表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/45

【第1コード】覚醒の時

@rin_rincan

Xで活動中!

――遠く、どこまでも続く空白の世界。


視界を埋め尽くすのは、乳白色の霧と、色のない光。

地平も、空も、ただ白い。まるで全てが溶け合い、境界を失っていた。


その中心に、一つの“声”が響いた。


『――まもなく、この世界は終わりを迎える』


『すべては、変わりはじめている』


『ゆえに、力を求めよ。世界を救うのは、おまえの“心”だ』


どこからともなく聞こえる、低く、深い声。

それはまるで、心の奥に直接届くようだった。耳で聞くものではなく、魂に焼きつく言葉。


『目覚めよ。おまえの内にある、願いと衝動。

 おまえの“心”を、力に変えろ』


誰の声なのか、何を意味しているのか――

それすらも曖昧なまま、世界はゆっくりと崩れはじめた。


視界の端が、黒く染まっていく。


(……ここは、どこだ?)


(俺は、なぜ――)


気づけば、目の前に“何か”が立っていた。


黒いシルエット。顔も形もわからないが、確かに“人”のような何かが、そこにいる。

それは微動だにせず、ただこちらを見つめていた。


(お前は……誰だ……)


その問いかけに答えるように、再び声が響いた。


『――求めるのなら、応えよう。

 その力を。お前の“心”が望むのならば』


まばゆい光が、空から降り注ぐ。


意識が――沈んでいく。



目を開けた瞬間、現実の眩しさが瞼を突き破った。


「……っ、夢……か?」


ベッドの上で、結城燐は息を吐いた。額に汗がにじんでいる。


胸の奥が、妙にざわついていた。夢にしては生々しく、まるで何かの“予兆”のような感覚。


(なんだったんだ、あれ……)


既に朝の光がカーテンの隙間から差し込んでいた。


制服に袖を通し、鞄を肩にかける。鏡に映るのは、どこにでもいるような高校生――


いや、“力”を持たない、ただの普通科の生徒。


それが、今の燐のすべてだった。



遥か昔――

白き光が天より降り注ぎ、人々は“異能”を得た。


能力コードの発現。

それは祝福か、あるいは選別か。


のちに「コード時代」と呼ばれるこの時代、人々は己の“心”に眠る衝動――リビドーを源に、力を得て戦うようになった。


世界は変わり、社会も変わった。

その象徴とも言える学園――


国立・オルディナ学園。

ここは、全国から“能力者”を集め育成する国家公認の名門校である。


だが、そこには能力を持たない者たちのための“普通科”も存在する。


そして、彼はそこに通う1人の生徒だった。




「おはよう、燐くん!」


校門をくぐった瞬間、透明な声が耳に届いた。


ふと顔を上げると、そこには彼女がいた。


肩まで流れる白銀の髪が、朝の光を優しく受け止めている。

透き通るような白い肌。アイスブルーの瞳は、まるで水晶のように澄んでいた。


天音 真白――。


同じ孤児院で育った、幼なじみ。


彼女は、いつもと変わらぬ微笑みを浮かべて、手を振っていた。


「ねえ、今日も一緒に行こ?」


「……ああ、うん」


自然に返事がこぼれる。

けれど、その胸の奥にはいつものように、わずかな“戸惑い”があった。


 その心に浮かんだ瞬間、燐の胸の奥に“何か”が揺れた。


 ――あれは、まだ幼い頃のことだった。


 山の中にある孤児院。いつも真白と一緒に歩いていた道。

 森を抜ける細い小道。その先に、川へとつながる崖があった。


 「ましろ、危ないからそっち行くなって――」


 振り返ったときには遅かった。

 足場の悪い地面が崩れ真白が、バランスを崩して斜面へと傾いていた。


 (間に合わない……!)


 咄嗟に駆け寄り、全身の力を込めて真白を――突き飛ばした。

 彼女の身体は、反動で斜面から離れ、後方の土の上に転がる。


 「っ――」


 その次の瞬間、自分の足元が崩れ落ちた。


 重力に引かれるように、燐の身体は空を切り――川へと、落ちた。

そこには確かに棘の様に尖った岩があった。


 ⸻


 目を覚ました時、辺りは夕闇に染まりはじめていた。

 冷たい水音と、体中に広がる鈍い痛み。

 岸辺に横たわる自分の横で、真白が泣いていた。


 「どうして……燐くんが、こんな……」


 突き飛ばした時ついた擦り傷だらけの足で

自分を支えるようにして。


 「守りたかったのに……傷つけて泣かせてしまった」


 岩の棘は見る形も無いほどに砕けていた。

 近くには孤児院の先生が2人を保護していた

 


 力がない。何もできない。

 あの時、そう思い知らされた。

 心だけが先走って、手は届かない。


 (だから――俺は...)



