【第22コード】動き出す新世代
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放課後の中庭。薄曇りの空の下、風が静かに枝葉を揺らす。
「やっぱりね。」
振り返ると、そこには藤宮るるがいた。制服のリボンを揺らしながら、いつもの調子で微笑んでいる。
「エリートクラスに来たんだって? ついに出世コース入り?」
「……そんなたいしたもんじゃないですって
先輩が言ってた-これまで道理じゃいられない-
ってこの事だったんですね」
燐は肩をすくめて返す。だが彼女の視線は、どこか見透かすようだった。
「紛いなりにも、あの久世悠斗や霧原影渡とやり合って。無名でいられるはずがないよ」
少しだけ声の調子が変わる。
「君の強さは、既に“コードを使いこなした者たち”に匹敵してる。もっと自覚していいと思う」
「……そうですね。でも、まだ勝ててない」
その言葉に、藤宮はふっと息を抜いてから言った。
「なら、もっと強くなればいい。君ならできるでしょ」
しばし沈黙。
燐「……まだ修行、つけてくれるんですね」
藤宮は微笑を浮かべたまま、肩をすくめて言う。
「君への依頼はまだ終わってないからね。今後もよろしく、だよ」
その言葉に、燐は静かに頷いた。
──カゲトとの戦いの後、久世悠斗は“白”だと分かった。
あの怪しい勢力とは繋がっていない。彼自身の意思で行動していた。
残るは、カゲト――そして、もう一人の“四天王”。
燐の戦いは、まだ始まったばかりだった。
やがて、彼女は真田について話題を変える。
「……それにしても、真田先生の授業、受けた?」
「うん。ちょっとだけ模擬戦を」
「なら、分かったでしょ。あの人、本気出すと本当にヤバいよ」
藤宮の声には、珍しく真剣さが滲んでいた。
「あの人、実戦経験が桁違い。コードクラスの実技指導役ってだけでなく、昔は“戦いの最先端で戦っていた”って噂もあるくらい」
「君が対峙した時より、もっと深い“底”がある。……私も、一度も勝てたことがない」
それだけ言うと、彼女は手を伸ばし、燐の胸元を軽く突く。
「そんな相手から学べるんだ。存分に吸収しなきゃ、損だよ?」
燐は小さく頷いた。そして、すぐに藤宮から提案が来る。
「ちょっと時間ある? 光纏装、もう少し洗練していこう」
「……ああ」
ふたりは中庭の奥――人気のない訓練スペースへと移動する。
◇ ◇ ◇
「じゃあ、まずは《叛逆・光纏装》の基本動作から」
藤宮がぬいぐるみ型のサンドバッグを投げる。
燐は集中し、右脚に光の粒子を集める。足元から粒子が舞い上がり、膝下を包み込むように光が螺旋を描いた。
「いい感じ。けど、粒子の滞留時間が短い。もう少し圧縮してみて」
藤宮のアドバイスを受け、燐は再度、脚に意識を集中させる。
(粒子の“密度”と“範囲”、それから……動きとの同期)
脳裏で構成を組み立てながら、何度も発動を試みる。足踏みの一瞬、地面が弾けるようにひび割れ、燐の身体が加速する。
「よし、そのステップ。今のならカゲトの足も止められたかもね」
「……本当に?」
「本当に。でも、持続がまだ短い。維持できれば、戦術の幅が一気に広がる」
藤宮は実に楽しげだ。まるで弟子を育てる師匠のように、細かくチェックしながら次々と課題を提示していく。
燐は汗をかきながらも、そのひとつひとつに応えていった。
数十分後。
「今日はこのくらいにしておこうか。あまり詰め込みすぎると、逆に鈍るから」
「……ああ、助かった」
呼吸を整えながら、燐は曇天の空を見上げる。
《叛逆・光纏装》はまだ完全な武器にはなっていない。けれど、自分の身体の一部として確かに馴染み始めている。
光が形になるたび、自分が少しずつ“変わって”いくのを感じる。
「……もっと強くなれる」
燐の独白に、藤宮はふっと笑った。
「なれるよ。君は、ちゃんと“望んで”るから」
その声は、どこか優しく、どこか鋭く。まるで、遠くを見据えているかのようだった。
──それから、1週間が経った。
この1週間、燐はひたすらに《叛逆・光纏装》の練習に没頭していた。
力を溜めて放つだけの戦い方では、もう通用しないと悟ったからだ。
粒子を纏わせる位置、タイミング、そして維持時間。
ほんの数秒でも制御を誤れば、反動で剣の出力が下がる。
だからこそ、緻密な操作が求められた。
ひとりで訓練場に立つ日々。
汗にまみれながら、何度も倒れ、立ち上がった。
──そして、今日。
いつものように教室へと向かう途中、燐の視界に見慣れた後ろ姿が映った。
「……真白」
白銀の髪が朝日に揺れる。
