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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
七周目 クズと裏返った彼女
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【幕間】久米鳴乍観察記録


 発熱時の鳴乍の観察記録(抜粋版)


 これは久米くめ鳴乍なりさのクラスメイトの少女(鳴乍のファンで信者)が記録した鳴乍の一日である。

 ※これは抜粋版です。掲載にあたり、行き過ぎた供述や倫理観がアレな部分は検閲により削除されています。



【〇朝


 女生徒二人の口論が隣の3年4組で発生。悪口がえげつなさ過ぎてクラスメイト達からも遠巻きにされています。

 たまたま通りかかった鳴乍さんは騒然とするクラスへおもむろに入っていき、彼女たちのもとへ、


 二人の目の前の椅子に無言で腰を下ろしました。


「え、生徒会の……?」

「なっ、なによ」


 人目もはばからず言い争っていた二人も、こうも至近距離でじっと見つめられると困惑している様子です。しかも相手は生徒会役員。自分たちを止めにきたかと思えば何も口出ししてこない。それが逆に恐ろしいようで。


 そんな二人を眩しいほどの輝く微笑で見上げた鳴乍さんは、一言。


「どうしたの? ほら、続けて」


「「できるか!!」」


 結果的に喧嘩は収まりました。さすがの手腕です。

 ただ鳴乍さんがどこか残念そうにしていたのは、なぜでしょうか。



〇一限目休み時間


 クラス内ではすでに鳴乍さんの様子がおかしいと全員が気づいていました。その中でお調子者の富松とまつ君が腰を上げました。


「やあ鳴乍さん。今日は随分と調子がいいみたいだな。昨日は休んでたから心配したんだ。まだ顔色ももとに戻ってないね」


「当人でも気づかない肌色の違いを大して仲良くもない赤の他人に指摘されるのがこんなにも寒気がするものとはね」


「あっ、ごめんなさい……」


 やっぱり今日の鳴乍さんはちょっぴり刺激的です。普段から物騒な冗談を言う方ではありましたが、冗談と分かる範囲でした。今はなんというか……いえ。

 どんな鳴乍さんも素敵です。だって彼女は(以降検閲削除済)



〇二限目休み時間


 鳴乍さんの言動が少々手厳しくなったという評判は学園の隅々まで行き渡ったようです。さすが兎二得とにえ学園ですね。みなさん面白い噂が大好きです。

 たくさんの生徒が鳴乍さんへアタックしては玉砕していきます。


「中等部の頃からずっと好きでした!」


「まぁ可哀そうに。ずいぶんと無為に時間を過ごしたのね。これから有意義にしていくといいわよ、私の視野の外で」


「ありがとうございます!」


 ばっさりですね。その感謝は何に向けられたものなのでしょう。

 男子生徒に混じって少数ですが女生徒もいます。


「わた、わたしずっと格好いい久米さんに憧れてて。あの、お、お付き合いしてください……」


「憧れは隣に置いて鑑賞するものではなく、自ら目指すものじゃない? まずはその張り付いた海産物みたいに長い前髪からどうにかすることをお勧めするわ」


「はうぅっイケメンっ」


「メンではないのよ」


 女子には心なしか対応が優しい気がします。

 ちょっと羨ましくもあります。希望を残さず切り捨ててくれるこの機会に想いに区切りを付けたい、というみなさんの気持ちは共感できるものです。


 ですが私は推しにはあまり近づきたくありません。やっぱり数メートル離れたところからこうやって観察しているのが幸せです。たとえ彼女がどこへ行こうと私は(以降検閲削除済)



〇三限目休み時間


 ついに事件発生です。

 以前から問題のある言動の多かった笹野原教諭と鳴乍さんが教室でマジものの口論になっています。普段はおしとやかに笹野原教諭の暴論を流して場をまとめてくださる鳴乍さんですが、堪忍袋の緒が切れたに違いありません。


