれていなくても家に帰ってきたら結衣を抱きしめる所存ではあるが……。
ただ、今日はスケッチブックの代わりに結衣の手には別の物が持たれていた。
結衣が頬を少し染めながら持っていたのは枕だった。
可愛い。
そして、枕にはこう書かれていた。
『YES』
つまり今晩、結衣は俺とやりたいと言っている様だ。
それを見て、俺も少し頬を染めながら結衣に目を合わせて言った。
「今晩、やりませんか?」
「えー、どうしよっかなー」
結衣は俺の言葉に赤かった頬を更に赤くし、俺を見ながら少し悪戯っぽい笑みをこぼした。
いや、嘘でしょ!? ここにきてそんな駆け引きあるの!? 今の流れって、「良いよ」ってなる所じゃないの!?
脳内でそんな事を考えていたのだが、俺は結衣に対して少し意地悪な事を閃いた。
俺は結衣を見ながら言った。
「やっぱり仕事疲れたから今日はやめとこうかな……」
「え……?」
結衣の悪戯っぽい笑みは鳴りを潜め、捨てられた子犬の様な悲しい目を俺に向けた。
その目はうるうるとしていた。
「と思ったけど、やっぱり今晩結衣とやりたいかな」
俺は結衣の捨てられた子犬の様な悲しい目に負け、すぐさま話を180度回転させた。
俺のその言葉を聞き、結衣の表情がパァーと明るくなる。
「うん!」
結衣は笑顔で頷いた。
その後、結衣が作ってくれたご飯を食べ、そして風呂に入り、歯磨きもして、結衣と共に寝室に向かい、結衣をベッドに押し倒す。
俺と結衣はレスにならないために、お互い普段は裸を晒していない。つまり、見せない様にしている。俺が着替える時に結衣が部屋から出て行ったのはそのためだ。
こうする事によって、こういう機会にお互い裸を晒すと、凄く興奮出来るという訳だ。些細な事だが、これは凄く大切な事だと俺達は思う。
世の中のカップル達にも言いたいほどだ。「レスに陥りたくないなら裸を安易に晒すな」と。これを意識するだけで、かなり変わると俺は思う。
さて、この夜、俺と結衣は何度も身体を重ね合わせた。非常に良かったとだけ記載しておこう。
そして、結衣はやり疲れたのか、俺の身体に包まれながら、隣で「すぅ……すぅ……」と気持ちよさそうに寝息を立てていた。
俺は寝ている結衣の頭を優しく撫でる。
「ん……」
少しくすぐったいのか、結衣は少し吐息をこぼしながら体勢を変え、また「すぅ……すぅ……」と、気持ちよさそうな寝息を立て始める。
結衣は、俺の身体の包まれる事に安心感を覚えている様だ。こんなに気持ちよさそうに俺の身体に包まれながら寝息を立てているのが、その証拠といえよう。それは非常に喜ばしい事だろう。何故なら、愛しい人が俺に包まれて安心しながら寝ているのだから。
「すぅ……すぅ……」
俺はもう一度結衣の頭を優しく撫でる。そして、俺も眠りに落ちた。
※
「ただいまー」
「お帰りなさい」
あれから5年の月日が経ったが、相変わらず結衣は俺の事を出迎えてくれた。
そして、この5年で俺を出迎えてくれる人がもう1人増えた。
4年前に産まれた、娘の咲良だ。
咲良は『タタタタ』と走りながら玄関まで来て、俺の事をお出迎えしてくれる。
そして、俺はいつもの様に咲良が飛び込んで来やすい様に、その場でしゃがみ、両手を広げる。
そこへ、咲良が飛び込んでくる。
「ただいま」
俺は笑顔で飛び込んで来た咲良を抱き止める。
「んー!!お帰りー!」
咲良が俺の頬に、頬ズリする。
俺は咲良を抱き上げながら、立ち上がる。そして、結衣の方へ目を向けて、もう一度言った。
「結衣、ただいま」
「お帰り、あなた」
俺は、抱き上げていた咲良を地面へ下ろし、結衣と軽くハグをする。
「パパとママ、今日もラブラブだねー」
娘の咲良が俺と結衣を揶揄ってくる。
「でも、パパとママがラブラブなのは咲良も嬉しい!!」
娘の言葉にお互い少し恥ずかしくなるが、伊達に長年ラブラブ夫婦をやっていない。それくらいの揶揄いなどどうって事ない。
数秒ハグをした後、お互い手を離す。
「ご飯出来てるから、一緒に食べましょ?」
「やったー!ご飯だー!」
咲良がご飯という単語を聞き、再び『タタタタ』と走りながらリビングの方へ戻って行った。
結衣は玄関に置いてあったスケッチブックを広げ、俺の方へ向けた。
そこには、こう書いてあった。
『いつも私たちのためにありがとう。大好きだよ、信彦君』
相変わらず愛情表現が少しヘタな妻だった。
完
胡桃 瑠玖です。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。