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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
七周目 クズと裏返った彼女
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救いの手は糸より白く


「追え!」

「そっちに逃げたー!」

「行け行け行け行けっ!!」

「早くそのクズ捕まえて!」

「「「「我らが女神のためにっ!!」」」」


 手勢を組み獲物を追い詰めるように廊下を疾走する生徒達。それに追われるのは一人の少年。


「なあんでだああああああああっ!?」


 理不尽への反抗に不満を叫びながら十瑪岐とめきは全速力で逃げる。捕まったら何をされるか分からない。


 自分が追われている理由なら分かる。莟が言っていたことだ。久米くめ鳴乍なりさの不調に、葛和十瑪岐が関わっているのではないかという疑念。それが時間が経つごとに深まったのだろう。


 問題が解決しないとき、とりあえず怪しいところが原因に見えてくるのは当然の心理だ。たとえ論理的に論証できなくとも、人は不満のはけ口を求める。十瑪岐は元から評判が悪いから矛先に選ばれやすいのだ。


 そして厄介なことに、鳴乍のファンクラブのなかでも信者と呼んで差し支えない連中が十瑪岐の確保と排除を謳いだした。


 放課後になった途端、目つきが据わった生徒たちに席を囲まれた十瑪岐は、窓から身を躍らせて逃げていた。嫌な予感がしたのだ。


 そしてこの騒ぎだ。


「オレが何したってんだよおっ」


 どう弁明しようと日頃の行いが悪すぎて聞き届けられないのは目に見えている。言葉が通じないのなら、ここは逃げの一手だ。


 靴箱には見張りがいた。校門も裏門も張られているだろう。奴らが諦めるまでどこかに潜伏するしかない。だがなかなか追跡を振り解けない。


 通行人を盾にして後続と距離を取る。卑怯者ー! と罵りが飛んでくるが気にしない。


(どっかやり過ごせる場所は──)


 一人撒いても次々出て来る。キリがない。向こうは組織立った行動を取っているようだ。いったい何人いるのか。


(ったく、大した人望ですこと!)


 いっそ鳴乍が恨めしくなる。一対多数では勝ち筋が見えない。


 さっきから莟にヘルプの電話を入れているが、部活中のようで繋がらなかった。兄の幸滉ゆきひろは今晩、許嫁とのディナーがあるから呼び出せない。椎衣しいも番犬の役目がないからさっさと葛和くずわ邸へ帰っているはずだ。味方がいない。


 奥歯を噛みしめたそのとき、手の中が震えた。走りながらスマホを見ると通知が来ていた。


「あっ? これって……」


 送り主の名を見て思考が一瞬止まる。内容はこうだ。


『第一校舎 二階 廊下 北側カド』


 それだけしかなかった。待ってみるがそれ以上の動きはない。説明を求めてみるが、既読すら付かなかった。


 舌打ちを漏らして進行方向を変える。


 これでこの逃走劇と何も関係なかったら二度と手を触らせてやらねえと誓った。



        ◇   ◆   ◇



 包囲網を掻い潜り、どうにか第一校舎に到着した。階段を駆け上がって指示された場所を目指す。


 時間経過のためか、それとも誰か(・・)の誘導のためか、十瑪岐を追う人数は減っていた。特に運動部の姿が目に見えて減っている。途中聴こえてきた会話から推測するに、どうやら運動部に生徒会の抜き打ち視察が来るかもとの話が急に湧いて出てきてみんな部活へ戻って行ったらしい。


 生徒会の視察は部費や後援の査定にも関わるから、もとより冷遇されがちな運動部にとっては死活問題なのだ。


 とはいえまだ追手がなくなるわけではない。いまも後ろから三名ほど付いてきている。廊下の直線で引き離し角を曲がる。階段横のデッドスペースは薄暗いだけでロッカーすら置かれていない。あるのは木板が並ぶ壁だけだ。


(なんもねえじゃねえか!)


 そうこうしているうちに駆け足が近づいてくる。慌てて逃げようとした瞬間、


「はっ────?」


 ぐいっと、壁から生えてきた手に腕を掴まれ引きずり込まれた。

 視界が真っ暗になって尻餅をつく。背後に柔らかく弾力のある何かがあって痛みはない。


「あれ? どこ行った?」

「いない?」

「まだ近くにいるだろっ、探せ!」


 うっすら光の漏れ入る向こう側でそんな声がして、足音が遠ざかって行った。


 何が起きたのか理解が追い付かない。鼻先を微かに汗ばんだ華やかで甘い香りがくすぐることと、背中に柔らかくも熱っぽいものがくっついていることしか分からない。


「本当、第一校舎は不思議な造りをしているのよね」


 耳たぶをそんな楽しげなのに落ち着いた音が撫でる。聞き覚えのありすぎるその声は間違いなく、十瑪岐をここへ誘導した本人のもの。


「ここは歴代の生徒会役員しか知らない秘密の空間だから、内緒にしていてね十瑪岐くん」


 スマホの明かりを付けて振り返れば、薄明りに照らされた鳴乍なりさの微笑がそこにあった。



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