 詳しいことはお花摘みに行っていた間のことなので分かりませんが、また教諭が女生徒に八つ当たりをしたのでしょう。何かコンプレックスでもあるのか、笹野原教諭は富裕層の女性に対して妙に当たりが強いのです。


 頭は良いし教えかたも分かりやすい先生ですが、哀れな人ですね。


 私が人波を掻き分け駆けつけた時には口論はすでにクライマックスに差し掛かっていました。


 鳴乍さんは、教諭の金紫メッシュ入りのマッシュルームヘアーを指差し、


「ところでその、たけのこ派のバイオテロにやられたみたいなキノコ頭は正気でやっていらっしゃる?」


「お菓子戦争は過激派揃いか! いいだろこの髪型! 美容室で三時間かかったんだぞ!」


 自慢してらっしゃいますが、誰の目から見ても異常なのです。ギャラリーはみな微妙な顔して沈黙することしかできません。だって顔が地味なぶん頭がすごいことになってて美的センスを疑うアンバランスです。


 教諭は追い詰められたみたいな表情で怒鳴り散らし始めました。


「クソが! これだから金持ちの女共は嫌いなんだ! どいつもこいつも、貰ったお年玉の総額お前の年収越えてますけどみたいな顔しやがって!」


「ただの事実ですけれど。あとそれ性別は関係ありませんよね」


「はっ、女だからってだけでちやほやされてる奴らが嫌いなんだよ。百歩譲って俺よりセンス良い奴は許してやるけど。この髪型の良さが分からない奴なんて馬鹿にされて当然だよな」


「譲り切れていませんよ、ほとんどの人類あなたよりセンス上でしょうから。百歩譲ってその程度。歩幅がミリ単位なんですか」


「は」


「五十歩百歩の具現化?」


「ちょ」


「それとも短足の暗喩?」


「ひどっ」


 ずっとその調子で、予鈴が鳴るころには笹野原教諭は泣いてしまいました。鳴乍さんはずっと不機嫌でしたが、見ていた私たちの気持ちがスカッとしたのは間違いありません。ちなみに教諭の言動は今後生徒会として対応し、しかるべきところへ報告するとのことでした。安心ですね。




〇昼休み


 結託したご友人たちによって鳴乍さんは、バツ印入りマスクと『毒物注意 接近禁止』のプラカードを装着させられてしまいました。


 鳴乍さんは黙ってそれを受け入れておいでです。でもとてもお綺麗な眉が八の字になって不服そうです。


 しかしマスク付けたからって黙る必要はないと思うのですが……?

 そんな律儀でノリの良いところも鳴乍さんの魅力ですね。クールなのに茶目っ気があって、気配り上手で懐が深い。褒め言葉は書き始めると終わらないので切り上げです。


 まったく鳴乍さんは素晴らしいです。見ているだけでお米が進みます。このために私のお弁当にはおかずが入っていないのです。おかずの味がむしろ邪魔なのです。いっそ彼女がおか(以降検閲削除済)。



〇五限目休み時間


 放課後も近いせいか、告白順番待ちも長蛇の列です。

 あんなに相手がいれば返事も雑になっておかしくないのに、一人一人丁寧に向き合ってお言葉を返す鳴乍さん、お優しいですね。


 ちょっと毒舌になったからって「おかしくなった」だの「女神を返せ」だのとのたまう方々もいらっしゃいますが、私からすれば鳴乍さんは今日も変わらず女神です。間違いありません。なにしろ存在そのものが気高く美しく尊い御身おんみなのですから。



〇放課後


 今日も鳴乍さんは生徒会に向かわれていきました。ご自身に異変があっても仕事を忠実にこなすお姿、素敵です。お仕事の邪魔をするわけにはいきませんので、今日の鳴乍さん観察日記もお終いです。また明日、そのご尊顔を拝見できる喜びを胸に帰宅しましょう。

 ああ、女神と合法的に会えない長期休暇が妬ましいです。


 夏休みにも偶然出会えたらいいのですが……。もしそんなことがあったら、きっと運命に違いありませんね。



       7月▲△日 記録終わり】



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