境界線
その後は快速電車のように勢いよく過ぎていった。
ゲームセンターでバスケットボールゲームに興じたり。
「お前フリースローは意外とヘタなんだなあ」
「道具使う系はちょっと。身長も足りませんし。ダンクなら確実に点入れられるんですけど」
「身長がなんて?」
三時のデザートをキメたり。
「本当に奢ってもらっていいんですか?」
「おう。好きなもん食え。代わりに見てくれこの株価の上昇曲線をお!」
「うーん羽振り良い理由しか分からない。肉と魚どっちにしよう」
「ティータイムをディナーと勘違いしてるぅ?」
「美味しそうで迷います。とめき先輩はどっち派ですか?」
「調理法にもよるが……しいて言やあ魚?」
「とめき先輩は漁村系男子……と」
「聞き覚えのねえ括りに放り込まれた!?」
くだらない近況を交換したり。
「ノートパソコンのキーボードが調子悪くて、修理に持ち込んだら新人っぽい奴が対応してなあ。すぐ『なんとかなりました!』って言うんで見に行ったらあ、別にキーボードが接続されてたんだよ」
「すごい、根本的に何も解決してない」
「パソのキーボードの上にキーボード乗ってんの。しかもちょっと良いやつ」
「ははっ、なんか笑えてきますね」
「そうなんだよ。しかもこれがよお、乗せたまんまじゃ閉まらねえんだわあ」
「ぱかぱかジェスチャーやめて! あはははははっ!」
それは、ごく普通の友人同士の休日だった。
他人と目的もなく出掛けるなんて時間の無駄だと思っていたのに、気づくと腹を抱えて笑っている。
十瑪岐は久方ぶりに余計なことは何も考えず、心の底から今日という一日を楽しんでいた。
ただ、一つだけ気がかりなことがあるとすれば。
莟の視線をいつもより強く感じることか。
◇ ◆ ◇
「あ、雲がオレンジ掛かってきましたね」
言われて空を見上げる。空はまだ青色をしているが、確かに雲の影色が変わり始めていた。
目の前のベンチに腰掛け、十瑪岐は友人を見上げた。
「んじゃ解散前に、駅のほうじゃなくてえ、人の来ないような広場に連れてきた理由を訊こうかあ」
目的もなくブラつくのが目的みたいな一日だった。だが時計を意識していたこの少女なら、終わりがたは自然と足が駅のほうへ向かうはずだろう。
だからわざわざ人込みから離れたのは、何か目的があるからだと推測した。
莟は察した様子で目を伏せる。
「とめき先輩、ごめんなさい。最初に嘘つきました。今日の目的はちゃんとあったんです」
十瑪岐が隣を示すが座ろうとしない。莟は松葉杖を握る拳に力を込めた。
「とめき先輩のこと観察してました。どんな人なんだろうって。もっと知りたいって、知ってそれを私自身がどう感じるのか、知りたかったから」
なぜそんなことを、と問いかける前に、少女が一歩近づいてくる。
真正面に立つ彼女は十瑪岐の膝に割り入った。
瞳の虹彩まで見える距離。空いた手で肩を掴まれる。
「とめき先輩、目をつむってもらえませんか」
「オレぇ……頭突きされようとしてるぅ?」
「違います。いいから」
強い口調で言われて仕方なく言う通りにすると、肩にかかった手に力が籠った。
「ごめんなさい。あとで殴ってくれていいですから」
甘い吐息が鼻孔をくすぐる。か細い謝罪が思ったよりも近距離で響いたことに驚いた直後。
唇に柔らかな何かが重なった。
押し付けられたそれはすぐ離れていく。まぶたにかぶった影が引いていくのに合わせ目を開けると、莟は末吉を引いたような神妙な顔で下唇を指先で撫でていた。
「うん。……やっぱり違うや」
呟いて上体を起こし、踵を上げる。遠ざかる少女に、十瑪岐は半ば無意識にその腕を掴んでいた。
「…………ちゃんと、説明しろ」
一音ずつ確かめるように告げると、莟は掴まれた腕を見下ろして何事か考え込むように沈黙する。
微動だにしないので腕を放してやると、莟は杖を軸に身体を回してポスンと十瑪岐の真横に座った。舞い上がったスカートがちょっと十瑪岐のふとももに乗る。
松葉杖を立て掛け茜色の空を見上げ、少女は口を開いた。
「ちょっと長いけど、いいですか」
沈黙で肯定すると、少女は深い吐息と共に語り始めるのだった。




