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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
八周目 クズと浮かれた少女
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【幕間】切り取られたコメディパート


 百貨店の企画展を堪能した十瑪岐とめき鳴乍なりさは、時間つぶしに別のフロアをめぐっていた。


 その途中、高級アパレルが並ぶ通路で十瑪岐が突然と足を止める。

 少年は展示されているマネキンを見上げていた。


「こっ、これはあ──!」


「どうしたの十瑪岐くん」


「このマネキンが着てる一式、絶対に鳴乍に似合うと思うんだよお!」


 十瑪岐がまるで動物園のエサやりタイムに親を急かす子供のように目を輝かせてマネキンを指差す。


「私に?」


 マネキンが着ているのは色彩の強い柄物のロングワンピース。普段は着ないタイプの服だ。自分が着ている姿は思い浮かばない。


「なあなあ、ちょっと着てみねえかあ?」


「うーん」


「頼むよお。一瞬でいいんだあ」


 十瑪岐が鳴乍の手を両手で包み、神様に祈るみたいに鳴乍へ上目遣いを向ける。寂しがりな大型犬のような彼の表情に、鳴乍は胸をバズーカで撃たれたみたいな衝撃を受けた。


「あ……あざと過ぎるよ十瑪岐くん。そんなおねだり私以外には通じないからね。他の人にはやったらダメよ人類が滅ぶ」


「よっしゃあ! すみません店員さあん、試着したいんすけどお」


「はーい、ただい──まベラっ!?」


「なにごとお!?」


 駆け寄って来た店員が急に膝からくずおれた。正確には視線が鳴乍を捉えてからだ。女店員は体を痙攣させ恍惚とした表情で昇天している。


「あ……あば……」


「店員さあんっ!? どしたあっ!? 女の子がしちゃ駄目な感じになってんだけどお。R指定大丈夫う?」


「あびゃぼぼじにょむにゃんごろ」


「なんてえ!? くっ、バイリンガルであったなら!」


 珍妙な光景が広がっている。鳴乍は店員の顔に見覚えがあるのに気づいた。


「あら? あなた同じクラスの志賀しがさん?」


「ひゃあいっ! えっ、なんで名前。まさか推しに認知されてりゅ? 夏休み……しかも学校外で会えるなんて……こっ、これは運命……」


 店員が少し正気に戻った。居住まいを正す少女は間違いない。クラスメイトの志賀しがまさねだった。話したことはないが、よく視線を感じる少女だ。


「こんなところでどうしたの?」


「ふゃい。えっと、ここはお父さんが代表をしているお店の系列で。私は一日、研修で働いてまひゅ」


「そうだったの。奇遇きぐうね志賀さん。あと落ち着いて呼吸をして」


「ひゃひ。試着でひたね。ここここ、こちらへどうぞ」


 ガチガチに緊張して案内される。着替える間、カーテンの向こうで待つ二人の会話が聴こえてきた。


「あのマネキンすげえセンスいいよなあ。誰が決めたんだあ?」


「あ、あれは私がセットしたんです。鳴乍さんに似合うかなって思いながら組み合わせを考えて。まさか本物が来てくださるなんて。あなたもお目が高いです」


「おう、お前も分かってんなあ」


 志賀の語る内容にうすら寒いものを感じるが、とにかく着替えてカーテンを開ける。


「どうかしら?」


「おお! やっぱそういうのも似合うなあ」


「ほぼぼぼ、本当にお似合いです! お写真よろしいでしょうか!」


「オレもいい?」


 二人が楽しそうなので細かい疑問は消えていった。

 なにより十瑪岐が無邪気に喜んでいるので甲斐がある。


 被写体になってポーズを決めていると、志賀がさらに服を抱えて持ってきた。


「こっちもお似合いだと思うのですが……」


「お、その組み合わせもいいなあ。やっぱセンスあるわお前」


「えへへ、鳴乍さんのことはいつもいつも見ているので」


「なるほ観察眼かあ。大事だよなあ」


「違和感に気づいて十瑪岐くん」


 キラキラした目で見上げられ、鳴乍はまた断れずに服を受け取る。

 その流れは何度も続いた。



       ◇   ◆   ◇



 床に畳んだ服が積み上げられている。さすがに疲労を感じながら、鳴乍は最後の服を身にまとった。


「これはもはや試着じゃなくてコスプレじゃないかしら」


 言いながら髪型をちょっと服の雰囲気に寄せてみる。


 黒を基調とした組み合わせだ。太いベルトが体のラインを魅せるデザインテーラードジャケットに、スカートに似たシルエットのワイドパンツ。最後に十瑪岐が持ってきたシルバーのネックレスでアクセントをつける。


 姿見に映った自分を観察する。あとはゴツめのブーツでもあれば洋画の悪役が完成しそうだ。我ながら身長があるので男装めいた格好も似合っている。


 どんな反応をされるだろうと考えつつ、鳴乍はカーテンを開いた。

 二人の反応は予想を超えていた。


「はぁぁああんっ! 超絶イケメン♡ オレ女の子になっちゃううぅっ!!」


「さすがに気持ち悪いのよね」


「甘いですね葛和くずわ君! 私はもう懐妊でゅふっ!」


「もっと酷いのがいるとは。何を身ごもってしまったのよ志賀さん。私が何一つ介在してないことだけが確かよ」


 つい素で返してしまう鳴乍だった。



       ◇   ◆   ◇



 同日深夜。むしろ日をまたいで翌日と呼ぶべき時間帯。

 ヘリの中で、十瑪岐は救助され横たえられている莟に話しかけた。


「莟よ。良いものを見せてやろお」


「なんですか。正直いまのわたし汗と冷や汗と脂汗の三倍濃縮で臭いと思うので近づかないで欲しいんですけど」


「莟汁かあ。んな気にならねえけど。それよりこれ見てみ」


「いったい何を────」


 スマホの画面を見せると、莟の今にも死にそうだった暗い表情が一瞬で豹変した。


 映しているのはもちろん、今日撮った鳴乍のお着替え写真である。


 莟は目を輝かせて食いついてきた。


「えっ、これ私服ですか? なんでそんなにバリエーションが……。はっ、ウインドウショッピングで着せ替え祭り? すっごい似合ってるぅ。写真集だったら二冊買ってる。いいなぁ。ください。その画像をわたしに。家宝にしますから! スマホに送って!」


「お前のスマホ合宿所だろお? 圏外じゃん」


「どうせ繋がらないって置いてくるんじゃなかったっ」


 莟がさめざめと泣き始める。

 十瑪岐は優越感と、彼女の血色の戻った顔への安心感でニヤリと笑った。



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