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【第5コード】生徒会会計 藤宮るる

Xにてキャラデザ載せてるよー

是非チェックを!

夕焼けの空が、校舎のガラス窓に金色の光を投げかけていた。

人気のない裏庭――剣撃の音も、掛け声も、今はもう響いていない。


訓練を終えた結城燐は、深く息をついた。

手には微かに火照りが残り、脚は重く、汗が制服にじわりと染みている。


「今日の結城くん、動き良かったね」

軽快な足取りで並んで歩く花宮るるがそう言った。

ぬいぐるみを片手に抱きくるくると回しながら、いつも通りの明るさで。


「……ホントに? 全然反応が追いついてなかった気がするけど」


燐が額の汗を拭いながらぼやくと、今度は隣の真白が心配そうに覗き込んでくる。


「燐……もう少し休んだ方がいいんじゃない? 毎日、すごく頑張ってて……」


その声は柔らかく、心に染み入るようだった。


「大丈夫だよ。怪我もないし、まだ動ける」


そう答えながら、燐は自分でも不思議だった。

以前の自分なら、こんな風に誰かと一緒に修行をして、笑い合いながら帰るなんて想像もできなかった。


真白がいて、るるがいて、そして――力を手に入れた自分がいる。

少しずつ、確かに“前へ”進んでいる実感があった。


そんな穏やかな空気を――鋭く断ち切る声が響いた。


 


「――結城ッ!!」


その声に、3人が同時に振り返る。


舗装された道の先、まっすぐに立っていたのは柏木大牙だった。

トレーニングウェアに身を包み、額にはうっすらと汗。

右腕には包帯が巻かれているが、それが逆に彼の存在感を際立たせていた。


「……柏木」


燐は立ち止まり、まっすぐにその視線を受け止める。


「再戦だ、燐。ここで、もう一度。俺と勝負しろ」


言葉は短く、感情も抑えられていた。だが、その目は熱かった。

火を灯したまま、ずっと燐を見つめていたのだと分かる。


燐は一歩踏み出しかけ――だが、すぐに首を横に振った。


「……今はやらない。修行も終わったし、真白も一緒だ。無意味なケンカはしない」


その言葉に、柏木の表情が一瞬だけ曇る。


だが――


「それもアリかもね」


横から、花宮るるがぽんっと手を叩いた。


「喧嘩じゃなくて、“訓練”としての再戦。それなら私も承認できるし、結城くんにとっても良い経験になると思うよ」


「……るる先輩?」


燐が問い返すと、彼女はにこっと笑った。


「戦いを拒むのは悪いことじゃない。でも、“逃げない”のは強さだよ。結城くんなら――きっと大丈夫」


言葉に迷いはなかった。

それは師としての判断であり、燐への信頼でもあった。


「……分かりました」


燐は静かに頷いた。

向かいに立つ柏木も、それを見てゆっくりと腕を組み直す。


「場所は訓練棟B室。明日の放課後だ。俺が申し込む、正式な訓練試合ってことでいいな」


「……了承します」


言葉を交わした瞬間、火花が見えたような気がした。

もう一度、真正面からぶつかり合う。だがそれは、昨日までのような“敵対”ではない。


成長した者同士が、互いを知るための“試合”。


そして、火拳が再び――燐を試す。


-------

訓練棟B室。

ひんやりとした空気の中、ただ二人の息遣いだけが響いていた。


白い壁とマットに囲まれた静寂の空間は、どこか試合前の格闘リングを思わせる。

観客はいない。声援も、喧騒もない。

あるのはただ、火花のようにぶつかり合う視線だけ。


向き合うのは――柏木かしわぎ 大牙たいが結城ゆうき りん


 


「ルールはない。訓練ってことで、大怪我さえしなきゃ何でもアリだよ~」


そう言い残して去っていったのは花宮るる。

今、この場にいるのは二人きりだった。


柏木の瞳は、燃えるような色を帯びていた。

その瞳を、燐は正面から見つめ返す。


(……一度、俺はこの人に勝った。けど――)


体が、肌が、感じている。

目の前の男が「前と同じじゃない」ことを。


 


「……始めるぞ」


小さく呟いた柏木が、瞬間――地面を砕く勢いで踏み込んだ。

リビドーによる身体強化。以前までにはなかった動き。

明らかに強くなっている


「っ!?」


視界が揺れる。

いや、柏木の加速が速すぎて、脳が追いついていないのだ。


(さっきまでそこにいたのに……!)


