↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コードレガリア【Code: Regalia】力を持たない俺が、“心の剣”で世界を斬る  作者: お犬のリン様
一章-学園編-学園祭《レガリア・オーダー》
PR
40/45

【第39コード】栄光を超える③

 視界が──闇に沈んだ。


 風も、光も、すべてを呑み込む黒の世界。

 足元がわずかに揺らめく。そこにあるのは、自分の影……のはずだった。


 だが違う。

 地面に映ったはずのその黒は、意思を持つかのように蠢き、燐の足を絡め取っていた。


 「ッ……!」


 咄嗟に跳び退ろうとした瞬間、背後からの気配。

 振り向くより早く、鋭い一撃が肩を裂いた。


 夜風伏影――その“影”が、まるで分身のように燐を襲ってくる。

 《影写身》。自らの影をもう一人の自分として放ち、別軸から同時に攻める戦法。

 さらに本体の身体は《夜幕纏》によって黒い靄を纏い、姿すら曖昧に影に溶けていた。


 「……ッ、こいつ……!」


 ただでさえ姿が見えにくいのに、影は二重、三重に重なり、もはやどこに本体がいるのかすら分からない。


 ──攻防、共に封じられる。


 燐が歯を食いしばったその瞬間、静かに声が届いた。


 「君の“強さ”は、願いの代償」


 月も星も届かない虚無の空間に、夜風の低く、淡々とした声が響く。


 「それを抱いてなお進もうとするなら、僕が“影”となって止める」


 その言葉に、ひやりと背筋が冷える。


 まるで、“希望”そのものを殺すことを使命としているかのように──

 彼は、揺るぎない“栄光の誇り”そのものだった。


燐は膝をつき、肩で荒く息をついていた。

 身体中に傷が走る。肩口は斬られ、血が滴り落ちている。


 視界もまだ完全には晴れていない。黒の靄が、神経の隙間にまで染み込むようにまとわりついている。


 だが。


 それでも、彼の瞳は折れていなかった。


 ゆっくりと立ち上がる。

 呼吸は乱れたまま。それでも、剣を手放さない。


 「俺は……貴方達みたきな本当に強者にまだ届いてないかもしれない」


 ぎり、と拳を握る。

 その声は震えていたが、心から絞り出すように続けた。


 「だから、足掻くしかないんだよ……! 強くなって、進むしかないんだ!」


 夜風は静かにその言葉を受け止める。

 そして、一歩、足を踏み出した。


 「強くなりたい?」


 その言葉には、どこか嘲るような冷たさがあった。


 「それが“誰かを救うため”でも、“自分を肯定するため”でも……所詮は弱者の妄執だ。

 傷ついた人間が、強さに縋る。それは、過去から逃げるための幻想にすぎない」


 その言葉に、燐は目を細めた。

 口元からは血がにじんでいる。それでも、目はまっすぐに夜風を見据えていた。


 「……そうだよ。

 俺は、自分が弱いってこと、ちゃんとわかってる。

 だから強くなりたいと思った。

 過去を振り切って、前に進みたいって、そう願った」


 そして、真っ直ぐに剣を構える。


 「けどな、それを“潰す側”のほうが、よっぽど過去に囚われてると思う」


 夜風の表情が、わずかに動く。


 燐の声は、静かに、しかし力強く続いた。


 「“憧れ”は、悪じゃない。

 誰かのように強くなりたいと願った。それが、俺の始まりだった。

 いつか守れるように──その姿に憧れて、俺は剣を握った」


 剣先に、わずかに光が集まる。

 それは“今この瞬間”だけの真実の言葉が、彼のリビドーを目覚めさせていく合図だった。


 「だから俺は、強くなる。

 そのための足掻きを、お前に──否定なんかさせない!!」


 その一言に、夜風の目がわずかに見開かれる。


 影が、ほんの一瞬──揺れた。



 夜風の影が、わずかに揺れた。


 その揺らぎは一瞬で収束し、再び静寂が戻る。

 だが確かに、あの男の心に小さなヒビが走った。


 目の前の少年は、まだ立っている。

 傷つき、息も絶え絶えでありながら、剣を手放そうとしない。

 言葉に、魂が宿っていた。

 ただの綺麗事でも、理想論でもない。

 実際に、今この瞬間を賭けて“証明”しようとしている。


 ──それでも、夜風の手は止まらない。

 影が再び静かにうねり、形を変える。

 “静寂の終わり”が告げられようとした、そのとき――


 


  ──カンッッ。


 耳に響いたのは、空間を割るような警告音。


 場外のモニターが、予選Aブロックの状況を告げる。


 「残り時間:1分」


 デジタル表示の中で、燐の順位は“5位”のまま。

 上位4位との差──6ポイント。


 夜風を倒したとしても、逆転には届かない。


 燐の視線が一瞬だけ、観客席のスコア表示を捉えた。


 ──終わりか? ここで、俺の物語は。


 しかし、脳裏に閃いたもうひとつの可能性。


 いや、一つだけある。


 予選Aブロック、現在の1位――夜風伏影。

 もし彼を“直接”倒すことができれば──


 上位の誰かが落ち、“繰り上げ”で4位に滑り込める可能性がある。


 時間は、あとわずか。

 勝負は、この一撃に懸かっている。


 


