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【第6コード】強さの本質

 夕焼けが校舎のガラスに反射し、修練棟の裏道に長い影を落とす。戦いを終えた燐たちは、静かな空気の中を歩いていた。


 「……やれやれ。結局またトラブルに巻き込まれたね」

 淡々とした口調で、藤宮るるがクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら言った。


 「でも、無事でよかった……本当によかったよ」

 真白のほっとしたような声には、ほんの少し震えが混じっていた。燐は彼女の顔を横目で見ながら、黙って歩く。


 「……強くなる」

 その静かな決意が響いたのは、突然だった。柏木大牙が立ち止まり、夕陽の逆光に包まれながら振り返った。


 「俺はもっと強くなって、あいつらみたいな奴らにも負けねぇようになる。……だからまた、ユウトさんのとこに行くわ。借り、返してぇしな」


 そう言い残して、柏木は駆け出していった。その背中を、誰も止めなかった。


 


 ――しばらく無言のまま、三人は並んで歩いた。風が吹き、真白のリボンがふわりと舞う。


 


 「……さてと」

 藤宮が立ち止まり、ぬいぐるみの頭をぽんぽんと叩く。「今後のこと、少し話しておこうか。リンくん、今のままだときっとまたやられるよ?」


 「……わかってる」


 「ふふ、素直でよろしい。じゃあ、ちょっと真面目に説明しようかな」


 彼女の瞳が、いつになく鋭くなる。冗談めかしていた空気が、一瞬にして研ぎ澄まされていった。


 


 「“強さ”っていうのはね、大きく分けて三つで構成されてるんだよ」


 藤宮の声が、どこか講義のように整然としていた。


 「まず一つ。リビドーの“量”。これは、どれだけ大きな願いや欲望を抱いているか。次に、“質”。これはその願いの強さ、つまりどれだけ本気で叶えたいと思ってるか。そして最後に、自身のコードへの“理解”。」


 


 燐は無言で頷きながら、その一語一句を心に刻む。


 


 「コードは、自分の心を形にした力。つまり、君がどんな人間で、何を大事にしてるかが、そのまま能力に反映されるの。だからね、君の本質を知ることが、強くなるための最短距離なのよ」


 「でも、俺のコード……」


 「うん。まだ“名前”も“本質”も、わかってないよね?」


 


 藤宮は足を止めて、正面から燐を見つめた。


 


 「本来なら、コードが発現した瞬間に、無意識に名前を知るはずなんだけど……君は違った。だから、君の力はまだ“真価”を発揮していないのよ」


 その言葉に、燐の胸がざわついた。


 自分のコードの名前——それを知ることで、もっと強くなれる。もっと誰かを守れる。


 


 「いつか君の“コードの名”を、自分の口で語れるようになった時。君は本当の意味で、“強い人”になるよ」


 そう言って、藤宮は微笑みながら踵を返した。


 


 ***


 


 その帰り道、気がつけば燐と真白、二人きりになっていた。橙に染まる空の下、風が静かに吹き抜ける。


 


 「……ねえ、リン」


 唐突に、真白が口を開いた。


 「わたしね、もともとは……エリートクラスに推薦されててこの学園にきたの」


 

 燐は驚いたように振り返る。

オルディナ学園はコードを持つエリートクラスともたない普通科クラスに分けられている。

全国の有能なコードをもつものが集められるエリートクラスはまさに全ての生徒の憧れといったわけだ。

 


 「でも、能力があるのはわかってたのに、名前も、何ができるかもわからなかった。……だから、普通科に移されたの」


 「それって……」


 「……怖かった。ずっと、周りと比べられて、自分だけ“中途半端”だって思われて……」


 


 そう呟く彼女の横顔は、いつもよりずっと儚く見えた。


 


 「でも、リンがいたから。私はここで頑張ろうって思えたの。だから、わたしも強くなる。ちゃんと自分の力と向き合いたいって思ってるよ」


 


