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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
八周目 クズと浮かれた少女
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細かい作業で一日終わるタイプ


 鳴乍なりさは待ち合わせ直後に投下された爆弾から、どうにか意識を保つことに成功していた。


 とはいえ平常心には程遠く。


(今日の十瑪岐とめきくん、なんだかすごく言動が自然というか、肩の力が抜けてて良い意味で普段通りというか。……ちょっと危険ね。気を抜けばさっきみたいに心臓が爆発しかねない。でも十瑪岐くん、この様子だと本当にただ遊びに誘っただけみたいね。そうよね。彼にそんなつもりないよね。デートだったら甘い空気になるだろうから気を付けずとも受容体勢になるけど、これはデートではなく、でもだからこそデートより気を付けて……。どうしてデートじゃないのにデート以上に身構えなくちゃいけないのかしら。意味が分からなくなってきちゃった)


 ぐるぐる考えてしまう。


 二人は並んで、行き先も決めずにとりあえず歩き出す。


「んでえ? 行きたいとこ、メッセで言ってた一か所だけかあ?」


「うん、あれは時間限定だから、それまでは十瑪岐くんの行きたいところ回りましょう? 行くとこ決まってるの?」


「まあ、しいて言えば一か所。これなんだが……」


 見せられたスマホ画面は、なんだかすごくふわふわを写していた。



       ◇   ◆   ◇



『全国 狛犬 & 狛猫展』


 そう銘打たれた百貨店の催事場に二人はいた。


 内容は文字通り、全国の狛犬、狛猫のグッズが目白押しの特別企画展示である。

 まだ開催期間の始めらしく入場者が多い。午前中だというのに、レジの前にはすでに列ができていた。


 商品台に目を向ける。大小様々な狛犬と狛猫のグッズが並んでいる。小物にキッチン用品、絵画にTシャツ。これだけで雑貨屋を名乗れそうだ。


「十瑪岐くんって可愛いもの好きだよね」


 少年へ声をかける。はんなりした顔の狛猫の置物を手のひらに乗せて眺めている。十瑪岐はいつもより幾分か柔らかい無邪気な表情で笑った。


「まあなあ。見てて楽しいだろ」


「分かる。昔からそうなの?」


「物心ついたときから変わらねえなあ。たぶん、葛和の血を引いてる人間は例外なく可愛いもの好きだぜ」


「じゃあご両親やご家族も」


「そうだと思うぜえ。幸滉は言わずもがな、あの人も莟のこと気に入ってるみてえだし」


「莟ちゃん可愛いよね」

「可愛いよなあ」


「本当、あの──」


 二人同時に言った。


「から回ってるところが」

「頑張り屋さんなところが」


「「可愛い」」


「ん?」

「あら?」


 顔を見合わせる。よく聞き取れなかったが、なんだか食い違っていた気がする。


 訝しみながらもそれ以上の深追いはせずグッズの観賞に戻った。


「お、この狛犬の目つき悪いの狛左こまざちゃんみたいで可愛いな。お土産に買ってくか」


「え」


 今度はスルーできなかった。思わず十瑪岐の腕を引っ張る。


「貴方、狛左さんを可愛いと思っているの? あれだけ殺意乗った視線浴びせられて? やっぱり実はアルファベットの十三番目を冠する性癖なんじゃ……」


「んー? だって『狛左』って苗字、まんま狛犬みてえで可愛くねえ?」


「名前も判定に入るの!?」


「それにあれで可愛いところあるんだぜえ? すっげえ一途なとことかなあ」


「へぇ。よく知ってるのね。仲が悪そうにみえるけれど」


 十瑪岐が余計なちょっかいを出しては怒鳴られているイメージだ。火に油というか、狂暴な番犬に絡みに行く悪ガキみたいというか。相互理解を育む関係には見えない。


「あいつらは幼馴染だからなあ。嫌われちゃいるが、オレはそこまで嫌ってねえの」


 ないしょだけどな、と人差し指で自身の唇に触れる。鳴乍は長い指のそり具合と唇のコントラストに目を奪われ言葉が頭に入ってこなかった。


 意外と見ごたえのある展示と商品たちに、いつの間にか時間は過ぎていった。なにげに一時間以上見て回っていたようだ。


 鳴乍もついいろいろと購入してしまった。狛犬の置物だけでなく、神社の組み立て模型とか小物とか。


「けっこう楽しかったなあ。鳴乍もなんかすげえ買ってたな」


「ええ。そんなつもりはなかったのに……見てると欲しくなって。こういう企画展って恐ろしいね。みんな大量に買っていくからそれが普通に思えてきて、カゴの底が見えなくなっていくのよ」


「分かるう。目当てのものだけ買うはずがいつの間にか必要ないものまで手に取ってるう」


「家に帰って取り出してみると、これ何に使うんだろうってなるのよね。でも今回は厳選したつもりだし、小物ばかりだから、せっかくだし部屋に飾ろうと思うの。十瑪岐くんは?」


「オレもそんなとこ。そうそうオレ、ミニチュアとかも集めんの楽しくってさあ。部屋の一角がこうなってたりい」


 スマホの画面を見せてくれる。


「シルバーなファミリーが本格的な墓参りしてるっ!!」


 見覚えのあるキャラクター達が似つかわしくない日常の風景を過ごしていた。

 少年の指が画面をスクロールする。


「んで部屋を暗くするとこうなる」


「霊魂の灯る素敵な墓地! ピントがちょっとズレてるのが良い味出してるね」


 薄暗い画像にところどころ青白い光が灯っている。照明のおかげか夜の怪しげな雰囲気が出ていた。間違っても公式が発売するものではない。自分で作ったのだろうか。


 そこで鳴乍はハッとして買ったばかりの袋を漁った。


「……十瑪岐くん、ここに小さいお賽銭箱と鳥居と御手水があるのだけど。加える?」


「神仏習合で混沌を極めていくスタイル。オレぁ好きだぜ」


 謎の興奮と共に差し出すとサムズアップが二つ返ってきて、さらにテンションが上がった。



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