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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
九周目 クズと決心したランナー
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境界線


 その後は快速電車のように勢いよく過ぎていった。



 ゲームセンターでバスケットボールゲームに興じたり。


「お前フリースローは意外とヘタなんだなあ」

「道具使う系はちょっと。身長も足りませんし。ダンクなら確実に点入れられるんですけど」

「身長がなんて?」



 三時のデザートをキメたり。


「本当に奢ってもらっていいんですか?」

「おう。好きなもん食え。代わりに見てくれこの株価の上昇曲線をお!」

「うーん羽振り良い理由しか分からない。肉と魚どっちにしよう」

「ティータイムをディナーと勘違いしてるぅ?」

「美味しそうで迷います。とめき先輩はどっち派ですか?」

「調理法にもよるが……しいて言やあ魚?」

「とめき先輩は漁村系男子……と」

「聞き覚えのねえ括りに放り込まれた!?」



 くだらない近況を交換したり。


「ノートパソコンのキーボードが調子悪くて、修理に持ち込んだら新人っぽい奴が対応してなあ。すぐ『なんとかなりました!』って言うんで見に行ったらあ、別にキーボードが接続されてたんだよ」

「すごい、根本的に何も解決してない」

「パソのキーボードの上にキーボード乗ってんの。しかもちょっと良いやつ」

「ははっ、なんか笑えてきますね」

「そうなんだよ。しかもこれがよお、乗せたまんまじゃ閉まらねえんだわあ」

「ぱかぱかジェスチャーやめて! あはははははっ!」



 それは、ごく普通の友人同士の休日だった。


 他人と目的もなく出掛けるなんて時間の無駄だと思っていたのに、気づくと腹を抱えて笑っている。


 十瑪岐は久方ぶりに余計なことは何も考えず、心の底から今日という一日を楽しんでいた。


 ただ、一つだけ気がかりなことがあるとすれば。

 莟の視線をいつもより強く感じることか。



       ◇   ◆   ◇



「あ、雲がオレンジ掛かってきましたね」


 言われて空を見上げる。空はまだ青色をしているが、確かに雲の影色が変わり始めていた。

 目の前のベンチに腰掛け、十瑪岐は友人を見上げた。


「んじゃ解散前に、駅のほうじゃなくてえ、人の来ないような広場に連れてきた理由を訊こうかあ」


 目的もなくブラつくのが目的みたいな一日だった。だが時計を意識していたこの少女なら、終わりがたは自然と足が駅のほうへ向かうはずだろう。


 だからわざわざ人込みから離れたのは、何か目的があるからだと推測した。


 莟は察した様子で目を伏せる。


「とめき先輩、ごめんなさい。最初に嘘つきました。今日の目的はちゃんとあったんです」


 十瑪岐が隣を示すが座ろうとしない。莟は松葉杖を握る拳に力を込めた。


「とめき先輩のこと観察してました。どんな人なんだろうって。もっと知りたいって、知ってそれを私自身がどう感じるのか、知りたかったから」


 なぜそんなことを、と問いかける前に、少女が一歩近づいてくる。

 真正面に立つ彼女は十瑪岐の膝に割り入った。


 瞳の虹彩こうさいまで見える距離。空いた手で肩を掴まれる。


「とめき先輩、目をつむってもらえませんか」


「オレぇ……頭突きされようとしてるぅ?」


「違います。いいから」


 強い口調で言われて仕方なく言う通りにすると、肩にかかった手に力が籠った。


「ごめんなさい。あとで殴ってくれていいですから」


 甘い吐息が鼻孔をくすぐる。か細い謝罪が思ったよりも近距離で響いたことに驚いた直後。


 唇に柔らかな何かが重なった。


 押し付けられたそれはすぐ離れていく。まぶたにかぶった影が引いていくのに合わせ目を開けると、莟は末吉を引いたような神妙な顔で下唇を指先で撫でていた。


「うん。……やっぱり違うや」


 呟いて上体を起こし、踵を上げる。遠ざかる少女に、十瑪岐は半ば無意識にその腕を掴んでいた。


「…………ちゃんと、説明しろ」


 一音ずつ確かめるように告げると、莟は掴まれた腕を見下ろして何事か考え込むように沈黙する。


 微動だにしないので腕を放してやると、莟は杖を軸に身体を回してポスンと十瑪岐の真横に座った。舞い上がったスカートがちょっと十瑪岐のふとももに乗る。


 松葉杖を立て掛け茜色の空を見上げ、少女は口を開いた。


「ちょっと長いけど、いいですか」


 沈黙で肯定すると、少女は深い吐息と共に語り始めるのだった。



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