彼女がこちらに気づき、やわらかく微笑んだ。
「おはよう、燐くん。久しぶり」
「1週間ぶり、かな……ずっと神代先輩と?」
「うん。護衛と回復の連携、もっと精度を上げたいって。つきっきりで教えてくれたの」
「ちょっと怖かったけど、神代先輩本当にいい先輩だよ」
「そっか……俺も、ずっと一人で修行してた」
言葉を交わすたび、ふたりの空気が自然に溶け合っていく。
以前と変わらない、けれど少しだけ強くなった二人の距離感だった。
*
教室に入ると、すでに何人かのコードクラス生たちが集まっていた。
氷室紅は黙々と資料に目を通し、雷堂虎は窓辺でストレッチ。
土岐隼人は机に突っ伏して、気持ちよさそうに寝ている。
しばらくすると、スライド扉が開いた。
「よーし、全員いるなー……まあ、いなくても始めるけど」
眠そうな声とともに、真田が入ってきた。
足取りこそだらしないが、その視線は教室の全員を正確に捉えていた。
「今日は、前に言った“模擬演習”をやる。参加希望出したやつは、訓練所Σ(シグマ)に集合」
「自由参加だけど、ちゃんと見てるからな。評価にも関わるかもしれないぞー……とか言っとく」
教室に微妙な緊張が走る。
雷堂が立ち上がって腕をぐるぐる回す。
「やっとか、待ってたぜ。燃えてきた!」
一方、紅は静かに立ち上がりながら言った。
「環境と敵戦力、早めに開示されると助かるわ。無駄な力は使いたくない」
「んじゃ、そろそろ行くか。俺たちも」
燐が真白に声をかけると、彼女も小さく頷いた。
「うん、頑張ろう。燐くんと一緒のチームだといいな」
そんな会話を交わしながら、ふたりは訓練所へと足を進めていく。
そこで待っているのは、ただの演習ではない。
それぞれの力と信念がぶつかり合う、試練の舞台だった。
---
訓練所Σ──
そこは、まるで廃墟と化した都市の一角を切り取ったような場所だった。
崩れたビル、瓦礫の山、錆びついた鉄骨が無造作に転がる中で、かつての市街地の面影だけが残っている。
「ここがΣか……」燐はぽつりと呟いた。
真白が隣で小さく首をかしげる。「前に使ってた場所と違うの?」
「ああ。藤宮先輩と訓練してたのは、もっとシンプルな構造のαだった。ここは……かなり実戦向きだな」
その言葉に、真白の瞳がほんのり緊張に染まる。足元の瓦礫を見下ろしながら、彼女は小さく呼吸を整えた。
その時、周囲の空気がピリッと張りつめる。真田が姿を現したのだ。
「全員、揃ってるな」
眠たげな目元と裏腹に、その声には張りがあった。
「じゃ、チーム分け発表すっかね。順番に言うから、聞き逃すなよ」
順々に名前が読み上げられていく中、燐は自然と身を正す。そして──
「チームE:氷室 紅、雷堂 虎、土岐 隼人」
「チームF:結城 燐、天音 真白……そして、柏木 大牙」
「えっ……」燐と真白は同時に声を漏らした。
声の方へ視線を移すと、ゆっくりと歩いてくる大柄な影がひとつ。
包帯は取れ、かつての威圧感を取り戻した男がそこにいた。
「よう、驚いたか?」
柏木はニヤリと口角を上げ、真白に視線を向ける。「あの時は……ありがとな。おかげで、こうしてまた立てた」
「よかった……本当によかった……」
真白の頬がほころび、涙をこらえるように目を細めた。
「この借りは、今日の戦いで返す」
柏木は拳を強く握りしめた。「デビュー戦だろ? 俺が勝利に導いてやるよ、相棒たち」
訓練所Σにいた生徒たちがざわめき始める。
「えっ、燐って……あのカゲトと戦ったっていう?」
「真白って子戦えるの? それに柏木……復帰したのかよ」
「でも相手、Eチームだぞ……上位組だって言われてるあの3人が、揃って出てくるとか……!」
好奇と期待、緊張と不安が入り混じったざわめきが、波のように広がっていく。
そこへ、チームEの三人が歩み寄ってくる。
氷室は無表情のまま一瞥をくれた。「データは一通り見た。結城燐、天音真白……そして、柏木大牙。興味深い組み合わせだ」
雷堂が鼻で笑う。「話題の“元・無名”と、美しきヒロインに、怪我明けの筋肉ゴリラか。いいねぇ、ちょうど潰しがいあるじゃん?」
「まぁまぁ」土岐はマイペースな調子で手を振る。「こっちはこれまでの授業で結構連携練ってきたし、悪いけど手加減はできないからね~」
「手加減はいらねぇよ」柏木が前に出た。「全力で来い。潰すのは、そっちだからな」
火花が散るような空気に包まれながらも、燐は静かに、ふたりに言葉を投げかけた。
「絶対に、勝とう」
「うん」
「おう!」
三人の視線が交わり、同時に拳を重ねた。
戦いは、始まろうとしていた。