気づいた時には、すでに眼前。

拳が、風を裂く音と共に襲いかかる。


燐は咄嗟に半身をひねり、かわす。

しかし次の瞬間、もう一発の拳が側面から飛んでくる。


――ゴッ。


鈍い音。腕に衝撃が走る。

まともに防御できていなかった。


それでも、踏ん張った。下がらない。倒れない。


柏木が低く息を吐く。


「……力任せの殴り合いしか知らなかった俺が、今こうして戦ってるのは――」


一瞬、拳を引いた。


「お前のおかげだ、結城」


 


(……え?)


一拍遅れて、燐は戸惑った。


「強い“つもり”でいた。でも……お前に負けたあの日、俺は心の底から思ったんだ」


柏木は目を伏せる。


「“俺は弱い”って。ずっと、気づかないふりをしてた」


拳が再び構えられる。

その姿は、かつての柏木ではなかった。


力にすがるだけの不良ではない。

弱さを認め、変わろうとした男の、まっすぐな構えだった。


「ユウトさんに……教えてもらった。“本気”の戦い方を」


柏木が、地を蹴った。


炎が、腕に宿る。


 


烈空衝拳れっくうしょうけん|バースト・ファング》


 


空気が割れた。


加速と火炎の融合した拳――それはまさに“噛み砕く火の牙”。


燐は咄嗟に、左手の盾を呼び出す。

青白く浮かび上がる光の壁が、拳と正面からぶつかる。


轟音と共に、炎が壁をなぞって弾けた。


(ぐっ……くそっ、重い!)


燐はよろけつつも後退し、右手に剣を展開する。

十字型の光子剣。手に握っているのではなく――“光を掴んでいる”ような感覚。


だが柏木は止まらない。炎をさらに纏わせ、低く構えた。


「終わらせるぞ――これが俺の、全力だ!」


 


炎迅連牙えんじんれんが|ブレーズラッシュ・ファング》


 


拳が、炎を引いて空を裂いた。


左から、右から、正面から。

連続する拳撃が爆風のように押し寄せ、燐は盾と剣で必死に捌く。


一撃一撃が、まるで炎の竜の咆哮。

当たれば、確実に吹き飛ばされる。


それでも燐は――逃げなかった。


なぜか。


(……真白が、見てる)


視線の先、訓練棟の小窓越しに、彼女の姿が見えた気がした。


(花宮先輩も、俺を……認めてくれた)


誰かの言葉。誰かの眼差し。誰かの想い。


そのすべてが、剣に宿っていく。


「……俺は、もう逃げない」


燐はそう呟き、剣を構え直す。



「守りたいものがある。俺自身の、誇りも」



その瞬間――剣が光を放った。


輪郭が鮮明になり、十字が一段と強く輝く。

あの時みたいな不意打ちではない

正面からこの人を倒す


《叛逆のはんぎゃくのつるぎ|コード・リベリオン》


 それはこれまでより明確に輝いていた


「はぁああああっ!!」


燐が叫び、踏み込んだ。


柏木が拳を振るう。


炎と光が――ぶつかった。


爆音。閃光。訓練棟全体が震えたような錯覚。


 

そして、静寂。



立っていたのは――燐だった。


 


