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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
九周目 クズと決心したランナー
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それぞれのやり方


 朝が早かったから、映画を見て感想をたっぷり述べあってもゆっくり昼食の時間を確保できた。十瑪岐は脳内マップを開きつつファミレスを出た。


「次、本屋寄って、それからゲーセンでいいかあ?」


「了解です。近場で気を使わせてしまってすみません。実は骨を折ったの初めてでして。松葉杖って慣れないんですよね。金属バッドを振り下ろすほうがまだ手に馴染むというか」


「使用目的が野球以外に聴こえるのはなんでだろうなあ」


「いや、基本は素手派でしたよ? 道具は手加減が難しいから避けてましたもん」


「勝手に自供し始めてんじゃねえよ」


 相変わらず補導歴がないのが不思議な後輩である。


「ん? とめき先輩、あれ」


「おぅ?」


 莟の指さす方向。路地の端で女性が二人組の男に囲まれている。にやついた男たちと比べ、女性は堅い表情で俯いてしまっていた。


「ナンパですかね」


「あー……オトモダチには見えねえなあ」


「困ってるみたいですね。助けましょう。とめき先輩お願いします」


「はあ? んなメリットのない」


「見てくださいあの女性ひとの靴。兎二得生おかねもち御用達ごようたしブランドの新作ですよ。もしかしたら良いとこのお嬢様かも」


「お困りの女性に手を差し伸べるのは紳士の役目だなあ! 行ってくるぜえ!」


「さすがとめき先輩。手のひら返しがプロの領域です」


 十瑪岐の使い方がすっかり上手くなった莟であった。


 ナンパ男たちは怯えて縮こまる長髪の女性を壁に追い詰め、楽しそうにニヤニヤ笑っている。


「ねぇ、ちょっとでいいからさ。ちゃんと奢るし」


「いえ、あの」


「予定ないんでしょ? 付き合ってくれてもいいじゃん」


「わ、わたし……」


「ほらこっち見てよ。顔上げないともったいないよ、美人なんだから」


「へえ、ほんと美人さんじゃぁん」


 調子づいた二人組に突然ねっとりした声が混ざる。

 二人の間から十瑪岐がぬっと顔を出した。


「お姉さん可愛いねえ。思わず声かけたくなるの分かるわあ。兄ちゃんたち良い目利きしてるねえ」


「──は? んだよお前っ」

「邪魔すんなよ」


 長身で目つきの粘着質な男の登場に二人は一瞬ビビった表情をするが、数を頼みにおらついて来る。十瑪岐は親切ぶって口角を上げ、男たちを見下ろした。


「まあまあ、落ち着けよお兄ちゃん達ぃ。なあ、小遣い稼ぎに興味ねえ? 兄ちゃんたちにピッタリのお仕事知ってんだけどさあ。本当に簡単でねえ。ちょろそうな女の子に声かけて事務所にお連れするだけえ」


「は、はあ?」

「ちょっ」


 十瑪岐は二人の肩に腕を回し逃がさないポーズを作る。同時に女性に目配せで逃げるように伝えた。


「いやマジ。一人連れてくだけで二万は貰えるから。余計な詮索さえしなければ、すぐに大金稼げるぜえ。面倒事も全部こっちが持つからさあ。な? あっちに事務所あるからお話だけでもどうお?」


「きょ、興味ねえし!」

「はなせよ!」


 不穏な空気を感じ取ったか怯えが見える。

 うまい具合に誤解してくれたらしい二人に内心でほくそ笑んで、十瑪岐は表情から笑みを消した。露骨に不機嫌そうにしてみせる。


「チッ、ああっ? どうせお前ら休日ずっと女引っ掛けてるようなゴミだろお? そんなゴミに対してよお、せっかく良い仕事紹介してやるっつってんだよ。伝わらねえかなあオレの優しさ。……いいからついて来な」


「「ひい!!」」


 ついに悲鳴を上げた。もはや完全に女性から意識が外れている。成功のようだ。あとは適当なところで解放してやればもう近辺で悪さはしないだろう。


 二人をもっと裏のほうへ引っ張っていこうとすると、表の通りでも声が上がった。


「ひったくりだー!」


 声がしたのは女性が逃げて行った方向。つまり莟のいる方からだ。

 まさかと思ってナンパ男達ごと身体を向けるが、被害者は彼女ではなかった。運が最悪なのか、被害者はさっきの女性らしい。


 自転車に乗ったひったくり犯が逃げていく。それが莟の横をすり抜けていった。


 気づいた莟がなぜか松葉杖を大きく振りかぶる。狙いを定め、押し出すように投擲とうてき。空気を切り裂きまっすぐ飛んで行った杖がひったくり犯の背中に突き刺さる。


 犯人はバランスを崩し大きく転倒した。よほどの衝撃だったのか、男は数メートル滑った位置で呻いたまま立ち上がることもできずにいる。


 一連の衝撃映像を目撃した十瑪岐たちは、そろって青い顔になった。


「あー…………兄ちゃんたちぃ、ちったあまともに生きねえと、ああなるぜえ……。今日はもういいやあ。また会ったらその時は、じぃっくりお話しようねえ」


「う、うす」

「さーせん。失礼しゃす」


 解放してやるとナンパ男たちは気抜けたように速足で去っていく。


 十瑪岐は彼らを見送って、莟に合流した。

 杖のない少女は片足立ちで迎える。


「あ、とめき先輩お疲れ様です。ついでにあれ取って来てもらえますか」


「う、うす」


 体幹が良すぎてまったくブレない立ち姿に十瑪岐はつい、さっきのナンパ男みたいな低姿勢になってしまった。言われた通りに杖とカバンを拾いに行く。ひったくり犯は気絶してしまっていた。


 松葉杖を回収してきびすを返す。さっきの女性が莟に勢いよく頭を下げていた。お礼がどうとか言っているようだ。だが莟は朗らかにそれを辞している。


 莟の視線が十瑪岐へ向く。杖が来るのを待っている。

 どうやらこの場から立ち去りたいようだ。せっかくなら素直に賞賛を受けて自分の利益にすればと十瑪岐は思うのだが、莟はそうでないらしい。


(あいつがなに考えてんのか分かんねえけど、傍から見たらまあ、滅茶苦茶に眩しい奴だよなあ)


 中学時代の彼女が短期間とはいえ番長扱いを受けていた原因を、十瑪岐はやっと飲み込むことができたのだった。



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