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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
六周目 クズと頑張りすぎてる彼女
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細かな疑問点は後ほど関係者間で調整しました


 各団からの報告を聞いて十瑪岐は上機嫌にマイクを握った。


「よおし、全員参加だな。晴れて開催決定だあ。そろそろ昼食の時間に近いが、あとちょい付き合ってくれえ。投票したあとは帰ってくれて構わねえからさあ。んじゃルールの詳細なあ?」


 各団の首脳陣だけ運営本部に集めて細部の調整を行う。黄団の二人の顔色がそれぞれ予想と違うものの、みな乗り気なようだ。


 納得を得てから、生徒向けに中継で説明を行う。


「これからやるのは、生徒会役員五人がリレーする千二百メートルと、スポーツ特待生たる兎二得学園陸上部期待の星、蕗谷ふきのやつぼみの九百メートル走との勝負だ。期待値だけ見りゃタイムは互角だが、実際に走ったらどっちが早いですかってことねえ。

 生徒諸君の持ち票は一人一票。勝つと思うほうに入れてくれ」


 一番重要な基礎部分を説明して、さらに声のトーンを潜めた。本番はここからなのだ。


「なあんてのじゃただのつまらん賭け事だ。面白みに欠ける。だから特殊ルールを三つ追加させてもらう。

 まず一つ、得票が有効になるのは、団の代表者たる団長の入れた票が勝ち馬を見事当てた時だけ。

 つまりもしオレが生徒会に賭けてみごとそれが当たったとしても、オレの所属する黄団団長が外してたらオレの票も機能しなくなるってことねえ」


 個人がどれだけ勝者を的中させようと、団長が外していたらその票は団の得点にカウントされない。大きな縛りだがそれだけ緊張感が出る。


「二つ、票には一緒に生徒会への要望を一つだけ記入してくれえ。勝ち馬の票の中から抽選し、当たった要望は生徒会が可能な限り叶える。

 知っての通り本来の体育祭実行委員長がご入院なさったことで、生徒会は多忙だったなあ。通常業務たる、生徒の要望箱を開く時間もないほどに。みんな不満が溜まってるだろお? だったらここで直接お願いしてみよう。生徒会が学園内で叶えてやれることに限定はされるが、意見が通る可能性は普段より高いぜえ。なんたって、クジで引き当てられればほぼ必ず、叶えてもらえるんだからあ」


 とはいえ実際に自分の票が叶えられる確率は低い。まず自分が勝者を的中させねばならない。そして正答したとしても、同じほうに入れた生徒が多ければ多いほど、自分の票が選ばれる確率が低くなる。


 可能性は確かに低い。だが参加する価値は十分にある。


 なぜなら大抵の生徒はそう特殊なことを願っていないからだ。この学園のほどんどの生徒は恵まれた資産の家庭で生まれ育っている。家庭の内情へ不満こそあれ、学園での生活は安定してる者がほとんどだ。


 つまり彼らの願いは似通っていて、種類だってほんのわずか。箱に入っていた要望書に目を通した十瑪岐はそう確信していた。生徒たちはそんなこと知らないが。


 つまり、目の前で一つ叶えてやれば多くのガス抜きができる。これが生徒会を口説き落とすのに使ったネタだ。


(まあ莟のほうの投票箱には細工がしてあるわけだが)


 口には出さない。勝つのは十中八九、莟だ。確かに生徒会メンバーの平均タイムで考えれば勝率は同等か、むしろ一人で九百メートル走る莟が不利だ。だが現在の生徒会役員は全員が連日の激務で消耗している。


 その事実を生徒たちは理解していないだろう。生徒会は自らのプライドのもと疲れを生徒達へ見せることなくこの二日間を過ごしている。だから生徒はあくまで客観的な全国データをもとに、多くが生徒会へ票を入れるはずだ。


 十瑪岐は莟に票を入れる。細工して自分の票が選ばれやすくなっている投票箱に入れる。確実性はないが普通にやるより確率は上がる。


 内心でほくそ笑んで、十瑪岐は最後のルールを口にした。


「そして三つ、団員は団長の指示に従ってもいいし、反してもいい。どうしようと責められることはない。じゃないとあとが怖いからなあ。誰に投票したかで文句つけられたら遠慮なく生徒会に言え~。あ、オレにでもいいぞ。助けてあげるぅ☆

 ってことで以上だ。おわかり?」


 問いかけに、体格に恵まれた少年が挙手する。


「質問をいいか」


「はい黒団団長、杉巳すぎみ佑司ゆうじ君! スタッフさん画面切り替えてえ」


「その願いが叶えてもらえるというのも、団長の票が外れれば無効になるのか」


「いいやあ? そこまで仕分ける時間はねえ。投票箱にさえ入れてくれれば、抽選の対象になるぜえ」


「そうか」


「他に質問とかありますう?」


 挙手は意外にも後ろからあった。


 生徒会長、矢ノ根(やのね)涼葉すずはがマイクを取る。


「生徒会長として、一つ条件を出させてほしいのだよ。賭け事は例外なく胴元が有利にできている。今回も結果がどうあれ主催者の十瑪岐君は得をするのだろうな。裏でたくさん外馬を走らせているようだし?」


『あ、あはははは。ノーコメントでえ』


「だが生徒に平等な生徒会長として一人勝ちは見過ごせない。だから君もプレイヤーに下りるのだよ十瑪岐君。君が生徒会側のアンカーをやりたまえ」


「はあっ!? いや、ほら、そんなのオレがわざと手を抜くとかみんな思うでしょお? 不正を疑われてブーイングの嵐だっつのお」


「いやいや、君はどうせ蕗谷君に投票するつもりで、しかも自分の票が抽選されるよう仕掛けているはずなのな。だから君の票は団の得点にのみ使用し、要望書としては無効にさせていただく。代わりに、生徒会側が勝てばあたし個人が君の小さな願いを一つ叶えると約束しよう」


「いや、それ、いいんすかあ?」


「君は自軍や他人の勝利のためではなく、己のためだけに動く人間だ。そういう自己中なのだろう君。予定と違えど自分の利益のためならば死ぬ気で走るクズなのだ。そこは信用しているつもりでね。──我が愛すべき兎二得とにえ生の諸君、こんなかせでどうだろうかな?」


 生徒会長の呼びかけに、肯定の声が束になって届く。細かな計画とここまでかけてきた労力がすべて潰れた十瑪岐は涙目だ。


「どうしてこんなことにっ!」


「楽をしようとするからいけないのだよ。苦労したまえ若者だろう。では生徒の投票のあと、生徒会メンバーから走者の抽選なのな。投票開始予定は十五分後なのだよ。そのさらに十分後に試合開始だ。団長たちは自団本部へ戻って、その間に作戦とか上手くやるといいのだよ」


「司会進行まで奪われたぁ……」


 十瑪岐は本気で泣いた。



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