 燐は何も言わず、その言葉を受け止めた。


 昔から、ずっと隣にいたはずの彼女。けれど、こうして改めて“想い”を聞いたのは初めてだった。


——

数日が経ち

放課後の陽は傾き、校舎裏の修練場B室にはオレンジ色の光が差し込んでいた。

今日も、真白の姿はない。

最近あまり姿をみせない。

今日ここにいるのは藤宮るると――結城燐だけ。


「今日のトレーニングは、特別メニューだよぉ?」


白いシャツの袖をまくりながら、るるはぬいぐるみが詰まった鞄を軽く持ち上げた。

その笑顔には、いつものような無邪気さと――底知れぬ圧が混在している。


燐が一歩、後ずさる。


「ふふん、今日は徹底的にやらなきゃね~。ちょ~~っと、私も本気出しちゃおっかな~♪」


楽しそうにるるが鞄から取り出したのは、赤毛のクマ。続けて、片耳がちょっと折れたうさぎ。そして最後に、丸っこいペンギンのぬいぐるみ。


――圧倒的に、可愛らしい。


だが燐は既に知っている。その小さなぬいぐるみたちが、時に猛獣にも匹敵する戦闘力を持っていることを。


「こ、これは……また出てくるのか、あの地獄……」


燐が呟いたとき、すでにクマのぬいぐるみがふわりと浮かび、彼の目前で拳を構えていた。


「コード発動。《玩具の行進トイ・パレード》……開始~っ♪」


ぬいぐるみ達が意思を持ったように燐に向かって突進してくる。だが前回と違う。明らかに速く、重く、鋭い。


「ぅあっ!」


燐は盾を展開し、飛び込んできたクマの拳を辛うじて受け止める。その直後、横からうさぎが飛びかかり、足払い。ペンギンは上からスピンしながらの頭突き。


「な、なんだよこのコンビネーション!」


追い詰められる燐。防戦一方だ。

剣と盾で応戦するも、体勢を立て直す暇すらない。


そんな中、るるの声が響く。


「追い込まれた時にね、人は“気づく”の。コードってのはそういうもんだから。君はまだ、自分のコードの名前もわかってないんだもんね?」


「……っ」


コードの名前――燐が目覚めた能力。それが何なのか。なぜ名を知らないのか。

わからないままでは、いつか本当に負ける。


「……なんで、そこまで俺の面倒を?」


ボロボロになりながらも、燐は問う。


ぬいぐるみたちの猛攻が止む。るるはゆっくりと口を開いた。


「期待してるから、だよ?」


その目は、子供のようにキラキラしていた。


「君を見てると、どこまで強くなるのか……ワクワクするんだよね~。才能だけじゃない。君の“心のかたち”が、どんな力を生むのか――見てみたいの」


燐の目に、何かが灯る。まだ知らぬ自身の力の形。それを見つけるために、今は戦うしかない。


「……なら、その言葉に甘えさせてもらうよ。藤宮先輩」


再び構え直した燐に、るるは笑みを浮かべた。


「うん、そうこなくっちゃ♪ ――後半戦、いっくよ~~っ!」


------


静寂に包まれた生徒会室。窓の外はすっかり夕焼けに染まり、淡いオレンジがガラス越しに差し込んでいた。

生徒会長・九条理央は、机上に広げた複数の資料に目を通していたが、ふと時計に目をやる。


コンコン――。


「入れ」


低く静かな声が扉の向こうへ届く。間もなくドアが開かれ、一人の青年が姿を現す。


「失礼します。例の男――迷彩カゲトについて、ご報告を」


落ち着いた口調で現れたのは、生徒会庶務を務める2年生の男子生徒、**篠原悠真しのはら・ゆうま**だった。

知的な印象のメガネをかけ、制服はきちんと着こなし、無駄な動きは一つもない。彼のコードは――


観察視野かんさつしや|オブザーブ・グリッド》


一度見た対象の位置・状態を常に把握できる索敵・監視特化の能力だ。篠原は、実際にカゲトの動向を独自に追っていた。


「お前か。ご苦労だな、庶務・篠原悠真」


九条は視線を上げ、淡々とした声で応じる。


「カゲトは、表向きは不良のまとめ役として学園内に一定の秩序を保っているように見せかけていますが……裏では、多額の上納金を集め、それを資金源にどうやら良からぬ計画を進めているようです」


「――計画、か。具体的には?」


「まだ詳細までは掴めていません。ただ、いくつかの人物と秘密裏に接触していた記録があります。資金の流れと、その先にいる人物の特定を急ぎます」


「わかった。引き続き追跡と報告を頼む」


「承知しました」


静かに一礼し、篠原は退室する。その背中を見送りながら、九条はつぶやく。


「迷彩カゲト――。一筋縄ではいかんか」


夕焼けはいつしか夜の闇に変わろうとしていた。

嵐の前の静けさのような、不気味な静寂が、生徒会室を包み込んでいた。


カゲトの闇は着実に学園の支配に近づいていた。

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