そんな疑問を何度抱いても、答えが出ることはなかった。


真白は、誰に対しても平等で、優しくて。

でもそのなかで、なぜか“自分だけ”に向けられているような眼差しが、怖かった。


(……あの笑顔を、守りぬきたい)


そんなことを思った瞬間、自分でも驚くほどに胸が熱くなった。


------


教室のチャイムが鳴り終え、窓の外には夕日が傾きはじめていた。

一日が終わる。誰もがそう思いながら、荷物をまとめて帰路に着く時間。


だが、その静かな時間を破るように――声が響いた。


「よう、真白ちゃん。ちょっと、話があるんだけど」


教室の後方で、その声が誰よりも大きく響いた。


柏木 大牙。


1年生でありながら、生徒たちの間では“最強候補”の一人として名を馳せる存在。

筋骨隆々とした体格、鋭い目つき、常に張り詰めた空気をまとっている。


何より、彼は――異能者コードホルダーだ。


「柏木くん……なにか、用?」


真白は席から立ち上がり、静かに応じた。


「うん、ちょっとだけ。別に怖い話じゃねぇよ。……今日の昼さ、君が話してたの、見てたんだよ」


「……?」


「無能力者のやつ ああいうのさ、正直もったいないと思ってな」


言いながら、柏木は近づいてくる。その視線には、明確な“狙い”があった。


「可愛い子には、相応しい相手ってもんがあるだろ? どうせ付き合ってるわけじゃねぇんだろ?」


「それは……でも、燐くんは」

困った顔をみせる真白


「おい」


遮ったのは、燐だった。


静かに、だが確実に怒気を帯びた声。


「真白から離れろ」


柏木は、ぴくりと肩を動かすと、ゆっくりと振り返った。


「おぉ、いたのか。無能力者クン」


その言葉に、教室の空気が凍る。数人の生徒がそっと教室を出ていった。


「……さっきから聞いてりゃ、調子乗ってんな」


「調子乗ってんのはどっちだよ」


燐の眼差しには、確かな意思が宿っていた。


「お前が誰だろうと関係ない。真白にそんな言い方、許さねぇよ」


柏木は、口角を持ち上げ、笑った。


「じゃあ……守ってみろよ」


その言葉と同時に、柏木の右拳が、赤く光を帯びる。


「《ブレイジング・フィスト》――“炎の拳”ってやつだ。知ってるか?」


拳の表面に熱の波がゆらめき、周囲の空気を焦がしていく。


「やめて、柏木くん!」


真白が声を上げるが、柏木は聞く耳を持たなかった。


「安心しろ。殺しはしねぇ。でも、無能力者がイキったらどうなるか――教えてやるよ」


瞬間、柏木が踏み込んだ。


「……!」


燐が身構える間もなく、拳が飛んでくる。


バキィッ!!


肩に衝撃が走った。服が焼け焦げ、皮膚がじりじりと痛む。


「ぐっ……!」


地面に膝をつきそうになるが、必死に踏みとどまる。


(勝てるわけ、ない……)


けれど、視界の端に、真白がいた。


怯えながらも、必死に燐を見つめる――その瞳が。


(守りたい)


その一心だけが、彼を支えていた。


だが柏木は、容赦なく迫ってくる。


「終わりだ。寝てろ、無能力者――!」


振り下ろされる拳。


その瞬間、燐の視界が、再び白く染まった。



(また……あの夢の中……?)


白い霧が立ちこめる空間。前回と同じ、人の形をしたシルエットがそこにいた。


『――おまえは、まだ立つ意志を持っているか』


声が問いかける。


『その“衝動”があるならば、応えよう。

 リビドーを燃やし、心を――形にしろ』


燐の胸が、熱くなる。


誰かを守りたい。その一心が、心臓を焼くように熱くなる。


(俺は――)


『ならば、示せ』


その声とともに、光が走る。


燐の右手に、銀の粒子が集まっていく。


(……これは――)


剣。十字のようなフォルムを持つ、光の刃。

そして、左肩の横には――半透明の盾がふわりと浮かんでいた。


それは燐の“心”が生んだ具現。


コード――○○○○○

コードの名はボヤけはっきりと聞き取れなかった。

けど自分の中で何かが変わったのはハッキリとわかった


---


柏木の拳が振り下ろされた、その瞬間――


ガァンッ!!