柏木は、仰向けに倒れていた。

焦げた天井を見上げながら、肩で息をする。


「……ッハ……ははっ。負けたか」


燐は静かに近づいた。


柏木は、微笑んだ。


「ずっと……お前のこと、馬鹿にしてた。悪かった。今の一撃で全部、わかったよ」


「お前は、強い。……ちゃんと、自分の弱さを見てる奴だ」


「……強くなったな。あの時の借りは返した。――もう、お前のことは認める」


燐は黙って手を差し出した。


柏木は少し迷い――そして、その手を取った。


1つの戦いが終わった。




------


訓練棟を出た夕暮れ時。

朱に染まる空を背に、燐・真白・藤宮・柏木の四人がゆっくりと歩いていた。


「カゲトが、お前のこと狙ってる」


唐突に、柏木が口を開いた。

声は低く、どこか怯えを含んでいるようだった。


「……カゲトって、あの?」と真白が眉をひそめる。


柏木は頷いた。


「あの人はな。やられたらやり返す。それが筋ってもんだと思ってる奴だ。……俺のせいでもある。アイツは俺のことを仲間にしようと狙ってたが俺はユウトさんに惚れていた。で、お前が俺を倒した。それで、部下の面目も潰した」

「つまり、俺もお前も……アイツにとっては“目障り”ってことだ」


燐は黙っていた。

その沈黙は、恐怖でも迷いでもない。

ただ、静かに──覚悟を深めているようだった。


 


「じゃ、俺はここで」


柏木が手を軽く振って別れたその直後。


 


「……あ、私忘れ物してきた!」


藤宮るるがぱっと顔を上げて、訓練棟の方へ駆け戻った。

その姿を見送る燐と真白の背後に、

いつの間にか、影のようにガラの悪い集団が立ちはだかっていた。


 


「お前が──燐、だな」


低く嗤うような声。

そこに立っていたのは、制服を腰に巻いた銀髪の青年──桐原影渡だった。


その手には、藤宮のぬいぐるみがぶら下げられている。

無造作にぶんぶんと揺れながら、カゲトは嗤った。


「邪魔そうな奴がいたんで、どいてもらったぜぇ。ぬいぐるみごと、な」


「……あんたは?」


真白の顔が青ざめる。


「こうして顔を合わせるのははじめてだな...俺様は桐原カゲト(きりはらかげと)」


その言葉は恐怖を感じる程に不気味だった。

ユウトや神代とは違ったカリスマ的オーラ。



「テメェにはよくもやってくれたと言いたいが、まあ……その強さを認めてやるよ、燐」

「だからどうだ? 俺の部下になれ。そうすりゃ、これまでのことはチャラにしてやる」


「断ったら?」


燐の声は、静かで硬かった。


「簡単なことさ。二度と立ち上がれないようにしてやる──」


 


その瞬間、カゲトが指を鳴らした。

脇から二人の男が歩み出る。


ひとりは、手の指先を不気味に伸ばし、鋭利な爪へと変化させた。

――《裂爪れっそう|スラッシュ・クロウ》


もうひとりは、背を低く屈め、目をぎょろぎょろと光らせながら、

身体をネズミのように縮めていく。

――《鼠徘徊そはいかい|ラット・スニーカー》


「てめぇら、可愛がってやんな」


柏木と目を交わし、二人は同時に踏み込んだ──!

-------


鋭く閃いた爪が、燐の頬をかすめた。

瞬間、肌が裂けて赤い線が滲む。


裂爪れっそう|スラッシュ・クロウ》の男は、笑っていた。

その動きはまるで忍びのように静かで、殺意だけが鋭く空気を切っていた。


燐は剣を構える。

その刃は、柄すら存在しない光子状の十字剣――

まるで“信念”を掴むように光を握っている。


「っ……!」


咄嗟に繰り出された斬撃を、光の盾が浮かんで受け止める。

半透明の粒子で構成された浮遊する光壁が、燐の左腕の横で眩く光る。


「いい剣と盾だな……けど、見切った!」


敵の男が爪を旋回させ、目にも止まらぬ速度で斬りかかってくる。

燐は受け、受け、そして隙を突く。


「はああっ!!」


踏み込んで振るった一閃。

光子剣が軌跡を描き、敵の頬に浅い傷を与えた。

だが、相手は倒れない。互角──いや、わずかに押されている。


 


一方、柏木の前では、

鼠徘徊そはいかい|ラット・スニーカー》の男が、ねっとりと這うように床を動いていた。


「チッコイもんに弱いのか、兄ちゃん?」


「……うるせぇ」


柏木が地を蹴る。

右腕に赤熱が灯る。


「俺は今──全力だッ!」


振りかぶったのは、爆熱の右拳。

烈空衝拳れっくうしょうけん|バースト・ファング》!

