表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
六周目 クズと頑張りすぎてる彼女
63/132

擦り合わせて火花を劫火へ


 冥華めいか火苅かがりを縛る縄を解いていく。

 その様子を横目にしながらつぼみは、地面を背にし青い空を眺める十瑪岐とめきへ小さく声をかけた。


「この感動的な光景を前に寝転がってる理由はなんです?」


「……さすがに気が抜けてなあ。後顧の憂いなく交渉に臨める舞台を整えるのは大変ってこった」


「はぁ。そうなんですか。わたしは言われた通り走り回ってただけなのでよく分かりませんが」


「おう、足があったおかげで楽が出来たわ。まあ足だけじゃ事態は動かねえのが世の常なんだが。まったく、あっちも(・・・・)こっちも(・・・・)手のかかる」


「?」


 こぼれたため息の予想外の重さに莟は首を傾げたが、十瑪岐は答えない。代わりに立ち上がって背についた砂をはらう。


「っつうことで余力であと一仕事やりますかあ」


 いつもの挑発的な表情で、戒めを解いた少女たちへ呼びかけた。


「仲良さそうだなあ、お二人さん。話はついたか? よおし、んじゃはりきって体育祭ぶっ壊しちまおうかあ」


「はあ!?」


 思わず驚愕きょうがくの声を上げたのは莟だ。


「なに言ってるんですかとめき先輩! 体育祭を邪魔されないようにテロ予告犯を探して止めるってことだったでしょう。壊すってどういう意味ですか! 立場逆!」


 当然の抗議に十瑪岐は面倒くさそうに説明する。


「だあってよお、まだ何も解決してねえだろうが」


「え? ……あっ」


 言われて思い至る。そうだ。何も解決していない。たとえ従姉妹いとこと手を取り合おうと、佐上さがみ冥華めいかの家庭事情は変わらない。好転していない。そして下市しもいち火苅かがりは冥華のために行動する。つまり彼女が体育祭を破壊する懸念は消えていない。


 関係性が明白になっただけで、問題の根幹は変わらないのだ。


「そうだろお、お二人さん? そこでオレから提案だ。オレにすべて任せろ。全部オレが解決してやる」


「あれれ? 生徒会に通報しないの?」


「しないなあ。オレにメリットがねえ」


 火苅かがりの疑問に即答すると、今度は冥華が疑惑の目を向けてくる。


「何を企んでるの、あなた」


「企みぃ? もちろんしてるさあ。その上で言う。大勢の努力と献身で作り上げられた体育祭をむごたらしく台無しにする。そんな面白えこと他人に譲るかよ。その役目(あくやく)はオレの専売特許だ」


 わざとらしいほどに胸を反らして宣言する。それで納得するほど冥華は馬鹿でなかったが、そうすることであえて裏を読ませるのには成功したらしい。


 冥華はしばし黙考したあと、悪辣な少年を慎重に窺い見た。


「策があると?」


「冥華ちゃん、こんな奴を信用していいの?」


葛和くずわ十瑪岐とめきの悪評は彼の能力の高さも示してる。メイカなんかがどれだけ悪知恵を働かせても勝てない。だから話を聞くくらいはいいと思う」


 従姉妹いとことの会話をひそめることなく十瑪岐にも聴かせていくる。分かりやすい牽制けんせいだ。彼女が存外に乗り気なのを見て、十瑪岐は目を細めた。


「賢明な判断だあ佐上さがみ冥華めいか。オレからの提案は──」


 具体的な部分を避けて概要だけ説明する。

 最後まで聞いて、冥華は半信半疑に唇を指でなぞった。


「それは……。上手くいくの? よほどのインパクトが必要になるけど」


「そこは安心してくれていい。学園で一番インパクトのある連中を巻き込んでやる。いやまあ、この策を思いついたのはついさっきなんだがなあ? 莟が言ってたのを思い出して」