空気が震えるほどの衝撃音が響いた。


「っ……な、に……!?」


柏木が目を見開く。


燐の肩の横に浮かぶ、半透明の光壁が――柏木の《炎爆衝動》を真正面から受け止めていた。


赤熱の拳と、淡く揺らめく盾の粒子が激しくぶつかり合い、周囲の空気が震え、焦げた匂いが立ち込める。


だが、盾は――砕けなかった。


「……守れた、のか……」


燐の足が、ぎりぎりのところで踏みとどまっている。

全身が軋み、手足の感覚も鈍っていた。けれど、その顔には確かな光が宿っていた。


「てめぇ……コード、持ってたのかよ……!」


柏木が、憤るように叫ぶ。


「俺の事舐めていやがったのか、クソが!」


「……コレは、」


燐は静かに言う。

その声には、不思議な落ち着きと、どこか祈りにも似た意志が宿っていた。


「俺のコードは……“心”を形にする力だ。

 真白を守りたい。……そのために戦う、それだけだ」


「っ、調子に乗るなよぉおおおおお!!」


柏木が、最後の力を振り絞って飛び込んでくる。


その瞬間柏木は力に目覚めた時の事を思い出した。


------

柏木にとって

幼い頃から、暴力は日常にあった。


「殴られないためには、殴れ」

「力こそが正義だ」


そう教えられて育った柏木 大牙にとって、“拳”だけがすべてだった。


中学のある日、拳に炎を宿す能力ブレイジング・フィストが覚醒する。

燃える拳は一撃で壁を砕き、誰も逆らえない“力”を彼に与えた。


以後、柏木はその力に酔いしれた。

恐れられ、従われ、崇められる。

それこそが“強さ”だと信じていた。


そして――

力さえあれば何もかも手に入ると、

その思いを胸に、彼はオルディナ学園に進学した。


頂点に立つことを疑わずに。


------


拳に再び熱が灯る。《炎爆衝動》――頂点を目指す。その全ての気持ちを極限まで高めた、一撃必殺の突き。


「うおおおおおッ!!

俺はここで頂点を目指すんだ。お前なんかに負けるわけねぇ」


柏木の一撃に対して燐の熱があがる。


それに対して燐の

右手に現れたのは光の粒子それが形を成して剣となっていく


「――行け、《叛逆のコード・リベリオン》!!」


燐の剣が、淡く輝く。


そして次の瞬間、盾が自動で前に滑り出て柏木の拳を迎え撃つ。


激突。

互いの技が相殺しあった。


だがその瞬間今度は燐が一歩、前に出た。


「はあああああッ!!」


盾を押しのけ、空いた隙間から光剣を構える。


放たれたのは――意思の籠った一撃


ぼろぼろの身体を軸に、剣が柏木の腹をえぐる。

刃のないひかりの剣

剣は斬るのではなく柏木に爆発的衝撃を与える


ドンッ!


衝撃音とともに、柏木の巨体が吹き飛ぶ。


数メートル先の斜面へ転がり、動かなくなる。


静寂。


残された空間に、夕暮れの風が吹き抜ける。


燐は、その場に膝をついた。


(……勝った)


実感は、まだ薄い。けれど、確かに“守れた”という充足感が胸にあった。


ふと隣を見ると、盾がまだ宙に浮いていた。

それは、まるで「よくやった」とでも言うように、彼の肩の横で揺れていた。


(これが……俺の力)


今はまだ、信じきれない。

けれど、その力が確かに真白を守ってくれた――それだけは事実だった。


そのまま燐は倒れ込んだ。



目を覚ました時、そこは見慣れた天井だった。


自室のベッド。鈍い痛みが身体のあちこちに走っている。


「……起きた?」


聞き慣れた声。顔を上げると、机の横に真白がいた。


制服のまま、椅子に座っていた。少し疲れた表情だったが、瞳はどこまでも優しかった。


「燐くん……無理しちゃって」


「いや、俺が勝手にやったんだ」


燐は微笑もうとして、わずかに顔を歪めた。

でもその痛みさえ、どこか誇らしく思えた。


真白が、ぽつりと言った。


「……ありがとね。守ってくれて」


その一言が、胸の奥に静かに染み渡った。


「俺さ……怖かったんだ。力もなくて、何もできなくて。

 でも、真白が……見ててくれたから、立てた」


「……!」


真白の瞳が揺れる。


「だから、これからは――守れるようになりたい。

きっとこれはそのための力だ」


燐の言葉に、真白はそっと手を重ねた。


「……わたし、そばにいるよ。これからも、ずっと」


その言葉が、心の奥に確かに響いた。



それは、無力だった少年が初めて“立った”日。

誰かを守るために、力を手にした、最初の夜。


そして――


彼の中の“心”が、覚醒をはじめた瞬間だった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