拳から火柱が噴き出し、ネズミ男の突進を叩き潰す。


「ぐあっ!?」


だが相手はすぐに這いずり、物陰へ逃れる。

速い……このままでは埒が明かない。


 「燐!!!」


心配する真白の声が響く。


「真白、下がってろ!」


燐が叫んだ刹那──

カゲトの視線が真白に向いた。


「へぇ……可愛いじゃねぇか」

「さっきまで楽しそうにしてたな? ちょっと借りるぜぇ……」


真白の腕を掴もうとする、その手が伸びる。


 


「……私の大事な、かわいい後輩たちに──何するのかな?」


 


柔らかくも毒を含んだ声。

振り返るとそこには──藤宮るるがいた。


白いカバンを肩に下げたまま、

その手には、先ほど奪われいたぬいぐるみが戻っていた。


「返してくれてありがと。……でも、その持ち方、よくないな~」


くすくすと笑いながらも、

その全身から放たれる“気”は、周囲の空気を数度下げるほど鋭かった。

燐はここまではじめて感じた。

藤宮るるの圧倒的強者としてのオーラーを。


「生徒会会計・藤宮、もう戻ってきたか」


カゲトが眉をひそめると、周囲の不良たちが一斉に藤宮を囲む。

だが──


 藤宮るるは、いつものように笑顔を浮かべながら、くるくると指先でクマのぬいぐるみを回していた。

しかし、その瞳は微かに陰りを帯び、ふと視線を遠くに向ける。


「……私はね、世界には平和であってほしいんだ」


くるり、とぬいぐるみが一回転する。その声色はやわらかいのに、どこか冷たさを含んでいた。


「だってさ、可愛いおもちゃはね――平和であるからこそ、そこに在るんだよ」


ふふ、と小さく笑う。


「戦争や争いが当たり前になったら、お気に入りのぬいぐるみも、綺麗なお人形も、壊されてしまうでしょ? ……そんなの、ぜったいイヤなの

それが私の戦う理由」


その瞬間、藤宮の表情から笑顔がすっと消えた。

瞳だけが静かに光を灯す。


「だから私は、平和を乱すやつには――容赦しないよ」


言葉の最後には、重みがあった。

無邪気な笑顔と、冷酷な決意が、同じ一人の少女の中に同居していた。



「行くよ、みんな」


藤宮のカバンの中から、大小様々なぬいぐるみたちが“ひょこっ”と顔を出す。

ふわふわのウサギ、笑うクマ、角のある猫──

ぬいぐるみたちは、一斉に空中へ舞い上がった。


──《トイ・パレード》発動。


「なに? 本気でやる気かな~? ……ふふ、私に勝てるのかな?」


ぬいぐるみたちが地を蹴り、敵の背後へ、頭上へ、全方位から迫る。

その動きは、まるで軍隊のように統率され、可愛い見た目とは裏腹に“制圧力”を持っていた。


 


「チッ……いや、今日はお前とやり合うつもりじゃねぇ」


カゲトは後退しながら、燐へと目を向ける。


「また返事を聞きに来るぜ、燐。……断ったら、どうなるか、分かるよな?

これはテメェの地獄の始まりでしかない。これからの身の振り方をしっかり考えるんだな」


その言葉には、まるで刃のような殺意が込められていた。


 


不良たちを連れて去っていくカゲト。

静寂が訪れた訓練棟前に、真白の小さな声が響く。


「……ありがとう、藤宮さん……」


藤宮はニコッと笑って、手を振った。


「ううん、気にしないで。……私のぬいぐるみ、無事だったし」


 


燐は黙っていた。

ただ、胸の奥に──確かな焦燥と決意が渦巻いていた。


あの男に、勝てるのか?

真白を、守れるのか?

このままでは、足りない。


「……俺は、もっと強くならないと」


 


その言葉は、誰に向けたものでもなかった。

けれども確かに、燐の“心”を焚きつけていた。



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