 燐は、静かに笑った。


 自嘲でも、開き直りでもない。

 ただ、腹の底から――覚悟を決めた者だけが浮かべる“本物の笑み”。


 「ここで終わるわけには、いかない」


 自分の物語を、こんなところで止めてたまるか。

 力なき少年が剣を手に入れた、その理由を、想いを。


 ここで証明しなければ、意味がない。


 ──そうだ。


 今ここで、“栄光”を超えよう。


 燐のリビドーが閃光のように走った。


 剣を握る手に、宿るは想い。

 光すら切り裂く、信念の刃。


-----


 ──静寂。


 夜風がゆっくりと右手を上げる。

 その掌に、影が収束し始めた。


 地面、壁、天井、そして燐自身の足元からも、黒が剥がれるようにして舞い上がっていく。

 影が、すべて吸い込まれていく。夜風の右手へ──。


 それはやがて、ひとつの“形”を成した。

 漆黒の刃。ナイフのような、異形の武器。


 だがその表面は、決して静止しない。

 影があふれ、にじみ出し、今にも“喰らいつこう”とするように脈動していた。


 「……《影喰ノ刃(えいしょくのやいば)》」


 夜風が静かに呟いたその瞬間、空間全体が軋んだ。

 《夜幕纏》が暴走するかのように、光が飲まれていく。


 


 一方、燐は──なおも構えていた。



 影に溶け込む夜風の姿は見えない。

 だが、それでも手の中の剣が震えていた。


 「……来いよ、夜風」


 その一言は、誰に向けたものでもなく。

 ただ、自分自身に向けた鼓舞だった。


 


 ──リビドーが、閃いた。


 空間の奥から、眩い風が奔った。

 燐の全身に、まばゆい蒼白の光が走る。


 「《煌天装(こうてんそう)》、展開」


 衣が光を帯び、風が旋回する。

 その中心に立つ少年の姿は、どこか神々しく、しかし確かに“人間の意志”で出来ていた。


 


 時間は、残り30秒。


 その瞬間、ふたりが──同時に駆けた。


 


 いくつかの斬撃が交差する。


 夜風の影が、まるで生きているかのように襲いかかる。

 燐の剣が、ひとつひとつを斬り裂いていく。

 地面に、壁に、天井に。黒と光の斬撃が弾け、火花とともに空間が裂かれていく。


 


 そして、最後の一歩。


 夜風の影のナイフが、燐の喉元を狙って突き出されたその瞬間──


 燐が叫ぶ。


 「強くなりたい──

 それは、誰かを超えるためじゃない。

 “誰にも負けない自分”で在りたいだけなんだ!!」


 


 叫びと同時に、燐の剣が光を放った。


 《叛逆・光纏装》と、《叛逆ノ煌刃(はんぎゃくのこうじん)》の複合発動。

 剣が、刹那のうちに臨界を超えた光を纏う。


 刃が振り抜かれた。

 光がすべてを裂いた。


 空間が、悲鳴を上げた。


 夜風が放った《影喰ノ刃》が、蠢く黒の奔流となって迫る。

 右手に握られたナイフは、刃こそ細いが、周囲に纏う影があまりに濃い。

 その一振りが、まるで夜そのものを引き裂いて伸びてきたようだった。


 「──砕けろ」


 囁くような声と共に、影が牙を剥いた。


 


 だが次の瞬間。


 燐の剣が、まばゆい蒼光を帯びて炸裂する。


 《煌天装》により極限まで研ぎ澄まされた身体から、一気に全力を振り絞る。

 《叛逆ノ煌刃》。

 剣に宿った光が、うねるように刃を這い、風すら光に染めていく。


 その輝きは、影の闇に対し、あまりに眩しすぎた。


 


 ──ズガァッッ!!


 


 両者の刃が交錯する。


 光と影がぶつかり合ったその刹那、空間が歪み、地面が割れる。


 光が弾け、影が砕け、風が唸る。

 まるでこの世界そのものが、二人の意志を受け止めきれずに軋んでいるかのようだった。


 燐の剣が押し込む。

 夜風のナイフが耐える。

 それぞれの信念が、ただの技以上の“質量”をもってぶつかっている。


燐が叫ぶ

 「俺はここであんた達を超える。栄光を超え、強くなるんだ!」


夜風

 「……ッ!」


 夜風が奥歯を噛みしめる。

 影の奔流が、燐の光に浸食され、削がれていく。


 


 そして──決壊。


 燐の剣が、“影”の核を貫いた。


 影が爆ぜる。

 黒が砕け、弾け飛び、蒼白の光がその全てを包み込んだ。


 


 ──音が、消えた。


 夜風の《夜幕纏》が、砕け散った。

 影が後退し、空間に光が戻っていく。

 空から太陽が再びその姿を現した。


 


 そして。


 夜風伏影は、静かに地面に膝をついた。


 影が、彼の背後に滲むように沈んでいく。


 彼は、ゆっくりと顔を上げた。

 そこに立っていたのは、燐だった。

 血と汗に濡れながらも、まっすぐに剣を構え、前を見据えていた。


 


 「──君は、決してまだ栄光に足る強さではない」


 夜風の声は、もはや拒絶でも否定でもなかった。


 「けれど……強さに呑まれることを、恐れない目をしている」


夜風はそうして倒れ込んだ。


 燐は、何も答えなかった。

 ただ、剣を下ろした。


 


 残り時間、0秒。

 勝敗は決した。


38話-終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。