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クズ男は誰の初恋でもない。はずだった  作者: まじりモコ
五周目 クズとすれ違う従姉妹
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それぞれの休憩時間(小休止)


 ──火苅さんって何でもできてちょっと怖いくらいだよね。


 火冥ひめいコンビの評判を辿っていくと、そういう意見にたどり着く。


 ──でも冥華めいかさんがいっつも抑えてくれるからね。


 生徒たちは笑ってそう結論付ける。

 みんな二人のやりとりを漫才か何かだと思っているようだが、事実は嘘偽りなく文字通りの意味なのだ。


 傍から見れば、怠け者の冥華めいかの世話を年上で優秀な火苅かがりがしてあげている(・・・・・)ようだ。従姉妹いとこ同士で幼馴染おさななじみの二人の、微笑ましい関係性に見える。


 だが内実はそう単純ではない。下市しもいち火苅かがり冥華めいかへの執着は常軌を逸している。まるで冥華以外の存在など本心からどうでもいいかのように。


 その非人間性を佐上さがみ冥華めいかが中和し抑制しているのだ。


 あの二人の関係性は歪だ。力関係がひずんでいる。見たままの解釈が成り立たない。問題の根幹はおそらく彼女たちの精神性にあるはずだ。


(つっても丁寧に紐解いてやる時間はねえか。となるとオレのやり方で、ズタボロに曝け出させてるしかねえよなあ)


 などと休み時間の教室で一人ニヤニヤとほくそ笑む十瑪岐とめきに近寄る人間はいない。幸滉ゆきひろにしか興味がない椎衣しいどころか、身内である幸滉にすら気味悪がられている。


 そんな二年生の教室にすっかり当たり前の顔で入って来る一年生の女生徒がいた。少女はまっすぐ十瑪岐の席へやって来る。


つぼみじゃねえか。休み時間にどうしたあ?」


「先輩、昨日パンツ忘れて帰ってましたよ」


 誤解を生みかねない発言に周囲からざわめきが上がる。その意味を理解せず十瑪岐は莟を歓迎した。


「おう、まじか。帰るときやけにスースーすると思ってたんだよなあ。……ってオレのパンツがジップロックされてるう。直に触りたくねえのは分かるけどよお」


「分かってるならいいじゃないですか」


「いいんだけどよお。つかなんで、さっきからこっち見ねえのお」


「そっ、それは……っ」


「あとやけに距離が遠くねえ? 手が届かねえんだけど。パンツ返してえ」


「とっ、とめき先輩っ、身長が高いから近づくと見上げなくちゃで疲れるんですっ。今日は首を寝違えたので無理したくなくて」


「今オレ座ってますけどお!? 耳赤くなってっけど様子どうしたお前。ちょっ、パンツ投げつけてくんな!」


 頭がぐちゃぐちゃで十瑪岐をまともに見られない莟と、そんな事情はまったく理解していない十瑪岐のやりとり。


 その奥で、またしても絶妙な部分だけ耳にして誤解を深める少女が実は一人。廊下で彼女を中心にちょっとした騒ぎが起きていた。


「ちょっ、保険委員来て! なんか生徒会の人が倒れてる!」


「きゃあっ、完全に伸びてるじゃない。何があったの?」


「教室に用があったっぽいんだけど、覗こうとして急に昇竜拳受けたみたいに吹っ飛んで壁に激突したの」


「ごめん、世代じゃないからイメージ浮かばないや」


「げはあっ!!?」


「どうして委員長まで大ダメージをおおおお!? あんたも世代ではないでしょう?!」


 アッパーカットを受けたみたいにくずおれた委員長と交代するように、倒れていた少女が起き上がった。


「ぅうっ、私はいったい……なんだか衝撃的な発言を聞いたような……」


「あっ、久米くめさん起きた! 大丈夫? 大丈夫ならこの子運ぶの手伝ってもらえないかな」


「え? もちろんいいけれど、どうしたのこの子。なぜ半目で痙攣けいれんしているの。救急車は必要?」


「いらない! これはそういう病気だから!」


「え?」


「常人には分からないんですこの心は!」


「???」


 こうして小休憩は慌ただしく過ぎ去っていくのであった。



       ◇   ◆   ◇



 移動教室のために移動していた莟の背を叩く者がいた。


「莟ちゃん、ちょっといい?」


「え?」


 振り返ると、優しい笑みを浮かべたウルフカットの少女が手をひらひらさせていた。


「あっ、鳴乍なりさ先輩だ。こんにちは。あれっ? おでこ擦り剝けてる。痛そう……。どうしたんですか?」


「えぇ大丈夫よ。ちょっと人心が乱れそうだったのを整えただけ」


「にんじん?」


 乱切りにでも挑戦したのだろうかと莟は勝手に納得した。

 鳴乍が本題に入る。


「なんでもないのよ。これ生徒会長から渡すように頼まれていた書類」


「わざわざ渡しに来てくれたんですか? ありがとうございます」


「いいのよ。放課後になると忙しくて会いに来れないもの。それより聞きたいことがあって。……莟ちゃんと十瑪岐くんの関係って…………いえ、やっぱりいいや」


 困ったように笑う鳴乍に、莟はあっさりと答えた。


「私ととめき先輩ですか? 友達ですよ」


「そ、そうよね。なんだか以前にも増して仲が良いように見えたから」


「そうなんです。なんたってわたし、とめき先輩の初めての相手ですからね!」


「えっ────」


 えっへんと胸を張る莟の発言に、鳴乍の思考が停止した。風にあおられたようにたたらを踏み、吐きそうな顔で震える口元を押さえる。


「嘘まさか……もうそこまで……?」


 青ざめた鳴乍の反応が見えていない莟は意味を取り違えられていることにも気づかず、さらに意味深なセリフを輝く笑顔でぶっこんだ。


「鳴乍先輩ともそういう関係になれたらって思います」


「わっ、私とも!? 莟ちゃんって意外と肉食なのね。えっと……ち、着衣でもいいなら」


「基本が脱衣なんですか先輩のご友人がた!?」


「え?」

「ん?」

「あら?」

「あれ……?」


「……私たち何かすれ違ってないかしら」


「わたしもそんな気がしてきました」


 ようやく気付いた二人だったが、誤解が完全に解けるのにさらに数日を要した。




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