「わたしですか?」


「そうだ。言ってたろお前? 『記憶は更新されてく』ってなあ。つまり体育祭がどうでもよくなるくらいに塗り替えちまえばいい」


「そんなこと言いましたっけ?」


「言ってましたあ。っやだあ、当人が忘れないでよお」


「たまにやるその女性言葉のノリなんなんですか」


「……本当に大丈夫なのあなた達」


 じゃれ合う二人を見て不安になったらしい冥華めいかが口を挟む。

 十瑪岐とめきは莟で遊ぶのをいったん止めて、無駄に自信満々に不敵な笑みを浮かべた。


「安心しろ。下策、愚策で盤上をひっくり返すのは得意でなあ。卑怯な手なら腐るほど思いつくし、実行に躊躇ちゅうちょもない。この学園に通う大多数の立場と尊厳のある奴らと違ってな。言うなりゃオレの強みはそこだけだあ。だが、今回はそれが一番有効に刺さる(・・・)


 兎二得とにえ学園の体育祭は駆け引きを伴う頭脳戦だ。学外への影響さえ出なければ脅迫も買収も許される。


 とはいえ家の誇りを背負う生徒はあまり黒い手を使えない。学外へ影響は出さないようにと言っても、誰もが体育祭時のことだと水に流してくれるわけではないのだから。そのうえ立場があれば当然、相手の家柄や業績如何(いかん)よっては遠慮が生じる。


 そういった躊躇いを、葛和くずわ十瑪岐とめきは一笑に付す。


 すでに評判は底辺だ。巨大企業の看板も家柄も関係なく、葛和それを背負うのは幸滉あにの役目。むしろ十瑪岐が軽蔑されるほどに対となる幸滉ゆきひろの善性が強調されるようなので配慮する理由もなし。


 そして今回は手綱たづな役の鳴乍なりさもいない。十瑪岐とめきの本領発揮でやりたいほうだいである。


 そう自身の有用性を示す十瑪岐に冥華は頷いて、最終確認とばかりに少年を睨みつけた。


「最後に聞かせて。メイカ達に助力する動機はなに」


「なあに言ってんだ。オレの所属は黄団だぜえ? 自団の勝利に尽力するのは当然の義務だろお」


「…………」


 満面の笑みで吐き出される定型句。あまりに胡散臭すぎてそれ以上、誰も追及できないほどだ。


 十瑪岐は弛緩した空気を変えるように柏手かしわでを打った。


「さあて。すべては勝負をイーブンに持ち込めるかどうかにかかってる。つまりは点数操作だ。黄団の団長と副団長であるお前らには相当頑張ってもらわにゃならん。できるな」


「そっちこそ、生徒会から情報を横流しするのが前提だけど、上手くやれるの」


「オレは警戒されてるが、莟はそうじゃねえ」


「えっ、わたしがやるんですか。まぁ必要ならやりますけど」


「決まりだな。他団が上げてくる競技編成を見れりゃこっちで対抗馬を当てるのは簡単だあ。だがそれだけじゃあ黄団うちが有利になるだけ。残りの団をコントロールするには足りねえ。つまりやるべきことは──」


「あえて他の団にも情報を漏らす。しかもこっちの意図を勘ぐられないように、それとなく」


 冥華の追言に十瑪岐は機嫌よく頷く。


「そっからは読み合いだ。青団の副団長に情報流す奴が黄団うちにいるから、それを利用すりゃそっちのコントロールは上手くいく。黒団もすでに情報収集に接触してきてるからなあ。パイプはあるんだ。使わせてもらう。赤団は……平凡なだけに読みやすい。っつうわけでまあ、やってやれねえことはねえだろ」


「けど、こんなの普通に勝つより難しい。学園全部を手のひらの上で転がすようなもの。本番まであと一週間もないのに」


「そう、決定案提出の期限が迫ってる。だからこそ向こうも最低限の変更しかできねえ。できて競技内での順番の入れ替えくらいだあ。選択肢が狭まればパターンができる。そうなると情報量のあるオレたちが有利だ」


 会話はいつの間にか本格的な会議の体を成してきた。一つの結果に向けて細部を詰めていく。


 その緊張した雰囲気のなか、空気を読めない系女子が手を上げた。


「ねぇ、なんで普通に勝っちゃいけないの? 他団の編成が分かるなら一人勝ちできるじゃない」


 火苅かがりが純粋な問いを口にする。十瑪岐は信じられないものを見る目で彼女を見返した。


「なあに言ってんだお前。コイツを母親に認めさせてえなら、ただ勝つだけじゃあ弱いだろおが。もう対処療法が効く時期は過ぎてんだ。必要なのは佐上さがみ冥華めいかの優位性を大勢の生徒に印象づかせること。そのために謹製の舞台を整えんだよ」


「どういうこと?」


「……葛和くずわ君、火苅の言うことは放っておいていいよ。火苅は言外の気持ちとか読み取るの下手だから。なんでも言葉通りに受け取っちゃうの。人の背景を読むのも苦手。親交ある佐上家うちの問題の根深さを理解できないくらいには。だからそもそもこの体育祭、メイカと火苅が黄団のトップになった時点で本当は負けも同然だったんだよ」


「でもお前は最初から勝ちに行ってただろ」


「! どうして……」


「現状で提出されてる仮案をちょっと盗み見りゃ分かる。まあ練度は他に一歩届いてなかったけどな。お前は自分が他者より劣ってることを理解してんだろお? だったら腹決めてよお、利用できるもんはぜんぶ使えや」


 親指でぐいっと火苅を示す。冥華がかすかに眉をひそめた。当の火苅はのんきな顔で冥華を楽しそうに見つめ返している。


 その温度差が愉快だと言いたげな笑みで十瑪岐はテントのほうへ移動した。


「んじゃあ鉄が熱いうちに知識の擦り合わせだ。現状で分かってることを吐け」


 言って数枚の用紙を取り出す。そこには現在提出されている競技参加選手の一覧があった。もちろん一部の競技だけだが。いつの間に入手したのだろうか。


 四人で顔を突き合わせ、書かれた名前を指差していく。


「こいつの親は確かこっちの奴んとこの子会社の責任者だから、間違っても勝つわけにはいかねえよなあ。同じ番に調整してやろう」


 マル秘と書かれたメモ帳片手に十瑪岐がニヤニヤ笑う。あのメモ帳にどれだけの生徒の弱味が書かれていることか。


 羅列された名前を目で追っていた莟があっと声を上げた。


「この人たしか隣のクラスの藤本さんと喧嘩中ですよ。同じ出場順にしたら競い合っちゃって本気で走るかも。離したほうがいいと思います」


「マジか」


「はい。部活の先輩が愚痴ぐちってたので名前は覚えてます。障害物競争だと、三年の加茂先輩はご実家が財部先輩の企業に借金あるらしいです。あと……こことここはお互いに劣等感マシマシなんだとか」


「お前……何気にえげつねえの知ってんのな」


「部活で関わりある人たち、なぜかみんなわたしに愚痴っていくので覚えちゃって……」


 莟の表情が暗くなる。つられた様に冥華も同じ表情になった。


「あぁ……。いるよねそういうタイプの子。メイカもどっちかっていうと愚痴られがちだし。火苅は一切そういうのないけど。この子、守秘義務とか頭にないから」


「私は冥華ちゃんのこと以外は心底どうでもいいよ!」


「こういう感じで訊かれたら全部話しちゃうから。だからこっち方面で火苅には期待しないで。火苅には期待値の算出とかさせておくよ」


「分かんないけど、言われたとおりにやれば冥華ちゃんの問題は解決するってことだよね。了解!」


 明確な戦力外通告をされたはずなのに、火苅はやっぱり楽しそうにしているのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